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エピローグ・右がWで左がM

第二部エピローグです

心地よい日差しの中で目を覚ます。

確かに横になって寝ていたはずなのに、なぜか目を開けると自分が立っている不思議。

それ以上に不思議なのは自分の前に広がる一面の青い花畑だ。

洪水みたいな。いや、花畑を表現するのに洪水って間違ってるのはわかるんだけど、なんだこれ。

なんかもう幻想的って言う表現を越えて宇宙的恐怖感すら覚える。

SANチェック必要なんじゃないかってくらい溢れかえった青い花。花。花。花。


「・・・・・・なんだ、これ」

「ネモフィラ、という花に聞き覚えは無いかね?北アメリカ原産の一年草である事は周知の事実だが和名が瑠璃唐草と言うのはあまり知られていないね。瑠璃唐草。なんとも心をくすぐる単語だと思わないかい?僕の考えた最もかっこいい花の名前、と言われても私なら納得してしまうね。なにしろ瑠璃で唐草だよ?日本語で最も優雅に美しさを形容しうる字体が瑠璃だとするならば唐草こそ至高にして究極な造形美を持っていると言っても過言ではないだろう。古くはメソポタミアの時代から・・・」

「レプロン!」


背後を振り向くと、片眼鏡のヒュー・グラントそっくりの紳士が丸テーブルの横で椅子に座っていた。

真っ白いテーブルクロスの上にはクラッカーといくつかのチーズ。それから紅茶が2つ。

微笑みながら紅茶に口をつけ、レプロンは仕草で座りたまえ、と俺に言う。


言われるままに椅子を引いて座ってみると本当に自分がどこにいるのかわからなくなってくる。

ネモなんとかって花で埋め尽くされた青の世界の中でクラッカーをもぐもぐと齧る。

うん。クラッカーの上に乗ったクリームチーズとドライいちじく、ナッツのマリアージュは完璧だ。素晴らしく美味い。


「いつもの庭をちょっと手直ししてみてね。これはこれで美しいと思うがどうだろう?」

「なんだか変な感じがするよ」

「変な感じ??」

「いやほら、異世界に来て色々と過ごしてきたけどさ、こんな風景見た事なかったし。ネモ・・・なんだっけ?連邦のモビルスーツ?」

「あいにくだがアナハイムの量産機と相関関係はないね。ネモフィラ、地球にある花だよ。当然日本でも見る事ができる」

「なんていうかな、ここまで花で埋め尽くされてると現実感が無いというか・・・異世界にいる現状よりよっぽど異世界感があるっていうか。あー、でもここって神様空間なんだから現実感はなくても当然なのか」

「誤解があるようだから訂正しておこう。庭の風情は君たちの世界から切り取ったものであって我々神々の独創性あふれる箱庭ではないのだ、残念ながらね」


すげぇな。ってことはこの風景が地球にあるのか。地球やべえ。


「アメリカの方ならこんな風景を見られるのか。世界は広いな」

「この風景は茨城から切り取ったものだね。ひたちなかだよ」


茨城ぱねぇ!?なんだこれ、どうした茨城!?ガルパンだけの県じゃなかったのかよ!!?


「ともあれ、まずはおめでとうと言わせてもらおう。君は完全に我ら神々の願いを果たしたと言っても過言ではない。ダンブランで神将に勝ち、世界樹を新生させ、アマリアにまで勝って見せた。君は最高の稀人だ!!おかげで我々神々の負担も減ってね。こうして再びお茶を飲む機会を得る事もできたわけだよ。ありがとう」

「あー、いや、こちらこそ。どうも」

「ついては今回君が成し遂げた偉業に見合うだけの褒美を授けたい」

「褒美???え、授けるって?え??」

「言葉尻が気に入らなくても許してくれたまえ。神々である以上は授けると言う単語を使うべきだと太陽を背負った老人がうるさくてね。年配者に敬意を表す道徳観念を否定するつもりはないが、ただ先に産まれただけでは敬意に値しない御仁も残念ながらいるのだ。権力や能力が人格と比例しない好例とも言える」


なんだかナチュラルにドドラガリをディスってるようだけど、これは止めるべきなんだろうか。


「心配しなくて結構、あのヒゲ老人はいまごろ奥方から説教されているはずさ・・・話しを戻すが、今回の君の功績は歴代の稀人たちが成し得なかった偉業であり、それに見合うだけの褒美ともなれば当然これまで一度も用意したことがないようなものでなければ見劣りしてしまう」


なるほど理屈はそうかもしれない。

ぱちんと指を鳴らすと、レプロンに向かって右側に長方形の扉が現れた。

ドアノブのついた現代風の扉だけがぽつんと・・・いや、良く見るとドアノブの部分がハート型になっている。変な扉だ。


「限定的でスペシャルな特典では足りないという事で、今回はスーパーウルトラグレートデリシャスワンダフルアトミックハイパーなものを用意させてもらった」


スペシャル消えてるじゃん!?

