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ニューワールド  作者: 池宮樹
ある男の回想 エルトリン学院時代編
32/46

第十七話 長期休暇は大変だった ⑧

 開けて新年3日目。


 俺は今、ようやく生き返った父上と一緒にワトリア魔法ギルドにいる。普段誰にでも開け放たれているギルドだが、今だけはその扉は完全に閉まっていた。


 目の前にはギルドマスターとしての正装に身を包んだ父上が、真剣な表情で俺を見つめている。静まり返る室内。この場にいる全ての人の鼓動が聞こえそうなくらいの静寂がその場を包んでいる。


 やがて父としてではなく、ワトリア魔法ギルドのギルドマスターとしてフィリップ・パラケルスス・ラ・テオフラストゥスが俺に語りかけてきた。


「ジオ・パラケルスス・ラ・テオフラストゥス。ウィザードの試練を乗り越えた証をここに」


 そう促されて小さな金のブローチ、クエストアイテム『魔術師の証』を渡す俺。それを確認した父上が高らかに宣言する。


「これにより汝はウィザードとして認められた!おめでとう!」


 その言葉とともにオレは黄金の光のヴェールに包まれる!


 そして湧き上がる新しく、そして懐かしい感じがする力が俺の中を満たしていく。欠けていたものが少し埋まっていくような充実感に俺がしばし酔ってしまってぼぅとしていると、いつの間にか周りにはワトリア魔法ギルドのギルド員の皆さんの姿が。


「おめでとう!」


 そう言って異口同音に皆が俺のウィザードへの転職を祝福してくれた。俺は少し泣いているのかもしれない。頬を何かが伝った感触があるから。そして泣いているのは俺だけではない。目の前で笑い泣きでいるのは、ギルドマスターではなく父親としての俺の父上だった。


「ジオ!おめでとう!早速家で祝杯を上げねば!」


 ……っておい。まだ飲む気なのかよ!


 前世むかしのお笑い芸人のように膝からくずれそうになりながら、心の中でツッコミをいれる。そしてさすがにそれはダメだ。そんなことは俺が許さない。アレをもう一回とか絶対ヤダ!そして俺にはまだ重要な用が残ってるんだ!そんなことしてる時間はないんだよ!


 ということで……制裁開始だ。


「父上!俺はこの後隣でレンジャーになってきますから、家には戻りませんよ?


……それに昨日おつらい思いをされたはずなのに、どうやらまだ『薬』が足りないようですね……」


 そう言って俺が取り出した濃緑色のポーションを見て後ずさる父上。ギルド員の皆さんに目配せをすると、全員がその意味をすばやく汲み取ってくれ、父上の体の拘束にかかってくれた。


 ジタバタともがくものの身動き一つ出来ない父上だったが、どうしても嫌なのか《爆発》の術式の演算と展開を始めやがった!そこまで嫌か!


さすがに危険な為、わずかに開いた口にすかさずポーションの中身を流し込む!



 その後、つい先ほどまで厳粛な空気に包まれていたギルドは父上の絶叫と、みんなの笑い声に包まれたのだった。



 あぁ、もちろんその後隣で同じようにレンジャーへと転職しました。こっちはまったく未知の感覚でまさに新しい力がみなぎってくるようだったぜ。


 あとアスナイさんがすっごいご機嫌でしきりに俺の頭を撫でてくれていたのと、モルゲンデーレのおっさんが捨て犬みたいな目で俺を見ていたのが対照的だったことも付け加えておこうかな?


 とにかくジオ・パラケルスス・ラ・テオフラストゥス、13歳。


 『ウィザード』と『レンジャー』への転職完了であります!



