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ニューワールド  作者: 池宮樹
ある男の回想 エルトリン学院時代編
25/46

第十話 長期休暇は大変だった ①

ん? なんで俺実家のベッドで寝てるんだろう?


あ~そうか。今日から1ヶ月の休暇で、昨日アニーと一緒に帰ってきたんだったわ。


学院のベッドと違い、大きくて柔らかなベッドは俺のお気に入りだ。

ベッドの左側にあるバルコニーにも通じた、大きな窓から飛び込む朝日がとてもまぶしい。


まだ頭がぼ~としている。


自慢じゃないが、俺は朝がすこぶる弱い。


この世界には電灯なんてものは存在しないので、基本夜明けとともに人々の生活は始まり、夜更けとともに彼らは夢の世界へと旅立つのである。


但し、それは極めて普通の生活を営む一般人の話。


一般人ではない俺の夜は、長い。


実家にいるときは、2日に一回行われるイナ先生の地獄の夜訓練。


内容は想像にお任せするが、その予想の3倍は地獄だと思う。


さらに日課となっている夜のポーション作りのためだ。


俺の金儲けは、いまだポーション作りがベースになっている。


その為俺は、魔法のカンテラ3つで部屋を照らしながら、毎日MPが切れるまでポーションの作成をしている。


大量発注があったときなんて、日が昇るのを横目にベッドに入るのさえザラ。


そんな労働基準法を楽勝で違反している12歳なのだ。


あと数日で13歳だが。


閑話休題。



つまり、俺は寝ると日が昇りきってもなかなか起きない。


寝ている間に何かあってもほとんど気がつかない。


あ、危険に関するものは別な。ソコはソレだからさ。


そして、起きてもすぐに頭なんか働かない。


だから。



………こういうことになる。



体を起こそうとした俺の動きをベッドに縫いとめたのは、俺の両腕を抱きしめるメイド服に身を包んだ瓜二つの赤毛の少女が左右に一人づつ。


添い寝のつもりなのか、ぎゅっと抱きついて放そうとしない。


二人とも幸せそうな顔して寝ている。


俺は体を起こすのをやめ、諦めの言葉とともに溜め息をはいた。


「今日はアリアとエリアか………」


ある意味実家に帰ってきたのを実感するなぁ、と二人の寝顔を眺めながら思わず笑みを浮かべてしまう。


学院入学後なのだが、実家で寝ている日の朝、アリアたち4人が俺にこういうことをしてくるようになった。


彼女達曰く、「埋め合わせです!」、だそうである。


どういうことかと思い、マリエルに聞いてみたところ、「存じ上げません♪」とニッコリ笑って(?)言われてしまった。



………ちょっと怖かったのは内緒だ。



さて、冷静に頭が回りはじめたところで質問。


俺はどうやって起きればいいのでしょうか?



それから15分程度経って、リューネとシルウィの乱入によって開放された時には、俺の腕の痺れは、ビリビリのバリバリで、さらにそこから10分ほど腕がまともに使えなかったことは言うまでもないだろう。



