第二十三話 悪巧みがうまくいって大変だった
いや~、久しぶり。ホントに久しぶり、ジオ・パラケルススです。いや~、あの胃の痛すぎる前期長期休暇から約8ヶ月、とうの昔に2年生になりました。ていうかもうすぐ14歳です。光陰矢の如し、時間が経つのは早いなぁ。
「いけないなぁ、貴族の坊主! こんな真夜中に1人でお外をうろうろしてちゃあ!?」
さておき、この約8ヶ月の間にも色々ありましたよ。正直転生してから俺の人生イベント多すぎだと思う。まずはテトが正式に『じぃ』ことサバン・トランドの養子になり、テト・トランドになって今年から『戦神の鍛錬場』に入学(?)したこと。養子縁組の話を伝えた時テトの奴、男の癖にびーびー泣いてそれはもう大変だった。あとそれから少ししてから、アイツがじぃに「……お父様」とか恥ずかしげに言ってるとこを偶然目撃して日には、思わず萌えちゃいましたよ! 野郎なのに! 無駄にでかいのに! ……ちなみに依然身長に関しては奴に離される一方であります! 主人として年上として非常に遺憾であります!
「まぁ1人じゃないのかな? なぁ、『灰風』イナ・サラシス! 出てこいよ! お前がこいつの護衛をしている事はとうの昔にばれてるんだよ!」
「どこにいるのかな~? 『灰風』ともあろうものが怖気ついて出てこれねぇのかな?」
ん~あとはそうだな……学院関係だと、あの休暇の最後の日にミリーさんから送られてきたメガネは今アニーが使ってる。物に当たる事がなくなったって本当に喜んでくれましたよ。まぁあれで休暇の半分ほったらかしにしていた穴埋めはできただろうと思うし。あと新学期に入ってから有望そうな同級生を数人捕まえてポーションの作成とかの勉強会(+将来を見据えての洗脳ともいう)をしていたら、何故だかクリス嬢が乱入してきてなし崩し的に教える事になったり。そのうちにいつの間にかヘルガー・ブライトス・ラ・エンデルフォンまで混ざってやがったんだが、俺があいつに教えなくちゃいけない理由が分からん。……イケメンは基本敵だ。もしアニーの至宝が目当てなら俺が相手になってやる。
「さぁて、俺たちもガキをいじめる趣味はないんだが、これも仕事なんでなぁ。悪く思うなよ、『爆炎』の息子よぉ!」
「ギャハハハ! ボクチャン「父上~、母上~」って泣かなくていいのかい?」
「おいおい、貴族のご子息がそんなかっこ悪い真似するわけがねぇだろうがよ! まぁもしそれをやるなら少しはやさしくしてやるけどどうするよ! お貴族様よぉ!」
あぁ、そうそう。無事に『黒色火薬樽』の作り方もミリーさんに伝える事ができた。さすがに硝石の作り方、つまり灰と糞尿を地中で混ぜるという事を教えた時にはかなり面白い顔をした後見たこともない大爆笑をしていた、というのは実際にギーレンに技術指導にしに行ったジトーの弁。……まぁあれは初めて聞いたら誰でも唖然とすると思う。なんたって『う○こ爆弾』だもんな。
「ん? びびっちまって何にもいえねぇのか? だがダメだ、お前さんはここでお仕舞いなんだよぉ! 恨むなら悪目立ちしちまった過去の自分を恨みなぁ!」
あ~、そうだな。他に言っておかなきゃいけない事は……。あぁ、金の使い道かな。まず1億はシランに預けて財テク中。2年後には5倍に増やしてお返しいたしますってにっこり笑って言われた。個人的には5倍じゃ済まないと思う。だってシランだし。あと1億は青カビ育てるのに使いました。結果が出るにはまだまだ時間がかかるみたいだけど、先行投資って大事だよな。火薬作りも一段落したから他の仕事も必要だったし。残りの一億? 2000万ほど装備とかに使ってあとはお小遣いだな。多すぎるけど。
「……おい、糞ガキ。てめぇ立場分かってんのか? 何とか言ってみろやぁ!」
ん? ……あぁ、ああゆう輩って何でどいつもこいつも判を押した様に似たような台詞を吐くんだろう? あまりにテンプレかつ小物臭いんでたまに決まりでもあるのかと思うよな。
あ、耐え切れなくなった連中の一人がちょうどいい具合に矢を放ってくれた。もちろんわざと当たりにいく。ちょっと痛かったけど――これでフラグ成立。
思わずにやけてしまう俺。でも仕方ないよな、こういう時に笑わずにいつ哂う!
