万能なるかな金銭!!
最初に謝罪しますが一万字書いてしまいました。長いです。原因は舞台の台本を書いてた頃の感覚で台詞が出てきてしまったせいです。すみません。
2つか3つに分けた方が良いとは思うのですが、切り分けて再編集する時間がありませんでしたのでそのまま載せる事にします。
シフト管理とか以前にビッグな問題があった。
あまりにもざっくりした指示書だったのも当然だ。低級冒険者がきちんと警邏するなんて未来は誰も考えちゃいなかったのである。
なんていうのかな?日本人的には与えられた仕事をこなすのは当然も当然の大前提じゃない?指示された事に従う、なんてのも。
どうもグランディスタではその大前提が共有されてなかったと言うか・・・うん。ひでえ。
C級以上の冒険者はある程度経験をつんでいるから秩序の大切さがなんとなく理解できているのに対し、低級冒険者は様々な人間がいて・・・・・・ありていに言って連携の概念すら持ってないような奴がちょいちょいいるから困った集団になっていた。
腕っぷしに自信があるような素ぶりで格下と思った相手にしか偉ぶれないゴロツキくずれとか、近くの農家出身で一獲千金を夢見てきた若者・・・たいていは、これも腕に自信があるようなイキのいいタイプ、とか。そんなんが多い。
気を抜くとヤンキー漫画みたいな顔で「あぁん!?(ビキビキ)」と凄んでくるんだけどもさ。いや、どんだけガンとばしても君は武丸さんより弱いからね?刃物持ってるくらいじゃバス停の標識振り回すあの人に勝てないから・・・いや、俺だって勝てないけども。
とにかく、そういったスレスレの人材が実務能力にかかわらず『いいからこっちに任せとけ!好きにさせろ』『ぐだぐだとうるさい事は言うな』みたいな感じで好き勝手きめていくのを俺がさえぎり、イヤイヤながらルール・・・というか最低限の枠組みみたいなものを作っていく。
俺の発言をさえぎった場合はB級冒険者のフェイ様が目にも止まらぬ一撃で耳たぶを引っ張ったり顎鬚を引っこ抜いたり・・・するとあら不思議、気が付けば全員が黙ってくれたよ。よしよし。なんかバイトでリーダーとかSVしてた頃を思い出すなあ。シフト管理とかマジ面倒だった。クレーム対応はフェイがやってくれてるからバイトの頃よりずっと良いね!!ひゃっほう!!!フェイが戻ってくるのを待ってから説明を始めた俺の知略の勝利である。
そんな感じで巡回の方法や巡回中に注意する事、禁止事項や報告の義務みたいなものを説明し、年齢や性別、ちょっとした頭の回転を加味した上でチームを編成する。
俺とフェイを含めた何人かで最初の巡回を行い、簡単な報告書を作成。報告書と言っても日付と時間、異常の有無がわかれば良いだけなのでコンビニのトイレに置かれてる掃除チェックシートみたいなもんだ。
次の巡回班からは戻ってきた段階で口頭報告してもらい、俺が一行ずつ巡回結果を書いて時刻を刻んでいく。
深夜帯以降は完全に神殿の人間だけで警邏する事になっていたので、最後に自作したこのシートをピサンティエの司祭様に渡して終了。
いやー、やばいわ。なんか今日はすげー働いた気がする。
宿屋の前でフェイと別れたらもう眠気爆発。
全然立っていられなくてフラフラしながらベッドに倒れ込み、充実感を抱きしめながらバタンキューの即寝だったとさ。めでたしめでたしー。
目を開けるとよくわからない場所にいた。おそろしく広い土地にポツンと1人で立っている。
見渡す限りの緑だが、完全に大自然あふれる山の中って感じじゃない。
横になって眠れるくらい短く刈り込まれて整えられた芝生、遠くに見えるのは・・・藤棚?桜の木もあるんじゃないか??なんだろう、適度に人の手が入った公園みたいな・・・新宿御苑にでも来たんだろうか。
柔らかい日差しに押されるようにてくてくと歩いていくと少し上り坂になった小道をみつけた。
誘われるようにその道、生け垣の間に置かれた石畳の小道を進むと今度は大きなトンネル。
それも普通のトンネルじゃなくて、薔薇をアーチ状に整えてあるやつだ。
すごいなー。と口を開けたままアーチ状に整えられた薔薇トンネルの中に入り、きょろきょろしながら歩く。
緩やかに続く上り坂をしばらく・・・10分か、もっとだろうか?
