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何故
何故彼女は知っていたのだ。
カールは王宮の製菓長だ。その彼が知らなかったと言うことは、まだこの世界には存在していないスイーツのはずだ。それを公爵家の料理人が知っていたとは考えにくい。いやアレクシーが知らない時点で、公爵家で供されたことはないのだろう。では一体どこで
[フォンダンショコラ]
話は予想外の方向へ進んでしまった。
引き出しの中から小さな箱を取り出す。蓋を開けると中には封筒が7枚入っていた。全て取り出して机の上に並べる。ラベンダー色の封筒が4枚、赤い華やかな封筒が3枚。
『これは3年前ー』
順番に並べていく。2年前、去年、そしてこれが今年の分。
ラベンダー色の封筒は毎年誕生日に届いたバースデーカードだ。差出人はスイーリ。
自分の誕生日を伝えたことはなかったのだが、調べようと思えば簡単にわかることなのだろうと思い、さほど気にもしていなかった。初めて届いた10歳のときは、驚きよりも嬉しかった方が強くて何度もカードを開いては眺めていたことを思い出す。
『自分の誕生日忘れていたもんな』
忘れていたと言うよりも、知らなかったのほうが感覚的には近い。
誕生日の朝届いたこのカードは、私がこの世界に来て1番最初に貰った祝いの言葉だ。
それから毎年誕生日の朝に届けられるカード。
『綺麗な字だ』
赤い封筒はクリスマスカード。これも全てスイーリから届いたものだ。
7枚とも同じ美しい文字が並んでいる。幼い頃から練習をしていれば字は綺麗になるだろう。それにしてもーこれは彼女が8歳の時のものか。その文字は既に完成されていて、大人が代筆したのかと思うほどに整っている。
『もしかしてスイーリも』
そう考えると色々と辻褄が合う。
そうなのだ。私1人とは限らないではないか。同じような境遇のものがいてもおかしくはない。それがたまたま友人の中にいたというだけのことだ。
スイーリは大切な友人だ。年に2度届くカードを鍵のついた箱の中に大事に仕舞い、引き出しの奥で保管しておく程度には大切だ。
いや違う。
何が違うのか、多分もうわかっている。私はー
スイーリのことが好きなんだ。友人としてではなく異性として。
今回のことがなかったとしても、いずれはその気持ちに気がついただろう。だが急に強く意識するようになったのはこれがきっかけだったことに間違いない。
同じ境遇かもしれない人間。スイーリに対して身内以上に強い繋がりを感じてしまう。話したい、今はすっかり遠くなってしまった記憶の中の世界のことを。
でも、もし違ったら。
このことは生涯心のうちに留めておくと決めていたではないか。
しかしこれだけは言える。
スイーリが異なる世界から来た存在であろうとなかろうと、彼女を想うこの心が変わることはない。




