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今私は慌しい厨房の中にいる。

ピークは過ぎているものの、昼食調理の時間と重なっているため大変活気に溢れていた。


製菓用の調理台はその中で1番静かだ。昼食時に菓子を供することはほぼないためで、通常だとこの時間は下ごしらえなどに費やしているらしい。


カールに全て任せたほうが間違いがなく、私は立ち入らない方がよいだろうと思っていたのだが、カールの方から「この時間に来てほしい」と声をかけてくれたのだ。

王族の気まぐれ道楽と片付けることもなく、『自分で作った菓子を食べてもらいたい』という私の希望を組んでくれたことに改めて感謝する。


既に計量を済ませた材料が並べられている。恐らく何度も試作を重ねて導き出した完璧な配合だ。

一流パティシエの助手になったようで少し緊張する。こんな経験が出来るのも王子になったからだよなー、少なくても前世では一生体験することはなかったに違いない。


『私にできることはあるかな?』


先日の夜とはわけが違う。余計な手出しができない雰囲気だ。


「中に入れるチョコレートは既に冷やしてあります。生地つくりから始めましょう」


チョコレートを刻み始める。ちゃんと私の役割を残してくれているところが優しい。

それにしてもすごい量ー何個分なのかな、試作のときの3倍は軽くありそうだ。


卵を割り、ホイッパーを使って混ぜていく。砂糖を加えてさらに混ぜてーボウルにホイッパーが当たるリズミカルなこの音が好きだった。楽しいな、近頃思い出すことも減ってきた前世の記憶が音と共に蘇る。


カールが溶け切ったチョコレートを少しずつ加えていく。焦げ茶色の線が消えて混ざり合うまで混ぜ続ける。


粉をふるって、丁寧に混ぜ合わせたら生地は完成だ。

バターを塗った型に流してガナッシュを埋め込み、残りの生地を流し入れる。


「あとはお任せください」


『うん、よろしくね。それとー』


茶会の前にどうしても言っておきたかったことをカールに伝えた。


『私の名前は出さないでほしいんだ』


カールの顔は一瞬で曇った。2つの掌をこちらに向けていやいやと大きく振っている。


「どうしてでございますか!皆様お喜びになーはい!承知いたしました」


途中ではっ!と何かに気がついたような表情をしたカール。なんだろう?多分私の考えていることとは違うのだろうけれど、結果が同じなら問題ないかな。



借りていたエプロンを外して厨房を出る。そこにはロニーが待っていた。そして開口一番


「殿下甘いです!」


『え?』


突然叱られて困惑が先に出てしまった。そもそもロニーに叱られたのも初めてのことだ。



「殿下がチョコレートになったかのようですよ 。急ぎ湯浴みの準備をいたしましょう!」


『あ、甘いってそういうー』


勘違いだった。そうだよな、叱られる覚えもないし。


「はい!甘いです」


『-うん わかった。入るよ』



慌しく湯浴みを済ませると、ロニーがハーブティーを用意していた。隣には小さなサンドイッチの入ったバスケットもある。


「ご昼食の時間がありませんでしたから、少しでもお召し上がりください」


『ありがとう、助かるよ』


髪が乾くまでの間一息入れることができそうだ。




----------

「レオ様、ご無沙汰しております」


『久しぶりだね、ソフィア』


夏の間領地に戻っていたソフィアと会うのは皆が久しぶりだった。今日はソフィアの歓迎の意味も込めた茶会だ。


『堅苦しい挨拶はなし!さあ皆座って』



「あー!ふわふわチーズがこんなにたくさん!」


「ソフィア、半年振りの王都はどう?」


「早速ショッピングに行きましたわ。昨日は妹たちとクリスマスの飾りを探しに行きましたの」


てんでばらばらに話が飛び交っている。誰が誰と話をしているのかも一見するとわからないくらいだ。



『アレクシーなんだか大きくなった?!』


「それ僕も思ったーひと回り大きくなった感じするよね」


思い思いに話が弾む。


「スイーリ様、今日のお帽子もとっても可愛らしいわ」


「ありがとうヘルミ様、昨日届いたばかりなの。褒めていただけて嬉しいわ」


「レースが雪の結晶みたいで とっても素敵!本当にスイーリ様はお帽子がお好きなのね」


そうなのだ。知り合って4年にもなるというのに、スイーリが帽子を外した姿を見たことがない。いつも目新しい帽子を披露してくれるので、皆楽しみにしている部分もあるのだが、1度髪を下ろした姿も見てみたいというのが私の本音だ。


話が弾んでいるところへ、例の皿が運ばれてきた。

細長い長方形の白いプレートの右側に置かれたケーキの上には粉砂糖で六花が描かれている。その横にカシスのソルベ。反対側にはホイップクリームが添えられていてベリーのソースがかけられていた。そしてフレッシュのベリー類にアーモンドチュイル。


全員に行き渡ったところでロニーが説明をする。


「温かいケーキですので、冷めないうちにお召し上がりくださいませ」


「なになにーカールさんの新作?」


「素敵!もう少し眺めていたいわ。あっ、ソルベが溶けて」


皆気に入ってくれるだろうか、カールが自信を持って仕上げてくれたことだしその心配はないかな。



「まぁ!フォンダンショコラだわ!嬉しいー私大好きですの」


スイーリが顔じゅうに満足と散りばめたみたいに喜んでいる。


「へぇー?ふぉんだんしょこら?って名前なんだね。初めて聞いたよ、美味しいねー」


即イクセルが反復する。イクセルの反応こそが私の予想していたものだった。


「私も初めてですわ。カリッとしているのに中がトロリとしているなんて不思議ですね」


「どうして中からとろけだすのかな、不思議だ!気になる!」


スイーリ以外の皆もイクセルと同じ反応だった。全員がそうなると思っていたんだ。



(どうしてー?)


その後も様々な話をしたはずなのだが、ほとんど何も憶えていない。

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