◇◆◇◆◇◆◇◆



一ヶ月。長いようで短い自由に動き回れる一ヶ月である。


シランの悪企みによって、急いで強くなる必要に迫られた俺は、ついに先延ばしにしていた転職に手をつけることにした。


いや、せざる得なかったんだが。



魔法職はいい、ウィザード一択だから。


ちなみにヒューマン魔法系基本職メイジから派生する職業は2つ。


《ウィザード》と《クレリック》だ。


《ウィザード》は、攻撃魔法の扱いに優れた魔法職であり、パーティでの役割は《ダメージディーラー》となる。


一方クレリックは神の声を聞くことによって、回復魔法をはじめとする神聖系魔法を扱うことが可能になった魔法職であり、その真価はパーティプレイ中に発揮される。

役割は当然ヒーラーであり、この段階でも多少の強化魔法が使えるようになるため、《バッファー》としての役割も果たす。


あぁ、なじみのない言葉かもしれないな、《ダメージディーラー》とか《バッファー》とかは。


じゃあ、ここでMMORPGにおける用語説明だな。


MMORPGでは《New World》に限らず、職業毎に役割分担ロールが決まっている事が多く、職業とは別にその役割ごとにも、名称が存在する。


まず《タンカー》。

これはナイト系職が主に務める事になる、敵の攻撃を受け止める役割の事だ。


敵を引き付けて耐え、仲間が攻撃に集中できる状況を作るのが主な仕事である。


次に《ダメージディーラー》。

これは読んで名のとおり、パーティ内で『ダメージをディール(与える)』役割の事。


物理魔法、直接間接問わず、攻撃系の職業は基本これに属する事になる。


とにかく敵にダメージを与えて殲滅する事が仕事だ。


次が《ヒーラー》。

これも分かりやすい。パーティの回復役であり、その重要性は一般のRPGをやった事があるなら簡単に理解できると思う。


パーティでの役割は勿論、パーティメンバーの回復である。


ここからが分かりにくい。

まず《バッファー》。


《バッファー》はパーティメンバーの強化を担当する役割で、攻撃力や防御力といった分かりやすいものから、盾回避率上昇や属性攻撃力付加といった分かりにくいものまで、魔法による強化をパーティメンバーに施す事ができる。


そう、地味な役割である。


しかし馬鹿にしてはいけない。


仮にまったく同じ職業、装備のアバターを2人用意したとしよう。


片方がレベル10、片方がレベル20として、レベル10のほうにのみこの補助魔法一式をかけて、1対1の戦いをした場合、よくて相打ち、悪くするとレベル20のほうが負けるほどの差が生まれるのだから。


パーティ同士での対決になれば、その差はさらにハッキリする。


《ヒーラー》と並ぶ重要な役割、それが《バッファー》である。


そして実は細かく言っていけば、まだまだあるのであるが、大きく分けた場合これが最後の役割となる。

それが《デバッファー》。


これは《バッファー》以上に、地味かつ普段の戦闘では活躍しにくい役割である。


”デ・バッファー”の名の通り、敵の能力を下げる事に長けた職業がこなす役割で、主に強敵との対決や、PvPのような対人戦闘においてその力を発揮する。


ただ、通常の狩りにおいては彼らの出番はあまりない。

《デバッファー》を一人入れるよりも、《ダメージディーラー》を増やしたほうが狩りの効率が上がる事が多いからだ。


しかし、彼らの力が『ハマる』場面において、これほど怖い存在もいないというなかなか難しい役割なのである。


長々と語ってしまったが、これで基本は分かってもらえたと思う。


ということで、アルケミストを目指す俺にとっては、派生元であるウィザードになることは、もう悩む事のない絶対の真理であるから問題はない。

(ちなみにウィザードから転職できるのは4つ。

火力型魔法職ソーサラー、召喚魔法職サマナー、弱化魔法特化魔法職カースメーカー、そして特殊魔法職アルケミストである。)


問題は、戦士系職。

前にも語ったとおり、ソードファイターに繋がるウォーリアか、ローグに繋がるレンジャーか。


ロマンかリアルか。


決断の時は!


10年の時を超え!


今まさに、ここに!


「若様!考え事もよろしいですが、お食事の後になさいませ!


せっかくの温かいお食事が冷めてしまいます!」



………朝食の給仕をしてくれていたマリエルに叱られたので、10年越しの決断はあとにして生ぬるくなった朝食を食べ始める俺であった。



◇◆◇◆◇◆◇◆



朝食を終えた俺は、マリエル達に、客人であるアニーをいろんなところに案内するように頼み、俺は早々に家を出る事にした。


あんまりモタモタしてたら捕まってしまうからな、母上とかアリアたちとかに。


あと昨日アニーをみんなに紹介した時に、男女問わずみんな胸をガン見してたのには、思わず笑った。


そうだよな~、『アレ』規格外だよな~。


そんな事はさておき。


最初の目的地は父上のところ。


父上に話があるなら、家で話せば良さそうなものではあるが、今日ばかりはそうはいかない。


ということで今俺は、父上の仕事場であるワトリアの街の魔法ギルドにいる。


そう、ウィザードへの転職を始める為に最初に話しかけないといけない人が、うちの父上なのだ。


「ということでウィザードになりますので、さくっと転職クエストを始めてください。」


「さくっとって………まぁ、お前はレベルは20を超えているし、今更お前に試しの試練が必要とは思えんのだが………、ルールはルールだな。


では、ジオ。ウィザードの試練を与える。」


そういって話し始めた父上の話だが、俺は右から左に聞き流していた。


だって全部知ってるもの。


何回やったと思ってんのさ!


