手加減してあげる
話し合った結果、夜でもやっている冒険者ギルドで今すぐ冒険者登録するのが一番良いと言う結論に至った。
アンリからは巡礼信者登録を強く勧められたんだけど、自分が信者かって言われると絶対違うと断言できてしまうので今回はパス。
これから働くことも考えて商人ギルドへ登録も一応主張してみたが、なんでもギルド登録だけで銀貨5枚も必要らしい。手元にそんな金は無い!!
一方の冒険者ギルドでも登録費用はかかるそうなんだけども、その辺はフェイの口添えで値引きが効くらしい。門番のゼラ氏からレスターさんを頼れと言われてた件を思い出したのでそれも言ってみた。
「なんで早くいわねぇんだバカ!!」
フェイにバカと言われたけども忘れてたもんは仕方がない。この一週間は商人ギルド近くの飯屋を中心にして観光してただけですからね!治安の悪そうな冒険者ギルド方面にはほとんど行ってなかったんだから!
「ゼラのおっさんはオヤジの古馴染みだからな、俺からも頼んでやるから任せとけっての!」
ギルド長のレスターはフェイの養父らしいが詳しい事は聞かなかった。立ち入った家庭の事情を聴いてる暇はない!今は俺の安全確保を最優先したいのでー。
念のため泊まってる宿屋の名前を伝えてから、アンリに礼を言って神殿、正確には神殿のほど近くにある警邏隊用の施設を出た。
寝泊りと簡易な取り調べができるような部屋を合わせた、江戸時代で言う番屋に近いそこを出てからフェイの案内で冒険者ギルドへ。
傭兵さんの剣を砕いた事についてフェイに聞かれまくるかと思って構えていたのに実際はまったく聞かれなくて逆にびっくりした。
腕のいい魔術士だと思われたのかしら?まあ聞かれないのは好都合だから良いんだけども。
代わりに戦闘技術は誰にならったかとか聞かれたので適当にお茶を濁しておいた。
柔道は3段だけど剣道はきちんと触った事ない。小太刀2本はなんのためだよ!
殺陣?日俳連のアクションライセンスならあるよ!殺陣と技斗の両方とも中級だけどね!!
殺陣がいわゆる時代劇で使うやつで刀や棒術での所作や演武、技斗は聞きなれない言葉だろうけど、ぎと、あるいは、ぎとう、なんて言い方をして、こっちは現代の組手、ナイフ格闘なんかを差す。
ちなみにアクションライセンスってのは級位の認定書みたいなもんです。
日俳連に所属していないと殺陣と技斗の認定書は貰えないんだね。知り合いの「自称殺陣師」みたいな人がいたらライセンスの有無を聞いてみよう!モグリがわかるぞ!!(笑)
個人的には漢検や英検みたいに幅広く誰にでもライセンス発行したら?と思うんだけども、そこは加入者を増やしたい日俳連的に譲れないんだろうなー。乗馬のライセンスみたいなもんかもしれないね。協会加入の乗馬クラブに所属していないと~みたいな。よくわからんけど。
ざっと軽くエア武器を構えて15手くらいの動線をフェイに見せてみる。
個人的には流星錘を使った殺陣がお気に入りだ。完全に趣味武器で俺以外にこれで殺陣できる人にあったことがない。
「そりゃなんだ?縄か??最後のはよくわかんなかったけども・・・・・・剣も槍も斧も短刀も素手もいけるって、おまえ傭兵より傭兵みたいだな」
ふふ、飛び道具だって任せろ。現代日本人らしくダーツだって嗜むぜ!!