というわけで色々言いたい事はあるけど、とりあえず。
――俺の目の前に展開する青白い光りを放つ化学式に酷似した魔術文字。
「まとめてぶっ飛べ」
次の瞬間、静寂を打ち破る爆音とともに赤い炎が闇夜を染め上げた。
放たれた紅蓮の狩人が狩るべき獲物は世界で一番腹の黒い脚本家の仕掛けた罠に見事に嵌った札付きの冒険者35人。突然の異常事態に驚きが隠せないようだ、無理もない。
『絶対にありえない』だからな。
さてと、ようやく一年がかりの舞台の幕は上がった。後はせいぜい脚本通り、しっかり『主役』を務めるといたしましょうかね。
◇◆◇◆◇◆◇◆
突然立った賞金首フラグと俺の放った『ありえない魔法』に大慌てのお客様ご一行。そらそうだよな。邪魔な護衛はいるが、たかだか13歳のガキをボコボコにした後攫うっていうだけのお手軽かつ大金が手に入る割のいい仕事だったはずが、いきなりの父上の厨二な二つ名を思わせる爆炎のお出迎え。そしてターゲットのガキは騒ぎに乗じて逃げるどころか短剣片手に凄まじいスピードで襲いかかってきてるんだから。
ん? 話が見えないって? あぁ、じゃあ少し昔話をしようか。それはそれは昔々、俺があの豚野郎の話を聞いた後、アイツの始末をどうしようかシランに相談した時の話だ。
一つだけ注意しておく。黒すぎるから気の弱い人はやめておいたほうがいいと思うよ?
まぁつまりはあの時こんなやり取りがあったわけですよ、はい。
―――――もったいないだと?
誰もいない空き教室で拳を握り締めながら俺は怒りの成分が混じった思念をシランに叩きつけた。
今回送られてきたのがあのレベル14程度のおっさん達格下3人だけ、しかも油断をしていたからこそ何とかなっただけで、人数がもっと多かったり、単独でもレベル50を超えるような相手だったなら、俺は今頃やられていた確率が高い。
確かに俺はこの年齢、この段階において規格外に強いが、それでもいい所中堅どころくらいの強さしかない。
おれ自身がそれを一番分かっているのだから。
そして黒幕は、あの豚野郎。
一応貴族のガキだから、殺すのはまずいだろうが、即効対処しないと、いつか暴走してこちらが危なくなる可能性が高い。
そして狙われるのは俺とは限らない、もし狙いが俺の関係者に代わったら――
にも関わらず、シランは何を考えている?
その程度の事が分からない男じゃないはずだが。
―――――どういう意味だ? 俺にやられろと?
―――――これは、ジオ様にしては随分頭に血がのぼってらっしゃいますな。まずは少し落ち着かれませ。
くそ、思念での会話だからこそダイレクトに分かるシランの楽しそうな感情。
楽しんでやがる! あのドS野郎!
―――――後顧の憂いを絶つ為に、排除するのがいけないことか?
―――――いえいえ、ですがこの場合それはいかにももったいないかと。
もったいない? あの豚の何が? ダメだ、まったくシランの考えが読めん。ギブアップ。
―――――………俺にも分かるように説明してくれ。
―――――では、失礼して。今回の黒幕は、ジオ様がお聞きになったとおり、そちらにおられる貴族の坊ちゃまである事はほぼ間違いないかと思います。私は直にその方にお目にかかった事はありませんが、お話をお聞きするに、私の経験上そういう方は非常に執念深い方が多うごさいます。おそらく2度3度と襲撃は繰り返されるでしょう。
だったらなおの事、処置は早いほうがいいだろ。マジで何考えてやがる。
―――――ですが、その反面自分で考える、ということが出来ぬ方が非常に多いのでございますよ。………自分の頭で考えたとおりに、物事が進むと考えるのが彼らに共通する癖ですね。我儘を言う子供と変わらぬ頭しかないのですよ、どこまで行っても、ね?
その思念が届いた次の瞬間、どす黒い哄笑とでもいえばいいのだろうか、非常に悪辣な思念が俺に向けて飛び込んできた。
やべぇ………、黒すぎる………。
その後の提案を聞くまでもなく、その思念のあまりのどす黒さに俺は思わず震え上がった。
並みの人間ならちびってるな、絶対。実際凡人の俺は既にちびりそう。
―――――そういう方々というのは実に見事に私の用意した舞台で『踊って』くださるのですよ? ジオ様。ですからこちらからその方の代理人に接触しまして、私が彼らに知恵を付けましょう。そうしましてから、わざとジオ様を襲撃させるというのはいかがですか?
怖え、いったい何考えてんだこいつ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
―――――つまり、ですね。彼らには綿密な計画を立てる頭脳はありません。お馬鹿さんですから。それは今回のお粗末な襲撃でも明らかです。そこで、そんな彼らの代わりに私が作戦を考え、時期を探り、ジオ様襲撃の段取りを整える………。いかがですか?
―――――すまん、シラン。お前は俺を殺したいのか?
