ずるいな、そんな顔で言われたら
文字数が少し増えてきています。書きたい事が頭の中にあってもなかなか出力しきれません><
「なるほど・・・確かに不意打ちされるのが前提なら厳しいな。斥候系の魔神?・・・隠密能力が高い単独行動型・・・いや、トロルを引き連れた指揮官型かな?隠密能力がある指揮官型なんて聞いた事がないが・・・」
「俺も聞いたことねえ。俺たちはトロルの群れには気づけたんだが、こっちが仕掛ける直前で横合いに隠れてた魔神から不意を打たれる形になった。確実に先手を取るつもりなら魔法か加護で注意深く索敵して無理やり見つける必要があると思うぜ。遭遇戦で五分に対応するつもりなら攻撃役のB級冒険者3人に回復役の神官戦士と補助魔法が使える魔法使いを足した5人パーティが最低条件だ。それでも、回復役を初手で殺されないように注意しなきゃならねえ」
「・・・・・・なるほどね、そのための要請か。レスターギルド長の考えは理解できた」
アンリがほうっと息を吐いた。
「魔神の戦闘力は?」
「2メートル強で魔剣所持、剣術はB級冒険者と同格で知能が高い、鉤爪と尻尾も使う。皮膚が固くて無防備な所に俺の剣で一撃入れても首が落ちなかった。魔術への耐性もおそらく高い。使ってきた魔法は土の魔弾と火球、雷撃、全部無詠唱だ」
呆けた顔でアンリが言う。
「・・・・・・・・・よく生き延びたな」
「魔神が1体だけだったからな。複数の魔神を同時に相手にするのはA級冒険者以上じゃなきゃ無理だと思うぜ」
「それでもな。よく、生きて帰ってきた」
「全員で帰れたのはセルシスのおかげさ」
アンリが俺に向き直り、丁寧に一礼する。
「我が友フェイとダーナの命を救ってくれたセルシスに心からの感謝を捧げる。ダンブランに良き風をありがとう」
「あ、うん。まあ、できる限りの事をしただけだからね、うん」
あまりに真剣な物言いに恥ずかしくなって頬をポリポリを掻く。
「セルシスはF級だから魔宮の森で行動することは無いだろうが、魔宮そのものが活性化しているのだとすればダンブランの総力で魔神と向き合う事態になってもおかしくない。もし魔宮に向かう事があったらその時は是非一緒に行動させてくれ」
そうならないようにピサンティエに祈ってくれた方が嬉しいんだけどもね。俺としては!!
「オマエ、すっげえ行きたくないって顔してんぞ」
「え?顔に出てた??」
「いやそこは否定しろよ」
「嫌だよ、魔宮とか魔神退治とかもっと腕っぷしの立つA級とかS級冒険者の出番だろ!俺はF級だから素直に街の治安を守って過ごすんだよ!」
神殿から来た警邏隊とか公務員感ありまくりじゃないですか。安定した仕事っぽくて素敵ですよね!
日本で安定からほど遠い仕事をしていた俺が言っても説得力ないけど!!
「覇気がねえなあ、オマエならA級だってS級だって夢じゃねえだろ?」
「そういう奴とは目線が違うんだってば。ほら、なんていうのかな、俺としては目に見える範囲の日常だけ守れたらそれで良いんですーみたいな。警邏仕事も裏方の事務系やりたいくらいよ?その方が危険が無いっしょ」
「戦える奴がなにいってやがんだか。んな事いってると冒険者ギルドの書類仕事全部引き受けてオマエに指名依頼かけちまうぞ!!」
なにそれご褒美か。
「やるやるー。今晩からでも構わないぜ!!」
フェイがあちゃーって感じで右手で自分の顔を覆った。
アンリはニコニコと俺たちを見ている。
「随分と仲が良いんだね」
「まあね!」
「うっせーバカ!」
「バカとはなんだバカ!」
「バカとはなんだとはなんだバカ!」
「バカとはなんだとはなんだとはなんだバカ!」
「バカとはなんだとはなんだとはなんだとは・・・」
「はいはい、そこまで、そこまでー」
パンパンと手を叩いてアンリが割って入る。
「とりあえず魔神については容易ならざる相手だと言うのが確認できたよ。ありがとう」
有無を言わさず進めるところはさすが神殿騎士と言ったところか。
人の上に立って支持する事になれている口調だ。
「セルシスは書類仕事が得意なのかい?」
「んー、まあ人並みにはできるんじゃないかなぁ」
純粋な事務処理って事なら書式だけわかればなんとでもなると思うんだ。読み書きは神様パワーで完璧にしてもらってるから。
経理とかだとどうだろう・・・一応個人事業主で確定申告してたのでまったく知らないわけじゃない、わけじゃないが、さすがに複式簿記で賃借対照表見ながらどうのとかは異世界でやりたくないなあ。
でもまあ、仕事だし、なんでもやりますよん!
