まあ男の子なんで
踏み込みが見えたと思った瞬間ダーナの姿が目の前にあった。
横薙ぎに振るわれた木剣を下がってかわす。
「目は良いみたいね」
たまたまですよ!!
続けて上段から打ち下ろしてきた一撃に木剣を合わせて受け止めた。重い!
考えてる暇も無く繰り出された前蹴りをくらう。
ほんの少し押されただけで剣を振るう隙間が十分にできる。
そこに入り込むダーナの連撃。捌き切れずに肩に一撃喰らう。痛い!
喰らいながら切り返すもダーナは余裕をもってかわす。
どうしようもない戦闘経験の差を感じる。
向こうはC級?だかの冒険者で、戦い馴れていて、剣を使い慣れてる。
こっちは切り札がなきゃ多少喧嘩馴れしてるただのオッサンだ。
神様にちょっとだけ生命力強化?されてても若くて動きの良い頃に戻してもらってても素人は素人。
飲み屋で傭兵3人相手に勝てたのも動きの制約がある店内だったからで、それにしてもフェイがいなきゃ俺がボコボコにされてただろう。
どうすっかな、やることがねえぞ。
かかってこいみたいな不敵な笑みで待ってくれているダーナに向かってこちらから踏み込む。
真っ正直に薙いだ木剣は力任せにはじかれる。
宣言通り手加減してくれてるんだろう。それ以上は打ち返してこない。
もっと打ち込んでこい、みたいな空気。
・・・よし、考え方を変えよう。
ようは先輩が俺に稽古をつけてくれてるようなもんだ。芝居の稽古と一緒で、どうせならダメ出しをたくさんもらわないと意味ないよな。
どうせみんな下手くそだ。上手くやろうと思うくらいなら下手くそなりに挑戦して失敗しろ。
失敗して恥をかけ。大失敗して大恥かいてりゃ小さな失敗なんざ怖くなくなる。
芝居の師匠に言われた言葉を思い出す。
訓練場で格上が俺に稽古をつけてくれているってんだから、ちょいと挑戦して失敗して恥を書いてみましょうかね!!
左手で持った木剣で下段から切り上げた。力任せに受け止められる。
押し返された俺の剣先がガツっと地面に刺さったところでダーナの脚がそれを踏んだ。貼り付けられたように動かなくなった木剣の少し上をすべるように放たれた一撃が俺の顔面に迫る。
打ち込まれたダーナの木剣を右手で掴み、そのまま引き込む。身体を左に滑らせながら自分の木剣を手離して顔面に裏拳。
パンっ、と乾いた音が鳴る。
ダーナは顔めがけて打ち込まれた俺の裏拳を左手で受け止めた。ひるみもせず即座に自分の木剣を捨てて肘打ち、続けて膝の連撃。2発とも捌いたところでお互いが木剣を掴みあげて2歩下がった。
ダーナが俺の木剣を、俺がダーナの木剣を構える。
脚癖が悪いのは分かったから隙を見て軸足を払ってテイクダウンとか考えてたけど実際には木剣を交換しただけだ。
「・・・やるじゃない」
「まあ男の子なんで」
肌がザワザワしてくる。やばい、ちょっと楽しい。
右手のひらがジンジンと痛みを訴えてくる。打撲程度の痛みですむオープンフィンガーグローブさんが優秀でよかった。
ダーナが下段からの切り上げをやり返してきた。
剣先に手を添えた木剣で受け止めるとそのまま切っ先を滑らせて胸元へ。星流れと言うよりもバントに近い動作でぶつけに行く。
間合いを取って剣の打ち合いやったって勝機は薄い。零距離まで詰めて殴り合いに持ち込めば・・・!!
ざわり、と悪寒が走った。
ダーナの木剣に力がこもる。
押されたような衝撃とともに俺の身体が一瞬浮いた。
まともじゃない腕力。その場でふっとばされたように浮かされて硬直する。
視界の端で俺の木剣が折れて飛ぶ。
押し合いに使っていた木剣の先がぱっきり折られ3分の2くらいの長さになっていた。
魔力による身体強化か!?
理解した直後にダーナの木剣が振り下ろされる。これはかわせない。
見様見真似で魔力による身体強化を発動。
唐竹割りの一撃を横一文字に受け、構えた木剣を傾けて止めずに受け流す。
ザンっ、と鋭いエンピの先が突き立つような音がして、木剣の先が大地をえぐる。
「手加減してないよね!?」
「うるさいよけるなバカ!」
そのままお互い一歩も譲らないで打ち合う。
10合20合と叩きあってると不思議と調子が上がってきた。
最初は見えなかった踏み込みも今ならはっきり見て取れる。
呼吸するように木剣を交わす。組技に持ち込むのが勿体ない。
ダーナの魔力の流れはちょっと攻撃に偏りすぎていた。魔力の無駄使いだし、力任せになっていてよろしくない。それでも強いんだからたいしたものだ。
腰を軸に、体幹、筋膜、力の連動を意識しておこなう俺の身体強化はダーナより高密度で効果が高い。
受け止めていた一撃を軽く当てて受け流す。
受け流していた一撃を止めず流さず見切ってかわす。
2寸、下がりすぎだ。1寸5分、まだ腰が残せる。
景色がどんどん鮮明になって意識がどんどん広がっていく感じがして気持ちが良い。
なにこれ、超楽しいんだけど!
「なんで、あたん、ないのよっっ!!!」
「剣の振りが手打ちになってる、蹴る事を意識しすぎて腰が浅い、あと、身体強化が雑」
ダーナが繰り出す怒涛の連撃をひたすらかわし続ける。
1寸5分、まだ腰が残せる。1寸5分、まだ腰が残せる。
1寸5分、まだ腰が残せる。1寸5分、まだ腰が残せる。
1寸5分、まだ腰が残せる。1寸5分、まだ腰が残せる。
1寸5分、まだ腰が残せる。びびんな、失敗して恥かけよ素人だろうが!
1寸。
「アンタ正気なの!?ちゃんと剣で受けなさいよ!!」
1寸。1寸。1寸。1寸。1寸。1寸。1寸。1寸。1寸。1寸。1寸。1寸。
まだ、先がある気がする。
なんだかわからない力が身体の奥から溢れてくる。
自分の何割かが外に抜け出して俺を見ているのがわかる。舞台に立っている時みたいだ。
ダーナがどう動いて俺がどうかわしているのかが客観的にわかる。
このライブ感。この表現。怖い、怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
鳥肌が立つほど楽しい。
先にダーナの息があがる。
「こんのおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!!」
渾身の右袈裟斬り、おそらくダーナの最後の一撃。
反応、反射、逃げ出したくなるような快感を抑え付ける。
ひたいを割るような勢いの木剣が俺の片眉をかすめた。
5分の見切り。
呆けたようなダーナの顔。
勝利を確信した俺の一撃がとぶ。
「そこまで!」
聞き覚えの無い男性の声が響いた。突然の大きな声に集中が切れて身体が流れる。
踏みとどまれない、流れた身体で必死に剣を届かせようとするが、折られた剣先はわずかにダーナの胸元をかすめただけ。
交差するようにダーナが足を踏み込む。
ごすん、と俺の鳩尾に拳がめり込んだ。
ダーナの顔は最後まで呆けたままだった。
なのに、反射で身体が動いて鳩尾を綺麗に打ち抜いてくるんだから、やっぱり素人と戦士の壁は厚い。
痛みを感じる暇もなく、俺の意識は闇に落ちていった。




