第十六話 長期休暇は大変だった ⑦
翌日。
俺が目を覚ましたのは、窓から差し込む光から考えるに既にお昼前という時間だった。
ベッドで上体を起こしたのだが、二日酔いのせいか頭がグラングランする。
まったく毎年毎年未成年に無理やりお酒を飲ますのはいけないと思います。
昨日はとにかく大変だった。
父上は酔っ払ってゲラゲラ笑いながら《爆発》(エクスプロージョン)を連続でぶっ放し、母上は二樽分(!)ものワインを空けてからようやく俺に抱きついて撃沈し、逃げ切れず母上のペースに付き合わされたイナ先生はいつものクールな姿がまるで嘘のように酒樽に頭からはまってそのまま動かなくなり、アニーは酔っ払った使用人のお姉さんたちにその歳と体に似合わぬ巨乳を弄られまくり、といった阿鼻叫喚の地獄絵図の中、俺は何とか使用人や俺の奴隷さんたちがよってたかって飲ませようとするのを飲まされながらも脱走し、半分以上つぶれながらも命からがら正気を保ったままその場を逃げ切った。
後に残ったのはアリアなど子供たちとじぃ、そしてマリエルと俺だけという惨憺たる有様。
毎年の事とはいえ………これだから大人は!
とにかく俺は父上と母上を何とか寝室に運び込み、一息ついた時には時間は既に深夜。
そこで限界を迎えた俺は後をじぃとマリエルに託し、そのままグラグラする頭を抱えて部屋に向かった所までしか記憶がない。
あの後大丈夫だったんだろうか………。
ふ~とため息をつきながら、立ち上がるためにベッドに左手をつこうとしたら、
「………あん」
という声。
左手に何かあったかくて柔らかいものがと思い、なんだろう? とそれを軽くにぎにぎしているうちに急激に覚醒する意識。
青ざめながら左手の先を見てみれば―――――。
メイド服の胸元からこぼれ落ちた最近発育いちじるしいシルウィのおっぱいを俺の手がもろにつかんでいた。
「………ご主人様の、………エッチ」
急いで手を引っ込める俺。頬を赤くして俺を見つめるシルウィ。
やばい、ヤバイ、YABAI!
そうして冷や汗を垂れ流していると聞こえてきたあまりにも聞きなれた足音。
ノックと「若様失礼致します」の声とともに開かれるドア。
………沈黙。
「………失礼しました。ごゆっくりどうぞ」
速やかに閉まっていくドア。
待って!違うんだ!マリエル!俺は断じてロリじゃないんだ!
すぐさまベッドから飛び起きて必死の弁明に向かう俺!
………まさかどこより安全なはずの自分の部屋で、人生最大の危機が俺に訪れようとは思いも寄らなかったぜ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
新年早々の大ピンチに二日酔い気味の頭で、持てる言語能力の限りを使ってどうにか対処した俺は、時間的にそう呼んでいいのか不明だが朝食を食べずに庭にある農園に向かった。
あの後で食い物食えるほど俺の胃袋頑丈じゃないもの。
空は快晴、雲ひとつなく澄み渡った空。だが今は雨季という事もあり油断は禁物。いつ雨が降り出すか分かったもんじゃないからな。
だから雨が降らないうちに何とか次の段取りを進めてしまいたいんだが、なかなかままならん。雨が降ってしまえば、乾燥のために最低2、3日必要になるし。
いくら予定通り転職クエストを終えたとはいえ、残り10日。正直時間に余裕はまったくない。
………父上は今日一日ぶっ壊れたままだろうから、転職もできんしな。
まったくまだまだ頭が痛いことだらけである。
実際今二日酔い的に俺の頭も痛いが。
そう思いながら右にふらふら、左にふらふらと2、3分歩いて行くと通いなれた俺の農園が見えてきた。
作った当時の小さな畑が少しあった頃とは違い、今ではまさに農園の名にふさわしい規模へと成長を遂げている。
東Oドーム2個分ほどの規模にまで大きくなっているからな。
ここで働いてくれている人は今では総勢15人。あと子供が2人。主に俺や父上が使う薬草類や秘薬などを扱ってくれている。
そしてこの1年で一番変わったのが牧場。最初は鶏や豚が数頭って感じだったのだが、食糧生産の実験と、とある理由から今ではまさに牧場。
自分の家の庭に農園と牧場があるシュールさ。うん、筆舌しがたいものがあるね。
まぁなんにせよ、これをやって一番良かったのが朝一番の手作りバターだ。あっさりとしているのにコクがあって前世食べていた工場生産の小売のバターとはまさに比較にならない素晴らしい味で俺の朝食にいろどりを添えてくれている。
いや工場生産が悪いって事じゃなくて、手作り作り立てがすごいって意味だから勘違いしないように!
