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「今朝はいないかもなと思いながら来たが、甘かったな」
アレクシーが扉の前で苦笑いを浮かべている。
ここは早朝の訓練場。昨夜もぐっすり眠ったし、今朝は普段以上に気分よく目が覚めた。
『何の話だ?』
惚けて返事を返す。
『お早うアレクシー、いい朝だ』
「ああ、お早うレオ」
今回の1番の役目は終わった。なんだか身体が軽くなった気さえする。
『今日からが正真正銘の休暇だ。思い切り鍛錬と行こう!』
「そこで休息しようとならないのがレオだよな」
『当然だろう?』
ニヤリと笑う。
「まあな」
笑い返すアレクシー。アレクシーだって、人のこと言えやしないだろう。アレクシーはとても真面目な男なのだ。
剣を交える。キンと冷えた空気の中鋭い金属音だけが響き渡る。
『あっ!』
「・・・・・やった
初めてレオから一本取った」
しゃー--っ!と両拳を握りしめて喜ぶアレクシー。
『見事だったよ。完敗だ』
素直に負けを認めると、私の飛ばした剣を拾い上げたアレクシーが、胸に手を当て片膝をつく。
「これで殿下をお守りする騎士に名乗り出ることができます」
『ちょっと、アレクシー』
いやいや、アレクシー。勘弁してくれよ。今は鍛錬を楽しむ時間じゃなかったのか?
『まずは立って』
ようやくアレクシーを立たせて剣を受け取る。
『もしかして、ヴィルホに何か言われていたのか?』
アレクシーは頭をかきながら「うん」と頷いた。
「殿下から一本も取れなくて、どうしてお守りできる?ってな。その通りだからさ」
そういうもの、なのか?私と戦うわけじゃないのになぁ。とは思いつつも、ヴィルホが発破をかけた気持ちも理解できる。
「これで堂々とヴィル兄に宣言できる。デカい土産ができたよ」
『ありがとうアレクシー』
アレクシーが私の護衛につきたいと最初に聞いたのはいつだっただろう。いずれ訪れるだろうその日のために、アレクシーは日々努力を重ねているんだ。それが嬉しくもあり有難くもあり、そして励みにもなった。
「逆だよレオ。俺、必ず騎士になってレオの専属になる。それが子供の頃からの目標だからさ」
『ああ、アレクシーがいてくれたら私も心強い』
本心だよ。気心の知れた友人が側にいてくれるだけで安心できる。それは身の危険からというより、精神的な支えの方かな。
「よし!じゃあもう一本取りに行くか!」
『簡単に取らせると思ってもらっては困るな』
剣先で距離を取って、再び構える。最高だ。
「あ、やっぱここにいたわ」
「2人ともーいつまで鍛錬してるのさー」
扉の前でベンヤミンとイクセルが呼んでいる。
「おう!おはよう!」
「おう!じゃないよアレクシー。朝食の時間になっても2人が来ないからさ、探しに来たんだよ」
「『えっ?』」
窓の外を見たら明るくなっていた。いつの間にー
「すまん!先に済ませてくれないか レオとサウナ入ってから行く」
えっーそれ私も確定?部屋に湯の準備できてるはずなんだけど。
「わかったよー先行ってるね」
「最後にもう一本。いいだろう?勝ち逃げは許さないぜ」
アレクシーが好戦的な目で挑発する。
『いいや、勝ちで締めくくるまでさ』
結局サウナで今、2人汗を流している。
「俺さ、あの家に生まれたこと恨んだことあったんだよ」
『そう、なのか』
剣を嗜むものならば誰もが憧れるダールイベックだと言うのに。
「父上はあんな怪物みたいだし、ヴィル兄だって俺が生まれたときには既に剣を握っていただろう?その上さ、いや乗り越えなくてはならない壁が高すぎてさ、超えられる気がしなかった」
『うん』
兄弟と比較される辛さの経験はないが、求められるものの高さにプレッシャーを感じる気持ちは痛いほどに解る。
「今日さ、前に進めた気がするよ。レオのおかげだ」
『役に立てたのなら嬉しいよ、光栄だ』
もちろん私は全く手を抜いていなかった。今朝は実力でアレクシーが上回ったんだ。それがアレクシーの前進になれたのなら大満足だ。だが、この程度で満足するような男ではない。
「まだまださ。壁を超えるまでかかるだろうけど見ててよ、必ず超えてみせるからさ」
頼もしいな。'必ず'と、そう言い切る友人が眩しいと思った。
『それでこそダールイベック、だな』
「これでこそダールイベック、だろ?」
すっかり機嫌のよくなったアレクシーは、カラリと笑って次の目標を掲げた。
「まずはレオとの勝負、5割を目指す!」
『私も鍛錬しておかないとな』
半分も勝ちを譲るわけにはいかない。相手はヴィルホではなく同年代のアレクシーなのだから。なのにアレクシーはため息をついた。
「止めろよ。ー護衛が必要なくなるだろ」
『そんなことはないさ』
立ち上がり扉に向かう。
『どれだけ
どれだけ鍛錬を重ねても私が騎士になることはない
これだけは願っても叶うことは決してない』
「レオー」
後ろからガバリと肩を組まれてたたらを踏む。
『おいっ!』
「今だけさ、騎士らしく行こうぜ。雪山に突っ込むぞ」
『いやだ!遠慮する。絶対にだ!』
「遠慮するなよ。やってみたかったんだろう?」
『絶対に違う!離せ!私はやらない!』
くそ、なんでこんな時にバカ力なんだよ。わざとだろう?
そのまま私は雪山に投げ込まれたのさ。




