第六話 父上がすごくて大変だった
は~い、今日も図書館でサボりという名の自習真っ最中のジオですよ~。
一応言っておくと、俺のサボりは学院長に黙認されている。
入学の1週間後、学院長から呼び出され、父上から聞いたとの事で、「今自分で使える最強の魔法をワシにぶつけて来い!」て言われたので、遠慮なく《ファイヤーボール》をかましたら、サボリを認められた。
まぁあっさりと俺の《ファイヤーボール》はレジストされたけど、ビックリしてたなぁ、あの爺さん。
(レベル差がありすぎると、魔法は抵抗されて威力を殺される=レジストされることがある)
学院長が部屋に戻る時、「あんなものを普通の生徒の中に入れておいたら、どんな事になるや分からん!」とか失礼な事言ってたのは、寛大な心でスルーしておいたぜ。
ヒゲジジィ、オボエテロ。
にしても、あれをほぼノーダメージで防ぐとは。
ありゃ学院長も、父上と同等クラスかそれ以上かねぇ。
職業はたぶん、ソーサラーかな? 少なくともアルケミストではないな。
………アークウィザード(魔法系職の最高峰の一つ。炎を支配するソーサラーの最上位職)なんてオチは、さすがにないよな?
まぁその学院長公認のサボり特権を使った、ここ一月半の図書館入りびたり生活のおかげで、とりあえず必要な知識は頭に入れることが出来た。
転生後のハイスペックな脳みそサイコー。
てゆっか完全記憶レベルだわ。これ。
これが大学受験のときあったら、国公立行けてたんだろうなぁ………。
あと、2、3点だったんだよなぁ………。
まぁそれは置いといて、あとは禁書棚と各教師の個人的な蔵書も見たいところだけど、不要なリスクは避けるべきだな。
あと昨日の夜、シランから連絡が入って、頼んでおいた『変身マント』が手に入ったので、こちらに送ってくれるとの事だ。
よし、学園が長期休暇に入ったら遠征だな。あそことかあそことかあそことか。
そんなことを考えながら、そろそろ少しは真面目に授業に顔を出すかな、と思っていたら背後で図書館のドアが開く音がした。
はて?この時間に図書館に出入りする人間が、司書のばあさんと俺以外にもいたとは。
あの人間の化石みたいなばあさんは、勝手口からうろうろしてるから、正面扉は使わんだろうし。
ていうか、あれ生きてんのか? ホントに。いまいち信じられん。
ていうかこんな時間にホントに利用者か? 普通に授業中だろ。
完全に自分のことを棚にあげつつ耳を澄ませていると、大きな物音。
どうやら何かにぶつかったらしく、「ゴン!」っていう音が静謐さを保つ図書館全体に響いた。
どうも誰かを探している感じがする。
………こんな時間帯にここで誰かを、という事は俺か。
足音の感じからすると、おそらく女の子で、学生。
本人的には足音や気配に気をつけているつもりなんだろうけど、最初の「ゴン!」で誰でも気づくだろ。
女性という事で、最初はクリス嬢か? とも思ったが、どうも違うらしい。
なぜなら彼女の足音はこういう風には聞こえない。
彼女の足音は『コツコツ』、今俺を探している人間の足音はどちらかというと『パタパタ』だからだ。
特に攻撃してくる感じもない。
あ、また何かにぶつかった。ドジっ子か?
相手はおそらく普通の生徒。
ん~果たして普通の生徒が、俺に何のようだ?
