この期に及んで
片想い相手の藤真には、夏休み前から付き合っている彼女がいる。
あたしと会話が続くようになったのも
髪を切ったのも
中華まんの種類に興味を持ったのも
先に帰るあたしを追いかけて来たのも
全部、彼女の影響だった。
おしゃべりしやすい子らしい。
髪の短い子らしい。
でも、アクセサリーを送りたくなるような子らしい。
表情豊かとはいえない藤真が、思い出して柄にもなく微笑むくらい、好きらしい。
「完敗じゃねーか」
思わず声が出る。仰いだ秋の空は眩しいほど青い。
眉間にぎゅうっと熱が集まるのを、意地で堪える。
恋に敗れた女子中学生が、ヒロインぶって涙するなんてベタ展開など拒否るくらいのプライドがあってなにが悪い。
藤真が好きだ。
藤真が欲しかった。肉欲的な意味じゃなくて、両想いになりたかった。
側にいたかった。側にいてもいいって認めて欲しかった。
好きだって気持ちに気づいて欲しかった。ううん、ふられた今は気づかれたくなかった。
応えてくれるって前提で気づいて欲しかった。これに尽きる。
でも、人はエスパーじゃないし、あたしの態度もまったく素直じゃないし。
伝える勇気のなかったあたしが、気づいてもらえないのも応えてもらえないのも当たり前すぎるほど当たり前のことで。
だから、心の底から思う。
藤真はすごいな。
告白して、応えてもらって、自分を変えて。
それだけ好きだったんだろうな。
一歩踏み出せないどころか、踏み出そうともしなかったあたしの『好き』なんかより、ずっと大きい気持ちだったんだろう。
恋心を封印するため自分を説得しながら、雲が流れていく空をぼーっと見上げる。深くとらえてしまったら、悲しくなってしまうから。
いつか彼女と別れたら、またチャンスがくるのかな。それまであたしはずっと藤真を好きでいるんだろうか。どうしようもないまま、ずるずる引きずったままでいるんだろうか。
「不毛だわ」
それとも、世間はそれを純情と呼ぶのだろうか。
部室に向かう道すがら、藤真と一緒になった。
それでも嬉しいと思ううちは、諦められてないってことなんだろう。
「こないだ相談のってくれてありがとな」
これっぽっちも悪気のない顔で、彼女への誕プレ相談のお礼を言う藤真。いやまぁほんとに悪いわけじゃないから仕方ない。あたしと藤真の関係なんて、話題なんて、繋がりなんてそんなもんだってだけのこと。
「解決したならよかった」
思ってもない返事を返して、前を向いたまま笑う。
「うん。助かった」
うまく笑えたのか、あたしの笑みが引きつってたところで気にもならないのか、藤真のまとう空気は今日もやわらかい。ほんとにイラッとする。
「てか、ずるいわ藤真って。イケメンだわ身長高いわ賢いわ・・・。ああ、そりゃ彼女くらいできるわな」
八つ当たりで文句にもならない文句を言いながら、冗談に見える程度に藤真を睨む。そして言いながら自分で負けを認めてみた。
藤真はちょっと困った顔して笑いながら、そんないいもんじゃないって、とまったく意味をなさない謙遜をした。
「たまたま告白されて付き合ってるだけで」
「あはは」
思わず笑いが漏れた。
あれだけ彼女を好きなオーラ出しておいて、向こうから告白されただけというのか。それでOKしてもらえて、そんなに好きになってもらえたのか。
もちろん誰でもそうなったわけじゃないだろう。でも、あたしができなかったことでそうならなかったのは間違い無いんだ。
胸がぎゅうって苦しくなる。目が潤むのは仕方ない。
たまたまってなんだ。その告白に、どれだけの想いと勇気とエネルギーが込められてると思うんだ。
「完敗すぎるわ」
「なにそれ」
だって、この期に及んでも、無理だと思い知らされてしまうのだから。




