新しき風は黄金に比類するか
いつもありがとうございます
泉を囲う三つの祭壇。
それぞれに対応しているのだろう、一つの祭壇につき一つの神の名が古語で刻まれていた。
麦の神アラヴィスム、法と掟の神マリーシャイ、夜明けの神ベスティア。
麦の神アラヴィスムの加護★★
・生育補助+200%。実りの手が豊作を約束する。
法と掟の神マリーシャイの加護★
・束縛の呪い-5%。契約を破った相手を許しはしない。
夜明けの神ベスティアの加護★★
・rgnrkとの戦いに補正+10%。黄金に怯えるな。
うん。使わないであろう俺の加護ワースト軍団ですね!!
いま確認したら何故かベスティアの加護の星が増えていた。でも相変わらず意味はわからん。
なんなんだろうこの文字化け?別に戦う気が無いから良いんだけどもさー。
世界樹に触れそうなほど近い、秘跡の泉と呼ばれる場所で始まった酒席は盛大なものだった。
大量に持ち込まれた肉、茸、果物やナッツが祭壇に捧げられ、リオの前には樽ごとの蜂蜜酒。俺の前には果物と肉を中心にこれでもかと御馳走が並ぶ。
挨拶もそこそこに姫巫女を筆頭にエルフの女性たちが歩み出ると、大地を踏み、両手を打ち鳴らし、神々に舞を奉納し始めた。
洗練された舞ではない。力強く躍動する命の舞、心臓の鼓動が聞こえてくるかのような激しい舞踏だ。
見ているだけでなく俺も参加したくなるような輝きがそこにある。
舞の途中でオストワルトが歌いだした。カリエンテが、ミンスミンが。
聞いた事の無い旋律で戦士たちが歌う戦歌。
悪しき竜と雄々しく戦うエルフの戦士が本懐を果たし、この森に至る物語。
英雄の戦いは朗々と歌われ、踊りはその激しさを増す。
仲間が死に、倒れ、滅びの前に人々は絶望する。
竜の吐く瘴気で山は消し飛び、木々は腐り、肥沃な大地が砂漠に変わる。
誰一人動くこともできず、数多の戦を生き延びたエルフの戦士も悔しさに涙を流して膝をつく。
見上げる空は既になく、生きていく大地もなく、虚無に埋め尽くされた無間地獄の中。
一人の男だけが立っていた。
それこそが始祖ホワイトモアの伴侶となったもの。
すべてのエルフが忠誠を誓い、すべての神々が敬意を払い、すべての悪が恐れるただ一人の人間。
三人の女神に愛されたと言われるその人間の一撃は世界を砕き、悪しき竜を放逐する。
エルフたちの歌がその音量を増した。
キラキラと輝くマナを伴った無数の何かが踊り手たちと共に舞う。
「なんだこりゃ!?」
「凄いね凄いね~精霊だよ!!リオちゃんも見るのは初めてなんだよ~」
羽の生えた少女、薄絹を纏った美女、帽子をかぶった小人など、30センチくらいの大きさの精霊たちが無数に現れては舞に混じっていく。
「精霊ってなんだ?」
「あはは、知らないの?マナの源とも呼ばれている高次元の住人たちの事だよ。次元界としてはこの世界の直上ではなく裏面、あるいは内包する内側に存在すると考えられているけれど研究途中だね。議論の余地なく上位存在として定義されてはいるけど」
「高次元とか次元界とかよくわからんのだが」
「セルシスって馬鹿なの?」
カミサマー!グーパンできる加護ってまだですかー?
