第十一話 長期休暇は大変だった ②
戦士ギルドから出た俺は急いで家に戻り、帰宅の挨拶もせず部屋に飛び込んだ。
マジで時間がない、急がなくては………。
一応、母上から今日を含めて2週間のモラトリアムをお許しいただけたとはいえ、ソレはソレとして、3日後、つまり年が新しく変わる日には、俺は『絶対に』家にいないといけない。
このことについては前にも少し言ったと思うが、その日が新しい一年の始まりだから、というのが一つ。
そして、その日が『今の俺』がこの世界に生まれた日だから、というのがもう一つである。
普通の家庭では、家族で新しい年を迎えられた事を感謝しながらつつましく過ごす日らしい。
そしてこれは貴族も例外ではない。
しかし我がラ・テオフラストゥス家は一味違う。
一年間で一番派手に、父母を含めた家の人間全てがはっちゃける日なので、この日に俺がいないとなると、両親二人がどれだけ暴走するか想像するのも恐ろしい………。
最悪、洒落や冗談ではなく屋敷が吹き飛ぶかもしれない。ガクプルものです。
そして実際問題として、転職が無事終わっても、まだ実験を兼ねたレベル上げと、アニーの眼鏡を手に入れるという予定が残っているのだから、とりあえず転職は2つとも3日で終わらせなければ後がつかえてしまうのだ。
あと俺だって新年ぐらい、少しのんびりした気分で迎えたいんだよ………。
そんな事を考えながら同時に、雑然とした部屋の中から、必要そうなものを片っ端からかき集めて行く。
まず装備一式。
ミスリルダガー、エルダーウッドワンド、そしてシルバーウルブズレザーメイルセット。
今の俺の命を預ける頼れる相棒達である。
輝かんばかりに美しい銀色の狼皮をなめして作られたこの皮鎧一式は、非常に堅牢でありながらまったく体の動きを妨げる事はない。
ダガーもワンドもその高い力を、触れただけで感じさせてくれる。
さすがはDグレード最強の武器防具たちである。
そして愛用の魔法のポーチ―――俺はこれを父上から譲り受けたのだが、正式には本来学院を卒業する時に渡されるマジックアイテムで、見た目はただの小さな皮製のウェストポーチ、しかしてその実態は、ほとんど某青狸さんのお腹のポッケレベルの代物なのだ。
2mを超える長物であろうが、フルプレートアーマー一式であろうが、らくらく飲み込んでしまうのだから。
勿論限界は存在し、このポーチに入れておけるのは、品数にして30個、重さにして5000イラ=500kgまでである。
それ以上の品物は入れられないし、それ以上の重さを入れると重量の呪いがかかってしまい、体の動きが死ぬほど制限されてしまう。
まぁ、一言で言えばMMORPGでよくあるアイテムであるのだが。
………これ日本で売ったら、いったいどのくらいで売れるのか見当もつかねぇわ………。
そんな何気にとんでもポーチに、各種回復ポーション、魔法のカンテラ、帰還のスクロールなどなど、必要になりそうなものをありったけ詰め込んでいく。
とりあえず最低でも今日中に、ワトリアでやらなきゃいけないことまで終わらせないと、スケジュール的に確実に間に合わなくなってしまう。
今回の一連のクエストだが、実際のところ今の俺の力なら正直まったく問題なくソロで達成可能である。
『普通』のプレイヤーには困難極まりないソロでのクエスト達成も、今の俺には何の問題もないし。
だって俺チートだもの。
そもそも最大の関門であるイアナゴブリン家族狩りだが、以前俺が学院入学前に倒していたのが、狩場最奥付近をうろうろするデフ盆地最強のイアナゴブリンジェネラル家族。
そして今回狩らなければいけないのは、中層でうろうろしている狩場内で真ん中くらいの力しかないイアナゴブリンチーフ家族の中の、イアナゴブリンメイジやクレリックなので普通にいって楽勝過ぎる。無双さえできる。
我ながら規格外にも程があるぜ。
通常このクエストをソロでやろうとすると、レベル20、そしてDグレード上級装備が必須なのだが、全部持ってる上にさらに俺はチートだし。
うん、所詮世の中金が全てだということだよ、明O君!
まぁ正直俺はEグレード装備でも、ソロでやる自信はあるがな!