曖昧な時間感覚を気にすることもなく綺麗な自然と澄んだ空気に癒されながら歩き、トンネルの終端に辿り着くと、ぶわっと大きく視界が開けた。
高台の上から眼下に広がる景色、川を挟んで頭を垂れるように連なる満開の桜の花が目にまぶしい。
「こりゃ・・・凄いな」
「だろう?」
返答に左手を振り向くと、丸テーブルと椅子が視界に入った。
テーブルの上にはティーポットとカップが2つ。それに三段重ねのケーキスタンドが置かれている。
「・・・・・・えーっと?」
「はじめまして、稀人君。ここは庭という安全な場所だ。くつろいでくれたまえ」
丸テーブルの近くで椅子に腰かけた人物が片メガネを拭きながら言った。
ヒュー・グラントみたいな紳士だ。椅子に腰掛けて足を組んでるだけでここまでかっこよく見えるのはずるい。
「庭・・・?」
「ん?自動翻訳のせいでわかりにくくなっているかな?神々が集い、くつろぎ、客人を迎える事もある場所の事さ。普段は客人がくると騒々しくなりがちなのだが、今日は私が借り切っているから静かなこと極まりないね」
「えーっと、神様、ですかね?グランディスタの??」
おそらくそうだろうと思いながらも聞いてみる。
「そうだよ。まあ本来なら私がこうして人々と会う事などないのだけれどアンカネブラがどうしてもと頼むので一席設けてみたのさ。紅茶は飲めるかな?私はアッサムに砂糖を3杯入れてミルクを垂らした物がお気に入りなんだが、同じもので良いかい?」
「あ、頂きます」
「結構。ロシアンティーを求められると少し困っていたところだ。お気に入りのジャムをこの間オルトヴァとソンドバルンドルグララオに食べつくされてしまってね、地球から手に入れるのに時間がかかるというのに、あいつらと来たら私の物を自分の物だと混同している節がある。嘆かわしいことだ」
甘党なのかその2人・・・!!
獣神様が甘党とかドミも知らないような事実なんだろうなあ、きっと。
神様が手ずから注ぐと、ぶわっと紅茶の良い香りが広がる。
唐突にお腹が空いてきたのでケーキスタンドをまじまじと見た。サンドイッチ、チーズの盛り合わせと・・・小さいカップに入ったプリン?あと・・・なんだこの白いの?
「お腹が空いたかな?良かったら食べてくれたまえ。私なりに良い物を揃えたつもりさ」
「じゃあ、頂きます」
サンドイッチを掴んでぱくり。おお、うめえ。
ローストビーフに・・・サワークリームかな?よくわからんが美味い。
「これをつけないともったいないぞ稀人君」
ヒューグラント神が俺にすすめてきたのは謎の白いペーストだ。
ほう、この白いのはサンドイッチにつけて食べるんですね。
スプーンですくってぺたぺた・・・お、まてまてこの香りは・・・!!
がぶりと喰らう。
うめえええええええええええええええええ!!!!