◇◆◇◆◇◆◇◆



 転職終了後、家まで帰りついた俺は庭の一角で超久々にシステムウィンドゥを開いてスキルを覚える事にした。実際これを最後に開いたのは1年以上も前にコモンスキル《ファーストエイド》を覚えた時以来。


 そうして今まで転職しないままレベルが26まで上がっていた為に有り余っていたスキルポイントを使って新しい力を獲得して行く俺。


 特に重要だったのが、レンジャースキルでは《スプリント》と《ミラージュステップ》。ウィザードスキルでは《サークルフレイム》と《スリープ》、そして《サモンウッドゴーレム》である。

 

 レンジャースキル《スプリント》は、ごく短時間ではあるが移動速度が跳ね上がる補助スキルで、これがあると何かと便利である。

 もう一つが《ミラージュステップ》。このスキルは《スプリント》と同じくごく短時間ではあるが、自分の回避率を跳ね上げる事ができる緊急避難スキルであり、種族によりそれぞれ名前は違うが軽戦士系職の切り札である。


 ウィザードスキルについてだが、まず《サークルフレイム》から。これは火の玉が敵に向かって飛んでいくまでは《ファイヤーボール》と同じなのだが、着弾と同時に周囲に円状の炎が広がる火属性の範囲攻撃魔法である。この魔法の取得によって今まで出来なかった範囲攻撃ができるようになったのはかなり大きい。


 次にスリープだが、その名の通り敵一体を寝かせる魔法スキルである。これと短剣職の組み合わせ、つまりスタブ系スキルとの相性は最悪に最高だ。寝ている奴に後ろからズドン!だからな。


 そして最後に《サモンウッドゴーレム》。その名の通り木でできたゴーレムと呼ばれる人形を呼び出して操り戦わせる魔法である。欠点はコイツを出していると一定の魔力を奪われ続けるところと、取得経験値をもって行くところ。ちなみにウッドゴーレムの場合は20%である、とここまでは普通の人の場合。


 ……そう既に魔改造済み。俺は以前からこの魔法というかスキルをどうやって取得するのか父上に詳しく聞いていた。そのやり方はまずウィザードに転職後、必要量のスキルポイントを貯めてから、小さな樹の人形を用意する。それに血を垂らして契約すると、以後その人形が大きくなったゴーレムが召喚される、ということであった。

 

 ただ基本ゴーレムの姿は誰が使っても一緒、なぜならみんなスキル取得の時にギルドで媒体となる人形をもらってそれと契約するからであり、術者のレベルによってのみその強弱が決まるって事だったんだが……。俺はもちろんそんな慣習や常識に従う気などまったくなかった。


 シランに頼んで手に入れてもらった、剪定のため切り落とされた世界樹の枝、大人が両腕で抱え込めないほど太いそれを、ワトリアの腕のいい木工職人の手のよって丁寧に俺のイメージどおりに作り上げてもらった一品に、俺の血を垂らして契約。


 ――――そして完成したのが、今俺の目の前にある荷車付きの二頭立ての大きな木馬のゴーレムである!依り代となった木彫りの人形の材質が世界樹の枝であった為か、まるで生きているかのように躍動する木馬のゴーレムは、明らかに普通じゃない強さを持っていることが一目で分かる。だってうっすらと光りすら放っているんだもん。



 ……ゲフンゲフン、自重なんてしませんよ?





「うわ~!何これすごいわ!ジオちゃ~ん!はやいはや~い!」


「ちょっ!ちょっと若様!い、いささか速すぎます!奥様もお立ちになろうとしないででください!こら、あなたたちおとなしくしなさい!」


「あはは~すごいです~ご主人様~♪」


「はやいです~楽しいです~ご主人様~♪」


「うにゃ~すごいにゃ~たのしいのにゃ~!」


「うん。決めた。この右の子は、私のもの」



 といった具合にその後昼食までの時間、母上やマリエル、そしてアリアたち4人を荷台に乗せて試運転? がてら庭を猛スピードで爆走していたのだが、そこで大変な事が判明した。


 もっていかれるMPが半端じゃない。まさか普通の《サモンウッドゴーレム》の約3倍とは……。何かを変えるといいことばっかりじゃないって事ですね、反省。


 

 まぁとにもかくにもこれで準備は全て終了した。あとは実行あるのみ。



◇◆◇◆◇◆◇◆



 ということで俺は父上と同じく復活したイナ先生と、エルトリンシティのゲートキーパー前にいるわけなんだが。


「おい、シラン。お前何をやっている?」


 そう、俺の前には例によって例のごとくあの腹黒がいる。しかし決定的に普段と違うところがあった。


「はて? 危険なところにジオ様たちのみを行かせるのは、と思いまして」


「で、その格好は何だ?」


「はぁ、鎧ですな」


「そうだな! 鎧だな! 俺が聞きたいのは、何でその鎧がAグレード重装備であるブラッククリスタルメタルアーマーセットなんだってことなんだよ!」


 ブラッククリスタルメタルアーマーセット、通称BCMアーマーセット。Aグレード重装備のなかでも、攻撃力+5%、攻撃速度+7%などの追加効果を持つことから、攻撃特化型の戦士系職から絶大な支持を受けていた装備で、魔法系職だった俺もそのデザインとかっこよさから大好きだった装備であるが、今この時そんな事はどうでもいい。


