表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/445

[16]

母上と相談をし、ソフィアが領地へ戻る二日前の午後に次の茶会を設けることになった。

少し慌しいが、晩餐や舞踏会のように何日も準備が必要なものではない。母上が万事完璧に整えてくださるとのことだ。全てお任せして私は招待状の準備に専念しよう。



初めて自分の名前で招待をする茶会だ。― アレクシーたちも招いてよいか母上に相談したところ、私たちだけで茶会をしてはどうかと提案されたのだ。いつもの仲間へは今日の午後の授業後に渡すことにして、先に令嬢たちへの招待状を書いてしまわなければ。


母上と一緒に考えた雛形を手本に、丁寧に書いていく。乾かしてから封筒に収め空色の封蝋を垂らし印を押す。国鳥のイヌワシとLを合わせた私専用の蝋印だ。四通書き終えたところで、これを届けてくるようオリヴィアに言付ける。スイーリの分も届けてもらうことにした。なんとなくその方がよいような気がしたのだ。




翌日は母上と菓子の相談だ。母上は私の希望をじっくりと聞き、様々な案を授けてくださる。


『ヘルミは焼き菓子が好きなようでした 特にクッキーを気に入っていたようです』

「それでは小さなクッキーを数種類用意させるといいわね」


『アンナとスイーリはムースを美味しいと喜んでいましたよ』

「春らしいムースがいいわね 桜もいいしベリーはきっと皆大好きね」


『ソフィアはマフィンの二つ目を取ろうか暫く迷っていたのです 小さく焼けば喜ぶのではないでしょうか?』

それから・・・


母上は相好を崩し、とても嬉しそうに


「とてもしっかりと皆の様子を見ていたのね 感心しました レーナ全て書き記してくれたかしら?」


「はいイレネ様 このように」

母上の侍女・レーナが書記の役目を仰せつかっていたらしい。私の挙げた希望を残さず書き記してくれていた。


『ありがとう!レーナ!』


「殿下のお茶会に参加できるご令嬢たちは幸せでございますね」


『そうだといいな』



「男の子たちの好きな普段(いつも)のものも用意させるわね」


普段のものとは授業が終わった後の歓談のときに出される軽食のことだ。

薄く切ったバケットの上にサーモンやチーズやベリーなんかを乗せたオープンサンドだったり、チキンやトマトを乗せたタルトも大人気だ。私の大好きなきのこのタルトもこっそりお願いしておこう。




こうしている間に茶会の日当日になった。


今日は居住エリアの二階にある小さめのホールが選ばれた。天候がわかるまでテラスになるか室内かわからないと言われていたが、朝から文句なしの青空が広がり気温もこの時期にしてはかなり上がっている。絶好のテラス日和だ!


この小さなホールが愛されている理由はテラスにある。

ここのテラスからだけ見渡せる泉があって、ちょうど今の時期に白鳥が飛来しているのだ。更に運のいいことに今は桜が満開でそれは絵のように美しい光景が広がっている。



皆が楽しんでくれるといいな。

茶会のホストがこんなにもワクワクするものだったとは知らなかった。





----------


茶会は大成功だった。



ヘルミの邸で飼っている五匹の犬の話にはじまり、ベンヤミンが今夢中になっているという鴎の生態について、アンナがスイーツにめっぽう詳しいこともわかり、ソフィアは領地の話をたくさんしてくれた。

ダールイベック兄妹はとても仲がよく、普段アレクシーから聞いている以上に彼が妹を大切にしていることがよくわかった。ほほえましい、いいなぁ兄弟は。


誰からともなく白鳥を見に行こうという話しになり、泉へ向かうことになった。

皆この泉の存在を知らなかったのだと言う。居住エリアの奥だ。王宮の開放されているエリアからは見ることができないので無理もない。そして()として泉へ行くのはこれが初めてだ。白鳥がいるうちに一度見に行きたいと思っていたことが叶いとても嬉しい。



泉へはほんの数分でたどり着いた。白鳥は警戒することもなく優雅に水面を揺らしている。

餌の入った小さな袋を一つずつ渡された。雑穀?何種類かの穀物が入っている。それを少し手に握って投げてみた。


白鳥が振り向く前に素早く寄ってきたカモに全て食べられてしまう。



皆で大笑い。


こんななんでもないことで大笑いしたのはこの世界に来て初めてではないだろうか。

その後も順番に餌を投げ入れたが、カモに全部の餌を食べられてしまった。

笑って、笑って、そして笑った。






いずれここにいる皆とは学園で会うことになるのだろう。でも今この歳にしか出来ない体験もきっとある。今日がそうだったように。

そういう場がこの国に用意されていないことはとても残念だと思う。



・・・そしてこの日私は小さな、でも素敵な秘密を知ることになる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