自分では1回だけだが、知り合いや新人ギルドメンバーの手伝いを含めれば、両手両足の指でも足りんどころかその2倍はやってるのだよ!このクエスト!


ぶっちゃけタイムアタックできます。



流れとしては、


ワトリアのテオフラストゥス(父上)と会話 >

エルトリンシティのエンデル(魔法ギルドのNPC)と会話 > 

ワトリアに移動 >

デフ盆地で魔法職系イアナゴブリンを倒し、クエストアイテム『魔術師の頭骨』を5つ入手する >

エルトリンシティのエンデルと会話 >

カイゼラ湿原(エルトリンシティから南に行ったところにある狩場)で魔法職系カイゼラリザードマンを倒し、クエストアイテム『魔術師の心臓』を5つ入手する >

エルトリンシティのエンデルと会話 >

アイエオーク駐屯地(エルトリンシティから東に行ったところにある狩場)で魔法職系アイエオークを倒し、クエストアイテム『壊れた魔術師のワンド』を5つ入手 >

エルトリンシティのエンデルと会話、クエストアイテム『魔術師の証』を入手 >

各町の魔法職系ギルドマスターで 「転職をする」 を選択する。


となる。


推奨レベルは19以上となっているが、クエスト対象となる魔法職モンスターの中で、最初のイアナゴブリンメイジ、シャーマン、ウィザードは全て家族型モンスター(単独行動せずに、常に一定の組み合わせで行動するモンスターのこと)の為、ソロでクリアしたい場合、最低でも20以上のレベルとDグレード装備が必要な高難度クエストである。


ていうかソロじゃ基本無理なんだよな、このクエスト。



と考えているうちに父上の話が終わった。


では旅立ちのご挨拶だな。


「父上、良く分かりました。頑張っていってまいります。


あとエルトリンシティのギルドマスター様に、連絡を入れておいていただくと助かります。何しろ俺子供ですから。」


あ、父上がめっちゃ苦笑いしてるぜ。


「子供、まぁその通りなのだがな。

実情を知っている私としては、我が息子ながら何と言ってよいものか………、分かったエンデル殿には、私から伝えておく。


ところでジオ、今日は家に帰ってくるのか?」


「いえ、移動を含めて、3日で転職を終わらせる予定ですので、その間はエルトリンシティの宿を利用しようかと。」


そう俺の場合このクエストで一番めんどくさいのが、移動だ。

まだ、『カイゼラ湿原』や『アイエオーク駐屯地』はまだ行った事がないのでゲートキーパーで直接飛べないのよね。


「………そうか。あれを三日でやるつもりなのか………。


いや、もう何も言うまい。


では一度帰って必ずイナを伴って行くのだぞ。


あと母上にきちんとお前から説明してから出かけるように!」


そう、クエストの予定を3日にしたのには訳がある。


なんというか、4日後は、この世界での正月に当たる日であり、俺の生まれた日でもあるんだ。


おぅう………、出発前に超高難度クエストが発生したぜ………。



母上の説得とか、マジでドウシヨウ?



◇◆◇◆◇◆◇◆



父上との話を終え、ウィザード転職クエスト開始の許可と、まったくもって受けたくもなかった超高難度クエスト『母上の説得』を受けさせられた俺が次に向かったのは、魔法ギルドの隣にある建物、ワトリアの戦士ギルドである。


さて、運命の時だ。


両開きの大きな樫のドアを開くと、そこには多数の戦士たちの姿。


大きな酒場ほどの広さのフロアに、多くの冒険者の戦士たちがひしめいている。


いい意味で野蛮で、そして豪快な空気がそこには満ち溢れていた。


そんな中で目当ての人を探して、目線を走らせている俺に大きな声で話しかける大男が一人。


「よぅ!ジオの坊主!どうしたこんな昼間に? 親父さんに用があるなら隣だろうが?」


と今俺に声をかけてきたのが、ウォーリア転職クエスト開始の為の人物、モルゲンデーレさん。


筋骨隆々の赤毛でヒゲ親父で、いかにもウォーリアって感じの巨漢である。


もちろん魔法ギルドのギルドマスターの息子である俺とは小さい頃からの知り合いで、基本気のいいおっさんなんだが、何かにつけてよく酒を飲ませようとするどうしようもない酒飲み親父だ。