―――――いえいえ、滅相もありません。もしそうならとっくにやっていますとも。……申し訳ありません、さすがに失言でございました。それにしてもこれはこれは本当に珍しいこともあるものですな。失礼ながら今回の一件、ジオ様に私の見えているものがお見えになっていないようで。
おいおい、慇懃無礼って言葉知ってるか? そして今の失言完全にわざとだろ。あと俺をお前みたいな腹黒大王と一緒にしないでくれ。俺はお前と違って清廉潔白の看板背負って生きてるんだからな!
ただ悔しい。本当に頭が回っていないのか、シランの考えがまったく読めない。
どういうことだ? シランが奴に接触して知恵をつけて俺を襲わせる? そんなことに俺に何のメリットがある?
―――――では有体に申し上げますと、私のコントロール下で彼らにあくまで”自発的”に動いていただき、ジオ様の襲撃を計画していただきます。私は、そうですね、誰か私の知り合いあたりを代理に仕立てまして、彼らに接触、彼らの空っぽな頭では考えられない具体的な襲撃計画を立案し提案、そしてそれを彼らに実行していただこうかと。
なるほど、そうなると襲撃時の情報はこちらに筒抜け。完全に迎撃体制を整えた上で、襲撃を待つ事ができる。あとは煮るなり焼くなり思いのままってわけか。だがそれだけではメリットとは言いがたい。襲撃を待つより、襲撃がない方がいいはずだからだ。
じゃあ、この場合のメリットとは何だ? ええい、埒が明かん!自分が急に馬鹿になった気がする………。
―――――シラン、もう一度言う。俺にも分かるように説明してくれ。
そう俺が思念を飛ばすと、シランの笑いがこらえきれないような思いを乗せた思念が俺に飛んでくる。マジでうざい………。
―――――では、端的に。
まず一つ、下手に暴走されるより、襲撃の戦力、タイミング等をこちらでコントロールできる上、情報も筒抜けの為、迎撃が容易いところ。
二つ、その過程で相手方の不都合な情報を集める事によって、本当に対処なさる時に、完膚なきまでに叩き潰す準備が可能な事。
三つ、これが最も重要なのですが、ジオ様の対人戦闘経験の為。冒険者は、『アスリオン』神の加護を受けている為に、冒険者同士の戦いなどそうそう経験できるものではありませんから。こういう機会は貴重です、逃す手はございません。
四つ、冒険者も玉石混交の世界でございます。こそこそと白いふりをしている子悪党どもをジオ様の対人練習相手としてご提供いたしますので、ご使用後に賞金首にして金に換えてしまいましょう。
少しこの世界も住み易くなり、ジオ様のふところも潤います。
金はいくらあっても困るものではありませんでしょう?
まさにいい事ずくめではございませんか。
まぁ、一石二鳥ならぬ一石四鳥といったところでしょうか。
シランのその思念を受け取って奴の提案を理解した次の瞬間、俺は思わず忍び込んでいた空き教室の机に突っ伏していた。
シラン………。腹黒にも程があるだろ………。お前の頭の中はどうなってる………、絶対に覗きたくねぇ………。後、そんなモン誰が分かるか! どんなに頭回ってても分からんわ!
―――――シラン、つまりこういう事か? 俺に馬鹿どもを釣り上げる為の生餌になれと? 年齢的に、とても冒険者登録済みだと思われることのない俺を使って?
