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まあどっちでもいいよね

今までで最もグロイ描写があります。

ここまでの描写は今回限りですので、お許しください。

最初に見えたのは生き残った冒険者たちの姿だった。

威力を抑えた明かりの魔法でも使ったのだろう、暗い森の中、常夜灯のような明かりの下で十数人の生存者が息を潜めるようにじっとしている。


おぞましい声が怒号のように響き、冒険者の何人かが、びくりと大きく跳ねた。


耐えきれなくなった冒険者の一人が嘔吐する。咄嗟にかけよって背中をさすってやるが断末魔の叫びは止まず、冒険者は怯えるように涙を流してえずき、痙攣するように小さく震えた。

回復魔法をかけてやりながら俺はフェイを見る。


フェイは冒険者たちを庇うように立って、黒いローブの女性と向き合っていた。

袖の広いローブを着た女性はフードをかぶっておらず、手の甲を口元に添えてくすくすと上品に笑う。

眉が印象的な、アン・ハサウェイのような女性だ。


女性のすぐ隣には大きな黒い何かがあった。

ぐねぐねと動くその中から青銅色の魔神の腕が突き出し、黒い何かを掻き毟っては悲鳴を・・・おぞましい声を上げ続けている。

ぽろぽろと剥がされた黒い何かは墨汁でもぶちまけたかのように広がり、しばらくすると意思があるように動いて再び魔神に群がっていく。きちきち、ぎしぎし、ぶちぶちと、小さな音を立てながら。


唖然とする俺の目の前で青銅色の魔神が絶叫を上げてのたうちまわる。

生きたまま削り取られ、噛み砕かれ、咀嚼されていく。

皮膚を食い破った黒い蟻の群れが肉と骨を食いちぎり、抵抗する魔神の腕が肘から落ちた。

丸太のように太い腕の断面にはみっしりと黒い蟻が埋まり、蠢き、わさわさと食事を続けている。

音を立てて獲物を咀嚼する蟻の群れ。


大小様々な大きさの蟻を魔力で強化し、群れとして支配、使役する。

それがS級冒険者≪冒涜者≫リオの秘術だった。



「ようやく最後の一体を葬れた~。魔神アトトフラブスは気配を持たないから姿を隠されると見つけるのが一苦労なんだよ。我慢比べにも疲れてきたところだからフェイが来てくれて助かっちゃった!」

「アトトフラブス?」

「この魔神の識別名。ギルドの報告では下位魔神って書かれてたけどあれは間違いだね。【塔】で研究してた連中は中位魔神として分類してたんだ~。下位魔神以上、上位魔神未満の戦闘力ってこと、こっちで5年前に出てきた上位魔神よりは明らかに劣るでしょ?四つ手、毒霧、つぶれ饅頭の三種類だっけ?」

「お前の方が良く知ってるだろ」

「私は知らないよ、その頃は【塔】にいたもん。いや、追い出された頃だったかな?まあどっちでもいいよね」


その瞳を妖しく光らせて≪冒涜者≫リオがくすくすと笑う。

なんとなく本多真梨子を思わせる声だ。


「ん?もしかして怖がってる??だったら安心して良いよ、森にいた連中はこれで最後だから。さすがに40体くらい相手にしたから疲れちゃった~。もう帰っても良い?な~んて、あはは、ダメだよね~、ここで帰ったらギルド長からお金もらえないもんね。もうひと頑張りしなくっちゃ!リオちゃん偉いっ!!」

「リオ、クライブはどうした?」

「死んだよ~。魔神さんたちに美味しくモグモグされちゃいました。あっはは!もうね、凄かったんだよ!こうね、首とかこんな風に曲がっちゃって!!いでぇ~、いでぇよぉぉぉ~とかなんとか叫んでるの~!もう凄いぶさいくな顔でさ!!」



どん。

と、フェイが、叩き割るような勢いで大地を踏みつけた。



「・・・・・・フェイ、枷を外してるね?どしたの??」

「見ただけでそれに気が付くのはS級の中でもあんたくらいだよ」

「ギルド長ならわかるでしょ~。あとは・・・うん、皆そういうの気にしないからわかんないかもね。あはは、なんだ~、リオちゃんってば優秀~」

「クライブがあんたより弱いのは認めるけどよ、それでも生かしとけば使い道くらいあったんじゃねえのか?見殺しにするほど無能じゃなかったろう」

「もっちろんっ!だからちゃんと生き餌にしたもん。B級のゴミが何もできずに死んでいく中で、なんと3匹も魔神を引き付けてくれちゃいました!!クライブちゃん優秀~!偉いっ!!わざわざ選んで連れてきたリオちゃんてばもっと偉い!!なんちゃって~あっははは」