 重要なのはそれをコイツが着ているということ。それはつまりシランがレベル60以上の超一流の冒険者だということである。


 ちなみに市場価格の相場は、前世むかしの最後の時期で700万G。おそらく今のこの世界でも最低500万Gを下回ることはないだろう。そしてよく見てみると奴がその手に持っていやがる武器は、Aグレード最強の槍であるサイクロングレイヴときたもんだ!


 さすがのイナ先生も口を大きく空けてポカンと見ている。


 ……あくまで概算かつ予想ではあるのだが、今名前を上げたものだけでも余裕で3000万Gを超えるはずである。


 つまり、こいつは俺の知ってる誰よりも強い。俺はもちろん、イナ先生よりも、そして父上よりも。おそらく装備している物から考えると、こいつの職業はヒューマンの戦士系の内の一つ、バーサーカー。

 

 バーサーカーは、両手鈍器エキスパートと槍エキスパートを持つ攻撃特化職で、両手鈍器による単一の敵に対する単純攻撃力型と、槍による範囲攻撃特化型とその場その場でスタイルを変えることができる為に汎用性が高く、非常に人気のある職業であり、スキルにスタン、つまり一時的に行動不能にする状態異常効果を与える事が出来るものを豊富に備えていた為、対人戦にも強かった。そして最大の特徴は、しぶとい。盾職に比べると、防御力は差ほどでもないのだが、ピンチになると攻撃力や防御力を上げられるスキルや緊急避難でHP回復できたりするスキルを持っていたことから、とにかくしぶとかった。



 ふ~~~~~~~。四角く切り取られた青い空を見ながら、思わず口元に苦笑が浮かぶ。どうやら俺はコイツには一生勝てそうにない。だって俺は今の今までシランが冒険者だと考えた事もなかったんだから。それもまさか、よりにもよってAグレード冒険者。父上に聞いた話だと現在大陸中を探しても20人を超えることはないってきいてる実力者がレベル20そこそこの俺の配下? とかマジでありえない。


とりあえず心気を張って声を出す。


「シラン。まだ俺に隠している事はあるか?」


 ニコニコしながら俺を見ているシラン。その態度はなんらいつもと変わらないものだった。


「さぁ?どうでしょうか?」


 まったく食えないヤロウだよ、お前は。さぁ悩んでいても話は進まない。事実は事実、受け入れるか。


「シラン。手分けして『コレ』をゲートキーパーを使って『ジエンの古戦場』に運ぶ。手伝ってくれ。


……もちろん『飛べる』な?」



 その言葉に小さく頷いたシランに見せたのは、俺の身長より少し低いくらいの高さがある大きな樽10個であった。


 そうして『ジエンの古戦場』に飛ぼうとした俺をシランが呼び止めた。


「ジオ様、実は紹介など微塵もしたいとは思わないのですが、残念ながら紹介させていただきたい者がおります。お目通り願えますか?」


 ん? 珍しく、非常に珍しくシランの眉間に縦じわが。一体どんな人間だろうと、興味を持ってその言葉に頷いてしまったのがいけなかった。


 シランの、お会いくださるそうだ、という声とともに物陰から現れたのは、左右に壮年の男を一人ずつ従えた普通ではありえない桃色のボブカットの女、いや多分女。中性的な顔立ちに女性だとしたら高い、男性だとしたら華奢すぎる体を持った性別不詳、年齢不詳の人間だった。


 その少年のような顔立ちに似合わない真っ赤な口紅を引いた唇からあざけるような声がこぼれる。


「昔なじみとはいえ、自分でわざわざエルトリンまで呼びつけておいて随分ひどい紹介もあったものだね、シラン。失礼、ジオ・パラケルスス・ラ・テオフラストゥス殿。はじめまして、僕の名前はミルアルド・ジョバンニ・フラミンゴ。


