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斬られて、死んで、果てなさい

大変お待たせしました

巨大な、そんな形容でも足りないような恐ろしいサイズの世界樹。

なんというか・・・大きすぎて不安になるというのは初めての体験だった。

葉の一枚が落ちてきただけでも家が潰れるんじゃないか、なんて考えてしまう俺は不遜なのだろうか?

感覚的には「高所作業中に足元を通らないといけない時の不安感」が一番近いかもしれない、とりあえず上を見上げてしまう、なんか口があいてしまう、アレだ。


「マナ酔いしても吐くなよ、人間」


馬車に乗って口を開けている俺を見て、何か勘違いしたミンスミンが言ってくるが無視。

カリエンテは表情こそ穏やかだが俺の動きに注意しているのがわかる。いや、酔ってないですよ?

リオは俺の隣りで遊園地に来た女子高生状態・・・・・・と思いきや、なんだか真面目な顔でエルフの国の事を尋ねては神妙に頷いていた。急に学者っぽい顔になられるとギャップがパネェ。


特にリオは、空間を歪めている大魔術に興味津々のようだった。

世界樹を中心にして輪の様に広がるエルフの街。当然だがこんな大きな世界樹はダンブランから見たことがない。それどころか最初にカリエンテと会った世界樹の森の中でさえ、天を穿つような巨木なんて影も形も見えなかったのだ。


エルフの国は世界樹の森の中、いくつものポータルを経由した先、次元を繋いだ異空間の中にあるらしい。

リオは術式をカリエンテに聞いてはメモのような物を書いていたが、不意にその知的な双眸を見開くと、馬車をひくユニコーンに目をやった。


そうなんだよな。エルフの街とか古い術式だって気になるけど、俺からすればユニコーンなんて幻獣だってそうそう目にするものじゃない。きっとリオもそうなのだろう。

アン・ハサウェイみたいな顔なんだから黙ってたら知的な学究の徒に見えてくる。インテリ系というか。

うん、案外こいつの本質ってこっちなんじゃねえかな??


「ねえねえ、ユニコーン六頭立ての馬車とかすごいよね!!ユニコーンて食べたこと無いけどどんな味なんだろうね!」


戦争になるわ。

前言撤回。お前の本質はそっちですよね?知ってる知ってる。

ミンスミンとか噛み殺すような眼でこっち見てるからね?カリエンテだから失笑してるだけで、たぶんエルフ一同の反応としてはミンスミンが正しいと思うのよ。わかる?バカ。

これ、リオが何かやらかす前に俺がなんとか交渉して安全確保していかなきゃいかんのだろうなあ・・・・・・・・・はぁ。


気になる事はたくさんある。エルフの存在にも興味はあるし、姫巫女とか、託宣とか、なんというか実にファンタジーなワードにも心惹かれるものがあるよな。厨二心をくすぐるというか。

カリエンテは頭目の一人なんて呼ばれていた。姫巫女、それに若長だっけ??長とか長老みたいなのが一番上にいて、その下が若長、その下に複数の頭目って感じの階級構成なんだろうか。姫巫女は別枠だろうな。託宣なんて言うんだから預言者みたいなポジションか。頭目の一人であるカリエンテが姫巫女さまって呼んでたんだから地位は高い。長の相談役か、もしかしたら一番上って事もあるかもな。


余計な事をしでかさないようにしっかりと捕まえ、ぐりぐりとリオの頭を撫でながら考える。


姫巫女が託宣で俺たちの事を知った。ミンスミンは命を受けて俺たちのところにくる、これはわかる。

それまでにカリエンテたちと遭遇したのはたまたまなんだろうし、それを退けて友好的な状況を築けていたこともたまたまだ。遭遇しなかった未来もあったはずだし、俺たちが負けて捕まってる未来もありえた。


・・・・・・ん??


何かひっかかるな。問題がある。仮定がおかしい。

エルフたちはなぜ俺たちに遭遇した?俺たちが騒いだからか、あるいは世界樹の森そのものに結界でも張られていて、知らない間にリオがそれを破ったからか。だとしても偵察なら数人で済むんじゃないか?エルフは強い、少し戦っただけで全員が手練れだとわかったくらいだ。普通の冒険者を相手にするなら十数人で囲む必要なんてない、その半分もいれば十分戦えるし、十分勝てる。

