17話
「わんっ!」
ぼくは苛立ちを隠すことなく、家のほうへ向かって吠えた。
だけど、誰も返事をしなかった。
ひゅるる、と冷たい風が鼻先をかすめていく。全身の毛が逆立って、寒さに足が震えた。ちちらりと自分の小屋のほうを見る。小屋のなかには、寝床に使っている毛布がある。小屋のなかで毛布にくるまっていれば、こんな寒い思いをしなくても済む。
でも、ぼくは。小屋に入ることはなかった。
冷たい風が吹くなかで、三太兄ちゃんが走っていった方向をじっと見つめる。
三太兄ちゃんも、この寒空の下で独りぼっちなんだ。なのに、ぼくだけが温かい小屋のなかにいられないよ。
もっさりとした黒い冬毛が、夜の風になびく。
空には小さな星が輝いて、大きな月が夜を照らす。
……さむい。
……さむいよ、三太兄ちゃん。
兄ちゃんは、今どこにいるんだろう。寒さで凍えてないかな? 風邪をひいていないかな? 独りぼっちで寂しくはないかな?
「くぅん」
……ぼくは、寂しいよ。
……心配だよ。不安だよ。早く帰ってきてよ、兄ちゃん。
「くしゅん!」
体が冷えてきて、くしゃみが出てしまった。
だけど、ぼくはここから動くつもりはなかった。もし、三太兄ちゃんが帰ってきたら、おかえりなさい、を一番最初にいってあげるんだ。
だから、ぼくだけは寝るわけにはいかない。
遠くの夜の景色に、じっと目を細める。
耳をぴくぴくと動かして、聞こえてくる音に意識を集中させる。
時々、鼻を効かせて兄ちゃんの匂いはないかと探す。
小屋のなかにある毛布が、ぼくを誘惑してくるけど。眠くなって、あくびが出るけど。ぼくはずっと、三太兄ちゃんを待ち続けた。そんなことでぼくの鋼鉄の意思が揺らぐことはない。絶対にだ。
……でも。
……座るくらいはいいよね?
三太兄ちゃんだって、ずっと立っているわけじゃないし。両足が疲れて、立っているのがしんどくなってきたよ。それに、ぼくが座ったところで、三太兄ちゃんが悲しむわけがない。きっと許してくれるよね。
でも、このまま座ったらお尻が冷たいなぁ。
何かいいものはないかな?
そう思って、辺りを見渡した。お尻が冷たくならない何かがあればいいんだけど。
「……」
その時、ぼくの目には小屋にある毛布が映っていた。あー、そうだ。あの毛布をお尻の下に敷けばいいんだ。よし、兄ちゃん待っててね。あの毛布をお尻に敷いたら、兄ちゃんが帰ってくるまで外で待っているから。
「……わふっ」
ぼくは何も迷うことなく、毛布がある小屋のなかへと入っていった。