ちなみにBグレード、レベル53のバーサーカーらしい。


まさに見たまんま。


そして得意武器は間違いなく両手鈍器だな。


今も立ってる場所の脇に、一般成人男子のくらい大きさであるCグレード最強の両手鈍器、アイアンブレイカーが鎮座してるから間違いない。


ちなみに単純な攻撃力は、俺のミスリルダガーの約2、2倍くらい。


さらにバーサーカーの両手鈍器適正と、おっさん自身の攻撃力が乗る。


………あんなもんかすっただけで死ぬわ。



そして。


「はぁ~い、ジオちゃん。どうしたの? もしかしてお姉さんに何か用かしら?」


この軽い感じで声をかけてきた女性が、レンジャー転職クエスト開始の為の人物、アスナイさんだ。


赤毛のショートボブが非常によくお似合いの美人のお姉さまなんだ。なんだが!


イナ先生と仲が良いらしく、よく夜訓練にお越しになって、俺を極限まで追い込んでくれるとてもとても怖いオネエタマなのです………。


《New World》時代、俺は魔法職だったので、まったく接触のない人物だったんだが………、ホントにこんな性格のNPCだったのか? と思わず突っ込みを入れたくなったのも今では遠い昔の思い出だ。


しかも実力的にもレベル49、Bグレード直前のローグ………。


マジでステルス怖い。


夜訓練の時、何回後ろから刃物突きつけられながら「はい、これでまた一回死んだよ~♪」って言われたか………。


いやね、マジで短剣職に背後取られたら即死亡だから。


冷や汗止まんないって。夏にお化け屋敷とかいらないもん、絶対。



なんで俺の周りはこうもドSが多いのか………、何だ? 親孝行が足りんのか? それともご先祖さんの供養が足りんのか?


どっちのだ? 中村家か? テオフラストゥス家か? どっちだぁぁぁぁぁ!


ハァハァ………すまん、取り乱した。



いやね、だからね。


何が言いたいかというと。



俺の戦士系職の転職先は………。





トラウマ回避を選択するしかなかった。



「アスナイさん、転職クエストお願いしまっす!」



◇◆◇◆◇◆◇◆



ということで、俺が選んだ転職先はレンジャー。


男のロマンより、安全を取ったこの哀れな男のことを笑ってやってくれ、ブラザー。


そうやって自分のヘタレ具合に落ち込んでいると、アスナイさんがニコニコ笑って俺に声をかけてきた。


「そっか~よしよし。ジオちゃんやっとこっちに来る気になったんだね? 


偉いよ~頭なでたげる。よしよし。



………まぁもしもあのヒゲ親父のとこいってたら、ヤってたけどね♪」



目の前のニヤニヤ笑うお姉さんのその一言に、背中に氷水をぶっ掛けられたような怖気が走る。


え~と、何をヤるんでしょうか?



危なかった………どうも俺は紙一重で命の危機を回避したらしい、ありがとう数分前の俺!


よかった!レンジャー選んでおいて!


だってこの人ヤるといったら”殺る”人なんだもの!


肩を落として軽くがっかりしているモルゲンデーレさんが、目の端に写ってるけどそんなの気にしていられない!


いのちだいじに!



「じゃあ、ジオちゃん。


今からレンジャーの試練について話すね。


レンジャーたるものは人を知り、森を知り、獲物を狩る方法を知り、そしてあらゆるものから自分の身を守る方法を知らなくちゃならないわ。


そのために、まずは、獲物を狩る方法から学びなさい。


この『レンジャー試練の短剣』と『レンジャー試練の弓』を渡すから、短剣でデフ盆地入り口周辺にいるパイソンを5匹狩って、『パイソンの蛇皮』を5枚、弓でワトリアから西に行ったところにある『マイサの森』に行き『ブラウンベアー』を同じく5匹狩って、『茶熊の毛皮』を5枚。


