俺を≪死神≫と呼ぶな
ダンブランに戻って一か月が過ぎた。
最初の頃はとにかく後処理に追われて、何があったんだか自分でもよく覚えちゃいない。
はっきりしているのはA級に昇格しちまったことと、面倒が増えたってことだ。
公的に名前と顔が売れたせいで冒険者ギルドの裏仕事からは解放されたものの、今後はA級にふさわしい活躍をしろとオヤジに命令されちまって・・・・・・どうしたもんだか。
俺と一緒にA級に昇格したダーナはアンリと正式に婚約した。魔神将を倒して両親の仇を討ったんだから少しは落ち着くのかと思ったらその逆で、昔以上に暴れまわってんだからびっくりだ。
最近じゃ魔宮の再探索なんて事を臨時パーティ組んでやってる。
仕方ないから俺も付き合ってるが、毎回毎回、命がいくらあっても足りないような大冒険ってのはやりすぎなんじゃねえかなぁ。死者が出てないのが奇跡みたいに感じるが・・・まあ、パーティリーダーの指揮も良いんだろう。
≪三剣≫ホロゥストークは・・・いまじゃ≪三剣≫だけじゃなく≪魔神殺し≫ホロゥストークとも呼ばれるS級冒険者に昇格して、くだんの臨時パーティーでリーダーをやっている。
何百人かの死者を出した結果として冒険者ギルドはホロゥストークを英雄に祭り上げたわけだ。
対外的な面目を保つにも「魔神を討伐したが多大な犠牲を出した」んじゃなくて「多大な犠牲を払いながらも魔神討伐に成功した」って美談にしたかったんだろう。それにはわかりやすい英雄が必要だ。
ダチ公が一緒に戻ってれば間違いなくあいつがその英雄になってたんだろうが・・・戦線に投入したS級冒険者は誰も戻らず、サンドラップやラズンズは辞退したから、まあ仕方ねえ。
ルシッダは戦の神ヴェラーラに直接会った事で信仰が揺らいだらしい。
神殿に帰らずに冒険者ギルドへ残ったみたいだが良かったんだか悪かったんだか。
なんとか生き残ったトーラも生死の境を体験して価値観が変わったのか「知識を得るにはまず力から」とか言って魔術師ギルドを辞め、冒険者ギルドへ再登録することになった。
オウルトはその2人とパーティーを組んで一緒に行動している。両手に花を実践してるからやっかみもあるが、俺が見る限りバランスの良いパーティーなのは間違いない。
前衛の神官戦士、霊薬も作れる魔術師、どっちもパーティーに一人いれば生存率が大きく上がるはずだ。
経験の無さは斥候のオウルトがフォローすれば良いだけだし、案外有名になっちまうかもしれないな。
「そういうわけだから、これで終わりにさせてくれや」
オヤジが羊皮紙に目を走らせる。
熊獣人のラズンズがぐるると唸り、むすっとした顔のオヤジが羊皮紙を俺に渡しながらサンドラップに言った。
「お前は魔宮でも活躍したと聞いているぞ。なにか考え違いをしてるんじゃあないか?」
「考え違いじゃねえよ。レスター、あんたにだってわかるはずだ。利き腕を失って続けられる冒険者なんざいやしねえ。そりゃなんでも良いならやりようはあるだろうさ。だがな、下級の連中ならともかく、A級の冒険者が務まるわけない。そうだろ?」
「サンド、強い。戦える」
「黙ってろラズンズ・・・・・・その羊皮紙の字だって酷いもんだろ?左手の俺にゃ、それが精一杯さ」
「それでも無学の冒険者連中よりマシだろう」
「無学よりマシだったらなんなんだ!?下級よりマシなら冒険者続けろってのか?死ぬまでやれって言うならちゃんと命令してくれよ!レスターギルド長サマ!!」
怒りで溢れる殺気に俺の身体が竦んだ。
個室じゃなかったら悲鳴の一つくらい・・・いや、十や二十は上がってたんじゃないだろうか。
しかし・・・・・・なんだこりゃ。俺が竦むってどんだけだよ。間違いなく両手の頃より強くなってるじゃねえかこいつ。
ホロゥストークじゃなくてサンドラップがS級に昇格してた方が良かっただろ。これ。
「・・・己の弱さを理由に冒険者を辞めたいと言われてもな、強いやつを辞めさせるわけにはいかん」
「だから!戦えねえって言ってんだ!!」
「ダンブランの冒険者は魔神討伐で大きく数を減らした。正直に言って猫の手も借りたい状況だ。お前とラズンズには冒険者ギルドの屋台骨を支えて欲しい。いずれはお前たちもS級になるだろうからな」
「ホロゥみたいにか?担ぎ上げられるのはごめんだね」
「ホロゥを入れてもS級の数は減ったままだ。このままにはできん」
「あんたが前線に出れば良いだけだろ、≪死神≫が帰ってきたらみんな喜ぶぜ?なんなら昔のパーティーを復活させちまえ。≪居合拳≫も≪最強のA級≫も、あんたが立つなら・・・」
「サンドラップ」
ギルド長室の温度が目に見えて下がった。
俺は無意識に腰の双剣に手を添える。
「俺を≪死神≫と呼ぶな。死にたくなければ、な」
「≪死神≫レスターに殺されて死ぬのが俺の最後だっていうなら、自慢になるかもな」
一歩も譲ることなくサンドラップはオヤジを睨みかえす。
