第八話 あの後イロイロ大変だった
お~、半月ぶりの学院だぜ~。
相も変わらず端が見えないほど長い大理石の壁と平行に走る馬車の中から、俺は目の前を通り過ぎて行く鬱蒼とした森を眺めていた。
見てるとたまにウェアラットがいた。相変わらず顔がキモい。
もうすぐ初夏。
朝の光に照らされた緑が目にまぶしいぜ。
、
おはよう皆さん、被害者の会代表のジオです。
おっさん達の尋問………、もとい『OHANASI』は父上たちが大活躍したらしい。
一応死んではいないらしいが。
その結果分かったのは、おっさん達がエルトリンシティの酒場で酒をかっくらってくだをまいていたところ、怪しげな男が近づいてきて、おっさん達に俺の襲撃を依頼したらしい。
その男曰く、あるところに生意気な貴族の子供がいるから、礼儀を教えてやってくれ。
そいつは週末の夜に一人で学院とワトリアの街を走って行き来している。
だからそこを狙って痛めつけてやってくれ。
金は弾むと言われ、前金で5,000Gの大金を渡された。
そして成功したらさらに5,000Gと言われ、嬉々として俺を襲ったら結果はあの通り。
そして相手が俺、つまりあの『フィリップ・パラケルスス・ラ・テオフラストゥス』の息子だとは知らなかったそうである。
もし知っていたら、そんな事は絶対しなかったとのこと。
知っていれば、あの『爆炎』の息子に手を出すとかありえない、だとか言ってたらしい。
父上、『爆炎』なんて厨二な二つ名があったんですね………。
その後この一件は、父上の緘口令により表に出る事もなく静かに収束したが、学院側には、わざわざじぃに出向いてもらって、『みんなに聞かれる様に』俺が急な病気でしばらく家で養生すると伝えてもらった。
学園への出かけ際、じぃに苦笑いを浮かべながら「若様も意地がお悪うございますなぁ」と言われてしまったが。
エヘヘ。そんなに褒めなくても。
さってと~、あれから半月。
俺がいない間に何が変わったかな?
調子に乗ってるのはどいつだろうねぇ?
あ~入学して初めてだわ。
あの豚のツラ拝むのが、こんなに楽しみなのは!
そんなことを考えながら、俺を乗せた馬車は学院の正門をくぐってから数分、学院の正面玄関に到着した。
御者に礼を言って馬車を降りる俺。
それから久々の自室に向かおうと足取り軽くエントランスホールに入ろうとすると、そこには俺の元・婚約者、クリスティン・アレシエル・ラ・サーペンディア嬢が仁王立ちでお待ちかねでしたヨ。
………何で?
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ジオ・パラケルスス・ラ・テオフラストゥス!
急な病気で臥せっていたと聞いていたけど、元気そうでなによりね。
まったく『おちこぼれ』の癖に、まじめに授業には出ない!
勝手に実家に帰っては、そこで病気になって半月も寝付く!
本当にやる気はあるんですの?
私には、貴族として、魔法職としての自覚と努力が足りないようにしか見えませんわ!」
うん。清々しいぐらいに変わってないな、このお嬢さんは。
あ~今日もお空が青い。雀みたいな鳥が、ひぃ、ふぅ、みぃ………。
現実逃避終了。
いや、かわいい女の子なんだよ? 彼女。
顔立ちが綺麗だから将来の美人確定だし、ナチュラルにウェーブしたブロンドのロングヘアーを後ろに流しているのも似合ってるし、背も高いスレンダー美人さんだし。
頭も実技も学年次席、あのヘルガー少年さえいなきゃ余裕で両方主席だろう。
まぁおでこは光ってるけど。
………あと、おっぱいは少し残念な感じだけどまだ13歳だし!(女性の皆様ごめんなさい!)
あと性格もいいみたい。
貴族としての姿勢が基本ではあるが、一般の生徒にも節度を保ちつつ、それでいてやわらかな態度で接している様だから。
但し、俺に対してだけは、とにかく噛み付いてくる。
勘弁して欲しいんだが。マジで。
どうしよっかな~、このままスルーってわけにもいかないだろうしな~。
あ~少しづつだけど胃が痛くなってきた。
そのうち胃に穴開くんじゃねぇかな、俺。
ヒールで直るんだろうか?その場合。
俺がそんな事を考えている間も、彼女の口撃が止まる事はなかった。
「そもそも貴方に魔法職としての適正がありますの?もしお有りにならないのなら、さっさとお隣(『戦神の鍛錬場』のことね)に移られてはいかが?」
あ~それもいいかもな~。
でも俺はやっぱりアルケミストがメインなんだよ~。
内心ではそんなことを取りとめもなく考えているが、こちらに来てから身につけたポーカーフェイスで、俺は一切の感情を悟らせないように彼女を眺めている。
ていうか何で俺にこんなに絡むのよ!