どうして十人以上のエルフが固まって見回りみたいな事をしていたんだ。しかも頭目の一人だというカリエンテまで一緒になって。


嫌な感覚だ。治ったはずの腹がひきつるように痛む。


マナ酔い、とミンスミンが言った。過度なマナは人間の身体に合わないらしい。濃密なマナ。マナ溜まり。

おい、おいおいおいおいおいおい。


「じょ・・・」


冗談じゃないぞ、やっぱり帰る。そう言いかけたところでカリエンテが俺の腕を掴んだ・・・細い腕に似つかわしくない、巌のような力強さ。


「ついたぞ」


カリエンテが右手をかざすと、その腕一面を刺青のような模様が覆い尽くす。

褐色の肌にびっしりと刻まれたルーン文字が紫色に発光し、ポータルをくぐった感覚が全身を襲った。


馬車が止まったのは世界樹からほんの数百メートルほどしか離れていない開けた場所だった。

有無を言わせずカリエンテが俺を馬車から降ろす。

遠近感がおかしくなりそうな世界樹の麓。その幹にほど近い場所に小さな泉があった。

こんこんと清水が湧き出ているその泉を囲うように三つの祭壇がおかれている。

嫌な気配はまったくしないのに嫌な予感だけが膨らんだ。


泉の周りには皮鎧に身を包んだエルフの戦士が何十人と立ち並び、俺とリオを見つめている。

目を引くのは彼らの中央に立つ女性だ。あらわな褐色の肌一面を覆う刺青と、その上に纏った薄絹の衣装。

扇情的な格好に見えるけれど、それ以上の美しさを感じる。高貴さ、気高さのようなものだ。

彼女が姫巫女さまなのだろう。


「凄い!痴女だ!!」

「黙れバカ!!」


もごもご抜かすリオをひっつかんでスリーパー。もうチョークスリーパーで寝かせてやった方が安全なんじゃなかろうか・・・・・・いや、そうもいかんよな、これ。


「俺が合図したら全力でやっていいからな。合図するまでは絶対に何もするなよ」


耳に唇が触れるような距離で囁いてやると、コクコクと頷くリオ。

離すと顔が真っ赤になっていた・・・む、ちょっと動脈しめちゃったか?


「姫巫女さまの御前である!!頭が高いぞ!人間!!」


姫巫女の横にいたエルフが叫んだ。

他のエルフたちに比べて皮鎧に使い込んだ様子が無い、人を見下すような眼で見る表情の暗い男だ。

俺は左右をきょろきょろと見ながら一瞬だけ看破の魔眼を使う。ちくりと目の奥に刺すような痛みが走った。

伏兵は茂みの中にいた。数は6人。

魔術か弓矢かわからないが、射線を警戒しつつ全員を無効化する手段を考えながら交渉するとか骨が折れるなぁ。気のせいか、フェイがいてくれたら労力半分で済みそうなんだけどリオといると労力が倍になってる気がする。


「出迎えありがとうエルフさん!!茂みの中にいる6人はパーティーの準備中か?俺が食えるものがあると良いんだけどな!!!」


カリエンテが楽しそうに笑い、ミンスミンが苦虫を噛んだような顔で俺を見た。

ん?何か変かね??隠れてる相手を気にするくらいならわかってますアピールした方がずっと良いだろ。


「オストワルト、何をしているのですか。兵をひかせなさい」

「いいえ姫巫女様、人間ごときに遠慮は無用です。ミンスミン!カリエンテ!その男を跪かせろ!!」


舌打ちしながら命令に従うミンスミンの動作は狼のように俊敏だった。

だがカリエンテと比べたら大人と子供の違いがある。

俺は捕まえられたところで重心をぐいっと崩してそのまま一本背負い一閃。土の上に背中から叩きつけられ、仰向けで呆けるミンスミンの顔面に寸止めの拳を落とす。


「・・・・・・こんな、馬鹿な・・・」

「カリエンテ!何をしている!!やれ!」

「断る」


空気がぴりっとひりつく。


「この人間は尊敬に値する戦士だ。無意味に牙を剥き、無様に吠えて恐れるような醜悪さを我らエルフは持ち合わせん。オストワルト・グレイリーフ、エルフに無い業を極めた男に教えを請えば、お前も戦士として誇れる何かを持てるかもしれんぞ?」

「貴様!俺の命令が聞けんというのか!!?」

「いつから頭目は若長に従う決まりになった?俺は終生姫巫女さまの走狗だ。お前の為に走る事もお前の為に吼える事も無い。従わせたいのならお前の力でしてみせる事だ。戦士として敬意を払うに値する、その値があると俺に示せ」


「おやめなさい」


一触即発の空気を切り裂くように姫巫女の言葉が飛んだ。


「カリエンテ、ミンスミン、大儀でした。オストワルトは酒席の用意をなさい。遠方からの客人をもてなすこともできないようでは、我らエルフ族が蛮人と侮られる事になります」

「しかし姫巫女さま・・・!!」

「もともと私は彼らを客人として招くよう伝えたはずです。跪かせる必要も、兵を潜ませる必要もありません」

「ですが奴は人間です!下賤な人間が姫巫女さまに傷をつけるような事があっては・・・」

「ならば私の仇を討ちなさい。その時は一族郎党最後の一人になるまで戦い、人間を根絶やしにしてみせなさい。お前が先頭に立ち、最初に斬り、斬られて、死んで、果てなさい」


苛烈。なんというか、ここまで目の前で言われると逆に怖くないわ。すげえと思っちゃうな。うん。

そんな事を考えながら、とりあえず突発暴力装置であるリオが何もしないように後ろから両肩を抑えておく。安全第一ですよ。


「カリエンテ。側に侍る事を許します。彼らが私に危害を加えたならば、理由に関わらず殺しなさい」

「承知しました」


あらやだこの姫巫女さま苛烈すぎませんか。


「えーっとね、誤解がないように伝えておきたいんですけども。姫巫女サマ?こちらとしては戦いたくないんですよ。本当に、全力で、心の底から戦いたくないんです。なのでそういう命令はちょっとやめていただけませんかね?」

「お互いの信頼を得るには隠し事をしない方が良い。私がビルブラッドから教わった言葉です」

「・・・は?」

「こちらの戦力は看破されているのでしょう?私も覚悟のほどは示しました。なにとぞ、エルフ族との友誼を結んで下さいまし。稀人さま」


たおやかな笑顔で姫巫女が言った。

うん。さっきの命令なんだけどもさ、せめて危害を俺が加えたらにしてもらえないものかね。

こっちは爆弾抱えてんですよ?具体的には両手ですっぽり掴みっぱなしなんですががが。

書きたいエピソード量と執筆速度が合致しないこのもどかしさ。ぐぬぬ。

遅筆ですみませんが、エタらず更新していきますのでご容赦下さい!!

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