まぁ、つまり何が言いたいのかというと、今回問題なのはクエスト自体の難度ではなく、今日から3日間という時間制限とそして狩場までの距離である。
《New World》では、死ぬほど便利なゲートキーパーを使用するために、大きく二つの条件が存在する。
1、使用開始の為のクエストを達成する事。
2、一度自分でその狩場や町に到達した事があること。
この二つ。
俺は、1は問題なくクリアしている。8歳の時にやったからだ。
今問題なのは2の、『一度自分でその狩場や町に到達した事があること』
これが今回に限っては大問題なのである。
もし今回のクエストで全てゲートキーパーを使える状態なのであれば、正直半日かからずに終わらせる自信、いや確信はある。
しかし、今回行かなければならない『マイサの森』、『デフ盆地』、『カイゼラ湿原』、『アイエオーク駐屯地』、『ジエンの古戦場』のうち、今現在俺がゲートキーパーから飛べる場所は『デフ盆地』のみ。
それ以外の4つの狩場には直接歩いていかないといけない。だってまだ行った事ないから。
つまり単純に移動に時間がかかるのである。
ここでレンジャークエストを含めた段取りを、改めて説明しておこうと思う。
ウィザード ワトリア魔法ギルドのテオフラストゥス(父上)と会話 >
レンジャー ワトリア戦士ギルドのアスナイと会話 『レンジャー試練の短剣』と『レンジャー試練の弓』を入手後ゲートキーパーでエルトリンシティへ >
ウィザード エルトリンシティ魔法ギルドのエンデルと会話して、クエストアイテム『魔術媒体目録』を入手後、ゲートキーパーでワトリアへ >
レンジャー ワトリア西の『マイサの森』で、『レンジャー試練の弓』を使い、『ブラウンベアー』を5匹倒してクエストアイテム『茶熊の毛皮』を5枚入手後、帰還のスクロールでワトリアへ >
レンジャー ワトリアのゲートキーパーから『デフ盆地入り口』に移動後、『レンジャー試練の短剣』を使い、『パイソン』を5匹を倒してクエストアイテム『パイソンの蛇皮』を5枚入手 >
ウィザード そのまま『デフ盆地中層』に移動して、『イアナゴブリンメイジ』か『イアナゴブリンクレリック』を合わせて5体倒してクエストアイテム『魔術師の頭骨』を5つ入手後、帰還のスクロールでワトリアへ >
レンジャー ワトリア戦士ギルドのアスナイと会話、クエストアイテム『パイソンの蛇皮』5枚と、クエストアイテム『茶熊の毛皮』5枚を渡し、『レンジャー試練の短剣』と『レンジャー試練の弓』を返却、代わりにクエストアイテム『アスナイの推薦状』を入手後、ゲートキーパーでエルトリンシティに移動 >
ウィザード エルトリンシティ魔法ギルドのエンデルと会話してクエストアイテム『魔術師の頭骨』5つ渡す >
レンジャー エルトリンシティ戦士ギルドのウィテムと話して、クエストアイテム『アスナイの推薦状』を渡し、代わりにクエストアイテム『ウィテムの依頼書』を入手 >
ウィザード エルトリンシティ南のカイゼラ湿原で『カイゼラリザードマンウィザード』か『カイゼラリザードマンシャーマン』を合わせて5体倒し、クエストアイテム『魔術師の心臓』を5つ入手後、帰還のスクロールでエルトリンシティへ >
ウィザード エルトリンシティ魔法ギルドのエンデルと会話してクエストアイテム『魔術師の心臓』5つ渡す >
ウィザード エルトリンシティ東のアイエオーク駐屯地で『アイエオークメイジ』か『アイエオークウィザード』を合わせて5匹倒し、クエストアイテム『壊れた魔術師のワンド』5つ入手 >
レンジャー エルトリンシティ東のアイエオーク駐屯地でクエストモンスター『アイエオークスカウトリーダー』を倒して、クエストアイテム『奪われた伝令書』を入手後、帰還のスクロールでエルトリンシティへ >
ウィザード エルトリンシティ魔法ギルドのエンデルと会話してクエストアイテム『壊れた魔術師のワンド』5つと、クエストアイテム『魔術媒体目録』を渡して、代わりにクエストアイテム『魔術師の証』を入手 以後各町の魔法ギルドのギルドマスターに「転職をする」と話しかければ、一定の経験値とスキルポイントを獲得してウィザード転職クエスト終了
レンジャー エルトリンシティ戦士ギルドのウィテムと話して、クエストアイテム『奪われた伝令書』を渡す >