なんだっけ、これ、そうそう西洋わさび!!そうだよね、ローストビーフに合わないわけないですよ、カツサンドにカラシと同じだよ、ステーキにわさびと同じだよ!完全無欠のゴールデンコンビじゃないですかああああああ。
「美味しいだろう、こいつはヴェラーラやサンダラプタにも評判が良いのさ」
いやマジ美味い。とてつもなく美味い。アフタヌーンティーで美味いと思ったの初めてかもしれん。しっとりしたパンと分厚いローストビーフ、それにサワークリームに西洋わさび・・・くぁー、誰だイギリス料理がマズイなんて言ってる奴は!!!少なくともこれは美味いぞ!!!!
「スコーンとクロテッドクリームがベーシックな組み合わせなのは否定しないがね、私としてはブルーチーズをオススメしておくよ。ゴルゴンゾーラに限らず濃いチーズとミルクティーの相性は最高だ。カップの中は焼きプディングだがこれも良く合う。騙されたと思って試してみたまえ」
言われるままにチーズの盛り合わせの中からカットされたブルーチーズをがぶり。おほぅ。ミルクティーごっくん。おほほほほほほほほほほほほおほう、こうなりますか、こりゃすごい。
文句なく美味い。ケーキ食べてないのにケーキ食べてる気がするとか、もう意味がわかんないよね!!
小さいカップのプディングは2種類。ヒューグラント神のオススメで先に食べたのは甘くないものだった。おお、これはこれで舌が落ち着く。
続いて2つ目。うめええええええええええええええええええええええええええ。
なにこれ?なにが違うの?1つ目の上にハチミツかけただけに見えるんだけど全然違うよね!?え、なに、なんで!?
「良い表情だね、食べさせた甲斐があったと言うものだ。グランディスタの食文化は多分に地球の影響を受けているが、麺や魚、肉料理と比べるとどうもスイーツは分野として遅れていてね。バニラビーンズのような香料を加えた商品など誰一人想像もしていない。これはまた別の工夫で作られた傑作だが・・・稀人君、私はね、君さえよければこういった物を作って普及してほしいと思っているくらいなんだよ」
少し真剣な顔で言われた。いや、でもねえ。
「そんなことしたら文化がねじくれちゃいますよ?」
飲み干した俺のカップに神様が手ずで2杯目を注ぐ。
今回は砂糖無しの紅茶にミルクのみだ。
「結構な事だ。私が稀人に期待するのは、まさにそこだよ」
「・・・異文化交流があった方が良いと?いや、でもドドラガリが言うにはマナ溜まりをなんとかするのが目的なんじゃ??」
「もちろんそれも結構な目標だ。それをしなければグランディスタが滅ぶのだから。だがね、滅ばなければそれで良いのかと私は問うているのだ。滅びなければ存在しているのだろう。存在しているのなら生きているのだろう・・・・・・だが、それは本当に生きていると言えるのか?なにも成さず、毒にも薬にもならず、ただそこにあるものが生きていると言えるのか?それは路傍の石仏と何が違う?石仏ですら人の救いになり得る。真実生きているだけの人間を人間たらしめているものはなんだ?」
どうもお茶の時間は終わりらしい。
哲学じみてきた話に口をはさまず拝聴する。
「君たちの世界には貨幣がある。お金、金銭と言うものは本来ツールのはずだ。それは目的を叶えるための道具だ、食べ物と引き換える、住処と引き換える、服と、遊びと、欲しいなにかと引き換えるために考え出された価値あるものの具現だ。それ自体にはなんの価値もない。だから紙幣や宝石に限らず、そこに社会的な価値観の共有さえあるならば石ころだって切り落とした爪だって耳垢だって同じものになりえるのだ。製造しやすく偽造しにくく携帯しやすいものであったなら、という前提がつくがね。ところで私は貯蓄否定派さ。刹那主義や快楽主義を標榜するわけではないが、貯蓄には意味を認めない」
そこまで言って一口ミルクティーを飲む。
んー、日本人としては承服致しかねるかな、それは。
「貯蓄そのものを否定するんですか?言いたい事はわかりますけど日本人的には抵抗ありますよ、貯蓄しないと不安なんだから仕方ないじゃないですか」
「そう、それこそ貨幣が万能になりすぎた弊害だ。貨幣があれば衣食住のすべてが賄える。それどころかおよそ大半の夢と希望は金銭で買えるわけだ!万能なるかな金銭!!だがしかし、何かに備えて金銭を貯蓄するという行為は際限がない。大切なものを得る為のツールであったものが、いつのまにかツールそのものが大切になってしまったという事さ。主客転倒にもほどがある。あ、間違えないでくれよ?私は別に地球の経済構造に不満があるわけではない。貨幣経済の先へ時代を進めて欲しいと言っているわけでもない。その先へ至る道を見つけかけているものは少数存在しているがね」
