一生は賭するが死ぬ気はない!
更新再開です。
今回はセクハラおやじ大暴れ。ご注意ください。
サンドラップが最初に感じたのは痛みだった。脛の辺りがジンジンと痺れる様に熱く、痛い。
やがて柔らかくて暖かい布が押し付けられるような感触があって、ゆっくりと痛みが引いていくのがわかる。
「・・・・・・いっ・・・て・・・ぇ」
ぼんやりとした頭で回復魔法をかけられている事を理解する。
飲みすぎた翌朝にあるような感覚。
寝る前に何をしてたか思い出せないような、そんな曖昧さが残るまま眼をあけると≪緋蜂≫のダーナと目があった。
「良かった・・・!ラップおじさん!!」
魔力の限界か体力の限界か、あるいはその両方か。
倦怠感が全身を支配して起き上がることを許さない。ダーナの表情から、良いにしても悪いにしてもひとまず終わった事だけは見て取る事ができた。
「お嬢、ちょいと、膝・・・かしてくれるか?」
「え!?・・・・・・う、うん。良いわよ」
ずりっと上半身を動かしてダーナの膝に頭を乗せる。
眼だけで周囲を確認するが、間違いなくそこは黄金の部屋だった。
何がどうなったのだろうか。自分は生きているのだろうか。それともみんな死んでいるのだろうか。
確認するために左手でダーナの尻をぐにっと揉んだ。
驚くべき反応速度でダブル・アックス・ハンドルがサンドラップの鼻面に叩きこまれる。
両手を組んだ一撃は魔神将さえもひるませるような美しい殴打だった。
「いでぇ!?」
「なななな!あ!!・・・な!!!!なにするの!!!!」
モグラ叩きでもするように続けて三発叩き込んだダーナの拳を捌きながらサンドラップが謝罪する。
「いや、夢でも見てるのかと思ってな」
「そういう時は自分の頬をつねるもんでしょ!!!!」
「そんなの痛いだけじゃないか。同じ痛いならお嬢の尻を揉む方が揉めた分だけ特だろう」
「ラップおじさん!!!!」
真っ赤になったダーナを見て安心したようにサンドラップは息を吐いた。
状況はそこまで悪くないらしい。もしかしたら逆転勝利しててもおかしくないくらいだ。
「・・・夢じゃ、ないんだな」
右手を見る。手首から先は無く、いびつに盛り上がった肉がそこにはあった。槍も折られている。
命を拾って得た物もあるが、無くしたものもそれなりに大きい。
「俺がやられたあと何があった?≪龍剥ぎ≫が冒険者100人連れて助けに来たとかか??」
「助けはこなかったけど勝ったのよ。私やアンリも頑張ったけど、フェイとセルシスが・・・やってくれたの」
「最強の下級冒険者でしたよ。やっぱり」
ダーナの叫びに様子を見に来たアンリが言う。
「そりゃ・・・凄いな。どんなやつだ?」
「見たでしょ?フェイと一緒に来たの。回復魔法をかけてくれてたはずだけど」
「・・・・・・・・・あのパッとしないやつか??」
正直セルシスという冒険者の強さはまったく想像できなかった。ダーナと同等以上の身体強化を使えるのだろうが、それであの黄金騎士に勝てるかと問われたら答えは否だ。
ダーナ以上の身体強化を使って自分以上に剣が使える無名の下級冒険者?考えるとなおさら意味がわからなくなる。
「フェイもね。限界だったんだけど、戦の神の加護を貰ってなんとかね・・・」
「へぇ・・・・・・・・・なにぃ!!?」
大声を出してがばっとサンドラップが起き上がり、ダーナに向き直る。
「戦の神ってあれか!ヴェラーラか!?あの、ぽよよよおおおんとした胸とむにむにいいいいっとした尻を併せ持った女神、涼しげな目元で、良いわよ、なんでも許してあげるわって言いそうな顔したあのヴェラーラの事か!!!!」
「えーっと、よくわかんないけどそのヴェラーラ、よ・・・・・・多分」
「フェエエエエェェイィィィ!!!!!!!!!!」
般若か夜叉のごとく目を吊り上げたサンドラップが飛び跳ねる様に立ち上がってフェイのところに大股で歩みよる。
「よう、サンドラ・・・」
「てめぇ!!汚ねぇぞ!!」
「・・・・・・あん?」
「俺がいるところで女神の二股かけるとは破廉恥にもほどがある。なんて羨まけしからん野郎だ!!」
「ちょっとまて、なんのことだか俺には・・・」
「とぼけんな!お嬢に聞いたぞ、てめぇ戦の神ヴェラーラの加護を貰ったそうじゃないか!!!お前にはもうカムナエナの加護があるってのに・・・!!」