そう俺が問いかけると、ようやく満足したかの様な感情とともに思念が飛んできた。
そうですか、ようやく合格ですか。
―――――はい。さすがはジオ様。そのとおりでございます。
その一言でやっとこいつの意図が読めた。こいつの本当の狙いは4番目。一般人に迷惑をかけるような冒険者たちの排除と、それがもたらす多大な金銭的利益だ。
冒険者のPK行為による賞金首化には実は穴がある。『冒険者Aが冒険者Bに対して、故意に攻撃した場合、Aは即座に賞金首になる。』これが基本だ。
しかし、『冒険者Aが一般人Bに対して、故意に攻撃した場合、Aは”即座には”賞金首にならない。』のだ。この違いが何故生まれるかというと、それが勇気の神『アスリオン』からの加護の有無なのである。そもそもこの賞金首化システムは、MMORPG《New World》で冒険者であるプレイヤーのアバター同士に、不要なPK行為をさせない為の抑止力的システムであった。
まぁ一言に言えば、『重すぎる罰が怖いなら、プレイヤー同士喧嘩するな』である。
だが今俺が生きている世界は、《New World》をベースにした現実世界であり、もちろんそのシステム自体は存在している。しかしここで一つ問題が。
ではそのシステムで元々想定されていなかった人間への冒険者による暴力行為はいったいどうなるのか? である。
普通の子供ならそんな事は尋ねることもなかっただろうが、それはそれ。蛇の道は蛇、蛙の子は蛙。
幸か不幸か、俺は普通ではなかったから、あの前回の3人の襲撃の後じぃに尋ねると答えはこうだった。
「冒険者ギルドにその者たちがやったと報告すれば、調査が行われ、事実と判明すれば賞金首とされるそうですが、残念な事に必ずしも彼らが断罪されるわけではないそうです」
つまり一般人が冒険者に攻撃されても、冒険者ギルドに報告さえされなければ、賞金首になる事はないのである。その前に捕まえるか………殺すかすれば誰にも分からない。
つまり何気ない顔でそこらを歩いている冒険者の中には、裏で一般人に非道な真似をしている下種どもがいるっていうことだ。
そうして自分の身内を振り返ると、シルウィがその犠牲者だった。冒険者くずれの屑どもが、彼女の村を襲撃し彼女は囚われて奴隷にされたらしい。
もちろん直接シルウィ本人に聞いたわけではない。うちに来た当初なかなか心を開いてくれなかった彼女の事情が知りたくてシランに念話で尋ねたところ聞かされた話であり、シルウィはそれゆえ心を閉ざしていた。
シルウィの両親は彼女を守って亡くなったそうだ。これはマリエルから聞いた。
その話を聞いた後、思わず俺は自室の石壁を力いっぱいぶん殴ってしまった。
さらにアリアやエリア、リューネも事情は似たようなもの。アリアたちの両親は名の知れた聖職者だったそうだが、同僚に陥れられ名誉も地位も失って失意の中で世を去ってしまい残された2人は当てもなくいつの間にか奴隷として売られていたらしい。
リューネは細かなことは分からなかったが、おそらくシルウィと変わらない事情だろうとシランは言っていた。
まったく反吐が出る最低な話だ。どこを取っても向こうの世界でありふれていた夢も希望もない話。俺が生まれかわったこの世界はやっぱりどこまでいっても現実だった。
俺は聖人君子を気取るつもりもないし、自分がやってる事が人から見れば偽善であり、そしてそれがどこまでいっても自己満足だと分かっている。
ただ全部、自分が気分良く生きていく為にやっているに過ぎない。だが異常に腹が立ったのだ。
だから自分の為にそいつらは見つけ次第、絶対に始末する。そう決めた。理由は『俺がそうしたいから』である。
話がそれたな。つまりシランはそういう馬鹿どもを俺の戦闘練習の相手にした挙句、捕らえて金に換えてしまおうという考えなのだ。
そして『冒険者は15歳以上の人間がなるもの』という固定概念の為に、そいつらが12、3歳の俺が冒険者だと考えるはずもない。
そして勇気の神『アスリオン』の加護を受けている人間を攻撃すれば、間違いなく冒険者くずれの子悪党どもは、即賞金首になるのだ。1人が攻撃すればそれはパーティ内全体に伝染する。パーティの集合体であるレギオンの場合、当然一人の行動がレギオン全体に波及するのだ。
つまり俺が囮になれば、そういう馬鹿が攻撃した瞬間全員賞金首になる。
ワトリア内での情報は、父上が完全に封鎖しているし、冒険者ギルドの人間には守秘義務があるので軽々しく話す事はない。
ここまでくると笑えてくるから困る。実にシランらしい悪辣という言葉をいくつ重ねても足りない悪辣さ。最悪だよなアイツ。いろんな意味で。
でも納得しちゃったんだよな俺も。だから仕方ない。こんな主人を危険にさらす方法でも有効なら躊躇なく提案するあいつには心底寒気がするけどな。
―――――分かった。手配等は全て任せる。但しあの豚に引導を渡すのは俺が直接やるから、お前は手を出すなよ?
アイツをやるのは俺のお楽しみだと、そう釘を刺しておかないとどこでやっちまうか分かったもんじゃねぇ。出来過ぎる部下って怖い。マジ怖い。
―――――かしこまりました。そちらはジオ様にお任せいたします。では早速。
とまぁこれがその時の顛末で、その結果が今俺の目の前に広がってるってわけ。いや~釣れた釣れた、釣れたくま~ってこういうことを言うんだと思うよ俺は。
思い出すだけで吐きそうになるあの1週間の苦労もこの時のため。俺という餌に食いついた馬鹿な魚を逆に食い殺す為。うん、我ながら猛毒付きの餌だこと。超素敵。
新しい俺の相棒である『アサシンダガー』の暗紅色の刃を振るい、次々とお客様を神殿送りにしながら考える事じゃないんだけどさ。
まぁあと一時目に見えて脅えていた豚が、この計画が進むにつれ以前のような尊大な態度で学院内をうろつくようになったのを見ていて笑いをこらえるのに必死だったのはここだけの話。
え? そんなことはどうでもいい? あの魔法は何だ? って。あぁええと、《爆発》(エクスプロージョン)だよ、《爆発》。
何でそんなものを使えるのかって? そんなのもちろん ――決まってるじゃん。それは俺がもうとっくに《アルケミスト》になっちゃってるからだよ。
ジオ・パラケルスス13歳! 只今のレベルは42! 職業は《ローグ》及び《アルケミスト》であります!