聞いていて頭の痛くなる会話だった。

フェイが俺の方に一瞬だけ向いて、目線だけで「先に行け」と促す。


「フェイ!!」


視線を外した隙を突くようにフェイの足元に召喚魔法陣が生まれ、そこから1メートルはある巨大な蟻が召喚される。

振り向きざまに抜き放たれた双剣が背後に迫る蟻の触角を斬り落とし、続けた斬撃が頭の先から顎まで真っ二つに両断した。


「なんのつもりだ糞女」

「酷いなあ、ちゃんとリオちゃんって呼んでよ~」

「糞女を糞女って呼んでるだけだろうが、それより質問に答えろ糞女」

「あはは、つめた~い。でも良いよね、私フェイのそういうとこ好きだよ」


そう言ってクスクス笑うリオのローブの裾から、砂でも撒くように無数の蟻が溢れだす。


「せっかく街の外で枷の無いフェイに会えたから~。う~ん、ちょっと味見?したいな!!」

「なんで俺の周りにはまともな女がいねえんだよ!!!くそったれ!!!!」


津波のようにうねる蟻の群れが襲いかかる。

闇色の魔弾を虚空に浮かべたフェイは宙を蹴り、点々と飛ばした魔弾を足場にしてジグザグに飛び跳ねながらリオに向かって突き進む。


「漆黒の渦、貫きの魔弾、地を這い跳ねて敵を撃て」


まるで浮石を渡るように地面を離れて空を走るフェイはさらに魔弾を生み出し、蟻の群れに打ち込んでいく。


「悪いがな、てめえに負けると思った事はねえんだよ!」


双剣が閃く。動かないリオの胸元に吸い込まれるように刃が刺さる。

強靭な蟻の頭を分断するほどの刃が背中まで貫通する・・・ことは無く、その剣はローブに薄く穴をあけただけで止まっていた。


「でも、勝てると思ったことも無い。でしょ?」


衝撃破のような魔力を叩きこまれて吹き飛ばされたフェイが、咄嗟に無数の魔弾を背後に浮かべて壁にする。ネットのように展開した闇色の魔弾に自分の身体をあずけて、フェイはなんとか蟻の群れに落ちるのを防いだ。


「それ、面白い技だよね。魔弾に見せかけてるけど違う。加護かな?固有魔術かな??詠唱で効果を上乗せしてるように見せてるだけで実際は全然別の魔法だよね」

「・・・・・・そんな事までわかんのかよ」

「わかるよ~、リオちゃん天才だも~ん」


満面の笑みを浮かべるリオと対照的に、苦虫を噛んだような顔でフェイが言う。


「おい糞女、一回しか言わねえから良く聞け。俺は急いでるんだ、邪魔する奴は殺すし、立ちふさがるならただじゃおかねえ」

「・・・だから?」

「だから、遊びたいなら全部終わった後で付き合ってやるから、今は協力しろ。余計な手間かけさせんな糞女」

「え~、なにそれ~、フェイの部下になれって事?仲間になれ的な?」

「おまえみたいな危ない奴を部下にできるかよ!仲間にするのも嫌だ。だが、敵になったら面倒だから今はやめてくれって言ってんだ」

「・・・・・・ま、どっちでもいっかな。さっきのでだいたいわかったし。良いよ~。寛大なリオちゃんはお腹に風穴開けられそうになった事も許してあげちゃうんだぞ!あ、でもねでもね。我慢比べで結構消耗してるから、ご飯だけ食べて良い?」

「それくらいなら好きにしろ」

「じゃあ、あそこのエサ、貰うね」


≪冒涜者≫リオは俺を見てそう言う。

何かに気付いたフェイが動こうとするが間に合わず、蛇に睨まれた蛙のようにぞっとする俺の近くで無数の絶叫があがった。


「うわあああああ!!!ああああああああああああ!!!」

「いやあ!?やだ!やだやだやだやだやだあああ!!」

「くそ!!この!!!ぐが、むぐっんんっっ!」


何千匹、何万匹、あるいはそれ以上の蟻の群れ。

生きた冒険者を貪り喰らおうとするそれは、俺には魔神よりも禍々しく見えた。

蟻の群れは何故か俺以外の冒険者を獲物として認識しているようで、足元できしきしと顎を鳴らすだけで噛み付いてはこない。

神様に貰った旅装束の力だろうか?なんにせよ、覚めた頭で息を吸った俺が言う言葉は一つだ。


『砕けろ』


冒険者の周囲2メートルの蟻をすべて粉々に砕く。存在そのものを粉々に、塵になるまで。

暴れるように蟻を払っていた冒険者たちのうち、蟻が消えた事に気が付いた数人が俺を見た。

それでも蟻の群れは雲霞のごとく押し寄せる。


『砕けろ』


冒険者たちに触れる直前、もう一度2メートルまでの蟻をすべて砕いて塵にする。

冒険者全員が気付いた。視線が俺に集まる。

それでも蟻の群れは穴を埋めるように、雲霞のごとく押し寄せる。


『砕けろ』


三度目の切り札。今度はリオの操る蟻の群れがぴたりと動きを止めた。



「なにそれ?加護??風系統の固有魔術かな??」

「・・・なんでこんな事をするんだ?生きてる人間を蟻に食べさせる?そんな事してどうするんだ」

「だって疲れちゃったんだもん。栄養補給しないと魔宮まで持たないよ。そこの連中は役にも立たないゴミなんだから、せめて食事として役に立ってもらわなくちゃ」

「死なせていいはずないだろ!」

「へ?なんで??ギルドからの依頼は魔神を殺せってだけだもん、他の奴はみんな死んでも良いんだよ?」


リオは本気で言っていた。手のひらで顔を覆ったフェイが空を見上げる。

本当に、本心から、みんな死んでも良いと思っているのがわかる。


「・・・・・・どうして、そう、思えるんだ」

「簡単な事だよ!護衛依頼じゃないし、リオちゃんの家族や仲間でもないし、ね?死んでも大丈夫っ!!」


清々しい笑顔でリオが胸を張った。

テストで100点取れたとでも言うような、清々しい笑顔。


「あ!もしかして自分も食べられるかもって心配してる?それなら大丈夫だよ、なんでか知らないけど私の子たちが君の事は食べたくないって言ってるから・・・・・・だから、邪魔しないでくれる?」

「そういう問題じゃない」

「わかんないな~。きみ、敵なの?」


クライブって人の事はよくわかんないし、ここで死んでいった人の事もよくわかってない。少なくとも、さっき助けた冒険者の中に俺の顔見知りは一人もいなかった。でも。



「ここで生き残ってる人を襲うって言うなら、俺は君の敵だ」

おかげさまで十万字を超えました。いつもありがとうございます!!

来週の更新は火曜と木曜になります。

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