「すみません、そもそもなんの話しなんです?何を俺と話したいんだかわからないんですが」
「わからない?私はこう言っているのだ。稀人が文明を回すのは結構な事だ、とね。君たちの言葉で言うと異世界チートとでも言うのかな?内政チートと呼ぶものか?サブカルは得意ではないので違っていたら申し訳ない。とにかく、結果として文化がねじくれてしまおうが、戦争が陰惨なものになろうが、民主主義が生まれようが銀行券が発行されようが、私は一向に構わないのだ・・・・・・・・・・・・それが、生きた結果であるなら」
ぐいっと、神様が紅茶を飲み干した。
「君は稀人だ。自由に生きて構わない、そこになんの制約も我々は設けない。君を金庫に入れて大切にしまうのは簡単だ、必要な時に必要なだけ取り出して魔王に対する勇者のように使用することも簡単だ。マナ溜まりのためだけに来てもらう?人の一生をドドラガリはなんと安く見積もっているのか!!冗談ではない、君の人生はグランディスタを救うに足る。君に限らず人間一人一人の足跡には大陸以上の価値があるのだ。愚かなものが君を知れば使い方を考えるだろう。宝石のようにみせびらかすもの、武器として戦場に送り出すもの、いずれにしても道具のような生きざまを強要されることになる。だが、私は稀人に、そんな人生を望まない。君は自由であるべきだ。アンカネブラに祝福された君には必ず良い旅、良い出会いが待っているのだからね!!」
指をパチンと鳴らすとテーブルの上に置かれたティーセットとケーキスタンドが消えて、代わりに一枚の地図が現れた。
「さて稀人君、ここからが本題だ」
「・・・なんです、地図??」
「君には選択肢がある。そのうち3つは、明日の朝ダンブランを出る、というものだ」
「なんで!?」
思わず叫んだ俺に対して、神様は指先を左右にぴこぴこ振りながらチッチッチと舌打ちする。なんでこんな仕草がかっこいいんだよ、卑怯な。
「まあ聞きたまえ。アンカネブラが君に望んでいた旅を、私が勧めているだけさ。ツアープランナーは私だがね。まずはこれを見たまえ、この街道をずっと進んで東方に向かう旅。これはオススメだ、大帝国の崩壊に伴う群雄割拠シナリオに関われる。生き残った王族は愚鈍であるからそれを擁立して実権を取ろうとする宰相派に組する帝国再建ルートもよし、周辺貴族から信頼されている若き伯爵に組して新帝国を築くのも良しだ。参謀としてフラグを回収していき、最終決戦の前に自分が頂点に成り上がる選択肢まで用意されている」
「どこの歴史クリエーションゲームだ!?」
「安心したまえ。血なまぐさいが、そのかわりよくある異世界ハーレムルートと言うものになっている。少なくとも10人は嫁が取れるぞ」
「安心できるか!?こんな旅は嫌だ!!!!」
神様相手にしている事も忘れて絶叫する。
「むう、なら北に向かいたまえ。こちらは経営戦略パートのある恋愛アドベンチャーだ。王都には、才能はあるが名の売れていないパティシエや、チャンスに恵まれないスイーツ職人など数多く存在している。君は何も考えずに自由に過ごしたまえ。行く先々でフラグが発生して可愛い女の子たちと出会い、選択肢にかかわらず軽いエロイベントが起きる事になっている。フォローしなくても好感度は勝手に上がって行くから遠慮なく店を譲られたり、雇用してイチャついたりのキャッキャウフフもげろ展開を楽しむと良い」
「勝手に上がるのかよ!?」
「それどころか何をしても下がらん。もちろん爆弾は爆発しない仕様になっているから安心したまえ。ヨシオはいないがね」
「あんた絶対サブカル詳しいよな!?っていうかやってない!?神様ギャルゲーとかエロゲーやっちゃってるよね!?」
「エロの無い泣きゲーなど私は認めない」
「言い切った!!!!!!!!!!!!!???」
「一応12人までは同時攻略可能になっているが、選択肢を極端に間違えると10分くらい泣きながら問い詰められる事になるから注意してくれたまえ」
「そんな再現いらねえし!?次だ次!!」
でも東よりは良いかな・・・・・・これはこれで楽しそうではある。
男ですから仕方ないよね!!