「高次元の存在って確定したわけじゃないんだけどね。研究してた資料だとマナとの関連を指摘するものが多かったかな~。転移の魔術を使っているはずなのに周囲のマナの総量は変わらない、なぜか?自身のマナのみで転移できるほど精霊の魔力が膨大ではない事から、上位の空間から下位に降りている。あるいは堕ちているのではないか?なんて問いから論証してたんだよん。下位の存在が昇ってきていると考えるよりは納得できるけど正直リオちゃんとしては微妙な所だと思うんだよね~。魔術に関して人間が優れているって証明されてるわけじゃないんだし、転移の術式に関して精霊が技術的優位性を持っていないとは限らないじゃない?そう考えたら論証だって結論ありきに・・・うひゃい!?」
黙らせるために背中を指で撫でてやった。
「なななな、なにするんだよ!?」
「難しい話しを止めたかっただけだ。他意はない」
「そうなの?・・・・・・セルシス、発情したんじゃないの??」
な ぜ そ う お も う ん だ !
「あー、しかしなんだな。そんな微妙な説なんて簡単に覆るんじゃないか?もう研究してないのか?」
「当時の研究者が家族と同僚ごとエルフに殺されちゃったから、それ以降は【塔】でも研究禁止になっちゃったんだよ」
闇が深いなオイ・・・!!!修羅の国かよグランディスタ。
リオと話している間に歌と踊りは終幕へとむかい、最後にエルフはその種だけを森に残す。
始祖と伴侶は手を取ってどこかの世界へと旅立っていく。
残された種から新しい世界樹が生まれ、大地にマナを満たしていく。
空は昼と夜を取り戻し、果実が実り、人々はグランディスタ取り戻した。
無音の余韻に浸る中、奉納の舞を終えた姫巫女が言う。
「始祖ホワイトモアのお告げである」
直立していた踊り手たちが膝を突き、蜂蜜酒に喉を潤わせていた戦士がその身を正す。
「遠方よりきたる稀人に神の手あり。数多の神々が授けし祝福は病みたる世界樹を癒し、我らの森に新たな風と命を運ぶであろう」
「「「我らの森に新たな風と命を運ぶであろう」」」
「我らの命に等しい世界樹に人間の手を触れさせるなど・・・・・・!!」
踊り手のエルフたちの唱和を遮るようにオストワルトが叫ぶ。
その昏い眼に従う様に何人ものエルフが追従して頷いた。
「触らせればわかることだろう」
「カリエンテ!貴様にエルフの誇りはないのか!?」
「誇りで世界樹を癒せると言うならお前が治してみせるがいい」
挑発的なカリエンテの言葉に一人のエルフが立ち上がる。
若草色の皮鎧に大虎のような筋肉を包んだ若い戦士は、その身に戦意を漲らせながら言う。
「俺も若長に同意しますよ、姫巫女さま。エルフがエルフ以下のものに頼るなんて馬鹿げてる」
失笑するようにカリエンテが笑った。
「何がおかしいカリエンテ!人間が世界樹を癒すなどありえんことだ!恥ずべきことだと思え!!」
「お前程度の者が頭目になるのだから、我らエルフも滅びが近いな」
「なんだと!?」
「トレハンク・シアンベイ、栄えある頭目衆の末席を汚すものよ。お前が批判する稀人には魔術を使わず貴様に勝り、体術を使わず貴様を森に還すだけの腕があるのだぞ?目端が利かぬなら黙って鳥よけの案山子にでもなっているがいい。でなければお前を頭目と仰ぐ者達も恥をかくことになる」
「戯言を言うなどカリエンテらしくもない、魔術であろうと体術であろうと我らエルフの研鑽が人間如きに超えられるものか」
「その程度の見識だからお前たちはビルブラッドに劣るのだ。虫や獣でさえその短い生涯の中に創意をめぐらせる、人の多様性、可能性がエルフに及ばぬ理由などない」
「ならば立ち会え!!」
トレハンクが吠える様に叫んだ。
「人間如きに劣ると言われて引き下がるのは戦士の名折れだ!祖霊に合わせる顔が無い!」
俺は心底嫌そうな顔で首を横に振った。
嫌だよ。嫌です、全力で拒否。負けたら殺されそうだし、勝っても次々挑戦者でてくる流れにしか見えないよ?おのれ、トレハンクに勝った程度で調子に乗るなよ!とか、平気でネクストチャレンジャーが言ってきそう。
だいたい世界樹を癒すとかなによ?そんな加護持ってないし。なんなの?託宣とかそれそのものが俺をハメるための罠かなんかなの??