◇◆◇◆◇◆◇◆
只今絶賛戦闘中、現場のジオ・パラケルススです。今も放っておくと厄介な回復役である『クレリック』に愛のこもった《バックスタッブ》でお1人様神殿に送って文字通り『刺しあげた』ところだ。うん、仮にもお前聖職者だろ。何でこんなところで子供襲うのに参加してんだよ、神様に叱られてこいって感じで送り返してあげました。
うん、いいことしたなぁ俺!
間髪いれず次の獲物へ。狙いはCグレード防具エンシャントローブセットに身を包んだ《ソーサラー》。高速で接近する俺に慌てふためきながらも《ソーサラー》が得意とする炎系攻撃魔法《火葬》(イニシレイト)を詠唱し始める。すかさず《ミラージュステップ》を発動。本来なら各種攻撃スキルは回避できないのだが、短剣職が緊急回避スキルを発動している時は別。通常攻撃と同じように回避の対象へと変わる。刹那迫り来る骨をも焼き尽くすような炎の塊を何とか寸前でかわし、奴の懐に。絶望を顔に浮かべた目の前の男の頚動脈、腋下動脈、大腿動脈を狙って暗紅色の刃を走らせる。
狙ったとおりに連続でクリティカル判定が出たらしい。そのダメージに魔法職である《ソーサラー》が耐えられるはずもなくゆっくりと地面に倒れふし、そして消えていった。
まったくこれが自分の先輩かと思うと腹が立って仕方がない。後輩をいじめるのはかっこ悪いですよ? 先輩。
な~~~んてそんな余裕ぶっこいた様に見せかけてはいるけど、今の俺には残念ながらまったく余裕なんてものはない。こうしている間にも散発的ではあるがかわしきれない攻撃により結構洒落にならないダメージをもらっているし、虎の子の《ミラージュステップ》も使っちまったから。さらに《高級回復ポーション》、通称オレンジジュースをがぶ飲みしている始末。ちなみに自家製。市販価格は一本500Gだから案外懐的に笑えない。
まぁそれくらいは仕方ない事だろう。だって俺が1人に対して、相手は35人。5PTもの大群なのだから。まったく討伐モンスターでも狩りに行くのかっていう大戦力だぜ。
とまぁ普通に考えたらどう考えてもただの自殺行為。相手がEグレードとかならともかく、ぱっと見た感じ奴等の平均レベルは30台中盤くらい。Cグレードの奴も決して少なくない。普通なら多勢に無勢、勝ち目はない。
そんな絶対的不利な状況の中、今曲がりなりにも有利に戦えている理由は3つ。
まずは相手が完全にパニックになっている。『冒険者見習いのガキとその護衛1人』を相手にするつもりで徒党を組んで余裕綽々で俺を狩りに来たつもりの連中に、いきなり《爆発》(エクスプロージョン)なんてものぶつけられて動揺しない奴はいない。その隙を突いているだけ。できるなら固まったところにもう一発《爆発》をかましてやりたいんだけど、本質的に《爆発》は詠唱時間が長く乱戦には向かないんだよ。あと下手すると自分も巻き込むし。
2つ目は俺には今各種(強化魔法)がこれでもかっていうほどかかっていること。これで今俺は実質レベル50の冒険者に限りなく近い状態になっている。一方奴らはたった2人、まして一人は学院卒業前の半人前を相手にする予定だった事で油断しきっていた。だから《バフ》の恩恵をまったく受けていないはずだ。
最後に俺の武器はCグレード最強の短剣である『アサシンダガー』。防具もCグレード軽装備の中でも防御と回避率にプラス補正がある『ブルーワイバーンスケイルレザーメイルセット』で、さながらサファイアのような光沢を持つ俺の自慢の一品だ。さらにCグレードから解禁になった各種アクセサリーももちろん完備。今は『回避率上昇』のネックレスと『弓耐性上昇』のイヤリング2個、『詠唱速度上昇』のリングだ。
おまけに……全部『普通』の『アサシンダガー』や『ブルーワイバーンスケイルレザーメイルセット』じゃないんだな、これが。《New World》ではCグレードから各種装備を強化する事ができるようになるのだ。これを《エンチャント》という。まぁ細かい説明をし始めるときりがないので結論からいうと今の俺の装備はこのようになるわけだ。
『アサシンダガー』+5 攻撃力136 > 155
『ブルーワイバーンスケイルレザーメイルセット』+4 防御力220 > 255
とまぁ軽くBグレード下位装備に匹敵する性能なわけで。
高い買い物だったが、値段に見合う、いやそれ以上の性能を発揮してくれている。探してくれたミリーさんには感謝だね。