「むう、東も北もオススメなのだがね。では、最後は少し落ちるが西に向かう冒険旅行などいかがかな。これは小さな町をいくつも見ていく事になる。同行者としてドミ嬢を連れて行く事をオススメするよ。最果ての港街ドンヘンまで行けば、そこで彼女は生き別れた両親と出会う事になるからね」
「おお、それはちょっと良い旅になるな」
ドミとの二人旅は結構魅力的だ。それにドミが両親に会えるなら連れて行ってあげたい、とも思う。
「道中で依頼を受けながら冒険者として旅をしていくのも無理をしない範囲でやれば息抜きになるだろう。街ごとに新しい出会いがあり、美しい景色があり、特色豊かな料理を楽しむことができる。ドンヘンは海産物が豊かだから日本人の君には住みやすいかもしれない、腰を落ち着けて仕事をしても良いね。冒険者ではなく宿屋や食事処を経営すれば人並み以上に実りある人生を謳歌できるはずだ。その先を望むならドンヘンから海路を使うと良い。船で各港を回りながら旅を続けるもよし、あるいは交易商人になってみるのも一つの道だろう。北回りでも南回りでも自由にグランディスタを楽しみたまえ・・・・・・個人的には旅の合間にメモを取り、落ち着いたら活版印刷の技術を使って発表してみるのをオススメするね。グランディスタに純文学を根付かせてくれても私は一向に構わない」
それまでの2つに比べたらこれは完全に庶民の幸せルートな気がする。
最初の戦争ルートは断固無しだけど、2つ目と3つ目はどっちもアリなんだよな。悪くない。
ただ、どうも、提示の仕方に作為を感じるのがちょっとな。
「・・・・・・あとは?」
「ダンブランを出るプランは3つだ。そして私はこう考えている。稀人君には、この中から選択する権利がある、と」
「正直に言うと2つ目と3つ目はアリです。ただ、最初にキツイ条件を提示してそこから下げていくっていうのは詐欺師の手法ですよね?それが引っかかってます」
「気になったなら謝罪しよう。悪意はない、君を騙すつもりもないんだ。しかし一定の知恵を持ったものなら誰でもこういった順序で提示するのではないかな?逆の立場なら君でもこの順番で伝えると思うがね」
それを否定しないで俺は曖昧に笑う。先輩声優が別の先輩声優について愚痴ってる時に使う日本人的スルースマイルだ。
「ダンブランを出るプランが3つ。出ないプランもあるんですよね?」
「ある。だがその場合どうなるかを私の口から告げる事はできない。それはフェアではない。君は自由に生きて、君自身の主観で幸せになるべきだと私は考える。稀人君。悪い事は言わないからこの中から選んでおきなさい、どれも君の望みを間違いなく叶えてくれる、神々の保証付きだ」
そういった神は真剣な表情で俺を見た。
うん、本当なんだろう。だとすれば、裏も読みやすい。