「んなもん俺のせいじゃねえだろうが」
「うるせぇ!てめえなにか?ダンブランの女と言う女を全部自分の物にしないと気が済まないのか?女神全員自分のモノにしようとか俺みたいなこと考えてるんじゃねえだろうな!」
「そんなくだらねえこと考えてんのはあんただけだ!!!!?」
「ならなんで俺には女神の加護がないのにお前だけ愛されてるんだよ、納得いかないね。ああ納得いかない・・・・・・おまえ、どんな手を使って女神を誑し込んでんだ?」
「知るか!?なりゆきだっての!」
「ああそうか、秘密にするなら俺にも考えがあるぞ。フェイ、お前の二つ名は今日から≪誑し込み≫だ。ダンブランだけじゃない、王都まで言って≪誑し込み≫のフェイの名前を広めてやるから覚悟しとけよ!」
「いぃ!?」
サンドラップはやると言ったら必ずやる男だった。
そんな名前が広まったら昼間に街中を歩けなくなるのは間違いない。
「加護ならあんただって持ってるだろ!?」
「バーナベーダか?酔っぱらったオッサンの加護100人分より綺麗な女神の加護1人分の方が良いに決まってんだろ!!!」
「そこまで言うなら本人に貰ってこい!!」
腕を掴んでヴェラーラのところへ連れて行くと、サンドラップは不思議そうな顔で首をひねった。
「フェイ、この顔の小さいのは誰だ?確か≪冒涜者≫の蟻に乗ってお前と来てたやつだよな?ギルドの新人冒険者か?それにしちゃギルドカードが見当たらないが・・・」
「俺はヴェラーラ」
「ほーん。親御さんも随分気張った名前つけたもんだな。しかし戦の神を名乗るには胸が足りないぞ、胸が」
「胸なら普通にあるぞ」
「ばっかおまえ、ヴェラーラには足りないだろうが。ヴェラーラには胸と尻が必要なんだよ」
「尻??あるぞ?触ってみるか??」
鋭く眼を光らせたサンドラップの手がヴェラーラの臀部をがしっと掴む。
同時にフェイが手のひらで顔を覆った。
むにっとサンドラップの指が埋まる。
「尻は合格だな。これであとは胸がありゃあ・・・」
「おまえ、そんなに胸の大きい女が好きなのか?」
「おうとも。世間じゃ小さいのも良いとか、手にすっぽりと収まるくらいが良いなんて言う奴がいるが俺に言わせたら全然わかってないね。こう、手の中に収まらない暴れん坊が良いんじゃねえか!!」
そう言いながらわきわきと両手を動かす。
思い出したように右手の指が無い事に気付くと、左手で拳を作ってから眉をひそめた。
「ちくしょう、こりゃ慣れるまで不便だ」
「・・・・・・おまえ、変わってるな。手があった頃より強くなってるじゃないか」
「ありがとうよ、ヴェラーラ様に褒められるとは男冥利につきるね。今から一戦お願いしたいくらいだ」
「俺とやりたいのか?」
ヴェラーラの顔が楽しそうに、剣呑に笑う。
「そりゃあやりたいだろ。戦の神には及ばなくても十分良い女だと思うぜ」
「なら試してみるか」
「・・・ここでか?お嬢やアンリにゃ刺激が強すぎるぞ」
「外でやろう。邪魔は入らない方がいい」
「外だと恥ずかしくねえか?」
「俺がやるのはだいたい外だ」
「・・・・・・・・・・・・好きなんだな」
「好きだ。俺の存在意義だからな」
サンドラップの首筋を冷たい汗が流れた。
「それに、今のお前となら楽しめそうだ」
「今の俺となら・・・?」
不思議そうな顔でサンドラップが無くなった右手を見る。
自分の身体をマジマジと見てからもう一度右手に視線を向けると、雷に打たれたような天啓が脳裏に閃いた。
「・・・・・・・・・・・・え。いや・・・そういうのか?そりゃ俺もしたことないが・・・いやどうなんだこれ。できるか?やりゃできそうだけど・・・だいたいありなのか?・・・・・・こうか?いや・・・・・・なあフェイ、これできると思うか?」
「ふるなよ!?さっきから俺が言いたい事をどれだけ我慢してるかわかるか!!?」
フェイの絶叫が黄金の部屋に響き渡る。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・よし」
「よしじゃねえ!!?本物だからな!!この女は本物!!!本当に戦の神ヴェラーラなんだよ!!!!!」
なんともいえない生暖かい眼でフェイを見たサンドラップが視線を動かすと、自分を見ていたアンリと目があった。こくりとアンリが頷く。
はてな?