というように1対1なら今の俺はこいつらの誰にも負ける事はないだろう。しかしそんな俺でさえ5PT、35人はきつすぎる。数が多いっていうのはそれだけで絶対的なアドバンテージだし、思っていたよりも2次職のやつらが多い。まったく転職前なら間違いなくとっくに今頃俺が地面にキスした後神殿行きだったな。……死にそうな思いして《アルケミスト》の転職クエスト終わらせておいてよかった。まぁ思い出したくもないが。
とりあえず一番厄介な《ヒーラー》3人は既に倒したが、奴らが立ち直るまでに何とか……。
「おいっ! お前ら落ち着け! いくらこのガキが異常だろうとどうやら1人のようだ! 俺たちはまだ30人いるんだ! 落ち着けばなんてことはない!」
……あ~ら。どうやらずっと俺のターンは終了の模様。ここからがホントの勝負ってことだな。まったく世の中厳しい事。都合よくいく事は少ないねぇ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
短剣職の特殊スキル《ステルス》。これはMPを持続的に消費してこちらがアイテム使用以外の行動を完了するまで透明になって隠れる事ができるスキルである。この状態であれば敵は俺の事を視認できずターゲットに指定する事はできない。
例外は2つ。範囲攻撃魔法に巻き込まれるか、《ステルス》と同じく短剣職のパッシブスキルである《サーチステルス》で解除されるか。
幸いな事に今回の敵には短剣職はいない。いやおそらくシランの奴が意図的に外させたんだろう。おかげで俺にも勝機があるだけど。まぁそこに気を使うならもう少し人数減らして欲しかったと思う俺は我儘なんだろうか? どうせニヤリと笑われてそこで終わりだろうから何も言う気はないけど……いつもながらあいつの信頼はヘビー級だわ。
そんなわけで俺は今かくれんぼ中。何となく前世で近所の友達と遊んだときのことを思い出してしまうシチュエーションだ。何故かというと俺は木の上に隠れることが多かったんだ。見つからなくて泣きそうになってる友達を見下ろすのが好きでさ。
ちょうど今みたいにね。
「ちぃ、野郎どこに行きやがった! そもそもアイツは何だ! あれは《アルケミスト》の《爆発》(エクスプロージョン)じゃねぇのか? なんで《アルケミスト》にあんな動きができる? あれは完全に短剣職の動きだったぞ? 意味が分かんねぇ!」
あなたの真上ですよ、おマヌケさん。そしてその疑問に関してはその通り、とはいっても成り立てだけど。
今俺の真下にはさっき落ち着けっていう余計な事を言ってくれたヒューマンのおっさんがいる。がたいのいい髭面の男。身にまとった武器防具から判断しておそらく《マシナリーナイト》だろう。ヒューマンの盾職の一翼であり、様々な武器に適正を示す傭兵騎士。厄介極まりない相手だが、さっきも言ったとおりCグレード冒険者はこいつ1人じゃない。見たところでおそらく6人といったところだろうか? ヒューマンの戦士職1人と弓職の《スナイパー》2人、先ほど倒した奴とは別の《ソーサラー》、そしてダークエルフの弓職である《ブラッディセンチネル》。
2次の弓職が合わせて3人もいるのかよ。道理でさっき喰らった矢のダメージが半端じゃなかったわけだ。痛いのなんの、もう2,3発まともに喰らっていたらこっちがやられてたな。
他にも《レンジャー》や《ウォーリア》、《ナイト》に《ウィザード》……。どいつもこいつも何の為に冒険者になったのかと思う。《New World》がゲームの時は良かった。PKプレイヤーのような奴らも確かにうっとおしくはあったが、それもゲーム、仮想現実内でのロールプレイだから許せた。
しかし今の俺にとって目の前のこいつらはまがう事なき現実であり……敵だ。
金に誘われ、欲にかられて他人を不幸にする人間の皮をかぶった獣どもめ。こんな奴らのせいでシルウィは両親を殺された。アリアとエリア、リューネも似たようなもんだ。もちろんこいつらが彼女達の不幸の原因になった連中ではないと思う。しかし、こいつらを野放しにする事は俺のかわいい『義妹』(いもうと)たちのような人間を増やす事に他ならない。
だから殺す。そこにもう躊躇いなんてものはない。
こいつらに比べれば本能のままに人間族を襲う『モンスター』たちのほうがまだましだ。
シルウィはうちに来てから笑うようになるまで1年かかった。リューネの体からアザが完全に消えるまでにもだ。それに4人とも今でも時々寝ているときに泣くんだ。脅えながら、震えながら。俺はその時何にもできやしない。神様からもらった能力があろうが、冒険者としていくら強くなろうがまったく無力だ。
……その彼女達を自分の手駒にする為に『買った』俺も同じ穴の狢だ。お前達だけを責めるつもりはない。
だから獣は獣同士、しっかり最後までやりあおうぜ?