――――ミリーって呼んでくれるとうれしいな」



これが俺と天敵2号の出会いであった。



◇◆◇◆◇◆◇◆



「へぇ、面白い事を考えたものだね。

なるほど……、子供だろうがなんだろうが、祝福さえ受けてしまえば冒険者にはなれるのか……。これは完全に盲点だったよ。

それにしても先ほどの君の女装? といっていいのかな? あれにもビックリしたよ。いや、僕も商人の端くれとしてああいうものの存在は知ってはいたんだけど、まさか実際に有効利用している人間がいるとは思わなくてね。いや~、目から竜燐が落ちた思いだ。

ところで、ジオ殿と呼ぶのは堅苦しいから、ジオ少年と呼んでいいかな? どうにも僕は堅苦しいのは嫌いでね。いや、君が貴族のご子息という点に敬意を払わなくはないのだが、君はまだまだ13歳の少年で、僕は先輩の冒険者だし、あと何分僕は貴族のいないギーレン連合共和国の人間だからあまり貴族様というものに対していい印象がなくてね。大陸中の大きな町で商売をしているとどうしても避けるわけにはいかないんだけど、口では偉そうな事を言うくせにやっていることと来たら、僕たち商人よりもよっぽどあこぎな方々が多くて困ってしまうのさ。

あ、別に君のお父上やご家族を悪く言うつもりは、これっぽっちもないから誤解しないでね。ていうか君の父上はあの『爆炎』殿だろ? 昔何度かあったことがあるよ、懐かしいなぁ。あの人にこんなかわいくて大きな子供がいるなんて、僕も歳をとるわけだ……。

あ、ごめんごめん、ちゃんと説明していなかったね。僕は商人としてはギーレン市商業連合の十二人委員会の一員で大陸中で手広く商売をやっているし、冒険者としても、既に学院を卒業してかなりの年月が経ってる上に、ギルドマスターなんかもやってる関係で色々と方々に顔が広いんだよ。まぁ、ただフィリップさんにあったのは前のギルドに所属している時で、その時はまだ普通の冒険者だったけどね。

それにしてもわずか13歳でレベル26? でたらめにほどがあるよね少年。僕もこうみえて商人としても、冒険者としても、かなり多くの人間を見てきたつもりだけど、この僕でさえ少年のような非常識を越えた非常識はほとんどお目にかかったことはないよ。ビックリもビックリ、大ビックリだよ。まったくこの腹黒が入れ込むわけだ。


あとさ少年、本当にすごい黄金の髪と、……だね。


う~ん、見れば見るほど少年は本当にかわいいというか、美しい顔をしているね。本当に男の子? 女の子じゃないの? まぁ僕はどっちでもおいしくいただける人間だからどっちでもいいんだけどね。というわけでどうだろう? 今夜お互いについての理解を深める為に、僕と仲良くしない? もちろんベッドの上で。シラン、いいよね?」




 そのあまりの長口上に眉間に深い縦皺を刻み込みながら、器用に片眉だけ上げ一瞬考えた後、小さく頷くシラン。頷くシラン? 頷くシラン!




 いいわけあるかぁぁぁああああああああああああああああああああああ!!


 というわけでってどういうわけだコラァァァァァアアアアア!!


 あとあんたバイセクシャルかぁああああああああああああ!!


 そして、シラン!そこで頷くんじゃねぇぇぇええええ!! お前さては微妙に俺の敵だろ!気づいてたはいたけどさぁぁぁぁぁあああ!!



◇◆◇◆◇◆◇◆



 俺の魂の絶叫の後も、まったく気にした素振りも無く、年齢、性別不肖でバイセクシャルなミリーさんはしゃべるしゃべる。その狩場としての特性上、やはり陰鬱な雰囲気のする『ジエンの古戦場』の重苦しい空気でさえ、彼女の軽すぎる口を止める事などでできはしなかった。それは俺に、日本式の葬式に紛れ込んだ陽気なジャマイカンの姿を幻視させる程であったのだから。


 そしてマシンガントークの合間を縫って、ネズミを狙う蛇みたいな目で俺を見るのはお願いですからどうかやめてください! 怖いから! 危ないから! 主に貞操が!