破談の件だって、形式的にはクリス嬢の家からって事になってるはずだし、俺自身が彼女に会ったのは入学後だからそれ以前から知ってるわけないじゃん!
考えろ!考えるんだ俺!………やっぱ分かんない!
そんな彼女の大声での一方的なやり取りが、授業前の正面エントランスで繰り広げられていた性であろう、遠巻きに、そして徐々にではあるが人が集まってきた。
うわ~、学院復帰当日から衆人環視でいじめられるとか嫌過ぎる。
即帰ってマリエルに慰めてもらいたくなってきた、胃薬飲まなきゃ。
ということで胃がこれ以上キリキリ痛み出す前に、強・行・突・破だ!
未だに続くクリスの俺への罵倒の言葉の継ぎ目に、俺は言葉を差し込む!
「サーペンディア嬢、もうよろしいだろうか?
ここは学院のエントランス。あまり長々と大声で世間話をするには不向きな場所だと思う。
そして何よりも他の者達に迷惑だ。
あとあまり私をいじめるのはやめてはもらえないだろうか?
私には、女性に罵倒されて喜ぶ趣味はないから。
私の体のこと、ご心配してくださってありがとう。では失礼。」
そう言って俺は唖然とするクリス嬢を横目に、何とか公開処刑の場から逃げ出した。
ふ~何とか脱出成功。
胃の危機は去った!
………後に俺はこの辺の時代の事を、酒の入ったときのクリスに延々と責められる事になる。
「だいたい貴方は鈍感で、朴念仁で、唐変木で、女性の気持ちを考えた事がおありになるの? あの頃の私がどれだけつらかったか、ちゃんとお分かりなの?」とかな。
絡み酒で泣き上戸で、なおかつ説教癖まであるんだよ、クリスの奴。
まぁ、そこもかわいいんだけどさ。
いや、悪い事したとは思う。思うよ?
ちゃんとその時点で俺が分かってやってれば、ずいぶんその後の流れも変わっていただろうから。
でも、言い訳を一つだけ。
あれで分かれって方が無理じゃないですか? クリスさん………。
◇◆◇◆◇◆◇◆
一般生徒用の男子寮の自分の部屋に一瞬立ち寄った俺は、椅子を暖める間もなく豚を探しに出かけた。
幸いまだ授業までは時間があるので、ある程度の時間の余裕はある。
そんなこんなで半月ぶりに歩く学院の廊下なのだが、やたらと他の生徒から奇異の目で見られた。
久々に顔を見せたからだろうか? それとも別の理由からだろうか?
………さっきのエントランスでの会話のせいではないと信じたい。
俺が通り過ぎた後、生徒達が寄り集まってひそひそと話しだす。
わずかに聞こえる声を聞いてみると、
「お元気そうじゃないか、なんだったんだ? あの重病説とか。」
「いや、俺はもう亡くなったって聞いてたぞ。女子が集まって泣いてたから。」
「あの1年の巨乳ちゃんは、必死にそんな事ないって否定してたらしいけど。」
「ラ・テオフラストゥス領出身のあの子か? あの子の乳はマジで素晴らしいな。」
ん?思ったより大事になってたらしいな。
その内容から分かった事は、どうやら俺は勝手に重病人にされていたららしい。
俺がじぃにわざと流してもらった情報は、
「若様は、こちら(実家のことね)にお帰りになった際に、少しお風邪を召されてしまいましたので、しばらく大事を取り学院をお休みさせていただきたく思います。」
コレだ。
さらにアニーが必要以上の心配をするといけないので、じぃに伝言を頼み、
「ちょっと父上と話し合わなきゃならないことがあるから、しばらく学院を休むけど何の心配いらないから。」と伝えてもらっておいた。
確かに学院在学中に、頻繁に家に帰る俺はまさしく異常だ。
何の為の寮生活だって話になるからな。
しかし、学院とワトリアの街の距離的要因と、ポーションの作成や各種俺でしか出来ない事の処理などの為に、俺が毎週週末に実家に帰っている事は、学院の人間ならそれほど深く調べることなくその事実を知る事ができたはずである。
実は俺自身はあの襲撃事件の黒幕が豚の確率は、今では正直半々だと思っている。
最初は100%奴の差し金だと思った。
状況から考えて、ああゆう馬鹿なことをしそうな奴NO1は間違いなく奴だろうが、ただ可能性を追求して行くと、他の可能性も少なくはないことに気づいた。
これは一つの例に過ぎないのだが、アニーが話してくれたように、ラ・テオフラストゥス領は今、他の地方や領地では考えられないほどの急激な発展を遂げている。
その秘密を聞き出せれば、と考える人間が俺を人質に………と考える人間がいてもおかしくはない。
そんな状況で、毎週夜もふけてからたった一人(俺自身もそう思ってた。)で、ワトリア~学院間の夜道を走る12歳のラ・テオフラストゥスの一人息子。
内情を知ってるごく一部の関係者からすると、たった一人とはいえ、あのおっさん達の失敗でも分かるように、俺を捕まえたり、殺したりするのが至難の業である為に、ほぼ単独行動を許されているだけなんだが。
Cグレード冒険者であるイナ先生からも、完全に逃げに回った俺を殺すのはかなり難しい、殺さずに捕らえるのは不可能に近い、とのありがたいお言葉をいただいている。
最悪、冒険者である俺は、自殺すれば多少のペナルティ(経験値が10%程減る、はず。)はあるものの、最寄の町の神殿に移動後、蘇生するので実際のところ誘拐は無理なんだが。
試すつもりはないけどな!絶対!