誰にも聞こえないほど小声で、《爆発》と双璧をなす《アルケミスト》のもう一つの手札を切る。
それは仮初の命を吹き込まれた人形。
それはその体に『真理』の文字を刻んだもの。
それは本来あるべき形ではなく、俺の思いによって生み出された新しい可能性。
――来い、《アイアンゴーレム・ナイト》!
そして青い光りとともにそれは奴らの背後に現れる。
鉄の体を持つ半人半馬。甲冑に身を包み右手に槍を左手に盾を持つ『騎士』の名を冠したゴーレム。
さぁ第2幕の始まりだ。
――1人も逃さない。お前達の冒険はここで幕引きだよ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
俺の目の前では死闘が繰り広げられていた。突然現れた謎の鉄騎兵に慌てながらも反撃を開始しようとする襲撃者どもだったが、いかんせん最初固まっていたところにぶちかまされた《突撃》(チャージ)のスタン効果から立ち直る間もなく、次々とその右手に掲げる馬上槍の餌食になっていく。
うっわ~、自業自得とはいえ気の毒になるな、と思いながら奴等の視界の外で一時隠れることにした。
さすがにこうMPを大量に消費するスキルばかり使うと最後まで持たないだろう。ポーチを開け自家製の《アムリタ グレードC》を取り出し、一気に飲み込む。
うぇ、やっぱまずい。残り5分の1を切っていたMPが大幅に回復すると同時に口の中が酸っぱさで一杯になる。例えるなら無理やりレモン丸ごと1個口に突っ込まれた感じといえばいいのだろうか。とにかく酸っぱい。
そうこうしている間にも俺の忠実な鉄騎兵は、体中を矢でハリネズミの様にしながらも更なる突撃を敢行する。
元々《アルケミスト》職の呼び出す各種ゴーレムは単純な攻撃力や防御力において他の召喚職の追随を許さない。そして中でも主力である《サモン・アイアンゴーレム》の性能は元々かなり高いのだ。ただ、他の召喚職の召喚モンスターと違い単純な戦闘能力しかなく、それも他の近接職と比べ普通だったために《New World》におけるパーティでの人気は低かったのだが。
しかし俺が丹精込めて魔改造を施した《アイアンゴーレム・ナイト》は違う。自分でいうのも何だがこいつは相手に気の毒だととしかいえない程の出来になってしまった。
普通の《サモン・アイアンゴーレム》で本来呼び出されるのは鉄の鎧人形、その能力はさっきもいったように決して低いものではないが色々と不満もあった。
まず移動速度が遅かったため、殲滅速度が低く、結果狩りの効率が悪かった。
他の召喚職の召喚モンスターは様々な補助スキルを覚えていてソロでもパーティでもかなり使えたのだが、アルケミストのゴーレムはどちらかというと完全にソロ向きだったのだ。
……そんな悲しい記憶を持つ俺が、魔改造ができる今の世界で魔改造をしないわけがあるだろうか? いや、ない!
そして出来上がったのが今鬼神のような働きを見せる難攻不落の鉄騎兵だというわけだ。
最大の弱点だった移動速度の問題をまず半人半馬にすることで解消した俺は、それに飽き足らずさらなる強化を求め、そして最終的に行き着いたのが全身鎧に身を包んだ騎士。武装についても色々と悩んだのだが、右手に馬上槍、左手に方形盾で最終的に落ち着いた。
そして初めて実験がてら召喚し、その能力を試してみたところ……恐ろしい結果が出た。
かいつまんでいうとレベル40台後半少数パーティ向きの狩場であるギーレンの《アスカリアン高原》をソロ無双しやがったのである。
正直、ありえないものを作ってしまった。うれしさよりも腋汗がすごかったのを覚えている。もうすでにこいつは《アイアンゴーレム》とはいえない。何か別のものだと。だって攻撃スキルである《チャージ》(突撃)は文字通り攻撃範囲上にいる全ての敵を「はね飛ばす」んだから。
さらに攻撃力がやばかった。攻撃力というより突破力や貫通力と言ったほうが適切だとは思うのだが。まぁ昔あんなに苦労させられた《アスカリアンバーバリアン》家族があんなにあっさり消えていくとか悪夢としか思えなかったからなぁ。
だって鉄の塊の騎士が先のとがった槍もって馬のスピードで突っ込んでくるんだぜ? 一度試しに《ミラージュステップ》を発動させてその直線上に入ったのだが、あの恐怖感といったら……。
簡単な物理の話なのだが、破壊力とは物体の硬さと重さ、そして速度によっておよそ算出する事ができるのは誰でも分かってもらえると思う。