ちらりと横目で見たリオは、油断なくフードの中で上位魔術の術式を組んでいた。
全力アリぶっぱ。リオを抱えて全力移動で撤退・・・ポータル起動できないと詰むな。
リオなら起動できるか?でもなー、移動するとき刺青光ってたし、指紋認証みたいな感じで登録してある魔力だけしか受け入れないとかあったりすんのかな?くそぅ、よくわからん。
現実的にここで戦闘になったら姫巫女人質計画しかないかなぁ、なんて思ってるところで姫巫女さまが口を開いた。
「託宣を信じられぬと申すのですか。下がりなさいトレハンク」
「ですが姫巫女さま、カリエンテはこの人間が我らエルフよりも強いと言いました。それは看過できません!」
「武威と加護は別の話しでしょう。それだけの加護が稀人さまにはあるのです」
「いいえ姫巫女さま。武威で正しいのですよ。セルシスはこの中の誰よりも強い」
カリエンテの言葉にエルフたちがざわつく。
「おい、ちょ、カリエンテ!!」
「戦えば恥をかくぞ、トレハンク。いまよりも多くの恥をな」
あまりの言い草に驚いて声をかけた俺を無視してカリエンテが言う。
挑発されて激怒したトレハンクが駆け出す。俺への道を遮るようにカリエンテが動いた。
目にも止まらぬような一瞬の交差で、決着まではわずか3秒。
薙ぎ払うように振るわれたトレハンクの左拳を潜り抜けるようにしてかわし、続けざまの右拳を腕ごと取るとカリエンテの身体が宙に飛んだ。
駆け上がるように伸びた両足がトレハンクの頭部を挟み込み、右腕を掴んだままぐるりと回転。
もんどり打って天を仰いだトレハンクの右腕は完全に腕ひしぎ十字固めに極められている。
「ぐあっ!?」
折りこそしないが無意味な手加減もしない。カリエンテはしっかりとトレハンクの腕を痛めつけると何事もなかったかのように立ち上がる。
・・・いや、すげーな。目で追うのがやっとだ。
その技の速さにエルフたちは唖然とし、その技の威力はいまだ立てずにいるトレハンクが証明している。
「今のは俺がセルシスから教わった技の一つだ。一呼吸で腕は折れる。魔術と組み合わせれば命も奪えるだろう」
痛みに震えるトレハンクがその身を起こし、カリエンテを睨む。
「いやいやいや、教えてねえよ。っていうかさ、なんで腕ひしぎ一回くらっただけであんなに動けるんだよ?だいたい今のなんだ?飛びつき腕十字??初見で出来るもんなのか、アレ」
「リオちゃん知らないよん」
小声で話す俺とリオをカリエンテが一瞬だけ睨み、そっと唇に人差し指を乗せる。
「皆も聞け!俺はセルシスに敗れた。カリエンテ・フルブライトがその名に誓う!!セルシスは強い、強者に挑む覚悟ある者はまず俺を相手にその腕を試すが良い!!俺に勝てぬものがセルシスに勝とうなどと思いあがるな!!・・・始祖の恩寵を忘れず、布の上に種を撒くような真似はしないことだ」
「・・・・・・カリエンテ・フルブライト」
静まり返る中で踊り手の一人が声をかけた。
姫巫女に比べると露出は控えめだが踊りの腕は一番だったと思う、美しいエルフの女性だ。
「なにか、ニルナウ・グレイリーフ」
「新しき風は黄金に比類するか」
「・・・俺は、黄金を超えるものだと見た」
爆発するようにエルフたちから声が溢れた。
俺を非難する声、カリエンテを罵倒する声、感嘆、驚嘆、怒号、悲鳴。
「誠ですかカリエンテ!」
それら有象無象の声を叩き伏せる様に姫巫女の声が秘跡の泉に響き渡る。
その声は、森永麻衣子によく似ていた。
どうやっても執筆時間が増えない事が判明しました。
当面は週に1回の更新ができるよう頑張ります!!




