冗談にしても笑えねえ
2人の姿が消えてからたっぷり10秒ほど待ってフェイが椅子に座りなおす。
痛みはない。いつも通り、気づかれないようにわざとくらった一撃だからだ。
「で、どうなんだ、実際」
レスターが手元の書類にサインをしながら問う。
「C級以下は無駄死にするぜ。少なくともB級下位程度の実力がなきゃ戦闘にもならねえ」
「そこは数で補うしかないだろう。魔宮までの露払いをしてもらわねば困る」
「数に頼ったらどれだけ犠牲になるかわかんねえって言ってんだよ。俺とオヤジで行けば済む話だ」
ペンを持つ手が止まる。
レスターが息を吐いて首を振った。
「俺は行かない。お前も行かない。心配しなくてもA級以上の冒険者なら半数は生きて帰ってくるはずだ、そこまで分の悪い賭けではあるまいよ」
「問題をすり替えるなオヤジ」
「すり替えているのはお前だ。ダーナと二人がかりで斥候の魔神一匹すら倒せず負けて戻った奴が俺と魔宮に行くだと?足手まといになるのがオチだ」
「本気なら勝てた」
「そうだな、俺がそう仕込んだ。だが使う事は許さん」
どん、とフェイが拳で机を叩く。
「ダーナの親は魔宮で死んだ。忘れたとは言わせねえぞ」
「忘れるものか、二人とも良い冒険者だった。良い腕だった。身の丈にあった依頼を受けていれば死なずに済んだのに残念に思うよ」
「・・・・・・ダーナが、かたき討ちに挑んだらどうするつもりだ」
「死なせたくないなら足を折れ。昏倒させてから両手を拘束して軟禁しろ・・・早ければ七日程度で片付く」
「そんな事できるわけねえだろうが」
「ならお前はダーナのかたきを討つ準備でもしておくんだな」
「笑えねえぞオヤジ。冗談にしても笑えねえ」
「お前こそ笑えないな、お前はダーナの保護者にでもなったか?あまり冒険者を舐めるなよフェイ。あいつの人生はあいつが決める、冒険者を選んだのがダーナ自身である以上、生きざまも死にざまもダーナ自身の物だ。邪魔したいなら殺す気か、嫁にする気でやれ」
椅子を蹴るように立ち上がったフェイが拳を握りしめて部屋を出ようとする。
「まだ話は終わっていないぞ」
「話すことなんざないね」
「セルシスの件がまだだ・・・・・・座れ」
舌打ちをしたフェイが壊すような勢いで椅子にまたがる。
「加護は最低でも2つ。1つは武器破壊、これはほぼ確定の加護だ。本人も加護だと言ってたしな。対象を手で指定して『砕けろ』と発声する事で効果を発揮する。視認したのは3例、前に報告したビルブラッド傭兵団と1度、魔神戦でも2度使用してる。使用速度と効果は極めて高く魔神の大剣を一声で破壊しやがった・・・・・・それもおそらく、魔剣を一声で、だ」
「魔剣を苦も無く破壊する力か、とてつもない加護だな。射程距離は?」
「かなり長い。声が届けばいいって条件なら弓矢より遠くまで届いちまう・・・さすがにそこまでデタラメじゃねえだろうけどさ」
「複数を同時対象にとれるようなら戦場を支配できるな。鍛冶の神か戦の神の加護で星4つ以上・・・いや、星5つの神話級と考えて間違いなさそうだ。魔神戦で2度使ったと言ったな、もう一つは何を砕いた?」
「それがわかんねえ。大剣を砕いたあとに、もう一回『砕けろ』と言って加護を使ったのは間違いないんだけどな。何を砕いたのか見えなかった」
「能力を隠すための嘘という可能性もあるだろう」
「何に使ったのかわからなかったが、何か『砕いた』のは間違いねえんだよ、それに魔神が反応しやがったんだ。俺と斬り合ってるのに一瞬呆けたように気が抜けやがって、当たらないはずの一撃が当たっちまった」
「・・・・・・・・・なるほどな。武器として認識したものを破壊できるというなら牙か腕の骨でも砕いたのかもしれん。だとすれば人体も砕ける可能性があるわけだ・・・もう一つの加護は?」
「はっきりしないが、気配察知か魔力感知、あるいは伝説にある魔眼みたいなやつのどれかだ」
「森の中でゴブリンに気づいたというアレか」
「それだけじゃない、アイツは俺たちが窮地に陥っているのを理解した上で助けに来てた。なんらかの手段で俺たちの状況を判断できるだけの情報を得たはずだ。そして、その場所まで迷いなく走ってきた」
「なるほどな、確かに加護でもなければ納得できん。ダーナとの模擬戦で見た限りでは魔力の扱いが上手かったようだが・・・強力な魔力感知か魔力操作の加護持ちの可能性はあり得る。魔力操作なら習熟することで武器破壊も可能か・・・いや、さすがに魔剣を砕くのは難しいな」
「この2つの加護以外にも、まだ1つか2つは持ってる気がするぜ」
「根拠は?」
「あいつの戦闘能力。ダーナと戦った時はそこまでの腕じゃなかったはずだ。ゴンベックの奴は詳細を隠してたが、話し通りならトロル3体をあいつが倒したことになる、そこがちょっとひっかかる」
「セルシスはお前と同じ双剣使いだったな。腰に下げてる物は少し長いようだが・・・業前は見たのか?」
「いや、見てない。ゴブリン討伐も初級魔法で援護に徹してたからな」
「どちらかと言えば魔力過剰なタイプに見えるがな、おそらく身体能力を底上げして能力値以上の実力を叩きだしているんだろう。あると仮定するなら、いばらの賢神の加護、これは★3以下だ」
木製のカップにレスターが口をつけ、中の液体を一口啜った。
「セルシス、神代の古語で新しき風、芽吹く命を差す言葉だ。皇国の聖典でも読めば何度も見かけるだろうが一般の人間につける名前にしては大仰にすぎる。持っている加護も、少々強すぎるな」
「でも役には立つぜ。数が必要ならあいつのランクを上げてくれ。露払いが必要なら俺たち4人でやってみせる」
「ランクは上げない。フェイ、お前はセルシスと組んで市内の依頼をこなせ」
パン、っとレスターの持つカップがはじけ、中身をぶちまけた。無詠唱で放たれた闇色の光弾がすぐそばに浮いている。
怒りに燃えた眼でレスターを睨みつけるフェイ。
「shnnnnnsht,htksrtkmntk,nnryndnsskntkd」
「・・・・・・そりゃ何語だ、オヤジ」
「まだ聞こえないか。なら、やはり変更は無い。お前はセルシスと組んで観察に徹しろ。怪しい点があれば報告し、敵とわかればその場で躊躇なく殺せ。必要なら本気で戦う事を許可する」
「・・・・・・くそオヤジが」
「余裕があるうちに好きなだけ俺を罵倒しておけ。世界が数字に見えないうちに、帳尻をあわせる事がお前のすべてになる前にな。だがまず、さっき自分のしたことに対する帳尻だけは今あわせてもらう」
そういうとレスターは笑いながら、指先にひっかかっていたコップのとってをフェイに投げた。
「代わりのコップと飲み物はお前がもってくるんだ。わかったな?」