 まぁ気を取り直して、今俺と一緒に目的地であるあの場所に向かって歩いているのは、6人。俺、イナ先生とシラン、ミリーさんとその護衛らしき男二人である。


 護衛の二人のうち一人は、いかにも戦士といった風貌だが、何ともいえない愛嬌のある顔つきをした屈強そうな大男。装備がBグレードのフィールドアーマーとタワーシールドという超重装備な所から職業はほぼ間違いなくパラディン。ヒューマンの盾職の一角であり、その防御力はとにかく鉄壁の一言である。


 もう一人は苦労性なのが一目で分かる細身の男の人。……こっちはちょっと分かりにくい。装備がルーンローブセットなので、大男と同じくBグレード以上の実力者なのは間違いないのだが魔法職の場合、装備だけではなかなか職業が確定するのが難しいのである。ちなみにルーンローブセットはBグレードの魔法職御用達で、最大MP+10%、魔法詠唱速度+10%、MP回復力+5%、移動力+5%という超優良装備であり、レベル60以上のプレイヤーでもそのまま使っていた人が多いBグレードで最高の人気を誇ったローブ装備である。攻撃、補助、回復そのどれにも適性を持つその性能故に魔法職のBグレード冒険者の場合、見た目での見分けはほぼつかないと言っていい。当然俺もBグレード当時は装備していたし、その後も手放したりはしなかった一品である。


 そんな上級冒険者にも関わらず、しきりに目で俺に謝ってくる哀愁漂う彼らには思わず涙が出そうだ。


 ………ご苦労お察しします。


 そしてミリーさん本人は、俺にとってすごく『懐かしい』格好をしていた。それは複雑な魔法紋様が刻まれた真紅のローブ、スカーレットジュエルローブセット。Aグレードの攻撃系魔法職の御用達品であるそのローブは、セットで装備すると魔法攻撃力+10%、魔法詠唱速度+7%、物理防御力+5%、状態異常・沈黙・睡眠に対する抵抗力+30%というそのグレードと名にふさわしい装備なのである。このことから必然的に彼女? もレベル60以上の実力者であり、さらに攻撃型魔法職、つまりソーサラーかカースメーカー、もしくはアルケミストであることは間違いないということである。


 それにしても懐かしい。《New World》時代、1年以上もあれが俺のメイン装備だったのだから。………まぁ、俺のローブにはあんな太ももが全てあらわになるようなスリットなど入ってはいなかったのだが。


 それにしても数日前にも通ったモンスターに遭遇しにくいルートを歩きながら俺は考える。何故シランはわざわざ自分が高位冒険者であることをこのタイミングで明かした? 何故この場に他の高位冒険者であるミリーさんをわざわざ呼んだ? 俺はシランにはっきりいって直接的な戦闘力など求めた事もなかったし、Aグレード冒険者だと分かった今後もそれを求める事はあまりないだろう。せいぜい対人戦の訓練相手になってもらうくらいだろうから。ということはシランがわざわざそのカードを切ったのはミリーさん達をこの場に同席させる為、と考えるのが妥当か。

 となると問題は、ミリーさんをこの場に呼んだという事。それはつまり俺が3年がかりで用意した隠し玉を彼女に見せたいというシランの意志の現れである。しかも俺に事前に何の相談もなしに。事前相談が無いのは今に始まったことではないが、それにしてもこれまでの件とこの件では重要度がまるで違う。これはさすがに見過ごせない。


 さて。


「シラン、ちょっと」


「はい」


 いつものようなアルカイックスマイルではない真剣な顔つきのシラン。どうやら俺に呼ばれるのは予想の範囲内だったようである。そして俺が何を考えているのかも。


 

 ………場合によっては主従関係の解消も考えないといけないな、今回は。まったく密度の濃すぎる休暇ですこと。



◇◆◇◆◇◆◇◆



「ということで理由を聞こうか?」


 今俺はシランと二人だけで他の4人からは離れた場所にいる。さすがにこの位置からでは彼らに声は聞こえないだろうから、まぁ二人きりだ。


「ここにわざわざ彼らをつれてきたからには、『アレ』を見せるということだ。俺は『アレ』を他の人間に教えるつもりはないんだが? しかもあの人は自分のことを商人といった。お前は『アレ』を売る気なのか?」