続いて目のあったダーナも頷き、オウルトは指先でバッテンを見せ、ルシッダは青い顔であわあわしている。
・・・・・・・・・・・・はてな?
サンドラップはまじまじと目の前にいる女の顔を見た。
ダークゴールドの髪が美しく輝く、生意気そうな顔の女だ。
ちょっと目元にキツイ印象があるものの面影はある。というか、胸以外はダンブランに祀られている神像と同じといっても過言ではない。
「・・・ちょっといいか」
深刻な表情で手を伸ばしたサンドラップがヴェラーラの胸を揉んだ。
ごすん!と鈍い音がしてフェイがサンドラップを殴り飛ばす。
「なにやってんだあんた!?」
「バッカヤロウ!!女神の胸を揉める機会なんざ一生に一度あるかないかだろうが!!ここで揉まずにいつ揉むんだ!!!!」
「殺されてもしらねえぞ!?」
「女神の胸だぞ、一生を賭する価値があるだろうが!」
「そこから離れろよ!少しは正気に戻れっての!!!」
「正気だから揉むんだろうが!この感触を忘れちまったら勿体ねえだろ」
「そういうことじゃねえええええええ!!!!!!!」
怒鳴りあう二人の前でヴェラーラはケラケラと楽しそうに笑った。
「おまえ、それじゃ死んでも良いみたいに聞こえるぞ」
「一生は賭するが死ぬ気はない!」
断言するサンドラップの返事にヴェラーラの笑い声が一段と大きくなる。
「一生を賭しても良いなんて言えるほどの望みを叶えたら生きてる張り合いが無くなるんじゃないか?そういう奴は勝ち戦でもあっさり死ぬぞ」
「死ねるかよ。女神の胸だって揉めたんだぞ?生きてりゃ抱ける機会だってあるかもしれないだろうが。これでますます死ねなくなっちまった」
「・・・おまえ、良い男だな」
「惚れろ惚れろ!!ん?そしたら加護もついちまうのか?」
「欲しいならやってもいいけどな・・・・・・欲しいなら、な」
見透かすようにヴェラーラがサンドラップの耳元で囁く。
片目を閉じて何かを言い返そうとしたサンドラップだったが、ほんの少し躊躇すると、思考を切り替えて別の事に触れた。
「腹が減っちまったな。帰って何か食わねえと。おーい、ラズンズ!」
返事は無い。
黄金の部屋で答えを返すものはなく、静寂だけが満ちる。
「・・・ラズンズ?」
サンドラップが熊獣人の姿を探す。
目を閉じた相棒は折れた大剣を腹の上に乗せ、血だまりの上に横たわっていた。
「おい・・・ラズンズ・・・・・・・・・ラズンズ!!!」
「腹減った」
「ちゃんと返事しろよ馬鹿野郎!」
ぱちりと目を開いた熊獣人のラズンズがぐるると唸る。同時にその腹も一緒にぎゅるると鳴った。
「喋ると腹が減る。静かにする。我慢できる」
「うるせえ馬鹿野郎!なんで剣を腹の上に乗せてんだ!?死んでるように見えるじゃねえか!!」
「お腹ぺこぺこ。上から押さえる。ぺこぺこしない」
「血だまりで横になってるのはなんでだ!?気持ち悪いだろうが!!」
「動くと腹が・・・・・・」
「もういい!黙ってろ馬鹿野郎!!」
罵倒しながら涙をぬぐう様な仕草で顔をこすったサンドラップがフェイに向き直る。
「そういやセルシスってのはどうした?礼くらい言わせてくれ」
「ここにゃいないぜ・・・おいヴェラーラ、本当に大丈夫なんだろうな?」
「わからない」
フェイの目つきが険しくなる。
「あいつは魔神将のマナに侵されすぎた。ここにいても死ぬのは目に見えてる、だから生き残る可能性が高い道を選んだ。そこから先は俺の関知するところじゃない」
「他の手段はなかったのかよ?」
「移動手段と速度の問題だ。お前にだってわかるはずだぞ」
「・・・俺が本気で動けば・・・・・・」
「無理だ。休まず寝ずに移動することはできない。それにおまえはマナと命の前借りで限界だからな。しばらくはおとなしくしていろ」
舌打ちするフェイにサンドラップが言う。
「ま、よくわからんが心配することもないだろ。何がどうなったんだかさっぱりわからんが、最強の下級冒険者らしいからな。ここで死ななかった奴がそう簡単に死んでたまるかよ」
「連れてったのが≪冒涜者≫でもか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・何がどうなったんだかさっぱりわからんが、そりゃ心配だ」
たいへんお待たせしました。まだショックが残っていますが、来週からは週1での更新をしていきます。
第二部もよろしくお願いいたします。