それぞれ集まったら、私のところに持ってきなさい。次の指示を出すわ。


あと注意点が一つ。ちゃんとそれぞれの指定の装備で止めをささないと、アイテムは手に入らないからね。


分かったかな?」


俺が神妙な顔で大きく頷いたら、アスナイさんは、クエスト用装備である『レンジャー試練の短剣』と『レンジャー試練の弓』を渡してくれた。


そして俺はお礼を言って、機嫌良さそうに手を振るアスナイさんを背に戦士ギルドを出た。


あ~しんど。


胃がまた痛くなったぜ………。


あの人もマジで胃に悪いんだわ、いつも。



さて、転職クエスト『レンジャーの試練』か。


さすがに自分でやるのは初めてだ。


まぁ自分でやった事がないだけで、1次に限らず転職クエストは一応全種族全職業全クエストを一度は手伝いでやってるから、段取りは覚えてるんだけどな。


散々暇な時に攻略サイトでも見たし。


さてと、クエストは受けた。


じゃあ、超高難度クエストをクリアしに行くとしますか………。


あ~、まだ昼前なのに、やたらめったら胃が痛い。


家帰ったら、俺オリジナルの胃薬ポーション(3年間の研究で完成したオリジナルポーション、効果はばつぐんだ!)飲も………。



◇◆◇◆◇◆◇◆



「こちらでございます、若様。


………ご健闘をお祈りいたします。」


そう言って母上のいる部屋に案内してくれたじぃの声をどこか遠くに聞きながら、目の前の

開けなれたドアがやたらと重く感じてしまう。


そうか、助けてくれる気はないのか、じぃ。


薄情者!


………よし、いくか。


「ただいま帰りました、母上。


それでですね、この休暇なんですが俺早急に強くなる必要が出来まして、あのその、ほとんど家に入れないと思うんです………


許してもらえませんか?」


部屋に入って挨拶するなり母上に先制パンチ!


言いにくいことだから、一気に言いました!


そうしたら、目の前でキョトーンとしていた母上の顔がじわじわと泣き顔になり、………そして泣いた。


「ジオちゃんのばぁかぁぁぁぁ!


私のこと嫌いになっちゃったのね!せっかくの休暇だからいっぱい仲良くしようと思ってたのに!


もぅいいわ!一人で強くなって来たらいいじゃない!」


そういって座っていたソファのクッションに顔を埋めて泣く我が母、3-歳。


うっわぁ~~~、やべぇ………母上マジ泣きだよ。


頼む、誰か助けてくれ。


今日俺こんなのばっかかよ。


マジで転職クエストとか目じゃないな。


これに比べたら、《ハイネオンの探索日記》(《New World》内で最もマゾいと評判だったクエスト。俺は一応クリアしたけどマゾかった………)のほうがましかもしれん………。


あぁ~どうしたら母上泣き止んでくれるかな………、助けて神様!


その瞬間、まさに天啓というしかないひらめきが、俺に!


ありがとう!神様!



………何となく、幼女ボイスが聞こえた気がしたのは、もちろん華麗にスルー。



聞こえねぇよ!



「母上!休みの前半を使ってさっさと強くなってきますので、後半はみんなでエルトリンシティに買い物に行きましょう!


母上も長らくあちらに行ってないでしょうし、俺も母上と旅行したいかな~って!」


その言葉に反応して、母上の顔がおずおずと上がる。


「ほんと? 嘘つかない? 私とお買い物してくれる?」


「します、します。喜んで母上をエスコートいたしますよ。」


俺がそういうと、母上がニコ~と笑って俺のほうに駆け寄り、そして抱きしめてきた。


「分かったわ!約束よ、ジオちゃん!


そうと決まればこうしていられないわ!お支度を始めないと!


サバン!サバンはいますか?」


途端にはしゃぎだす母上に心から安堵の溜め息を漏らしながら、自分で仕掛けたタイムリミットの短さにため息しか出ない俺だった。


―――――クエスト『母上の説得』完了 報酬 理不尽なタイムリミット 残りあと14日



さてと、じゃあやっとこさ転クエの始まりだな。

お読みいただきましてありがとうございます。

ご意見、ご感想、誤字脱字の指摘など幅広くお待ちしております。

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