 俺のその言葉にシランは表情を変えずに答える。


「最初にこの度のこと、ご相談をせずに図りました事について心よりお詫び申し上げます。その上で失礼を承知で申し上げます。今回のこの事、ジオ様にしては大変珍しい完全な失着でございます。何故なら『アレ』を使う場所はどうしても衆人環視の狩場です。全ての人間の目をふさぐには私の手は足りませんし、さらに一度流れ出したうわさを止める事など誰にも出来はしません。もし今回の事ジオ様のみで行われても、いずれは周囲にばれることは避けられなかったでしょう。今でなくてもこの先、『アレ』を使う限りいずれそのことは広まります。


であれば、それを少しでも遅らせる為に、そしてジオ様から目をそらさせる為にも、信用できるものに一枚噛ませる、というのがまず最大の理由でございます」


 ……失着とは、いつもながらはっきりということだ。そして確かにその通りだろう。リスクが否定できない。『アレ』はどうやったとしても目立つ。だからその性質上秘密にするという事は不可能なのだから。

 そしてシランが今回の事を強行した理由もおおよそ読めた。俺もシランの行動原理はこの数年の付き合いでほぼ完全に把握しているからだ。シランは基本俺の考えを受けて諸処の物事を進めていくのだが、その過程で問題にぶち当たった時に積極策をとるか消極策をとるかの判断基準は、どうやらシラン自身がその事態のコントロールができるか否か、らしい。つまり数年がかりで準備した成果を試せることで浮かれきっていた俺とは違い、その先を見通した上でこのままでは危険と判断し、俺の計画と考えに修正を加えるべく無理やり彼らをこの場に立ち合わせたということか。


「……目をそらさせるって言うのは、具体的にはどういうこと?」


「我々で製造したものではなく、買ったものとすればよろしいのです。伴うリスクは大幅に減少する事は間違いございません」


 なるほど。故に商人でもあるあの人を呼んだと。


「じゃあ、彼女……でいいのかな? は何者だ?」


「私の昔の知り合いで、本人が言った通り商人であり冒険者でございます。非常に忌まわしい事ですが、その双方において大陸有数と言って過言ではなく、残念ではありますが今回の件において私の知る限り奴以上の適任者が存在しなかった為に、ジオ様には大変ご不快な生き物をお見せすることになってしまい誠に申し訳ありません。……あと一応女です。世の全ての女性に対する冒涜でしかございませんが」


 なるほど。あの人はシランも認めるほどの大物ってことなのか。ならその『嘘』にも信憑性が出るだろうな。ただ仮にもそんな大物で、わざわざ来てもらった昔の知り合いにその言い草はさすがにひどくないか? そしてようやく性別判明。女の人、と。一応、女の人、と。


「あちらのメリットは……、『アレ』の独占販売権か?」


 重々しく頷くシラン。


「そればかりは仕方ないかと。但し、搾り取れるだけ搾り取りますが」


 まぁ妥当な範囲だろう。商人が利益無しで動くはず無いからな。ただ『アレ』の性質上あまり広めるわけにもいかないのだが、その辺はうまくシランがやるだろうさ。あと怖いです、シランさん。


 ……そして最後に確認。まったくいつもながら俺はまだまだだと思うよ。


「シラン、本当にいいのか? 俺で」


 俺がそう言うとシランはにっこり笑って言う。


「もちろんでございます」


 なら、俺から言う事はもう何もないや。いや聞きたい事は山ほどあるが、それは俺とシランの関係においてそれほど重要じゃないから、な。


「じゃあこの話はここでおしまい。今回の件はお前のシナリオに任せるよ。あと以後こういう場合は一言相談してからにしてくれ。さすがにいつもいつも事後承諾では神経が持たないから」


 心の中で、ありがとうと一言そういって歩き出した俺の後ろにこれまでと同じようにシランが続く。まったくいろんな意味で俺には過ぎた従者(参謀)殿だよ。


 そう思いながらみんなのところへ向かって歩いていた俺たちにミリーさんの一言。


「お二人さ~ん。男同士の愛情は非生産的だよ? 僕が言うのもなんだけど」


 

 ……何というか色々と台無しだよ!あんた!

お読みいただきましてありがとうございます。

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