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今日はノシュール領の周年祭当日です。


昨夜王都よりお戻りになられたノシュール公爵夫妻、ご嫡子のデルリオ侯爵ケヴィン様、デニス様とベンヤミン様とノシュール家の皆様も勢ぞろいなさって大人数で朝食をいただきました。

普段の朝はいつもお母様と2人きりですので、この旅の間はこうして大勢で食事をいただくことができてとても嬉しいです。ええ1番は勿論レオ様なのですが。


レオ様は今朝もアレクシー兄様と鍛錬をなさったそうです。ああ拝見したいわ。この機会を逃したら学園に入るまでそのお姿を見ることは叶わないでしょう。せっかくの機会が目の前にあるというのにーアレクシー兄様が羨ましいわ!いえいっそ妬ましいわ。


「殿下、本日はよろしくお願い申し上げます。向こうでお待ちしております」


デルリオ卿が一足先に出発なさるようです。


『こちらこそ。精一杯務めるよ』


今日のレオ様はご公務で主賓をお務めになられます。私も初めてレオ様の正装姿をこの目にすることができるのね。前世で1番のお気に入りだったレオ様のスチル[正装で君と]純白の正装姿は神々しいまでの美しさでした。ああ緊張してきました。正装のレオ様を前にして正気でいられるかしら。


一度着替えのためお部屋へ戻りました。今日は私たちも来賓としてお招きいただいているのです。

朝の支度で髪は整えてありますので、そこにレオ様からいただいた髪飾りをつけます。


「どうかしら?カリーナ、私の髪はおかしくない?」


「大変お美しいですよ。髪飾りもとてもよくお似合いです」


よかった、髪飾りが美しく見えているなら問題はないわ。


「ありがとう、カリーナが美しく結ってくれたおかげね」


「お気に召して頂けてよかったです。コートをお持ちいたしますね」


髪飾りに合わせてドレスは淡いラベンダー色にしました。キャメル色のロングブーツを履いて、白いコートを羽織ります。


「マフはこちらでよろしいですか?」


ブーツの色に合わせた狐の毛皮のマフです。


「ええ、ありがとう」


「冷えるといけませんから、毛皮のひざ掛けもお持ちいたしましょう」


カリーナったら私をぐるぐる巻きにするつもりなのかしら。冬なんて何度も経験していることなのに。それにここはノシュール領。王都よりも南に位置する街です。そこまで心配する必要はないわよ。


「カリーナも冷えてはいけないわ。きちんと温かいものを用意してね」


そうよ、カリーナは私より自分のことを心配してちょうだい。きっと私たちには温かい場所が用意されていると思うもの。


「ありがとうございます。しっかり準備致しました。」


「では 行きましょうか」


玄関内でレオ様をお待ちします。ドキドキするわ。


2人の騎士とロニー様を伴いレオ様が階段を下りてこられました。


『待たせてしまったね』


・・・・・・・・・・



レ・・・・・


レオ様・・・・・




あまりの麗しさに声を出すことすらできません。


銀糸の刺繍が施された黒のジュストコールとお揃いのウエストコート、そこへ王族の証でもあるイヌワシの紋章が刺繍された濃紺のマント、襟元には白い毛皮がふんわりと揺れています。


足元は黒いブーツ、そして帯剣されている剣は装飾のない実戦向きの剣のようです。以前式典で国王陛下が帯剣されていた剣は美しい宝飾が施された宝飾剣でしたが、レオ様のものは普段から愛用されている剣なのかもしれません。あああの剣になりたいわ・・・


淡いシルバーのクラヴァットをふわりと巻かれ、そこに見たことのない大きな宝石が止められています。

レオ様の瞳のような澄んだ夏の青空のようで、でもふとした瞬間には深い泉のようなエメラルド色に輝くとても不思議な宝石です。美しいーまるでレオ様のためにだけ存在を許された宝石のようだわ。


ノシュール夫妻が最敬礼でご挨拶を申し上げます。

レオ様の耳が少し赤いのはもしかして照れていらっしゃる?ああああああ堪らないわ!レオ様でも照れることがおありなのね!萌えるわ!尊いわ!