「なにかある?あるならなんでもやりますよん!」
「なら警邏の組み合わせなんかを考えて貰っても良いかな?編成と交代の回数なんかを決めて冒険者たちに周知して貰えると助かる」
おお、ちょっと事務作業っぽい。シフト管理っすな。
「よし、やろう!」
「なら他の冒険者連中の方を見てきて良いぜ。俺はもうちょっとだけアンリと話してるからよ」
俺はとさか先輩ばりに「まーかせて!」と言いながら部屋をでた。
残された2人の間にわずかな沈黙。
「・・・・・・この後は、すぐ行くのか?」
「ああ。今から向かえば夜までに中継拠点まで行けるだろう・・・魔神に襲われなければね・・・・・・・・・フェイ、一応確認なんだがレスターギルド長は動くのか?S級冒険者の中で今回の討伐戦に間違いなく参加するのは≪龍剥ぎ≫オイゲンソープと≪冒涜者≫リオの2名だと聞いているが」
「オヤジは動かねえってさ。理由は聞くなよ?俺だってよく知らねえんだから。2名って言うなら2名なんだろ?≪死神≫も≪居合拳≫も留守番だよ、留守番」
「・・・それは残念だ。神殿に使える者として、ともに背を任せるなら≪冒涜者≫リオよりも≪居合拳≫ハーヴィーの方が遥かに信頼できるからね」
「そういう言葉は≪居合拳≫の背中を守る実力を身につけてから言えよな」
「違いない」
クスクスと2人が笑う。
「浮気してねえで、オマエはダーナと背中合わせで戦ってりゃ良いんだよ」
「目を離したら一人で突っ込んで行きそうだから背中合わせは難しいかな、いつも通り後ろから見てるよ、きっと」
「後ろから見てるだけで満足なのか?そんなんだからオマエらいつまで立っても進展しねーんだよ」
「危なっかしくて目を離せないって言う意味だよ!」
アンリの顔が一瞬で赤くなる。
「好きな女が心配で目が離せないの間違いだろ?」
「・・・・・・・・・そうだよ。悪いか」
「んにゃ、悪かねえ。オマエらとっとと素直になってくっつきゃ良いのにとは思うけどよ」
「そう簡単に行かないよ。ダーナは・・・ほら、ああいう性格だし」
「戦場でも一番槍で突っ込んで行きそうだよな」
「さすがにそれは・・・・・・いや、あり得るか」
赤い髪の彼女はいつだって全力で生きているから。
「万が一ダーナが突っ込みそうになったら後ろから抱きついてでも止めろよ?」
「抱きついたくらいで止まらないの知ってるだろ?飢えた熊みたいな勢いで突っ込んで行くに決まってるんだから、両手でしがみついても引きずられるだけさ」
「なら胸でも揉め、絶対止まるから」
「揉むほど胸は無いよ」
「それ本人に行ったら拳骨が飛んでくるぞオイ」
「いや、槍の穂先が飛んでくる方に金貨3枚賭けても良い」
ニコニコ笑うアンリに、フェイが言った。
「・・・冗談じゃあなく、な。あいつが先走るようなら足を折ってでも止めろ」
「・・・・・・フェイ?」
「回復魔法まで使いやがるから殺さないで無力化するのが困難なのは承知だが、必要なら四肢をちぎってでも止めろって話しさ」
「そんな事できるわけないだろ」
「死ぬより良い」
言われたアンリが一瞬だけ目をつぶる。
「・・・・・・五年前、か」
「親の仇が近くにいるのに黙って見ていられるような、なまっちろい女じゃねえさ。あいつの気性は知ってんだろ?E級なりたての頃から討伐依頼を受け続けて≪緋蜂≫なんて呼ばれるようになったバカだ。昔は口癖みたいに両親の仇を取るんだって言ってたじゃねえか」
「言いたい事はわかるよフェイ、でも僕はピサンティエの神官戦士として冒険者ギルドに協力する立場にある。まして今回の編成は冒険者ギルドが決めると公言している以上、僕にはなんの決定権もないんだ」
そう言って苦しそうに眉を寄せるアンリ。
「俺がオマエとダーナを組ませる。誰にも文句は言わせねえ、オヤジにも、誰にもだ」
その言葉は静かな声で、だが、大きく響く。
お前がダーナについていけば良いじゃないか。そう言いかけたアンリがフェイの顔をみて口をつぐんだ。
「俺がついていくのが一番簡単なんだけどな。事情があって俺はセルシスについてなきゃいけねえんだ・・・・・・・・・頼むよ、ダチ公」
「・・・・・・ずるいな、そんな顔で言われたら。断れないじゃないか」
アンリの手が腰の剣に伸びる。
ピサンティエの神官戦士として正しい礼をした後、抜いた剣を胸の前で水平に構えた。
「大いなる月の女神に誓う」
魔力が収束する。それは神に誓約する魔法。誓いを果たすべく刻む契約の言葉。
「我が剣は我が友フェイの望むために。我が鎧は我が友ダーナを守るために。我が身、我が心は愛する者達のためにある事を誓う。我が誓いを成すために月光の守りあらんことを」
剣と鎧に刻まれたピサンティエを象徴する印が淡く光り、神が誓いを聞き届けた事を告げた。
「月が満ちるように願いを叶えたまえ。月が欠けるように万難を排したまえ。月が変わらずそこにあるように、己が誓いを遂げた未来を我に与えたまえ」
虚空を斬るように2度剣を振るう。
それは一切の迷いを切り裂く剣撃。
アンリの剣を見て、フェイの胸がわずかにだが、ちくりと痛んだ。
いつもありがとうございます。明日も宜しくお願いします。




