冒険者の流儀でな
「というわけで俺は何もしてないからね!」
子供でも騙せないような言い訳を残して冒険者ギルドを去ったセルシスを生暖かく見守った4人のうち、最初に口を開いたのはギルド長のレスターだった。
「とにかく、だ。お前たちの報告が確かならば状況は悪い方向で確定しつつある」
「なんだよオヤジ、まさか俺たちの報告を疑ってるわけじゃないだろうな」
「もともとゴブリンが森の入り口あたりまで出てきていた事が異常だったんだ。原因としては理解できる。マナ溜まりのせいで魔物が活性化しているんだろうし、魔神がいるのも頷ける話だ。ただ、その強さがな」
「報告はすべて事実ですよレスターギルド長、冒険者ランクに誓っても良い」
ゴンベックが言った。冒険者ランクに誓うというのはギルド証を賭けても良いという意味であり、違えた際はそのギルド証とランクをはく奪されても文句は言わない、という意思表示だ。
「フェイとダーナの二人がかりで互角・・・か」
「普通の魔物より頭が良いことは間違いないな。最後はあの野郎に誘い込まれた形になった」
「そうね、勝てる勝負を持って行かれた。強かった」
「・・・わかった。明日から対魔神を想定してギルドは動く。お前たちは受付で報酬を貰ってゆっくり休め」
「ギルド長、具体的な方針を聞いても良い?」
「F級、E級の冒険者は門外での依頼遂行を認めない。しばらくは市内での活動のみに専念してもらう。D級も同様だがC級以上の冒険者とパーティを組んだ場合のみ外での依頼遂行を認める。C級は同ランク以上の冒険者と必ずパーティを組む事、これは索敵も兼任する。戦闘行為は魔神以外に限定。魔神を発見した場合は遂行中の全ての依頼を放棄してでも発見報告を優先する事。この場合に限り遂行中の依頼を放棄しても罰則は与えず、報告された魔神が確認された場合は報酬を支払うと約束する。B級は索敵だけではなく魔神との遭遇戦を想定したパーティを組む事。A級以上も同様だが数が少ない。こちらはおそらく魔神を確認してから投入する討伐部隊になるだろう、当然だが、魔神の首には報奨金をかけることになる」
「なら、私たちは引き続き森でこなせる依頼を受けながら魔神探しに専念するわ。魔神と戦えないのは悔しいけど、ね」
「まったくだ。脚を折られた礼をしてやりたいのにな」
「ならば、暫定処置としてお前たち三人のランクをB級に昇格させよう」
「いぃ!?」
「どうしたフェイ、不満か?」
釘でも飲んだような顔をするフェイにレスターは笑顔で聞き返す。
「いや不満じゃねえよ?ねえけどさ」
「良いの!?ギルド長!!?」
「本当ならありがたいが・・・構わないのか?」
「お前たちは依頼の遂行率も高く、信用できる。まして今回魔神と戦って生き残ったのだから、自分に何ができて何ができないのかは把握しているはずだ。無駄死にしないように、やられた分はやり返せ。冒険者の流儀でな」
そういうとレスターは一人ずつギルド証を取り、B級へと仮昇格させていく。
「オヤジ、生き残ったって言っても、ありゃセルシスがいたからだぜ?」
「・・・かわせたわ」
「痺れてて動けなかったじゃねえか」
「かわせたわよ!」
「ダーナ、それでもあいつの加勢があって魔神が逃げたのは事実だ。俺はあいつが来てくれなかったらトロル3体に食われていた。命の恩人だ。恩人の事は悪く言わないで欲しい」
強気にいうダーナをゴンベックがたしなめる。
「そりゃ・・・確かに剣を砕いてもらえたのは助かったけど・・・あー、もう、わかったわよ!助けられたわよ!!」
「なにに怒ってんだよオマエ」
「うるさいっ!!」
「レスターギルド長、セルシスは強い。F級のままなのか?」
ダブルスターは称号のようなものであり、そのおかげでF級のセルシスはC級の依頼まで受けられる事になっている。だがこれはあくまで依頼を受けられるだけでありランクそのものが上がったわけではない。
そのため、先ほどのレスターの指示に従うとセルシスは明日以降F級冒険者として門外での活動を認められなくなってしまう。
「戦闘力はある。おそらく加護もある。だが経験値が足りないだろう。森の中では経験者の足を引っ張りかねないんじゃないか?」
「そんなことはない。ゴブリン討伐での足運びは見事だった」
「あー、確かにな、最初は素人同然だったくせに、慣れたら簡単にゴンベックみたいな足運びになりやがった」
「それだけじゃない。おそらくだが、セルシスは俺より先にゴブリンの群れに気づいていた」
「うそ!?」
ダーナが驚き、レスターが思案顔になる。
「それは事実か?」
「ゴブリンの群れという確証までは得ていなかったかもしれないが、少なくとも何かがいると言う事には間違いなく気づいていた。初めて入った森で、素人同然の新人冒険者が、俺より早く、だ」
「それも加護なんじゃねえの?」
「加護2つとかある奴がなんで旅人なんてしてんのよ」
「実はどっかの貴族で追われてるとかだったりしてな!」
「それなら私が玉の輿になるわ」
「アンリはどーすんだよ」
「なっ!?ななななな、なんでアンリがで、ででってくんのよ!?」
どむっと音がしてダーナの拳がフェイの鳩尾を打ち抜く。
悶絶してかがむフェイを一瞥してからゴンベックが続けた。
「加護かどうかはわからん。特別耳が良いとか勘が良いとかかもしれないが、なんにしても森の中で足手まといになる事はないはずだ。できれば彼と組みたいから昇格させて欲しい」
「なぜ組みたい?」
「借りは返す。セルシスは俺のために働いてくれた。だから今度は俺がセルシスのために働く」
まっすぐなゴンベックの言葉にレスターの頬が緩む。
「検討しよう。だが役に立とうとするのならまずは自分の身体を万全の状態にすることだ。回復魔法で治療したとはいえ違和感はまだあるだろう。繰り返すが、2人とも今日はしっかり休むこと。わかったな」
「感謝する、レスターギルド長」
「はい・・・・・・あれ?フェイは?」
うずくまるフェイの首元をがしっとレスターが掴む。
「このバカは書類仕事から逃げ続けてきたからな。今日は居残りで残務処理だ」




