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それから数日はまた荒れに荒れました。


一体私が何をしたと言うのでしょう?

前世の私が悪行の限りを尽くしたとでもいうのですか?

その為にこのような仕打ちを受けているということなのですか?


私は何もしていない。



していない。





していないじゃない!3歳だもの!


そうよ!まだ私は悪役などではないではありませんか。

髪は前世と変わらない黒髪だけれど、こんなにも可愛らしい顔に生まれ変わったのです。しかも眉目秀麗な兄が2人、おうちは超がつくほどのお金持ち、これはとんでもないことです。

この世界で最も恵まれている女性の1人と言っていいのではないでしょうか。


こんなにも恵まれた環境で悪役になると言うことがまず信じられません。私いい人になるわ!






----------


悪役令嬢役をお役御免にしたあの日から5年が経ち、とうとうその日が訪れることとなりました。



「スイーリよく聞いて。王妃殿下のお茶会にあなたと私が招待されたわ」


やや興奮した様子のお母様から招待状を渡されると、そこには確かに私の名前も書かれていました。


「はい、承知いたしましたお母様」


王妃殿下はレオ様のお母様。それはもちろん理解していますけれど、ご本人よりも前にお母様にお会いところでねぇ。お母様のお供をしてお茶会に参加することには、さほど興味が湧きませんでした。



「あぁーもう。いいことスイーリ、これはただのお茶会ではないわ」


それはわかります。だってお母様は王妃殿下のお茶会に何度も招かれていますもの。一度だってお茶会の前にこのように慌てた様子だったことはなかったわ。

すると相槌を打つ間も与えずにお母様は続けました。


「招待状には王子殿下もご臨席されると書かれているの。つまり王子殿下の為のお茶会よ!」



「え?」


王子殿下、レオ様にご兄弟はいらっしゃらなかったわよね。つまりこの国に王子と呼ばれる方は1人しかいらっしゃらないわよね。そのたった1人の王子殿下が参加されるー!!!



「きっと他の、年頃のお嬢様がいらっしゃる家にもお声がかかっているはずだわ

 さあ!急いで準備を始めないと!」


お母様の興奮の理由が遅れて理解出来ました。はい理解が追い付いて、そして追い越していきました。



「えーーーーーーーーーーー?!?!?!」


「お 、お母様!もももももしやレオ様にお会いできるのですか?私が?レオ様に?」


この姿になって8年、8年の人生で1番大きな声を出しちゃったわ。最後なんて絶叫に近かったかも。

私のあまりの興奮ぶりを見てか、お母様が冷静になってくれたことは助かりました。


「スイーリ、殿下のお名前を許可なく呼んではいけないわ。それとそのような大声を出してはしたない。あなたらしくないわ」


「申し訳ありません、突然のことに驚いてしまって」


(毎日毎日5年もの間、心の中のレオ様に話し掛けていたからつい叫んでしまったわ。今だけは許してお母様。)




嗚呼、とうとう会えるのね。兄様たちが毎日のようにレオ様とお会いしていることがどれだけ羨ましかったことか。こんなことならアレクシー兄様になりたかったと思ってしまったほどだわ。


今のレオ様は9歳。どんなお姿なのかしら?声は?

私が知っているレオ様は学園最上級生の18歳のお姿のみ。それが今世では幼い姿から見守り続けることができるのね。はぁーっドキドキしすぎて死にそう~いえ死んではいけないわ。もうどうしてこの世界にはカメラがないの?残したいわ。レオ様の成長記録を余すところなく!



どうしよう、お茶会って一緒にお茶を飲むのよね。レオ様と?私が?

話しかけられたりしたらどうすればいいの?レオ様が?私に?




それから数日間の、私の記憶は一切残っていません。



----------

そして当日。


お母様は金青のアフタヌーンドレス。私はアイスブルーのワンピースにお揃いのボンネットを被りました。髪はきっちりと結い上げてもらい、できるだけ見えないように。


「あなたの素敵な黒髪を隠してしまうのは残念だわ」


最後までお母様は反対していたけれど、実は黒髪は私のコンプレックスなのです。私の家族はお母様以外皆黒髪だけれど、この国で黒髪はかなり珍しく、ブルネットにジンジャー、白銀もいればピンクや緑。流石はファンタジーと感心してしまうほど色とりどりな髪色があります。なのに黒なんて。


「素敵でしょう?お父様に買っていただいたこのボンネット、とても気に入っているの」


ニッコリ笑ってそう答えると、お母様もようやく諦めてくださったみたいです。




毎日午後に登城しているアレクシー兄様も今日は私たちの見送りです。


「楽しんでおいでスイーリ。レオ様はとてもお優しい方だ、心配することはないよ」


「はい、アレクシー兄様。行って参ります」



そうしてお母様と馬車に乗り込み、お城へと向かいました。




お城へは何度か連れて行かれたことがありますが、温室の中には初めて入りました。

温室、とは呼ばれているもののそれはドームのような形をしていて、とても広く大きいのです。中では小鳥や蝶が飛んでいて、白樺の小道があったり、転がってお昼寝したくなるような芝生の広場があったりして、ここが建物の中だと言うことを忘れてしまうほどです。


温室の中ほどに、はっと驚くほど美しいガゼボがありました。

屋根を満開のクレマチスが覆っていて、まるで花の傘みたい。その下には既に到着していた方々が3組、よかった知っているお顔も見えます。


ご挨拶を済ませ輪に加わります。けれどあんなに待ちわびた瞬間なのに、急に恐ろしくなってきてしまったみたい、膝がガクガクしています。

何かを訊ねられているような気がするけれど、全く耳に入ってきません。緊張が極限に達してしまい、その場に立っているだけで精一杯でした。


「顔色がよくないわスイーリ、どこが具合が悪いの?」


お母様が心配そうにそっと囁きます。ごめんなさい、返事を返す声すら出ないわ。ふるふると顔を横に振り、心配ないからと笑顔、引きつり笑いを浮かべてみました。




と、そこへレオ様がいらっしゃいました。王妃殿下をエスコートされています。



か・か・か・か・かかかかかかかかか可愛い~~~!!


天使がいます!柔らかそうな金色に輝く髪、夏の青空みたいな瞳、ほんのり桜色を帯びた小さな唇、ああなんという麗しいかんばせでしょう。飛びついて抱きしめたくなる衝動を抑えるのに必死です。あまりの可愛らしさに涙が出てきました。慌ててお母様の後ろに隠れます。



「王妃殿下、王子殿下。本日はこのような栄誉あるお声がけを賜り身に余る光栄でございます」


お母様がご挨拶を申し上げています。


嗚呼もっと見たい。近寄って触りたい。いい匂いもしそうだわ。

だんだん発想が怪しくなっていくのがわかります。いけないわ、私は善良な公爵令嬢のスイーリよ!おかしな行動でレオ様をおびえさせるわけにはいかないわ。

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