但し、表面上見える情報から判断すると、誘拐してくれって言わんばかりだし。
つまり一般生徒や学院関係者が、故意か否かはさておき、俺の情報を外部に流した事で、あの襲撃が起こった可能性を提示したじぃの指摘を、俺も父上もイナ先生も否定できなかったからだ。
俺よく自分が貴族の子供って事を忘れちゃうんだよな。
まぁ怪しい謎の男うんぬんに関しては、既にエルトリンシティにいるシランに動いてもらっているので、もし今回尻尾を出さなくても、今後同じことをしようとすればとっ捕まえられる状況は出来ている。
まぁそんな感じで既に対応策はうってはある。
あと先輩方、アニーに(とその乳に)半端な気持ちで手を出した場合、あの子ももう『うちの子』ですから、俺が殺しますからね。
………物理的、社会的にな。
結婚を前提にした真剣交際なら、手をつなぐだけなら許してやってもいい。
それ以上は殺す。
ていうか俺はどこの父親だ。
本当は、心配していただろうアニーに顔を見せた安心させてやりたいところだが、さっさと豚君を見つけないとな。
まったく不必要な時は俺の周りをうろうろしやがるくせに、必要な時にぜんぜん見当たらないのはどういう了見なんだろうな、あの豚。
そう思いながら食堂、授業棟などを見て回っていると、いた。
正しくはあのムカツクかん高い声が聞こえた。
場所は、貴族用学生寮から授業棟への連絡通路だ。
これ幸いと、俺は物陰に隠れて話を盗み聞く事にした。
豚は相変わらずの甲高い声で、ブツブツ独り言を言ってやがる。
「どうして、奴が学院に戻ってきている?
もしかして失敗したのか? では何故今まで学院に出てこなかった?
くそ、ここでは何も分からん!」
そう言いながら誰かを蹴るような物音がして、痛みに耐えるような女性の声が聞こえた。
あぁ、見えないから分からんが、おそらく蹴られたのは入学式翌日の騒動で俺に切りつけてきた栗色でボブカットな奴隷のお姉さんか。可哀想に。
何とかしてやる方法があればいいんだが………。
そして。はい確定。
あまりにも予想通りで逆にビックリだわ!
色々みんなで頭つき合わせて可能性を考えたあの時間を返せ!豚!
まぁいい。もう済んだ事だ。
さ、て、と、それじゃあ、どうこの落とし前をつけてやるかな?
とりあえずアイツに相談するか。
気配を悟らせないように気をつけてその場を離れた俺は、腰のポーチからの念話石を取り出しながら、現在使われていない授業棟の空き教室に滑り込んだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
―――――シラン、聞こえるか?俺だ。
俺は念話石を握り締めて、腹黒男との呼びかけを開始する。
すると間もなく反応があり、あの線と線が繋がる独特の感覚が俺の体を包む。
―――――はい、ジオ様。お待ちしておりました。裏がお取りになれましたか?
―――――あぁ。黒幕は豚だ。俺が隠れて聞いているにも関わらず、ベラベラと独り言で自白してくれたよ。
そう思念を送った俺の顔も、受け取ったシランの顔もおそらく同じような顔―――楽しくて仕方ないワルイ笑顔になっていたと思う。
―――――それであの豚をどう始末するのがいいと思う? さすがに殺すのはまずいから、事故か何かに見せかけて再起不能に追い込むか?
俺がそう思ってシランに問いかけると、そこに返って来たのは予想外の答えだった。
―――――ジオ様。失礼ながらそれはあまりにももったいないお考えでございますな。
お読みいただきましてありがとうございます。
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