浮かれてたな。
「あれ、もう帰んの?」
部活が終わって帰ろうとしたあたしを、高岡が呼びとめた。
なんだよ目ざといなこいつ。せっかく人が部室行かずに帰ろうとしてんのに。
「うん。用事あるから帰る」
さらりと嘘を吐くあたしの心には、罪悪感なんてものはこれっぽっちもないんだぜ。
そう、嘘。用事があるなんて嘘だ。
でもだって、どんな顔してればいいの。
林の隣にいる藤真を目の端で見て、心の中がずんって重くなる。もう一方の隣に空いた空間は、名前も知らない藤真の彼女のものなんでしょ。
それでも今はそこにいたいなんて、どれだけ往生際が悪いあたし。そこにいられる意味は全然違うのに。
知らなかった期間、どんなふうに浮かれてそこにいたか自分ではもうわからないけど、少なくとも林に気付かれる程度には浮かれていた。だからって態度を変えたら、それこそ気付かれてしまうじゃないか。
そう、それが一番嫌だ。あたしの気持ちを知ってる林が、同情とか咎めるとか物言いたげな顔をされたらあたしはいたたまれなさに絶叫して走り出すだろう。
「それじゃお疲れ様でしたー」
あたしは未練を残さないよう、ぺこりと頭を下げてさっさと校門に向かって歩き出した。
深い思考に落ちるのが嫌で、どこかぼうっとしたまま歩く。
藤真と顔を合わせるのが気まずいなら、女子部のみんなと帰ればいいだけだったなと、投げやりに思った。ああでも、藤真の彼女のことはまだそれほど広まっていないから、いじられがちな恋バナに胸をえぐられる可能性が大きい。
まだ一緒にいる二人を目にしたわけじゃないから、どこか実感のない失恋を、みんなと共有してしまえばそれはもう現実になってしまうじゃないか。
「ちょっと待って!」
呼び止める声に反射的に振り向いたあたしは、ものすごく無防備に振り返ったことをしばらく後悔しようそうしよう。
だって、相当ポカンとした顔で振り返ったそこにいたのは、紛れもなく藤真だったから。
かすかに上下する藤真の肩に、あたしを走って追いかけてきた藤真に、理由もわからず泣きそうになる。
「ごめん、あのさ」
少し気まずそうに目線を逸らした藤真が、首の後ろに手をやってはにかんだ笑みを浮かべて。
「付き合ったばっかでアクセサリーのプレゼントって重いと思う?」
誕生日なんだよね、と呟くように付け足す藤真の照れ笑いを浮かべた顔に、聞き返すまでもなく彼女のことだろうとわかって、胸の奥がずんっと重さを増した気がした。
なんであたしに聞くの。そんな、ほんとにどうだっていいこと、よりによってあたしに聞くの。そんな、わざわざ呼吸を乱して追いかけてきて。あたしが初めて見る顔で。
「・・・値段によると思う。高すぎると、重いかな」
それでもあたしは、なんともないフリでへらりと笑ってまともな答えを返す。
「それもそうか・・・女子がよく身に付けるものってなんだろ」
「学校あるからいつもは無理じゃない?あ、ヘアアクセとかなら身につけやすいと思うけど」
軽く首を傾げた藤真に、あたしは自分の髪をまとめたお気に入りのラインストーンのついたバレッタを示すと、困ったように眉が下がる。
「髪、短いんだよな」
主語の欠けたその言葉が、藤真の唯一を示すようで苛立つ。別にあたしだって、本気で相談にのりたいわけじゃないのに、藤真はあたしの感情なんかに気付こうともせずに頭に描いた彼女の姿に甘く笑む。
「短いのが好きなんだって。前の俺よりも短いくらいで」
ああ。そうか。目の前が少し暗くなった気がして目線を落とした。
藤真が髪を切った理由を知って、あたしと藤真の距離が近くなった気がした理由の全てが、彼女に由来することを知った。
「浮かれてるねぇ」
笑顔でからかうフリで、自分を戒めた。
浮かれてたな。
藤真しかみてなくて、その隣はみえなかった




