加護じゃねえのか?
今週最後の更新です。
ダーナに勝った時はA級と遜色ない身体強化を使ってやがった。
これも変だ、どうして傭兵と戦った時は使わなかった??
使えない理由があるのか、あるいはこれも使えなかった、のか?
苦みが口の中に広がる。黙らせるように、ごくり、と音を立てて唾を飲みこむ。
森の中、初心者同然の足運びがすぐに熟練者のそれになった。
これは間違いなく、最初は使えなかった足運びが使えるようになっている。間違いない。
素質はあったからコツを掴んだんだろうと考えていたが、もし、そうじゃないとしたら?
本当にまったく使えなかったものが使えるようになっているのだとしたら?
「なんだ・・・・・・そりゃ」
眠気は吹っ飛んだ。
できない事ができるようになる加護?あるとすれば神話級だ。
「少なくとも3つ」
隠してる加護が1つ。それもおそらく星5つの神話級。
それは何かを習得する事に特化した加護。見た物を模倣する?あるいは、見た物を取得する、そういった規格外の加護。
そうだと仮定するとひっかかる事がもう一つあるが、とりあえずそれは置いておく。
1つは魔眼。これは今日確定した。
指輪探しの依頼はベイズ・ベリーズでたまたま会った馴染みに頼んで即席ででっちあげた依頼だ。
チーズ袋の中に隠した指輪を見つけるのは魔力感知じゃできっこない。
セルシスは偶然を装って保冷庫を開けてたが、あれは違う。偶然じゃなく確実にそこにあると確信してから行動していた。
それからピサンティエの詰所で聞きだしたあの言葉。
『ダーナが炎の槍をトロルの目に突き込んだ』
これでわかった。見る魔眼だ。距離に関わらず、見る、見つける事に特化した魔眼。
星の数まではわからないが何かを認識する、何かを感じるとかじゃなく、はっきり何かを見つける、見る、視覚で捉える魔眼なのは間違いない。森ではそれで俺たちを見つけたんだろう。
最後は武器破壊の加護。戦の神ヴェラーラか鍛冶の神オルトヴァで星5つ。神話級の加護を2つ持つなんてありえねーことだが・・・しかし持ってるものは仕方ない。武器破壊はとてつもなく強力な加護だ。
この加護は大きく分けて2段工程を踏む必要がある。対象を手で指定することと『砕けろ』と発声する事。
だが本当にそうか?
大きな加護持ちは必ず加護の詳細を隠す。把握されれば対策されるからだ。
セルシスだって何か隠しているはずだ。たとえば、不要な工程を足している、とか。
実際には手で対象を指定する必要は無い?あり得る。俺でもそうする。
そもそも対象を指定する必要が無い?いや、対象は指定しなきゃおかしくなる。魔神と戦った時は魔神の剣だけが砕かれて俺の剣もダーナの槍も無事だった。対象は指定する必要がある。言い換えれば、対象を選択して使用できる加護だって事だ。戦場で敵の剣だけ砕いて味方は剣で斬りつける事ができるわけだ。おっかねえ。
「東の帝国で大将軍になれる加護だぜ・・・成り上がる気があればだけどな」
手を使わずに目で見るだけで対象を選ぶことができる?その可能性はある。
だとすればダーナと互角以上の接近戦をしながら相手の武器を壊せるって事だ。なんだそら。
視界を遮られたら加護は使えなくなるだろうか。いや、そこで魔眼だ。
魔眼で見れば選択することができるかもしれない。
考えれば考えるほど名を売らない理由がわからなかった。どの国に住んでも爵位をもらえるくらいの功績が簡単に作れるだろう。戦場の英雄にたやすくなれる。
『砕けろ』と発声する。発声する必要が無い?いや、魔神戦で見た限りじゃ随分な大声で叫んでいた。
声を出すのは絶対条件だろう。喉を潰されたらあの加護は使えなくなるのかもしれない。
砕けろ・・・砕かれた剣。本当に砕くことしかできないのか?たとえば『死ね』と言えば相手を殺せるんじゃないのか?・・・・・・ないな。それなら魔神にも『死ね』と言えば済む。いくらなんでもそこまでデタラメじゃねえはずだ。
砕けろ、砕けろ、砕けろ。砕かれた剣。魔剣も砕く。最後の一回は何を砕いた?魔神の爪か、牙か?いや、見えてる範囲じゃ何も砕かれちゃいない。
魔神は呆けていた。何かを失ったかのように棒立ちで俺の一撃を受けた。
「腕を砕いた?それなら狼狽するか痛みに吠える。何を砕いた?」
何を砕かれたら戦闘中に呆ける?気が抜ける?意識が逸れる?
まるで魂でも砕かれたかのように・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
武器を砕く加護じゃない・・・のか?
心を砕く?魂を砕く?意識を砕く?なんだかわからないが、とにかく心を砕かれたんだとすれば、戦場で斬り合ってる最中に呆けることになるだろう。信じられないが、おそらくこれは正解だ。勘が、加護が、そう言っている。
「だとしたら・・・誰の加護だ?」
武器だけを砕くなら戦の神か鍛冶の神だ。ああ、でもそうだ。セルシスの性格は戦の神が好むものじゃあない。戦の神はセルシスを愛さない。なら誰の加護だ?
武器を砕き、心を砕く加護。どんな神の恩寵があればそんな奇跡を起こすことができる?
「・・・・・・・・・加護じゃねえのか?」
ありえない想像を口にする。
人の身を超えた奇跡を具象化したものが加護だ。
加護ですら成しえないものがあるとするならそれは・・・・・・それは、なんだ。
加護が告げる。これ以上の答えは出ないと。
「ステータス」
フェイは自分の加護を見た。複数かかれた加護から2つ選択し、その最後の一言だけを心に刻む。
いばらの賢神カムナエナの加護★★★
考える事をやめてはならない。
夜と嵐の神サンダラプタの加護★★★★
信じて歩め。
「わあったよ」
それは神の言霊。神が己に望む生き方の啓示だ。
答えは出ないが、セルシスが自分の想像よりも遥かにとんでもない何かだと言うことだけは理解した。
ギルドへの報告書には調査中とだけ書いて詳細は伝えない。
推論だけで暗殺される理由に足りるからだ。
セルシスの正体は考え続ける。だが、それでもセルシスを信じる事にかわりは無い。
オヤジが何を疑おうが、あれはダチ公だ。強い癖にお人好しで、戦うのが心底嫌いなバカだ。
俺にとってかけがえのない、ダーナの命を救ってくれたダチ公だ。
フェイにとってアンリとダーナは他の全てと引き換えにしても惜しくない存在だった。
そのダーナが死にそうな時に助けてくれたのはセルシスだ。
フェイは今日、ここで確かな線を一本引いた。
アンリやダーナと引き換えならセルシスを殺すこともある。
だが、その2人以外の全てを天秤にかけて選べと言うなら、俺はセルシスをとる。
誰にも文句は言わせない。誰にも。
時の螺旋が回る。人間は選択し、時の螺旋を回す。
今日、歯車が噛み合った。
動き出した運命は荒れ狂いながら世界を少しだけ進めていく。
燃料は命。螺旋から振り落とされた無数の人間が消えていく。
それは、
いつもありがとうございます。次の更新は月曜になりますが、来週どれくらい更新できるかまだわかりません(土下座)月曜は間違いなく更新できると思います!・・・・・・よ?(まて)
よろしくお願いいたします。




