月の女神が微笑みますように
おまたせしました。更新再開です。
予感がしたからと言って当たるわけでもない。でもジリジリするから困ったもんだ。
でも、俺は市内で向こうは市外。場所的に離れすぎてるから無事を祈ることくらいしかできることはない。
略式だった指輪の件を依頼として処理したあと、俺とフェイはギルドからの依頼を新しく受注して月の女神ピサンティエの詰所に向かった。
「よぉ、アンリー」
「フェイ!・・・それにセルシス君もきてくれたのか。ありがとう」
礼儀正しく頭を下げるアンリ。
くすんだ短めの金髪が揺れる。なんというか、王子様なんじゃねーかなあと思う容姿だ。
俺より背も高いし・・・いや、くやしくなんてないですよ?
「君たちに、月の女神が微笑みますように」
顔を上げ、自分の胸元に拳を置く。あきらかに宗教儀礼みたいなポーズでこの言葉である。
なんだよイケメンめ。イケメンめー。
「王子顔で穏やかな性格で金髪碧眼とかアンソニーかっつーの」
「え?アンソニー?誰??」
「しかも神官騎士とか完全に白騎士ポジションじゃねえか、白白ですか?先制攻撃でプロテクション黒ですかコノヤロー?」
「セルシス、なんだかわかんねえけど言葉にでてんぞ」
やべ。これが完璧超人的なイケメンの魔力か・・・!!
俺の心の中に眠る邪悪が思わず漏れちまった。気を付けよう。
「・・・えーっと?」
「あ、いや、忘れてアンリ、心の中でちょっとした手違いがあっただけだから。警邏の手伝いでしょ?なんでもやるから安心して」
魔神討伐には回復魔法の使い手が不可欠というギルド長レスターの判断で冒険者ギルドは各神殿に神官騎士の派遣を要請した。集まった回復魔法の使い手を冒険者ギルド側で選定しながらパーティに組み込み、魔神や追従する魔物たちとの戦闘において生存能力、継戦能力を上げようという試みだ。
その要請に対して各神殿の反応は様々だった。ピサンティエ神殿は承諾し、警邏シフトを変更して腕の立つ神官騎士を送ると返答したらしい。かわりに警邏業務を請け負う冒険者を派遣してくれとのこと。
そういうわけで、警邏を取りまとめるアンリやその仲間たちと入れ替えに、俺やフェイ、あと何十人かの冒険者が特別警邏隊として治安維持活動にあたる事になった。
低級冒険者の手が余ってる現状としては結構アリな人の使い方なんじゃなかろうか。
もちろん毎日の警邏を決まったメンバーでってわけにはいかないから、これからは朝一番にギルドで希望者に割り振るらしい。おそらくだが、数日で7大神殿すべての警邏に冒険者が組み込まれることになるだろう。
また、ダンブランを治める領主も配下の騎士たちに戦支度をさせているとのことだった。
こっちは対魔神戦というよりも、まさかの襲撃にそなえて城壁での守備を本格化させるといったところか。
ビルブラッド傭兵団がいれば戦力として心強かったのだけれど、彼らは俺たちが魔神と戦った日の朝には出兵式をして南の戦地に戻ってしまったらしい。個人的な揉め事の種が無くなって喜んでいいのか、戦力が減ったことを悲しんでいいのか微妙な問題だ。
挨拶もそこそこにして別室で打ち合わせに入る。
準備を終えていたアンリは俺たちと話をしたらすぐにでも魔宮の森へ向かうつもりらしい。森の中ほどに先遣隊が中継拠点を築いたそうだから、ひとまずそこを橋頭堡にして魔神討伐に臨むとのこと。
さっきギルドで俺たちが受注した依頼は元々フェイへの指名依頼で、市内に残っているならピサンティエの警邏をうまくとりまとめて欲しい、というものだったそうな。
「あれ?俺いらなくない??」
「そんなことねえよ!!手伝いは多い方が良い!」
「こちらとしては歓迎するよ?」
むう、歓迎されたら帰るのも悪い気がする。じゃあちゃんと仕事をしましょうかね!