ややあって、嘆息しながら先に目をそらしたのはオヤジの方だった。
「・・・俺にそれだけ向き合える奴が弱いわけないだろうに。どうしてそれが自分でわからん」
「強かったら魔宮で負けてねえんだよ。右手斬り落とされて、槍も無くなって・・・どうにもならねえだろ」
「なあサンドラップ、冒険者を辞めてどうすんだよ?」
俺に話しかけられるとサンドラップは少しだけ面白そうな顔を見せた。
「王都に行く。≪誑し込み≫のフェイがダンブランで暴れてるって吹聴してこねえとな」
「いぃ!?そりゃ片付いた話しだろ!?」
「覚悟しとけよ、S級になったホロゥストークより有名にしてやるからな」
「ただの嫌がらせに人生賭けるんじゃねえ!!」
「サンド、王都行く。働く」
「・・・・・・王都で仕事探すのか?」
「おうよ。馴染みの飲み屋で働こうと思ってな。運がよけりゃ自分の店だってもてるかもしれないだろ」
10年以上ダンブランで活動してきたサンドラップに王都で馴染みの店なんてあるはずもない。
むしろ馴染みの店ならダンブランにいくらでもあるはずだ。
「なあ、サンドラップ、ダンブランで働・・・」
「わかった」
両手をパンと合わせてオヤジが立ち上がると、抽斗から何かを出して書き始める。
「王都へ行くんだな。金はあるのか?」
「そりゃA級冒険者だか・・・」
「ない。サンドラップ。素寒貧」
「うぉいラズンズぅ!?」
「なら丁度いい。お前に最後の指名依頼を出してやる」
そう言いながらオヤジが俺に渡したのは2枚の依頼書だった。
1枚は王都の冒険者ギルドで指導教官をしてほしいというもので、もう1枚は王都までの警護依頼。
「指導教官だあ!?」
「王都の冒険者は質が落ちてるという話しでな。A級以上の冒険者に教導を頼みたいそうだ」
「ふざけんな!俺にできるわけねえだろうが!?」
「一か月の独学で身に着けた汚い字を教えろ、とは言って無いぞ。それともなにか?お前が≪神槍≫から教わった槍技は、王都のひよっこに通じないほど拙劣なものか」
「・・・・・・言うじゃねえか」
「指導期間は王都のギルドで話し合って自由に決めろ。期間中は少なくとも宿と飯、常識の範囲での酒代はギルドでもってやる。移動に関してはもう1枚の警護依頼を受ければ問題無かろう。こちらも費用は依頼者負担だからな」
「俺とラズンズの二人で受けて良いのかよ」
「護衛に関しては二人で受けろ。お前たちが護衛するならドラゴンでも出てこない限り安全だ。指導教官の方は特に人数の記載がないが・・・王都は獣人への風当たりがここよりも強いからな、そのあたりの事は向こうで交渉しろ」
「わかった」
「A級の冒険者に払う報酬には足りないがな。向こうで引退したくなったらこの手紙をギルドに渡せ。俺のサインが書いてあるから絶対に辞められる」
「・・・なあ、本当に良いのかよ?」
部屋を出ていく二人を見送ってから俺が言った。
「仕事ならダンブランでも探せるだろ?それに・・・」
「お前みたいに才能に溢れた奴にはわからんだろう。恥ずかしくて穴があったら入りたくなるような気持ちってのは」
「・・・なんだそりゃ」
「この街から出られるならなんでも良いんだ。人の目が自分を見ている気がする、誰かに失った手を見られるたびに、自分を笑われているような気がする。馴染みの街、馴染みの人間の近くにいるのは辛いもんだ」
「そんなもん王都に行ったからって何か変わるもんじゃねえだろ」
「変わらないが、少なくとも依頼は受けた。向こうのひよっこに教えてみれば自分の強さに気付くかもしれん」
「・・・あれ、本気で自分を弱いって思ってんのかよ?」
「槍を失った事も大きいんだろうがな。ろくに依頼も受けず、戻ってからは酒浸りで手持ちの金を溶かす生活をしてきたんだ。負けた記憶や折られた記憶が印象に残りすぎて自分を過小評価してるんだろう」
うへぇ、と俺が言う。
「両手があったら勝てた、とでも思ってるのかもしれんな・・・・・・」
「そんな誤解できるかぁ?」
「年を取ると衰えた事にはすぐ気付く。下り坂に自分が立っていると感じたら成長するとは思わないからな。何かの拍子に大化けしても、逆に化けた事を誤解だと思う事くらいあるだろう。ましてや自分より若い連中が自分の勝てなかった相手を倒してみせたんだ。お前たちが上に昇ってきた以上に自分が下に落ちたと感じるもんだ。普通はな」
俺にはわからない感覚だ。だが、まあ、オヤジがここまで言うんだからそんなもんなんだろう。
「フェイ、あとでアンリに伝えておけ」
「・・・なにをだ?」
「護衛依頼を受けたのがサンドラップとラズンズだって事をだ。護衛依頼は領主と神殿の連名だっただろ?魔神討伐に関して詳細な報告をするために王都まで行くわけだが、おそらく高い確率でアンリがその役目につくはずだ」
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