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幕間・ダーナという少女

更新再開しました。よろしくお願いいたします。

私はフェイが嫌いだ。


フェイはいつも腰が低くてヘラヘラしてる。

自分で望んで何かをしたりしない。いつだって私やアンリに言われるまま、それに応えるばっかり。

好き勝手言う癖に結局最後は自分が折れてみせる。折れなくても良いのに折れて、相手に合わせてしまう。

昔からそうだった。幼馴染のアンリと私と三人で良く遊んでいたけれど、フェイはいつだって私たちに合わせてくれていた。


大きくなってからもそうだ。

本当はフェイは強いのに、私に合わせてくれている。

私はそんなフェイが嫌いだ。


私の両親は冒険者だった。二人ともA級で、この街ではそれなりに成功した部類に入るだろう。

父さんは物心ついた私に拳の握り方を教えてくれた。

自分より上背のある相手と喧嘩して勝つにはどうしたら良いかを真剣に教えてくれたのは私が4歳の時だ。

5歳で槍の握り方を教えてくれた。戦士だった父さんの武器が槍だったからだ。

酒に酔うと、いつも口癖のように金が無かったから槍を使うしかなかったって話しをしてくれた。

使い続けた結果として身体になじんだだけだと。剣だったらS級までだっていけたかもしれないと。

そんなときは真っ赤な顔の父さんの目がちょっとだけうるんでみえた。


母さんは魔法を教えてくれた。

魔術師ギルド出身で上級魔法まで習得していた母さんと違って私は魔法が苦手で、火属性の魔法くらいしか満足に習得することができなかった。

そんな私を母さんは叱りもせず、いつも褒めてくれた。

幼い私は、母さんみたいな魔法使いになりたい、そう思った。


大きくなったら魔術師ギルドで勉強したい。そう伝えたら二人とも微妙な顔をしていた。

理由は後でわかったのだけれど、魔術師ギルドは凄くお金がかかるらしい。

私はそんな事は知らずに、幼馴染たちと遊んだり、槍を振ったり、火魔法を使ったりして過ごした。

アンリは神殿に使える騎士になりたいと言っていた。

フェイは楽して飯が食えたらなんでも良いと言った。私はフェイを馬鹿にした。


ある日、フェイの父親が死んだ。フェイの父は下級の冒険者で、いつも街中の荷運びや仕入れの手伝いみたいな雑用で日銭を稼いでいたのだけれど、その日は街の外で剥ぎ取りの手伝いをしていたらしい。何があったのか詳しくは知らない。ただ、依頼遂行中に死んで、死体も残らなかったとだけ聞いた。

私は落ち込んでいるフェイに、冒険者なんだから死ぬこともある。自分たちは生きているんだから元気を出さなきゃダメだ、と言った。フェイは困ったように笑いながら、そうだな、と答えた。


その笑顔が、私は嫌いだった。


フェイには母親がいない。葬儀の後でアンリはフェイを神殿に誘ったけれど、以前から手伝いをしていた関係で冒険者ギルドに引き取られていった。

レスターギルド長が養父になり、フェイは正式に冒険者になった。


その半年後、私の父さんと母さんが死んだ。

魔宮の森で発見された魔神を倒そうと、S級冒険者と一緒に討伐隊に参加して死んだ。

フェイは何も言わず、私を抱きしめてくれた。

私は泣いて、叫んで、フェイを叩いた。それでもフェイは離さないで抱きしめてくれていた。

フェイは、私と全然違う。


ほんの少しの間、落ち着くまでの時間を私はアンリの家で過ごした。高位の司祭であるアンリの母に回復魔法を教わったのはこの時だ。すぐに初級の回復魔法を覚えたけれど、私はそこでつらくなって一人暮らしをする事に決めた。

魔法を教えてもらうと、どうしても母と重なって思い出してしまうからだ。


それから私の一人暮らしが始まった。

学費のための両親の貯蓄は当面の生活費になってくれた。

強くなろうと私は決めた。父と母の名に恥じない一流の冒険者になってやろうと決めた。

そして、二人の仇を取ろうと決めた。


冒険者ギルドに登録して必死で槍を振るった。魔法だって努力した。

ひたすら上位の討伐依頼を受け続け、ジャイアントワスプの巣を潰して血塗れで帰ってきた私には【緋蜂】の二つ名がつき、同時にC級に昇格する。


C級は胸を張って冒険者だと言える強さがある。野盗やゴブリンどもに負けない強さでオーガやトロルだって相手にできる。


誰もが自分の強さに自信を持ち、そして多くの冒険者がそこで止まる。

私も、その一人だった。


魔法はずっと研鑽してきた。冒険者ギルドでは初級魔法しか教えていないから、母さんの残した魔法書を読んで私なりに組み上げた。結果、魔術師ギルドで学んだわけでもないのに私は中級の火魔法を扱えるようになった。誰もが天才だと褒めてくれた。