ああ、いやいや、とにかく、なんだか凄く良い物が貰えるみたいでありがたいけども。けどもー。


「まずは美女神たちと100年間ハーレム生活できる権利をプレゼントだ。いわば女神天国。一年365日、好きな時にその扉を開いて好きな女神と性行・・・」

「まてまてまてまて!!!!!!!!!!!!!」


前言撤回!!!!なんだそれ。アトミックハイパーなバズーカをって事か。馬鹿か。馬鹿神か??


「何か不満かね?」

「不満だ!」

「アンカネブラを筆頭にナイアエムネ、ネイアエスナは当然のこと、ベスティア、カムナエナどころかマリーシャイ、ヴェラーラ、サンダラプタなどマニアックな嗜好にも対応している完全な女神天国だよ?女神パラダイスと言うと昔々にきくたけ先生がやっていた読者企画やOVAを思い出してしまうから自嘲したんだが、その点に不満を感じたのなら申し訳ない。ところで読参企画の方はともかくとして、あの作品は音声に関して少々アーツビジョンの声優に偏りすぎていたような気もするが政治的な理由があったと思うかい?時代だから仕方ないのかな」

「やめろやめろやめろ!!!!!」


何から突っ込めば良いかわからないくらい混乱しながら叫ぶ。


「ふむ。私としては穏やかで安全な方向性で褒美を用意したつもりなのだが・・・アラヴィスムが提示していたものの方が良かったかな?目につく女性を必ず口説き落とせる催眠アプリを加護として授けたいと」

「いらん!!!」

「まさか・・・こっちかね?」


パチン、と指を鳴らすと今度は向かって左側に扉が現れた。

ぱっと見た感じで違和感はない。なのに、見ているとどこか背筋が冷たくなる扉だ。


「こちらは美男子と100年間性行でき・・・」

『砕けろ』


ありったけの魔力を籠めた俺の声でレプロンの両サイドに立った扉が粉みじんにはじけ飛ぶ。


「ああっ!?せっかく作った転移門が!!?」

「そんなもの作るな!!!」

「カムナエナが設計してオルトヴァが一から作り上げた神代級のアーティファクトだよ!?この中には私が作った限定的な庭だって設置してあったんだ。どれだけ老いを重ねてもこの空間の中でなら絶頂期に戻る事ができるよう、時の神である私の権能を最大限行使して作り上げた芸術作品だったと言うのに!」

「贅沢な無駄ですねコノヤロー」

「無駄・・・我々神々が苦心惨憺の末に作り上げた褒美が、無駄かね」


嘆息するレプロンの顔には深い悲しみの色があった。

あれだ。ヒュー・グラントが彼女とうまくいってない時みたいな表情だ。

でも俺は悪くないぞ。そんな褒美なんて欲しくないし、惜しくもなんともない。


「バーナベーダが作った無限の酒庫や、私が集めた日本の美味があったというのに」

「え、ちょ、酒と日本の美味??」

「確かに無駄だったかもしれない。せっかくだからと牛丼一つとっても吉野屋、松屋は当然のこと、すき屋、なか卵、牛の力、サンボに神戸屋、牛八と集めてみたのは自己満足だったかな」

「まって、サンボと牛八の牛丼とかちょっと食べたいんですけど。ねえレプロンさん」

「カレーもそうだ。ボンディやムンバイだけでなく、リトルショップのお任せカレーや100時間カレーB&Rだって食べ放題で無限に食べられるよう手配していたのだが、いやはや、確かに贅沢な無駄だと言われてしまえば正鵠を射ている」

「そのラインナップだと上石神井の・・・」

「アナログかい?当然入っているとも。チキンカレーに関して言えば東京で一番ではないかな?甘口のカレーが好きだった時のためにピッコロのスペシャルビーフカリーも準備はしておいたが」

「ごめん!!!!!!!!!」


もうダメだ。ドゲザだ。正直カレー食べたいです。こっちで美味しい物もたくさん食べてきたけどカレー食べたいです。ギブミーカレー。カレー!!