レンジャー エルトリンシティ南東の『ジエンの古戦場』で、クエストモンスター『ジエンバンディッドスカウト』を倒して、クエストアイテム『奪われた荷物』を入手後、帰還のスクロールでエルトリンシティへ >
レンジャー エルトリンシティ戦士ギルドのウィテムと話して、クエストアイテム『奪われた荷物』とクエストアイテム『ウィテムの依頼書』を渡し、代わりにクエストアイテム『ウィテムの推薦書』を入手 以後各町の戦士ギルドのギルドマスターに「転職をする」と話しかければ、一定の経験値とスキルポイントを獲得してレンジャー転職クエスト終了
以上である。
うぅわ~自分で整理した最短ルートとはいえ、マジでめんどくせぇ。
これを3日でやれと? かる~く気が遠くなるぜ。
そしてその先に待つ、アルケミスト転職クエストの異常なまでのめんどくささを思い出してげんなりとしてしまう。
だって大体これの5倍はだるいから。
………愚痴っていても仕方ない。
最後にエルトリンシティにゲートキーパーを使っていっても目立たないようにする為、シランから届けられた表地は黒、裏地は真っ赤ないかにもマントらしいマントであるこのアイテム、『変身マント』を身につける。
まだ休暇前に届いた『コレ』を俺は使ってはいなかった。
能力は読んで字のごとく、姿を変えることができるようになるマントである。
《New World》には、能力を上げる装備以外にも、様々なものが存在する。
それがいわゆる『おしゃれ装備』だ。
例えば、蝶ネクタイ。これはスキルを使うと顔だけ大きくなる。
例えば、各種動物の耳。ネコ、イヌ、タヌキetcetc……。ワーワイルドは装備が出来ないが、その他の種族のプレイヤーには大人気だった。
例えば、アフロ。それ以上は聞かないでくれ、ブラザー。男のソウルだぜ。
その他そういうおもしろアイテムがたくさん存在したのだが、その中の一つがこの『変身マント』である。
これは各マントに備わっているデフォルトの姿に変身できるようになるマントで、姿だけでもエルフやワーキャット気分を楽しめる人気アイテムであった。
ちなみに俺が死ぬ直前のゲーム内流通価格は、ワーキャットの男のものが50万G。
Cグレード装備が一式買えるほどであった。
ちなみに俺の今の全財産より高いのは、間違いない。
そして俺はもちろん持っていた。それどころかこの変身のために、普段まったく使いもしない各種A~Eまでの軽装備セットを一通り持っていたほどの狂いっぷりであった。
(合計金額は楽に3000万Gを超えていた、当時の俺からするとはした金だったんだが)
あともちろん各色羽付き帽子も持っていたぜ!赤、青、緑、白、黒の五色。
一番人気の赤は、ゲーム内の流通価格が最低100万G超えてたかな?
すまん、話が脱線したな。
今回手に入ったのはヒューマンのもの、値段も安くて1万G。
いや、基本キャンペーンアイテム(運営が何かの記念に、ゲーム内でキャンペーンイベントを行い、様々な特典やアイテムをプレイヤーに提供するイベントの時に手に入るアイテムの事)だから、無いのも覚悟していたが、『何だか良く分からないアイテム』扱いで、たまに市場に流れてくるものらしい。
よし、他も見つけ次第買い叩くとしよう。特にアフロは絶対買う!
そう心の中で熱い決意をしたところで、まずこの『変身マント』で変身できるのがどんな奴なのか確認しておかないとと思い、俺は自室の姿見の前で、この世界で初めての『変身』スキルを発動させた。
魔法をはじめて使ったときやポーションを初めて作れたときなど、こういうドキドキがあるからこの世界はやめられない!
発動の3秒後、桃色の光と星に包まれる俺!
次の瞬間鏡に写ったのは、シルバーウルブズレザーメイルに身を包んだブロンドヘアの若いかわいい姉ちゃんの姿。
あっれぇ~? これ誰? 何で女なの? ヒューマンの男じゃなかったの?
「何じゃこらああああああああああああああああああああああ!!!」
姿見に映るまったく見慣れない女性の口から出た非常に聞きなれた自分の声での絶叫が、静かな午後のラ・テオフラストゥス家に響き渡ったのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
俺の屋敷中に響き渡るほどの大声を聞きつけて、急いで俺の部屋にやってきたマリエルをはじめとした家人たちに「何でもないから!」とドア越しに言って引き取ってもらった。
だってさ、こんな姿見せられるかよ!