アンリが俺とフェイに地図を手渡し、警邏ルートの指示書を見せたのだけれど・・・・・・いや、個人的には超びっくり。
もうね、超テキトーなの。簡単に言うとダンブランを8つのブロックに区切った上で、7か所を各神殿が見回る、としか書いてない感じ。不審者を見つけた時の対応についてとか、なるべく繁華街を、裏道も気をつけてみるように、なんて事すら書かれていない・・・なんというか現代日本の警官がパトロールする感覚で考えてたから違いすぎて声もでなかった。
これはもうあれだ、江戸時代で言う、ご町内の皆さんが火の用心で夜回りする感覚と言って間違いなさそう。
ようし、内政チート的なアレでもって効率の良い巡回ルートを作り上げて有名人になって領主や神殿の御嬢さんたちとラブでトラブルな関係に・・・とかしませんよ!!そんな才覚無いので!!!!
もちろん銃や石鹸の作り方も知りませんしねー。
舞台人としてサブロクをツカミで止めたり箱馬かませたりならできるし、照明吊ったり音響オペとかならできますよ?蹴込み取るのとか超上手いよ??
声優として2番マイクの意味とか、ダメ一番の意味とか、フレーム単位でパク合わせたりとか、収録で言うクレジット、パンチで入るみたいな用語でしたらわかりますけど何か使い道ありますかね!?(ありません)
「以上だ。何か質問はあるかい?」
「んにゃ、特にはねーかな。警邏中は臨機応変にって事でいいんだろ?」
実に身も蓋もない言い方だ。でも実際そうしないと無理だよなー。
アンリが苦笑しながら頷いた。ほんの少しだけ空気がぴりっとする。
「さて、ではこちらから質問だ。魔神についてわかっている事を教えてくれ」
「冒険者ギルドから報告は届いてるはずだぜ?」
「僕は実際に戦闘した人間の意見を聞きたいんだ。フェイと、セルシスの、ね」
「・・・・・・俺からも?」
経験豊富なフェイからの話しならともかく、ド新人極まりない俺の話しなんて役に立つか疑問なんだけれども。
「貴重な情報さ。今回はかなり危険な魔神みたいだし、ね」
「・・・誰に聞いた?」
「月の女神から姿を隠すことはできない。ピサンティエ様はすべてを見ておられる」
そう言うとアンリがニコニコと笑い、フェイは苦笑した。
確かに看破の魔眼を上手く使えばたいていの事はわかりそうなもんだ。ピサンティエの神殿内に加護持ちがいないわけないしな。
「俺たちが遭遇した奴に関してなら・・・そうだな、セルシスはどう思う?」
そこでなぜ俺に振る!?
「あー、そうだなぁ・・・強かったんじゃないか?でも比較するほど魔物を知らないからなぁ。それに俺が剣を合わせたわけじゃないし」
「見た印象で良いぜ」
「印象、印象か・・・・・・正直なところフェイとダーナは互角以上に戦えてたんじゃないかな。ゴンベックがトロル相手にしてたから難しい仮定だけど、ゴンベックも含めた3人で戦えてたならそのまま勝ってた気がする」
「トロル相手にしてたってんならダーナだって相手にしてたろ?」
「でも簡単に倒してたよ?炎の槍で目を突いてさ」
「簡単にでもねえけど・・・まあ『緋蜂』だからそれくらいできねえとな。直接的な戦闘能力ならB級位の力はあるしよ」
「そういえばゴンベックもB級に上がったんだよね??俺はよくわかってないんだけど戦闘能力的には大丈夫なの?」
「ゴンベックは距離を取って戦うからダーナと同じようにとはいかねえだろ。それでも索敵や隠密行動についちゃ文句なくA級クラスの腕があるし、足を折られた状態でトロル相手に時間稼ぎできたんだぜ?B級になる資格は十分にある。たいしたもんさ」
「C級三人・・・いや、実力的には三人ともB級と遜色ない。だとすれば、B級冒険者3人で相手にすれば倒せる相手だと考えて良いのか?フェイ」
「無理だね」
うん、3対1なら倒せるんじゃないかなー。
そう考える俺とは逆の事を、にべもなくフェイが言う。
「こっちがパーティを組んでるのと同様に魔神だってパーティを組んでた。今回はトロルの群れだ」
「しかしトロルだろう?知恵も低いし分断する事はたやすい、先手を取れば・・・」
「先手は取れない」
断言するフェイ。アンリがぎょっとした顔でまばたきする。
「ゴンベックが気配を感じ取れずに俺たちは奇襲を喰らった。魔弾を回避しきれなかったゴンベックは足を折られた。俺とダーナはなんとかかわしたが、普通のB級冒険者3人だったら不意打ちくらってたやすく全滅してたはずだ」
今週は月曜から金曜まで更新できそうです。よろしくお願い致します。