「レトルトでもカレーうどんでも良いから・・・・・・レプロン先生、カレーが食べたいです」


どこかのヤンキーバスケ部員みたいな事を言いながら俺はレプロンに頭を下げる。


「申し訳ない。レトルトはあまりに種類が膨大なのでコンプリートは諦めてパッケージの色で集めてしまったのだよ。赤とか、黒とかね。具体的にはカープカレーの牡蠣味、男の極旨黒カレーなどを買ってある。カレーうどんは古奈屋で良いかな?」

「素敵!抱いて!!」

「む?私はそっちは専門外だが・・・」

「あ、いや、ちょっと感極まっただけ。ハーレムはどうでも良いのでできたらカレーを食べさせてくれ」

「それくらいならお安い御用さ」



そこから小一時間ばかし、もくもく延々とカレーを食べた。

ネモなんとかの花が咲き乱れる空間で食べるカレーは異世界とか幻想的とかに関係なく美味い。

しっかり固めに炊かれた山形県産のコメとか、もうこれだけで反則みたいな美味さ。涙でるくらい美味い。


「故郷の味が懐かしいだろうと思って用意してみたが喜んで頂けたようでなによりだよ」

「うむ。むぐ。むがい。ふぉれもうふぐみんもで」

「失敬、不作法に声をかけた私の不徳を詫びよう。存分に食べ終わってから口を開きたまえ」


ややあって。


「いやー、食べた。久しぶりにしっかり食べた」

「2キロくらいが限界量といったところかな?健啖家だね」

「いや、カレーは1キロ半くらいが限界だったんだけどなぁ。いまなら3キロくらいまで無理すれば食べられそうだ」

「どれだけ事情があろうと無理して多く食べるのは健康を損なうからオススメできないな。自傷行為の代替えとしては有用なかもしれないが、同じ代替えであるならば読書でもしたまえ」

「暴飲暴食が自傷行為ってのはわかるけど、読書が自傷行為の代替えだって??」

「自殺の代替え行為としても有用だ。少なくともまともな書籍なら数時間は消費する事になるだろう?怒りや悲しみに限らず、自殺するだけの熱量を数時間一つの姿勢で物語を読んだまま保持しておくことは普通の人間には困難だ」


あー、一理ある、かな?


「ところでセルシス。さっきのカレーだけが褒美というのは我々としても心苦しいものがある。こちらで用意したものが気に入らないのであれば何か希望を言ってくれないだろうか?どうか、願いを叶えさせてほしい」

「・・・そこまで言うの?」

「当然だ。グランディスタに残された時間、君には幸せに、自由に生きて欲しいと私は願っている。どんな事でも良い。奇跡は有限だが、私たちに願いを叶えさせてくれ」

「・・・・・・世界樹の門って、なんだ」


す、っと。レプロンが目を細める。

懸命に誤魔化していた仕事上のミスがバレて腹をくくった時みたいな顔だ。


「世界樹には門などない」

「アマリアが言ってた。世界樹の門を開いて渡界の賢者に会えって。次の戦いに備えろって、どういう意味なんだ」

「我々にもわからない事はある」

「レプロン!!」

「本当だ・・・正直に言おう。我々にはアマリアの言葉の意味がわからない。姫巫女・・・レリアン・フルブライト嬢からベスティアがすでに聞いている。だがしかし、あいにくと次の戦いが何を差しているのか、我々にはまったく見当がついていない。未来視の権能を持つアマリアだけが知り得た何かなのだろうが、我々には見当もつかない」

「渡界の賢者ってのは?」

「世界樹の門の向こう、転輪を越えた違う場所にいる人物の事だ」

「どんな奴なんだ?神様なのか?」

「知識もつ賢者だ。この世界に関することであるならばカムナエナ以上の知識を持ち合わせてはいない。だが権能でなく知識の量で測るならば、彼以上の知恵者はいかなる次元界においても存在しないだろう。我々神々とも違う、いわば超越者の一人だ。オーバーロードと言っても良い」


超越者。オーバーロード。アマリアは、その超越者に会えと言っていたのか。


「世界樹の門の先へいって、超越者に会わせてくれ」

「・・・なんのために、かね?」

「・・・は?」

「なんのために?と聞いているのだ。答えてみたまえセルシス」

「いや、だって、アマリアが行けって言ったんだよ。備えろってさ。次の戦いのためにもいかないと・・・」

「君は野菜の国の王子様にでもなったつもりかい?」


怒りを隠そうともせずレプロンが言う。


「セルシス。君をこちらに引き込んだ我々が言うのも変な話しだけれどね、君の戦いは終わったんだ。神将を二人も倒した。快挙だ。グランの三騎士であるスレイマンこそ失ったが、それも後任が決まったのだから損失としては微々たるものでしかない。世界樹を蘇らせた事も含めれば完全勝利と言っても良いだろう。いいかい?完全勝利だ。これ以上ない勝利だよ。君の役目は終わった。これからはなにものにも束縛されない君の自由な人生が待っているのだ。異世界で無双する。異世界ハーレム。異世界料理屋。異世界商売、なんでもいい、君は好きなだけ人生を謳歌していい。国を持っても良いだろう。何十人と妻を持って何百人の子供や孫に看取られて生涯を終えたまえ。戦いは、それを生業とするものに譲ってしまえばいい」


