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地味に転生できました♪  作者: きゃる
第2章 私の人生地味じゃない!
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レオンver.

 私は、義弟(おとうと)のレオンと一緒に行くことにした。


「レオン、一緒に行ってもらっていい?」


「ああ、アリィの行く所ならどこへでも。俺を選んでくれて嬉しい」

 レオンが真剣な青い瞳で私を見る。


 1つ年下のレオンは優しいし、私達は似た者同士だ。レオンも私も公爵家に引き取られて育てられているし、お互い過去にイジメや虐待を受けていた事がある。レオンは過去に親戚の家で。私はこの世界に来る前、学校で。


 だから感性が似ていたりもするから、私は義弟といる時が一番気を遣わなくて済む。一時期変な空気にもなったけれど、旅に出てからは仲直りもできたし。


「ありがとう。心強いわ。よろしくね!」


 けれど、レオンは私が元々この世界にいなかった事を知らない。私が実は異世界からの闖入者だと知ったら、彼は何を思うのだろうか?

 でもレオンなら大丈夫。私を嫌いになったりしない、と心のどこかで期待している自分もいる。怖いながらも確かめたくて、彼を選んだ。


「アリィ、緊張している? もう少し落ち着いてから行こうか?」


「いいえ、大丈夫。覚悟はできたから。さ、行きましょう!」


 何だかなー。レオンには心の動きがいろいろバレている気がする。せっかく年上ぶりたいのに、これではいつまで経っても『お姉さん』と呼んでもらえないに違いない。




 執事に案内されて、二人だけでモートン伯爵の部屋へと向かう。


「ああ、よく来たね。アイリ、トーマスの愛子(いとしご)よ」


「アイリ? アリィと間違えているのか?」

「シーッ静かに。今そこ重要じゃないから」


 今は、まだ。私には他に先に聞いておきたい事がある。


「あの……モートン伯爵。もしかして貴方は私の父をよくご存知なのでしょうか?」


「ああ。君はトーマス=リンデルの娘だろう? 私と彼とは研究所の同僚だったからね。君はトーマスの若い頃に、とても良く似ている」

 彼は答えた。

 私の知らない意外な事実。

 でも、確かに伯爵は先ほどいとも簡単に『火の魔法』を使って火をつけていた。


「父の事を教えて下さい」

 彼ならこの国での父の様子を良く知っているに違いない。

 そう考えて私は彼に、聞いてみた。



「君は、ゲランでアドルフに育てられたんだろう? アドルフがあちらでのトーマスの親友なら、母国リンデルでの一番の親友は私だったと思う。なのに彼は、私には何も言わずに消えてしまったんだ——」


「失礼ですが、貴方はトーマスとは年齢がだいぶ違うように思うのですが……」


 レオンが遠慮なく聞く。でもそこは、実は私も気になっていた。


「ああ、そう見えるのか。無理もなかろう。研究所の爆発事故以来、皆が消息不明の中、陣頭指揮を執ったのは私だったから——。亡くなった職員達に代わって贖罪の日々を過ごすうちに、気付けばこんな姿になってしまった……」モートン伯爵が寂しげに呟く。


「父のせい、なんですね?」


 なぜか確証があった。私の知らない父の事を話すこの人の目が、懐かしそうな悲しそうな色を映していたから。


「今となってはもう、誰のせいかもわからない。研究所が跡形も無く吹き飛んだあの悪夢の日、私は久々に熱を出して休んでいた。私は彼の二歳上で肩書きは所長、トーマスが副所長を務めていた」


「父が勝手に暴走したんですね?」


 彼から聞くまでも無く、結末がわかったような気がする。父は、研究所の副所長という肩書きを利用して所長が休みの時を見計らい、最大の研究対象である『時空魔法』を試したのだ。


 けれど彼は、予想とは違う答えをした。


「そうとも言えるし、違うとも言える。研究者の常でね。未知の領域には畏怖を抱く反面、解明したいとも思う。トーマスが圧倒的な魔力量を誇っているのは既知の事ながら、私達はその兆候を見逃していた。彼がここでは無い何処かの世界へ行きたがっていると知りながら、深くは考えずに彼に研究所の責務を任せていたんだ」


「そして父は、己の好奇心を満たすためだけに暴走したと?」


「トーマスだけでは無い。『時空魔法』の完成は、私達魔導研究者の悲願だった。いざという時、ここでは無いどこかの世界へ身体ごと転移できるのだから……」


 そう。そして現代日本に転移して来た父が母と知り合い、双子の姉妹を設けた。双子の名前は愛梨(あいり)海梨(かいり)。最初に父に連れられてこの世界に来たのは、妹の海梨。その後、亡くなった妹の身体に転移したのが姉の私、愛梨。だから、元々のトーマスの子どもが「アイリ」と呼ばれているのはおかしいんだけど……。