私は意気揚々たる態度でそれに応えたが、しかし、私の魔法はそこから先へ一歩たりとも進まなかった。


魔術師ギルドでも中級から先が一つの壁になっていて、上級を使う事ができずギルドを去る人間が多いらしい。


なんてことはない。天才だと言われた私の魔法は、出発点ではなく到達点だったのだ。

凡人が、才能の無い私が、必死に磨いた到達点。それが中級の火魔法だ。


それがわかった私は必死に槍を振るった。魔法の研鑽に使った時間もすべてつぎ込み、身体強化と槍術の向上につとめた。

神殿騎士になったアンリと戦ってみた事もある。素手なら私が10回に7回は勝つが、武器を揃えたら同じくらい私が負けた。幼い時から神殿騎士になるために励んできたアンリが私より強いのは仕方がないのだろう。

三人でいる時はフェイとも戦った。フェイは私と同じC級になるまで時間がかかっていて、戦えばいつも私が勝っていた。当然だろう。大きな討伐依頼をこなすわけでもなく週に3日はギルドの内勤で稼いでいるフェイに私が負ける理由が無い。


負けても笑っているフェイが、私は嫌いだった。


あるとき、私はハーピィの群れと戦って酷い怪我をして帰ってきたことがある。

魔力が枯渇して自分で回復する事もできず、組んでいた仲間に運ばれてきたような状態だった。ギルドで治癒魔法をかけて貰って完治した私に、フェイはギルドの受付仕事や内勤の手伝いを薦めてきた。それが彼なりの気遣いだとすぐにわかった。

私はフェイに、模擬戦で私が負けたらやってあげる、と言った。


勝てると思っていた。負けるはずがないとも思っていた。

でも、この時、私は初めてフェイに負けた。

魔弾と双剣を使った戦い方に翻弄されて、私は何もできずに完敗した。


フェイは強かった。そして、私には剣の才能すらなかったのだ。

初めて両親を恨んだ。父の剣と母の魔法ではないのだ。私は母の剣と父の魔法を受け継いでしまったのだろう。私は努力しただけの、極めて普通の凡人だったのだ。


フェイに負けた事を言い訳に私は週に1度ギルドの内勤を手伝うことにした。

討伐依頼をこなす数も減り、今では週に2日はギルドの内勤をしている。

依頼を受ける回数は減り、それも、知り合いに誘われたから、くらいの理由になっていった。

仇を取ろうと思う。強くなりたいとも思う。


でも、私にできるだろうか?


依頼を受ければ身体は動く。結果もだせる。でも、何かが足りていないのだ。

≪緋蜂≫のダーナと呼ばれる私に、足りないものがある。

それがなんなのか?私にはわからない。



セルシスと会ったのは偶然だった。

疲れていた私はフェイの安い挑発に乗ってしまい、訓練所で彼と戦う事になる。


落ち着いた印象で綺麗な旅装束に身を包んだ彼からは強そうな気配をまったく感じなかった。腰には少し長い短剣を2本差しているが、どんな戦い方をするのだろう?魔法を主軸にするのならば接近戦は手加減してあげなくてはならない。私は腐ってもC級冒険者なのだから。