馬車に乗り込む前、レオ様がちらとこちらを見て微笑まれました。髪飾りに気がついていただけたかしら?どうですか?似合っていますか?


アレクシー兄様と一緒に馬車に乗ります。来賓としてお招きいただいておりますので、皆様もそれぞれ家紋の入った馬車で向かいます。


領地のお祭りは通常邸の前庭を開放して行うものが多いと聞きますが、今日の周年祭は公館で行われるそうです。お城が高台にあるためでしょうか、ここを歩いて登るのは大変そうですものね。


公館の広いお庭もクリスマスの赤や緑に彩られていました。クリスマスシーズンに周年祭があるなんて素敵ね。馬車は門から中へとゆっくり進んで行きます。私たちの馬車はレオ様のすぐ後ろです。その次にソフィア様が乗られているボレーリン家の馬車、ベーン家・・・と続き、一番後ろが領主ご一家の馬車です。


既に多くの人で賑わう前庭は、皆馬車の到着に興奮を抑えきれない様子、そうですわよね、麗しき至高の御方がこの地に降臨なさったのですもの、皆さま早くお目にかかりたいですわよね。もう間もなくです!レオ様が皆様の前に立たれるのも間もなくですわ!



ノシュールの学園に所属する学園生たちによる演奏が始まりました。国内に8校ある王立学園全てに学園生のみで編成されるオーケストラがあります。全ての生徒が参加できるわけではなく、それぞれ専攻している楽器毎に選抜があるのだそうです。美しい旋律が響き渡ります。そしてこの後はきっと合唱隊も加わるはずです。


前庭が見渡せる場所に臨時で建てられた席が設けられてあり、そちらが私たちの席のようです。前面には壁がありませんが、数ヶ所に温められた石が積まれ、三方の壁と屋根のおかげでそこまで寒くはありません。椅子にもしっかりと毛皮が敷かれてありました。


私たちが席に着くのを合図に合唱も始まりました。最初は合唱隊の歌声だけだったのが、気がつけば集う人々が皆歌いだします。ノシュールは音楽の好きな方がたくさんいらっしゃる町なのね。皆さん楽しそうに歌っておられます。踊りだした人もいるわ。


ちらりとレオ様の横顔を盗み見します。レオ様も演奏を楽しまれておられるご様子です。ああずっとレオ様だけを見ていたいです。


合唱が終わり、再び音楽のみが流れ出します。レオ様とノシュール公が席を立たれました。


建国の頃まで遡る古い時代、新しく領地を賜った貴族は王宮のトウヒの枝を一枝与えられて、それを自分の領地に植えたと言われています。その為歴史のある領地にはどこも立派なトウヒの樹がお邸の庭にあるのです。ダールイベックの邸の庭にもとても大きなトウヒの樹があります。


ノシュール家は百年前に現在の邸である城を拝領されたそうです。その時代にこの儀式が残っていたのかはわかりませんが、領主の邸にトウヒを植えるという風習は今も続いています。


その建国時の枝分けになぞらえて、周年祭では王家よりトウヒを賜るという儀式があります。実際に王宮から届けられた枝ではない場合もありますが、今回はレオ様がお見えになったため、国内でも数十年ぶりの正式な儀式が執り行われるのだそうです。勿論私がこの儀式に参列させていただくのは初めてのことです。


儀式は粛々と進み、今レオ様がノシュール公へトウヒを授ける瞬間です。


『此の地に安寧と繁栄を齎さん』


「此の壱枝およすく大樹ならん八千代に禦仕へいたし侍り」


無事ノシュールの地にトウヒの枝が授けられました。大きな拍手と歓声が聞こえます。


「ばんざーい!ステファンマルクばんざーい!」


「王子殿下ばんざーい!」


祝砲が上がりました。そしてお城の方角からは花火が打ち上がります。夜空に浮かぶお城と花火、なんて美しいのでしょう。


「花火ー!花火だー!!」


小さな子供たちは大喜びで駆け回っています。宴の始まりです。

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