昔住んでいたワンルームとは比較にならないほど広い、住み慣れた石造りの『現在』の俺の部屋。
周りを見ると荷造りの後なので、そこかしこに様々なものが散らばってしまっている。
そんな中あらためて自分の姿を鏡で見てみると、映っていたのはいつもの見慣れた自分ではなく、俺愛用の装備に身を包んだくりっとした緑色の瞳をした短いブロンドヘアでかわいらしいという言葉がぴったりのお姉さん。
これが自分の姿なのだというのだからマジで欝になる………。
とりあえず『変身マント』の変身解除スキルを使い、再び桃色の光と星に包まれながら変身を解く俺。
次の瞬間、鏡には見慣れた俺の姿。
もう遠い昔に見慣れてしまったブロンドというより黄金というべきド派手な色の髪と、誰からも珍しいといわれる紫色の瞳。
こんなに鏡に映る自分の姿に安心するのは初めてだわ。
まぁマントの細かな検証は、またゆっくり時間のある時にやるとしよう。
さて、とりあえずとり急いでの最優先事項は………盛大に文句を言う事。
ウェストポーチから念話石を取り出す。
もちろん繋げる先は、あの腹黒クソ野郎だ!
―――――シラン!どういう事か、説明してもらおうか?
―――――これはこれはジオ様。いきなりどうなさいました? 何か大変にご立腹のようですが?
―――――何で女に変身するんだよ!?
―――――はて? あぁ、『変身マント』でございますね。いやぁ、あれはなかなか面白い代物ですなぁ。あのようなものがあるということ、私ジオ様から伺うまでまったく存じ上げませんでしたので。
―――――俺は何で女なんだ? って聞いてるんだが?
―――――はて、これは異なことを申されます。私は『ヒューマン』に変身可能な『変身マント』が手に入りましたので、お送りいたしますと確かに申しあげたはずですが?
―――――あっ!
―――――どうなさいました? ジオ様?
―――――………………………いや、もういい。今夜はエルトリンシティで宿を取るつもりだから、その手配を頼む。
―――――それはそれは。かしこまりました、ではお待ちしております。あぁ、お部屋は男性でお取りしましょうか? それとも女性がよろしいですか?
―――――ッ!
ここで念話を強制的にガチャ切り。
うがぁあああああああああああああああ!
そして、俺ベッドに轟沈。装備身につけたままじたばたしたもんだから痛いのなんのって。
こんなアホなことで時間つぶしてる余裕なんて無いのに!
く~や~し~い!
そうだな、確かに『ヒューマン』に変身する『変身マント』に違いないわ。
間違ってはいない。
単純な思い込みと、いわゆる言葉の綾ってやつに見事に引っかかった俺が悪い。
悪いのだが!
あの思念越しに伝わる隠し切れない爆笑の気配!
イタズラが成功した後、自分が悪いんじゃないよ~って逃げ道をきっちり確保しているあのやり口!
そしてあの最後の『余計な一言』!
あの腹黒野郎、絶対に確信犯だ!今頃腹抱えて笑ってやがるに違いない!ちっきしょおおおおおおお!いつか見てろぉぉおおおおおおおおお!
………我ながら典型的な負け犬の台詞だよな、いつか見てろって。
遠くで大きな鐘の鳴る音がすることから、もう時間は正午か。
あ~急にお腹が減ってきた、お昼にしよう………。
◇◆◇◆◇◆◇◆
あ~お腹いっぱい、もうこのまま寝てしまいたい………。
そうもいかないか、ただでさえ遅れ気味なのに。
食後しきりに俺を引き止める母上の視線を振り切った俺は、歩きなれた石造りの廊下に出てから屋敷一階の奥にある調理室に向かう。
さっきまでに用意した物の他に、まだ足りないものがあるからだ。
食料と水。
これがゲームだった頃との最大の違いかもしれない。
そう、当たり前なんだがこの世界ではお腹が減る。
MMORPGの中には食料ゲージのあるものも少なくなかったが、《New World》には存在しなかった。
だからひょっとしたら………なんてことを思ったこともあったが、そんな事はまったく無く、この世界でも何はなくとも腹は減る。
むしろ今の俺は12、3歳どころか成長期にしても食いすぎなくらい、食事の量が半端ではない。
毎食軽く普通の成人男子の3倍は食べているだから。
父上曰く、「冒険者はとにかく腹が減るもの」だそうなのだが、さすがに最初はビックリしたものだ。
ちなみに先ほどの昼食で食べたのは、一抱えもあるパンに、鶏の丸焼きをほぼ一匹、香草サラダと野菜のスープといったもの。
おいしゅういただきました。
閑話休題
つまり今回俺はほぼ初めての泊まり有りの遠征に出かけるので、食料と水の携帯は絶対といえるだろう。
お腹減ったら死んじゃうもん。
「若様、ではこれを」
俺が幼い頃からうちの屋敷に仕えてくれている料理人のセバグが、その小太りの体つきに似つかわしくない手慣れたすばやい手つきで瞬く間にお弁当を用意してくれた。
子供の頭ほどの大きさのパン、大き目の干し肉の塊、さらにガラスで出来た半透明の水筒をそれぞれ2つ。
ありがたい、これでようやく出発できる。
きちんとお礼を言って厨房を後にしようとすると、ご無事のお帰りをとその場にいた使用人みんなが送り出してくれた。
何だか心が少し温かい感じ。
よし、行くか!