彼は私と同じ木剣を取った。

ならば、と遠慮なく踏み込んだ私の初撃をしっかりとかわしてみせる。

短い時間、ほんの少しの攻防で確かな感触があった。気を抜いたら私は顔面を殴打されていただろう。

躊躇なく身体強化の魔法を使う。負けるわけにはいかない。

こんな新人に、こんな誰だか知らない奴に。C級冒険者≪緋蜂≫のダーナは負けられない。


一撃で木剣を切り落とした。すぐに対応したセルシスも身体強化を使ってくる。

私が有利に見えた打ち合いがしだいに変わっていく。セルシスは私の剣をギリギリで、やがて余裕を持って見切り始める。

信じられない、私の剣が通じない。私の、積み上げてきたものが。


「なんで、あたん、ないのよっっ!!!」

「剣の振りが手打ちになってる、蹴る事を意識しすぎて腰が浅い、あと、身体強化が雑」


頭を金槌で殴られたみたいだった。

私はこの新人に指導されているのだ。私が稽古をつけられているのだ。

必死な思いで剣を振る。当たれと念じて剣を振る。

だが当たらない。空を切る私の木剣を置き去りにするようにセルシスの動きが、身体強化が、見た事のない速さで洗練されて研ぎ澄まされていく。


「アンタ正気なの!?ちゃんと剣で受けなさいよ!!」


私は悲鳴を上げた。その身体に当たらなくとも、せめて木剣で受けて欲しい。

セルシスはかわす。かわし続ける。私と変わらない年齢の素人が、私の積み上げた物を壊し続ける。


「こんのおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!!」


血を吐くような思いで繰り出した渾身の一撃を完全に見切られる。

私の積み上げた物が音を立てて崩れ落ちた。

何も考える事ができず呆けた私は、呆けたまま父さんの教えてくれた動作でセルシスの腹に拳を打ち込んでいた。


その後の事はよく覚えていない。

気が付けば帰っていて、起きたら拳を握っていた。

身体強化を使い、セルシスのそれを思い出して愕然とする。

雑だと言われて当たり前だ。彼のそれと比べたら私のそれは児戯にも等しい。


その日から、寝る前に魔力が枯渇するまで身体強化を修正するのが日課になった。


私は負けたのか、勝ったのか。弱いのか、強いのか。よくわからなくなった。

でも、できることは見つかった。



ゴブリン討伐の依頼を持ってきたのはフェイで、私も一緒に仕事をすることになった。

セルシスを誘うのも悪くない。彼は強いし理屈では納得できる。でも、私はセルシスを誘ったフェイが嫌いだ。理由は、よく、わからない。


ゴンベックも加えた四人でゴブリンを退治するのは簡単な仕事だった。

そして、その後の調査で出会った下位魔神との戦闘で私は自分が強くなっている事を知る。

身体強化一つを見直しただけで、私の戦闘力は飛躍的に伸びていたのだ。


魔神、それはマナ溜まりから生み出される滅びの化身。

私から両親を奪った憎むべき敵だ。


トロルの群れを見つけて先制攻撃を加えようとした瞬間、潜んでいた魔神に土の魔弾を撃ち込まれた。

この間までの私には見切れなかっただろう一撃をフェイと二人で紙一重で避ける、ゴンベックはかわせずに吹き飛ばされた。


「こっちは任せろ!!」


フェイがそういいながら魔神を引き受けて、私はトロル4体と向き合った。

一瞬だけ目を向けてゴンベックに息がある事を確認する。ならやる事は一つだ。

とにかくゴンベックから距離を取ろうと私とフェイは協力して戦線を動かしていった。

岩巨人の拳をかいくぐり、槍ではじく。岩石そのもののような拳がかすめ、皮膚ごと私の肉を削いだ。

トロルに負ける気はしなかったけれど数が多くて4対1ではなかなか打ち込む機会が無い。


フェイも闇色の魔弾で牽制しながら魔神を誘導し、かなりの距離を稼ぐことができた。

そのまま戦いを続けるもやはり数の差が響いて私は防戦一方になっていく。

と、そこに矢が飛んできた。魔弾をくらったゴンベックからの援護射撃だ。その矢に気を取られたトロル3体が私から離れる。

これで勝てる。そう思った次の瞬間、フェイが吹き飛ぶ姿が見えた。


「があっ!?」

「フェイ!!!?」


魔神の大剣を受け損ねて弾き飛ばされたフェイの身体が大地を転がる。


「フェイ!?フェイ!!」

「・・・っ、わりぃ、まずった」


仰向けに倒れたフェイは起き上がる事ができないでいる。