弓?神社で儀式に使うやつくらいしか見た事ないっすわー。
なんだか釈然としない顔で首を横に振るフェイに連れられて冒険者ギルドに無事到着。
やばい、思ったよりデカイ。ガツンとデカイ。
東京の区民事務所くらいのサイズを想像してたけど、こりゃ役所サイズだ。
すいすいっと中に入ってみると時間的にそれほど混み合っていないようだった。
でも、どこのカウンターにも冒険者の姿があってしっかりと活動している様子。
壁一面に大量に張られている依頼。窓口は依頼の受注や報告、アイテムの買い取りなどなど細分化されていて・・・ああ、本当に役所っぽいな。大きめの郵便局とか銀行を思い出すわ。
新人登録窓口ってあるのかなぁとフェイに聞こうとしたら、近くにいた職員さんがこっちにやってくる。
「フェイ!アンタ最近ギルドの仕事さぼってるでしょ!!」
「いぃ!?やっべぇ・・・」
真っ赤な髪をポニーテールにしているお嬢さんはフェイに激怒みたい。怒ってるのに可愛いとかホントこの世界の美形どもはずるいな。ありがとう異世界。
「仕事が溜まってるの知ってて逃げてるんじゃないでしょうね」
「そ、そんなことねえよ。ほら、有望な新人連れてきたぜ!!冒険者登録したいんだってよ!」
な!と言いながら俺をずいっと赤髪さんに突き出す。お供え物みたいな扱われ方だなオイ。
「登録希望?この子が??」
上から下まで値踏みするようにみる。あ、いや、するようにじゃなく値踏みしてるな。
この子って・・・そんなに童顔に見えるかね?俺もフェイもこの赤髪さんも年齢的にはそんなに離れてないと思うんだけどな!!
「有望には見えないけど?」
デスヨネー。ほら、あれですよ。討伐以外専門の冒険者ですよ、ええ。
街中のシティアドベンチャー専門にしてくれても良いくらい。なるべく危険が無い感じの冒険を希望します。安楽椅子探偵の冒険者版みたいな。
グランディスタ初のアームチェア・アドベンチャラー!・・・ないか。
「こう見えて結構腕が立つんだぜ?ダーナが本気でやっても勝てないかもな」
「私より?この子が??・・・・・・へぇ」
余計な事を言うなフェイ。ダーナ嬢の目が戦士のそれになってるやないの。
「いいわ、じゃあ私が登録手続きしてあげる。どれだけ使えるのか訓練場で模擬戦するから見せてちょうだい」
「やめとけって、オマエが怪我するぞ?」
なにその挑発マジやめて。
「はっ!冗談もいい加減にして。私がこの子に負けるって本気で思ってんの?」
「勝ち負けに賭けろってんなら、俺はセルシスが負けない方に賭けるけど、な」
「・・・・・・言ったわね。私が勝ったらアンタ無償でギルドの奉仕作業一か月やんなさいよ」
「じゃあセルシスが負けなかったらどーすんだよ?」
「なんでも言う事聞いてやるわよ!!!」
なんともお茶目な言い方で挑発なさるフェイのバカ。
本人置き去りで賭けの話しとかマジでやめてほしいんですけど。しかも目の前でやで?
「あーっと、フェイ?俺としてはもっと穏便な登録がしたいんだけど」
「気にすんなよダチ公!C級冒険者のダーナに勝ってB級からやらせて貰え!!」
そんな飛び級しらねえよ。つーかやりたくもねえ!!
だいたい会ってから数時間でダチ公に昇格とかどうなってんだフェイ。いや俺も友達は欲しいからこちらこそよろしくではあるんだけど。だけどもね。
いやいやちょっとと無駄な抵抗するもギルド内の訓練場に行くハメに。ギブミー平和。
「ダーナ、オヤジは?」
「ギルド長なら自分の部屋よ。来客中」
「じゃあちょっと顔だけ出してくるわ。先にやっててくれ」
ちょ、フェイ、おま!?
まさかのフェイ離脱。えー、なにこれ。
あの野郎、賭けの生贄と書いてダチ公と呼んでやがったのか。覚えてろ。
訓練場は中庭を改造して作ったようなところでこの時間は誰もいなかった。
ダーナが生活魔法から明かりの呪文を何回か唱える。
魔法の明かりに煌々と照らされた訓練場で、俺とダーナの二人が向かい合う。
思わず見とれるくらい綺麗だけどすげーおっかない顔してる。美人だけど戦士の顔だ。
ぶっちゃけ飲み屋でやりあった傭兵3人よりも威圧感がある。
「そこの木剣を取りなさい・・・・・・手加減してあげる」
(死なない程度に)手加減してあげる、ですね、わかります。わかりたくねぇ。
慣れた様子でダーナが自分の木剣を一振り。びゅおっと風切音。
うわははははは。こんなん勝てるわけねえだろ!!!!