ちなみにこのバター、特に母上が大のお気に入りで自分でも作りたいのかたまに使用人さんやアリアたちを引き連れてバター作りをしたりしているらしい。
おっと………。またついつい本題とは無関係なところに思考が飛んでしまった。悪いくせだ。
というわけで父上がああゆう状況の為、今日出来そうなことをする為に俺はここに来ているのだ。
泉のほとりに立つ一番大きなレンガ造りの家のドアを叩く。
「は……い。誰で……すか?」
中から聞こえる半死半生の男の声。
「ジトー、ジオだ。入るぞ」
そういってドアを開けると中には幸せそうな顔で寝ている黒い髪の小さな赤ん坊と、それとは対照的に二日酔いで死にそうな顔をしているある夫婦の姿があった。
「こ、これはジオ様!も、申し訳ありません、お見苦しいところをお見せいたしまして………」
頭を抑えながら俺に真っ青な顔で話しかけてくるジトーの、そのあまりの姿にさすがに呆れてしまう俺。かろうじて起きだしてきて頭を俺に下げているセロン。こちらも顔は真っ青。
二人とも飲みすぎだ!
「ジトー、セロン。飲むなとは言わないが、毎年その体たらくはどうかと思うぞ? シュバルツの教育にも悪い。もう少し考えるように。
まぁお小言はこのくらいにして………。『アレ』を持ち出す。今数はいくつある?」
「ア、『アレ』でございますか? 現在15個あるかと。全て倉庫にございます」
そうか、思ったよりもいっぱい出来てた。これなら大判振る舞いもアリだな。さすが俺の従業員、いい仕事してるぜ。
「よし、5個持って行くよ」
俺のその言葉に違う意味で顔を真っ青にする二人。
「『アレ』を………、5個も………ですか? 失礼ですがジオ様、あまりに危険ではありませんか? もし街中で………」
俺の言葉に泡を食って止めにかかるジトー。あぁ、そりゃ心配だよね。『アレ』がどういうものか全部知ってるもんな。
そう思い二人を安心させる為にニッコリ笑いながら、
「大丈夫。ポーチで運ぶから仮に外が火の海でも俺が中から出さない限りどうにかなったりしないよ」
と教えてやる。魔法のポーチに入っている限り俺が出さない限り外部からの干渉は不可能だからだ。
「というわけで5個持ち出すので、みんなにも後で言っておいて。あとコレ。」
そういってポーチから小さな濃緑色のポーションを取り出す。途端に俺の心遣いはうれしいのだが、その薬はちょっと………という感情が絶妙に入り混じった顔をする二人。
「飲んでさっさと二日酔いを治すこと!
………まずいのは自業自得だ」
そう、渡したのは俺特製の二日酔いに効くポーション。効果は絶大だが………とにかくまずい。わざとまずく作ってるからな。いい気味だ!悪い大人たちめ!
そう言い放ってジトーの家から立ち去る俺。今の俺は正義だと思う!
その後、倉庫にあった『アレ』を一度に4つポーチに入れて運ぼうとしたら、重量オーバーで一歩も動けんかった………。
その後何とか移動可能な数だった二つずつ、引きずるような足取りで屋敷の前まで持っていった後、そこでじぃに荷馬車を用意してもらってゲートキーパー前まで運び、変身マントで変装(?)して何度もエルトリンシティの俺の宿を往復してそのクソ重たい樽を5個預かってもらっておいた。
取り扱いを厳重に注意してからな。
さてと、農園を作り始めてからおよそ3年………。ついに実戦で使いますよ『アレ』。
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