「俺の望みを叶えてくれるって言うなら、きっとどれを選んでも俺が剣を使って戦うような未来は無いってことだよな。群雄割拠の戦国時代みたいな土地で戦わずにすむ道があるのかどうか疑問はあるけど、歴史上で知り得る知略や計略を使ってみたり、あるいは兵站や交渉の内務外務で頭角を現す道だってあるんだろう。王佐の才って単語には心惹かれるから軍師か・・・いや、良いとこ尚書令なんかになれるのかな?王の友人的なポジションで。北のハーレムなんて正しく平和的な生活があるんだろうし、西に行くのも旅として考えたら上出来だ」
そこまで言い切ってから、俺は神様の目を見返す。
「で、だ。ダンブランに残った場合はどうなるか。少なくとも俺が剣を使って戦うような未来が訪れる、あるいはその可能性が高いんだよな、だからアンカネブラが、商いと旅人の守護女神である彼女が、俺の為にわかりやすく道を示してくれたんだ。あなたを通して」
ヒューグラント神は答えない。
俺の回答を促すように、手のひらで地図を差した。
「・・・・・・・・・・・・選びたまえ」
「んー、まあ、残るかなー。フェイと組んで街中を冷やかすのも面白いし、討伐クエストも簡単なのならダーナやゴンベックと組んでまたやってみたい。ベイズベリーズの飯だって美味いんだぜ?まだまだダンブランを楽しみたい」
これは正直な気持ちだ。一片も嘘は無い。
「回答は良く考えてからにしたまえ稀人君。情は人の美徳だ。だが溺れる者と共に溺れる事は優しさではない。その人々は君の命に繋がるほど価値があるかい?わかっている危険を選ぶほどの理由になるかね?」
「どの選択肢でも俺はダンブランの全てと別れを告げるようなもんじゃないか。それだけの危険があるんだろ?それこそ、このダンブランが丸ごとなくなってもおかしくないような危険がさ」
自分で行っておきながら寒気がした。そうだ、きっと何かおきる、俺を遠ざけなければならないような何かが。
魔宮の森にはマナ溜まりがあるんだろ?そのマナ溜まりをどうにかするために俺が呼ばれているのに、今はそこから全力で遠ざけようとしているわけだ。
・・・あー、うん、これ完全に死亡フラグあるな。というか、死ぬな。
「・・・・・・ごめん、ちょっとだけ考えさせてくれ。30秒で良い」
「その100倍でも待ってあげよう。冷静に決めたまえ」
指先をぱちんと鳴らすと地図が消えて新しいカップが出てきた。
そこに今度はコーヒーを注ぐ。ブラックのコーヒーに砂糖を入れないまま、神様はミルクだけ足した。ぐるりぐるりとミルクの渦がまわる。
ぐるり、ぐるり。
ぐるり、ぐるりと。
ダンブランに残れば魔神と戦うことだってあるだろう。A級やS級なんて連中が動いているのに俺が逃げなきゃならない?化け物みたいな腕利きを返り討ちにする化け物がいるってことに違いない。なら逃げるべきだろ。死ぬよりずっと良い。
・・・それで、どうする?