念話石を取り出し、イナ先生に向けて思念を飛ばす。
―――――イナ先生、準備が整いました。ゲートキーパー前で落ち合いましょう。
間髪いれず帰ってくる「了解」との返事。
急ぎ足で屋敷から出て、ワトリアの市外に向かう。
普段ならゆっくり歩いて30分ほど距離だが、今は少しの時間も惜しい。
腰のポーチから、今回の秘密兵器を取り出す。
小さなビンに入った濃緑色のポーション。
『高級移動速度向上ポーション』、一個500G也。
ちなみに俺は父上に作ってもらった。これはCグレード作成ポーションだからな。
これの効果は移動速度が一律300上昇するというもので、魔法だと『ファストウォークLv2』に相当する。
分かりやすく別の例で言い換えると、移動に鈍行列車と急行ぐらいの差が生まれるのである。
今回の俺の作戦は単純。
『高級移動速度向上ポーション』常時がぶ飲みで、とにかく高速で目的地に到着し、目的の行動を終わらせる。
これだけ。
いや~馬に乗れればよかったんだろうが、あいにく俺は乗馬は未経験で。
どうせ将来『ワイバーン』とか『ライドリザード』手に入れるし、馬とかいいや~と思ったのが失敗の元です。
シランに『リトルリザードの笛』を探しておいてもらうとしよう。
あれ手に入れるクエストはレベル40以降からだし、おまけにクエスト開始ポイント遠いしなぁ………。
市場に出回ってればいいんだけど。
あぁ、『ワイバーン』や『ライドリザード』は乗り物になるモンスターで、専用のアイテムで召喚できる。
それで『リトルリザードの笛』ていうのは、『ライドリザード』の幼生である『リトルリザード』を呼び出す為のアイテムで、『リトルリザード』は連れ回してレベルを上げてやればやがて『ライドリザード』に成長する。
ちなみに『ライドリザード』は歩きの速度の5倍は速い上に、モンスターも怖がらないので、馬よりもいい乗り物である。
さらに乗り手の移動速度上昇の効果も乗るので、徒歩と比較すればまさに新幹線と呼ぶにふさわしい。
そして『ワイバーン』は飛ぶ。早い。色々制約もあるけどものすごい便利。
まぁもう一個考えてる事もあったしな、移動手段に関しては。
そんなこんなで乗馬の訓練はしていなかった、反省だな。
まぁこれで馬車で移動するのと同じくらいの速度は確保できるのだからよしとしよう。
そうこう考えている間も俺の歩みは止まらずに、10分かからずワトリア中央広場のゲートキーパー前に到着。
ゲートキーパー側の商店の壁にもたれているのは、我がお師匠様。
おそるおそる近づくと「遅い」と一言いただきました。
いえ、俺が遅いんじゃなくて貴方が速いんだと思います………。
「それで、そのマントが『例のモノ』か? 使うならさっさと使ってしまえ」
と、俺が肩から引っ掛けているマントを見てそう告げる。
イナ先生には町から町への移動の時には、変身マントを使うと以前から言ってあったので、俺が妙なマントをつけていること自体には突っ込んでこない。
ただ、ゲームの頃は変身着替えとか余裕で衆人環視の元やってたけど、今は無理ですお師匠様。
「ちょっとそこの物陰でやってきますので………、何を見ても笑わないでくださいね?」
そうイナ先生に断りを入れると、こそこそと近くの細い通路に隠れて変身スキルを発動する。
例の桃色エフェクトに包まれて姿が女に変わる俺。
あらためて自分の状態を確認すると、まず目線が高いことが一番の変化だろうと思う。
手足が妙にしっくりこない感じだ、手のひらも柔らかいし。
「まだか?」
そうやって時間稼ぎをしていたが、そうもいかないらしい。
「笑わないでくださいね?」
もう一度そう言ってから、意を決して明るいところに出る。
広場に出た俺の目に映ったのは、視線の変化がもたらしたであろういつもと違う街の景色と
イナ先生の唖然とする顔。
そしてたっぷりと10秒の間をおいて、普段ほとんど笑わない人の爆笑が真昼のワトリアに響いたのであった。
お読みいただきましてありがとうございます。
ご意見、ご感想、誤字脱字の指摘など幅広くお待ちしております。