回復魔法が使えるのは私だけだ。青銅色の魔神は大剣を肩に担いでゆっくりとフェイに近づいていく。

今のフェイなら首を落とすのは容易い。踏まれただけでも死ぬだろう。

このままじゃ、フェイが死ぬ。


「火界の紅蓮、逆巻き、束ねろ、焔の一矢!!!」


槍の刃先に炎の魔力が凝縮されて深紅に染まる。

大きく振られた拳を潜り抜けてトロルに肉薄した私は、その槍先を右目の中へと突き込んだ。

危険だが、時間をかけていられない。


「爆ぜろ!!」


中級魔術で体内から焼かれたトロルが崩れ落ちる。返す刃で私は魔神に躍り掛かった。無謀ともいえる突撃だが仕方がない。

割り込むように飛びかかった私の身体が大剣の一撃で宙に浮く。これが魔神。

これが、私の、親の仇。

嫌な汗が出た。急速に冷えていく身体の内側に魔力を込めて火を灯す。


身体強化を信じて私は魔神と斬り合う。

かつてない力が漲る。漠然と全身を身体強化せず、拳を、肘を、肩を、その一つずつを身体強化した結果だ。

A級冒険者に並んだような力でフェイの回復まで時間を稼ぐ。

私の槍は魔神に無数の浅い傷をつけ、魔神の大剣はそれよりも深い傷を私につけた。


回復魔法を使えなければ終わっていただろう。

その上どういうわけか、魔神の大剣でつけられた傷は治りにくかった。あの大剣は魔剣というものなのかもしれない。

数えきれないような傷を受け、癒し、打ち返す。もう、私の魔力は枯渇する寸前だ。


鞭のように動いて私を襲う魔神の尾を一歩下がってかわす。

続けて放たれた土の魔弾をかいくぐるように一歩踏み込む。

私の槍と魔神の大剣が交錯し、力負けした私の皮膚に大剣が埋まる。

ほんの少し、ざりっと裂けた皮膚から血が流れた。


ああ、まだ、身体強化が足りていない。

骨も血も肉も皮も、まだ強化できるはずなんだ。


「わりぃ!待たせた!!」


身体強化で闇色の魔力を全身に纏ったフェイが戦線に復帰してきた。

これでまだ戦える。いや、これで・・・・・・・・・!!

激情が私の身体を支配する。

私は、仇を討てる。フェイと2人でこの魔神を倒す。

私の槍で・・・・・・!!


受けをフェイに任せて私は攻撃に集中する。

浅い一撃を入れ、それより深い一撃を入れ、そしてさらに深い一撃を入れる。

もう少し、あと少しで仇が討てる。あと少しで、私の槍が魔神の命に届く。


「連鎖する火種、糊口を満たせ三匹の蛇!!」


麻縄のような3本の炎がうねり魔神の身体を捉えて縛る。


「咎人よ、焼けつき、焦がせ、灼熱の渦。燃えろ!!」


魔神の顔を包み隠すように炎が広がる。私が今使える、一番強い中級魔術だ。

勝機に見えた。私とフェイが飛びかかった一瞬のゆるみ。それが致命的な隙になる。


誘われたフェイが魔神の尾に掴まれて投げ飛ばされた。


「うぉお!?」


続けざまに放たれる電撃の魔術が私の身体を撃ち貫く。痺れて握力を失った手から槍がすり抜けて落ちる。

私は魔神の顔を見た。

歓喜が、愉悦が、弱者が罠にかかったことを喜ぶ醜悪な笑みがそこにある。


これが魔神。これが、私の父さんと母さんの仇。

悔しさと怖さで身体が震えた。

私は死ぬ。何もできずに死ぬ。


やっぱりここまでなんだろう。

才能も何もない私には、妥当な終わり方だ。


フェイは生きて帰れるだろうか。

アンリは私の死を知って泣いてくれるだろうか。

私は父と母の名に恥じない冒険者になれただろうか。

私は・・・・・・・・・・・・。


走馬灯のように人生を思いだすことは無かった。

ただ、昔聞いた英雄譚を思い出す。

父と母が子守唄のように聞かせてくれた英雄譚。お姫様の窮地に駆けつける騎士の、ありふれたお話し。


大剣が落ちてくる。私は目をそらさない。これが最後の光景なのだとしても。

でも、これが最後なら。最後に、アンリと。



「『砕けろ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』」



その声が聞こえた瞬間、振り下ろされた魔神の大剣が爆発した。

いつのまにか感想まで頂いていました!!ひゃっほう!!ありがとうございます。返信は時間のある時に必ずさせて頂きます。


ストックが無いので、まずは今週の更新をなんとかせねば!!

俺がジェバンニなら一晩で全部解決してくれるのに・・・ぐぬう><

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