魅力的な選択肢はある。きっとそれを選べば俺は幸せになれる。
ぐるり、ぐるり。
ぐるり、ぐるり。
熱々のコーヒーを手に取る。
たっぷり倍の時間を使ってから、俺は口を開いた。
「57秒かい?」
「俺はね、声優になりたかったんですよ」
唐突な言葉に神は小首をかしげた。
「声優になる前はいつ死んでも良いって思ってたんです、生きてればいつか死ぬ、いつか死ぬなら好きなことやって死んだ方が良いって本気で思ってた。声優業を目指すようになってもその方向性がちょっと変わっただけでしたよ。声優になれないなら死ねば良い。簡単でしょ?死ぬまで目指せばいい、ダメなら死ねば良い。単純馬鹿なんですよ、俺は」
俺が勝手に目指して、それでもダメで死ぬんなら、親以外に迷惑かけちゃいないんだからそれで良いだろうと本気で思ってた。
「単純馬鹿でもね、それなりに選ぶ権利は与えられてたわけですよ。同級生は俺と同じ時代を生きてきたはずなのに、研究員、弁護士、医者、ファンドマネージャー、そういうものになりたいと言ってた。取捨選択してるんです、生まれてからずっとね、たぶん、心のどこかで自分が見てきたものの中から無意識で選んでるんだ、価値ある物、自分が大切にしたい物、夢とかそういうものを」
「随分と可愛らしい事を言うものだ。河原で拾った石を宝物のように感じる、と言いたいのかな」
「落ちてる石だって大切な宝物になる得る。そこに価値を感じさえすれば」
「そうだね。そして成長すれば価値観は変わる。子供が選んだ宝物は置いた場所さえわからなくなり、引っ越す時に見つけたらゴミとして片づけられる。大人と子供の違いは・・・」
「その後で後悔するんだ」
俺は神の言葉をさえぎった。
「そうやって捨てたあと、絶対に後悔するんだ。何度も何度も経験してきた。他の奴はどうか知らない、でも俺は、俺が宝物だと思ったら永遠に宝物なんだ。使わなくなっても、見えなくなっても、どこにあったか忘れても、捨てられない。捨てたら後悔する。俺がこのグランディスタにきて、ダンブランで生活して半月もたってない。ほんの半月、でもその半月の中で出会ったものが今の俺の全てだ。この世界の俺の全て。半月だろうが10年だろうが、俺が大事だと思った物は俺が死ぬまで大事な物だ。それだけはかわらない。それを捨てて逃げろ?笑わせるなよ冗談じゃない」
きっとどこに逃げても良いんだろう。しがらみのない人生なんだから、ここで逃げても誰にも怒られる事は無い。
新しい土地で生きれば新しい出会いがあって・・・・・・・・・でも。
「俺はここがいい。ここで出会った連中は最高だ」
「・・・・・・稀人君、君は残酷な現実と向き合うべきではない。私が言える最大限の言葉だ、それでも?」
「俺は俺の物差しに従う。俺が価値あると決めたものを守る。だから、俺はダンブランに残る」
「戦うのは嫌いだろう?そう言いながら、戦いたいとは思っていないはずだ」
ああそうだね。戦いたくない。なるべくなら戦いたくない。でも。
コーヒーを見る。ぐるり、ぐるり。
少し冷めたそれを俺は一気に飲み干した。
「戦わなきゃ守れないなら仕方ない。それくらいには、俺はこの街も、フェイもドミもダーナもアンリもゴンベックも・・・出会ったみんなが好きなんだ」
神様は両手を上げて肩をすくめる。
「ご心配ありがとう。アンカネブラにも伝えてくれる?まあ、なんとかするって」
「稀人君、きみは・・・」
「セルシスだ。稀人君は数多くいたんだろうけどね、俺はセルシス。名前で呼んだら死ぬ病とかじゃないなら、セルシスって呼んでくれ」
「・・・・・・」
「戦うのは嫌だけど、でも、グランディスタで生きるって決めたからな。やれるだけの事はしてみるよ。明日笑うには今日笑ってなきゃダメだろ?しっかり生きて、しっかり死ぬさ」
神様は一度だけ大きく笑うと、立ち上がって神妙に頭を下げた。
「神に抗うのは愚か者だ。だが自分の足で歩くこともできぬ人形は愚か者に劣る。私は君の勇気ある選択を尊重しよう。我が名は螺旋なす時の神レプロン。セルシス、貴殿の歩みに一握の加護を」
見なくなったからと言って消したAVを、後になってから「なんで俺は消しちまったんだ!?!?」と転げまわって後悔する事、大人ならありますよね?(台無し)