バーボンウィスキーを炭酸水で割ったものを飲みながら、レプロンが続ける。


「君は英雄ではない。英雄志願者でもない。そうだろう?」

「・・・ああ、そうだ」

「戦闘狂でもない。戦う事は嫌いだ。平穏に暮らしたい。そうだろう?」

「・・・そうだよ。でも、フェイが死ぬかもしれない。ダンブランが壊されて、ドミが死んで・・・」

「フェイ・グランドゥエルは強い。ヴェラーラの加護を受けた彼の戦闘力はS級に匹敵・・・いや、S級を越えている。瞬間的には君の力さえ凌駕しているだろう。ダンブランの冒険者も精強だ。≪死神≫レスター≪居合拳≫ハーヴィー≪最強のA級≫ゼラを初めとして、≪三剣≫ホロゥストーク、≪緋蜂≫のダーナと言ったS級冒険者がいる。それらすべてを倒してダンブランを壊すなんて真似ができると思うのかい?」

「黄金の神将になら、できるかもしれない」

「魔宮での戦闘をヴェラーラがその眼で見ているのを忘れたわけじゃないだろう?彼女ははっきりと神将の死を確認している。そのマナが消えていく様を。神々とて死ねばマナに還る。アマリアがそうだったように、北の神将はすでに滅んだ」

「・・・生き返ったりしないのか?」

「可能性はゼロではない。だが、君が癒した世界樹の力はアマリア・ランエボニーのマナを完全に呑み込み、循環の輪の中に組み込んでしまえるほど強いものだ。それ以前に倒れた神将のマナをどれだけ世界樹が内包できたかはわからないが、少なくとも1000年近い時間は復活できないだろう。1000年だ。それは君が背負う時間ではないよ」


小さく息を吐き、レプロンは片眼鏡を拭くような仕草を見せる。

パチンと指を鳴らして現れたのはブラックのコーヒーだ。

ミルクだけを足して、レプロンはぐるり、ぐるりとミルクの渦をまわす。

ぐるり、ぐるり。

ぐるり、ぐるりと。


「でも、俺が行かないと・・・」

「行かないと?次の戦いに備えないと?どうなるのかね。戦いはあるのかもしれない。友人は死ぬかもしれない。だがね、それで言うならセルシス、君が備えたところで誰も救えないかもしれない。そもそも渡界の賢者のところへ行ったところで君は備えられないかもしれない。帰ってこれないかもしれない。かもしれない、かもしれないさ。何もかもね」

「でも!」

「もし行くと言うのなら、すべてを捨てる覚悟を決め給え。手に入れた加護を捨て、この世界で得た知己との友好を捨て、君が一人の稀人として違う世界に行くのであれば、私は支持しよう・・・・・・一応言っておくが、嫌がらせで言っているわけではないから誤解しないでほしい。我々は君に友好的だが渡界の賢者もそうだとは限らない。象徴神である我々は転輪を越えた世界に進む君を助けてあげられないからね。最悪すべての加護を封じられて虜囚のように何百年と過ごす事になる未来だってありえる」


心配しているのだろう。

・・・なんだろう、なぜか、最近心配されっぱなしな気がする。


「・・・ありがとう」

「礼を言われる覚えは無い。むしろ私は礼を言い続ける立場だから気にしないでくれ」

「でも、ありがとう」

「・・・・・・気持ちは受け取っておこう。セルシス、なにも今すぐ決める必要はないということだよ。せっかく冒険者ランクが上がったんだ、冒険者として気ままに依頼を受けてみるのも良いだろう。あるいは迷宮の探索をしてみるもの良い。政治的な意味では南方での揉め事はまだ続くからね、それらを解決するために動くのも面白いだろうし、エルフ族の中にあって人間たちとの橋渡しをはかるのも悪くない。君がやりたい事を心のままにやりたまえ。我々神々はそれこそを君に望むのだ」


「・・・30秒だけ、考えさせてほしい」

「その1000倍でも待たせて貰うよ。存分に思考すると良い」


答えを出すまで10倍の時間が必要だった。

そして、俺は一つの言葉を口にする。






南に吹き込んだ風が新たな命を芽吹かせて行く。

歩みが螺旋のように重なり、想いと願いを乗せて来たるべき未来へと時が進む。

静かな平穏の中で風がどこにすすむのか。

グランディスタに、行く末を知る者はいない。



【第二部・完】

第二部完結しました!!

今日は一時間ごとに(設定資料など)投稿していきます!


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