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はんじゅく。  作者: かないたちばな
12/12

君の幸せを祈る

※林目線です

 原田はヒロイン名

「あーーーーーー」

 両手で顔を覆った藤真が天井を仰ぐ。

 コイツには珍しい苛立った声が、高岡の熱唱にかき消される。

「まじでなんなの。女って」

 


 藤真が彼女にフラれたのだ。




 カラオケボックスで男3人。藤真の気分転換と言いつつ、高岡はもう詳細を聞いてるらしく、入ってから一人で歌い続けている。おまえが金払えよ。



「にしても、急だな。こないだは誕生日デートだったんじゃねーの?プレゼント喜んでたって言ってただろ」

 数少ない女子の知り合いである女子バレー部の原田に、わざわざ相談するほど悩んでたやつ。原田は藤真が好きだから、それで失敗したら誰も救われない。なんて、こっちの勝手な都合だけれど。


「喜んでた。一週間前までふつーに喜んでた。だからほんとにわけわかんない」

 藤真が完全に落ち込んでいる。まぁそうだよな。

「理由はなんて?」

「部活ばっかで会えないし、なんか付き合うこと自体思ってたのと違ったって」

「うわ。根本から否定されたらどうしようもねぇじゃん」

「そっちから告ったくせに違うとか言われても!」

 藤真が少し固めのソファの座面をバシバシ叩きながら、語気を荒げた。そりゃ荒れるよな。


『告白されたからOKしてみた。結構好みだったし』と、夏休みに入って付き合い出したことを藤真本人から聞いて、半月くらいは特になにも変わらなかった。

 ショートヘアの彼女に合わせたのか、急に髪を短くした辺りから、藤真の雰囲気が少し変わったと思う。

 ああ、落ちたのか、って思った。


「好みのやつに好意丸出しでこられたら、そりゃ意識するし絆されるし好きになるだろ!」

「そうだなー」


 マイクを持って叫ぶ藤真に、アイスティーをすすりながらうなづいた。マイク使うのはやめてほしいけど、うん。


 そうなんだよなぁ。

 






『林ー、教科書貸して』


 原田がそう言って教科書を借りに来た時、ん?ってなんか引っ掛かった。いつものへらっとした愛想笑いが、なんか緊張してるみたいだったから。

 教科書を渡してお礼を言われたとき、顔を少し赤くして目を逸らされて、なんかドキッとした。


 そんで返しに来たときは、なんかちょっと挙動不審な感じで近づいてきて、話が途切れても切り上げずに上目遣いで見上げてきて、しゃべってたらなんでか急にケンカ腰でキレられた。

 色々あるんだよ、なんて照れた顔して言うから、え、なに。コイツ俺のこと好きなんじゃないかって思ってしまって。

 なんか急に、すげぇ可愛く見え出した。



 部活帰りの寄り道かき氷。ブルーハワイの色に唇を染めて、涙目になって慌てるとことか。

 部活中の一生懸命なところとか。疲れ果てて力のない目をしながら、丁寧にモップをかける姿とか。

 コンビニの中華まんの話で嬉しそうにしてるとことか。

 藤真を見てるときの、困ったみたいに眉を下げた顔とか。



 好きになった途端、原田の気持ちに気付いた。

 誰をみてるのか、誰を思ってるのか。

 勘違いした自分がほんとに恥ずかしくて、毎晩叫びそうだった。実際何度か叫んで親に怒られた。

 そして、反動みたいに怒りを覚えた。

 なんだよ。思わせぶりなことして。

 


 八つ当たりだって自覚しながら、明確に傷つけるつもりで、原田に藤真の彼女の話をした。

 俺を見る表情をなくした瞳が、混乱したいろを浮かべて伏せられたのをみて、俺の方が泣きそうだった。



 好きだって気持ちは、もっと綺麗なものだと思ってた。

 そりゃ、好きから性欲に繋がることを否定する気はないけど。中学生なんて、興味津々で、可愛い女子、好きな奴イコールやりたいみたいなのは、そりゃそうなんだけど。


 でもそうじゃなくて。キスしたいとか抱きしめたいとか、手を繋ぎたいとか

 ただ、触れてみたいって。それだけでいっぱいの時だって、確かにあったから。

 ただ、胸が苦しいくらいに好きだって、そう気づいて欲しいだけの時だってあったから。





「勝手に終わらすくらいだったら、頼むから告白とかしてくんなよなー!」


 藤真の声に我に返った。

 高岡の失恋ソングメドレーという傷口のうずく選曲にのせて聞こえた藤真のセリフに適当に同意しようとして、あーでもな、と、思い切りもたれたソファの背もたれを意味もなくにぽんぽん叩く。

 藤真の気持ちもわかる。わかるんだけど




「でも、告白できるってすげーことだよな」

 なるべく感情を込めずに言葉を吐き出した俺に、藤真があー、と唸るみたいな声を上げる。

「それは、うん。そうなんだけど。

 告白したならちゃんと責任とって欲しい・・・」

「乙女か」


 けどさ。藤真の彼女のそれは、告白って壁を乗り越えた人間だからこその身勝手なのかもしれない。

 挑戦者にこそ与えられる権利っていうか。





「告白なぁ」

 思わず呟いた言葉は、フルボリュームのカラオケにかき消されて、自分の耳にすら届かない。

 藤真がフリーになったことを知ったら、原田はどうするんだろう。

 俺はいつか、原田に告白したりするんだろうか。

 俺の想いが叶うとき、原田の想いは叶わないのに。




 まぶたに浮かぶ、原田のへらっとした笑顔。

 今はまだ、傷つく方が怖いけど

 一歩、前に進んでしまった気がした。








君の幸せを祈るのは、嘘じゃない。









完結となります。

ありがとうございました!

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