スピードが出ている車のほうが出ていないそれよりも危ないし、軽自動車よりも大きくて重いダンプカーのほうがより危険だといえばさらに分かりやすいだろうか。
あれをまともに喰らったら今の俺でも5回は耐えられない自信がある。
しかもスキル《突撃》(チャージ)は15%の確率で相手に《行動不能》(スタン)の状態異常効果も与えるという最悪なおまけまでついているのだ。我ながら何というチート仕様。
まぁというわけで何はともあれその性能は俺の目の前に広がる光景が全て証明しているだろう――《アイアンゴーレム・ナイト》はその姿を消すまでに格上であろうCグレード冒険者4人を道連れにしたのだから。
後に残った奴らも既に満身創痍。リーダーらしき《マシナリーナイト》ですら肩で息をしているのが見える。既に虎の子の盾職で最も厄介なスキルである緊急避難用防御力超増大スキル《ウォールスタンス》も使わせたしな。
よし、ここからは俺のターン。ずっと俺のターン。
そこに襲い掛かる紅蓮の炎。《爆発》(エクスプロージョン)がもたらす破壊の赤が再び夜の闇を真っ赤に染め上げる。
甘いんだよ、お前ら俺がいること忘れてただろ? 知ってるか? 喧嘩ってのは殴り続けた奴が勝つんだよ。ゲームでも現実でもな。
崩れ落ちるろくでなしどもに言葉には出さずに語りかけてやる。リーダーのおっさんが俺に恨みがましい眼を最後に向けていたがやがて地面に倒れ伏し、消えていった。それはCグレードまで至ったにも関わらずその『力』を弱いものに振るった阿呆どもに似合いの末路、この後奴らは冒険者を襲った冒険者としてではなく貴族の子弟を襲撃した事による罪で裁かれることが決まっており、3回の猶予などなく死か奴隷落ちが決まっている。事の前にシランがニッコリ笑いながら言っていた。「死んだほうが増しだった。そう思うような残りの人生をプレゼントします」と。奴等の今後に関しては同情すらできない。悲惨すぎる人生しか思いつかないなぁと遠い目になるのは仕方ないと思う。
「に、逃げろ! あのガキは人間じゃねぇ!」
その言葉に失礼な、地味に傷つくなそれとか思いながらまずは状況を確認する。HPは満タン、しかしMPが少し心もとないだろうか? しかしリーダー格とCグレードクラスの実力者がほぼ全滅させたことから残るのは格下の連中のみ。しかも奴らは泡を食って逃げ始めたらしい。つまり局面はその様相を変え掃討戦に切り替わるということ。
というわけで残り17人、一人も逃がしはしない。いや、逃げられない。だって――
「ぎゃあ!」
「何でこんな奴らがここに!」
「死にたくねぇ!」
この場を手配したのはあの腹黒だぜ? 逃げられるわけないじゃんと思う。何てったって大魔王が裸足で逃げる相手だぞアレは。ていうかもう動き出したのかよ、気配からすると7人かな? とか考えていると、それまで隠れてことの成り行きを見守っていたのだろうシランの部下たちが動き出したのだろう、次々と残った連中の気配が消えていく。
……一応ローグになってステルス破りのスキルである《サーチエネミー》を取得済みの俺からほぼ完全に隠れおおせるとか確実に全員Bグレードの短剣職じゃねぇかよ。あいつ手下に暗殺者集団抱えてやがったのか……。マジ怖いです、シランさん。
そのあまりの手際の良さに出番はどうやら終わりみたいだなと俺が思った瞬間背後に気配を感じ振り返ると、案の定というべきか漆黒の鎧に身を包んだこの舞台の演出家がそこにいた、いやがった。
……何でお前は短剣職でもないのに気配がないんだよ。チートか? チートなのか?
「ジオ様、何をお考えですか?」
「……明日の天気」
にっこりと微笑むシラン。怖いんだよ、お前。目が笑ってないから。いつも言ってるだろ? 俺の考えを読むんじゃないって。あといつもいつも背後から出てくるなよ、怖いだろと言いたい。
「……俺の出番は終わりでいいのかな?」
「はい、お疲れ様でございました。これで少しは世の中暮らしやすくなる事でしょう」
「じゃああと俺はしばらく家で引きこもってればいいんだな?」
「はい、ごゆっくりお休みくださいませ」
そのシランの言葉を背に受けながら『帰還のスクロール』を発動させる。
明日の朝はみんなで朝食を食べよう。そんなことを思いながら俺の姿はその場から掻き消えたのであった。
――奴等のあの姿が道を誤った時の自分の未来図だということを心に刻みつけながら、な。
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