「その実験は結局、成功したんですか?」

 事情を知らないレオンが尋ねる。


 モートン伯は私の目を捉えたまま、次のように答えた。


「成功したとも言えるし、失敗したとも言える。圧倒的な魔力量を誇るトーマスでさえ、『時空魔法』を成功させるには、研究所全体と職員全員のエネルギーを必要とした」


 彼はそう言って、遠い目をした。



「それなら彼は、どうやって未知の世界からこの世界へと戻って来たんですか?」

 レオンが再び質問する。


「それは私にもわからない。おそらく、当人にしかわからない。いや、当人ですら理解しているかどうか……」


 まさか私が、父が戻る時の黒い陰に吸い込まれる状況を夢に()た、とも言えない。ここは黙っている方が良いだろう。


「それでは、貴方が先ほどから口にしている『アイリ』という名は? ここに居るアリィのことですよね?」


「ああ。彼自身がそう呼んでいたから。アドルフ公爵には、間違って伝えられたのだろう。アリィではなく、アイリが本当の名前のはずだ」


 それは予想通りの答えだった。ああ、やっぱり。父は私とカイリとを、また呼び間違えていたんだ。


「そうですか。でも、俺たちにとってアリィはアリィです。以前の名前がどうであれ、本質は変わらない。これからも、アリィと呼び続けます」


 もしもーし、レオン君? 呼び方にこだわらなくても良いのよ? 両方とも私だし。何だか私よりも思い入れがあるみたいなんだけど、話を先に進めてもいい?




「あの……貴方は帰ってきた父に会った、とおっしゃるのですか?」


「ああ。君がまだ赤ん坊の頃に。その茶色い髪と彼に良く似た金色の瞳は、忘れるはずがない。彼はその子は……おっと、ここに居るのは君だけではなかったね」


「いえ、構いません。彼は私の義弟(おとうと)ですから」


 レオンの方をチラッと伺う。

 さあ、いよいよ本題だ。緊張してしまう。私がこの世界と異世界とのダブル(ハーフ)だとバレても、彼はそのままでいてくれるだろうか?


「そう。君は自分の出自を知っているようだね? とにかく彼は、残りの家族を取り戻す為にあらゆる手を尽くすと言っていた」


「そのために『時空魔法』を?」

 レオンが伯爵に尋ねる。


「ああ。その魔法でしか辿り着けない所に、彼の家族はいるという」


 伯爵はふっと笑うと言葉を続けた。


「君はどう思う? 確かに彼が研究所を犠牲にして忽然と消えた時、私は彼をひどく恨んだ。なぜ危険な行為を相談してくれなかったのか、私が戻るまで待てなかったのか、とね?

 しかも彼はまた、自分の家族のためだけに、『時空魔法』を発動させようとしている」


「それならなぜ、なぜ貴方は父を止めて下さらなかったのですか? 父を恨んでいたのでしょう?」


「さあ。 さっきも言ったけど、私は研究者だ。 動機がどうであれ『時空魔法』が確立されて異世界への転移が容易になるのなら……今後のためになるのなら、多少の犠牲はやむを得ない」


「そうでしょうか? そのためには、何を犠牲にしても良いと?」


「少し前まではそう考えていたんだけどね。どうせ私にはもう、失うものは何もない。

 けれど、被害が大き過ぎた。それを見て、彼への恨みよりも恐怖の方が大きい事に気がついた。

 私達は……彼は、大変な物を産みだしてしまった。『時空魔法』は、人間が手を出して良い領域では決して無かった。

 トーマスの魔力は物凄い。彼が自分で産み出した闇に、自身の心まで囚われていないと良いのだが。もしもう手遅れなら、被害を食い止めるためには自分の命を犠牲にしてまでも、彼を止めなければならない」


 やはり、事件の陰には父の存在があったのだ。予想していた事とはいえ、その罪の大きさに私はショックを受ける。



「さあ、もう遅い。後は明日、朝食の席でみんなに話すとしよう」


「最後に一つだけ。『時空魔法』の精神や肉体への影響は?」

 今まで黙っていたレオンが、突然口を開いた。


「それは全くわからない。私よりもよく知る者が君の近くにいるのでは?」


 モートン伯爵はそう言うと、私達を追い出すしぐさをした。


 レオンと私は、仕方なくそれに従った。




 部屋の前まで送ってくれたレオンは、何か言いたさそうな顔をした。


 レオンは気付いている。今の話で、私が異世界から来た事を。その上で、私に何かを伝えようとしている。私は覚悟を決めて、彼に向き直った。


 レオンは突然、思い詰めたように私を抱き締める。

「……アリィ。君が何者でも、遠い場所から来たのだとしても、俺にとってアリィはアリィだ。どこの誰でも構わない。

 ただ、身体は大丈夫? 無理はしないで。君が居なくなるなんて、俺にはもう耐えられない。最後まで君の側で、君を守らせて……」


 優しい義弟なら、私を受け入れてくれると思っていた。そんな打算もあって私は彼を選んだ。けれどレオンは、もっと深い所で私の事を考えてくれている。それが嬉しくて、何とも言えない気持ちになって、私も彼をギュッとした。


 囁かれた低い声に思いがけずドキドキしてしまったのは、もちろんレオンには内緒だ。

次話から本編に戻る予定ですf^_^;

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