分からない事は聞く。これ基本。
という事で。
「だれ~? 俺になんか用?」
背を向けたまま、俺の背後からこちらを窺っている人にそう言ってやる。
返って来たのは、驚きをその声に隠したか細い女の子の声。
「あ、あの………、どうして私がいること分かったんですか?」
「ん~ドアが開いたの聞いてたし、足音がしたし、だれか探してるみたいだったけど、この時間帯にここにいるのは俺だけだし。
何よりあんな大きな音何度も響かせて気づかないやつはいないよ」
あれで気づかないとか言ったら、イナ先生に何されるか分かったもんじゃねぇからな。
「恥ずかしい………。
初めて御領主様の若様にご挨拶するのに………」
ん? 領主の若様? 誰が? 俺が? という事は。
そこで俺はようやく後ろを振り返った。
そこには、あの授業初日の日に眉間にしわを寄せながら、俺を妙な目で見ていた爆乳少女が顔を真っ赤に染めて俯いていた。
「………えっと、君はどなた?」
そう俺が問いかけると、彼女ははじかれたかのように顔を上げてから、俺に跪いてこう言った。
「はい、若様。お初にお目にかかります。
テオフラストゥス男爵領の街、パラピルから参りましたアニー・ロビルス・メアンと申します!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
うちの父上の領地、テオフラストゥス男爵領はワトリアから馬車を使って南に10日ほど行ったところにある、らしい。
元々王領だったものを、父上が貴族に叙勲される時に下賜された、らしい。
パラピルの街は、行政府が置かれる領内最大の街で、人口はおよそ5千人ほどの地方都市、らしい。
父上には、ワトリア魔法ギルドのギルドマスターという仕事があるために代官による委任統治が行われている、らしい。
俺が知ってたのはこのくらい。
全部聞いただけ、行った事ないから正直分からない………。
貴族の子弟としては、失格にも程があるんだが。
自分の父親の領地の事もろくに知らないとか。
そんな俺に、跪いた女の子―――アニー・ロビルス・メアンはいかにうちの父上、フィリップ・パラケルスス・ラ・テオフラストゥスが素晴らしい領主であるかを、熱っぽく語ってくれた。
まず、最初に多数の冒険者を雇って領内の安全を確保してくれた事。
人の活動範囲に、モンスターが入り込めないように結界を張ってくれたこと。
おかげでモンスターにやられ怪我をする人、死んでしまう人がすごく少なくなったこと。
以前は特に産業のなかったテオフラストゥス男爵領だったが、、様々な特産品を作ることで経済的な発展を遂げている事。
さらに孤児院や学校を作り、領内の発展に努めていることなど。
さらに他にも数え切れないほどの父上の領地運営の話を聞いていて、最初は、お~父上、ただの親バカじゃなかったのか~。 とかのんきに思っていた俺だったが、話の途中から、それは驚きと尊敬に変わった。
父上は小さな頃から俺に、ギルドの仕事の事や領内の整備などの事で、『お前ならどうする?』というような聞き方をする事が頻繁にあった。
だから俺は、それに答えて知ってる農法や肥料の作り方、特産物を作り商人を呼び込む事で、経済を活性化させ財源を確保する事、法律や社会福祉の重要性など、ほとんど考え無しにただ問われるまま、俺ならこうするってことでいっぱい話した。
父上は、それを子供のたわごととは受け取らず、真剣に検討し、さらにそれを信頼できるものに任せて実行させる事によって、わずかの間にテオフラストゥス男爵領内を、国内でも有数の領地へと変貌させていたのだ。
しかし俺が本当に驚いたのはそのことじゃない。
どこに年端もいかない幼児の言う事を真剣に聞いて、それを検討し、領地経営に活かそうとする領主がいるだろうか?
よくよく聞いてみると、最初に俺が提案したもので実行されたのは、街や村の公衆衛生に対する政策で、俺が5歳の時のものである。
父上………、気づいてはいたんだ。思ってるよりはるかにすごい人だって事は。
こんな我儘な俺に好き勝手やらせてくれるだけでも、父上達はすごいって。
しかし、今ほど今回の人生で父上達の子供に生まれてよかったと思った事はないよ。
ありがとう、父上、母上。
「若様、どうして泣いておられるのですか?」
え? 俺今泣いてるのか?
「ご、ごめん!かっこわるいとこ見せちゃったね。
それで、父上がすごい事と、今アニーが授業をサボってまで俺のとこに来てくれてることは何か関係あるの?」
父上のすごさを説明してくれたのには、感謝してるけどそれとこれと何の因果関係が?
涙を拭きながら目の前の少女を、本当の意味で初めて良く見る。
明るく長い茶色の髪を、二つのお下げでまとめている。
顔つきは12、3歳とはいえ、俺と同じ年頃とは思えないような童顔、そしてかわいらしい垂れ目ちゃんだ。
背も小さい。
にも関わらずその全てを裏切る胸の超双子山。
………ちょっとソレ反則ですヨ、お嬢さん。
この確認に要した時間、約5秒。内胸を見てた時間4秒。
うん、俺は男として間違ってねぇ!
アニーはそんな俺のセクハラ的視線にもまったく気づかず、彼女曰く「若様へのお目通り」に来た理由を一生懸命話してくれる。
「あのですね、若様のお父上であらせられる御領主様が、前の年に領内に布告をお出しになりまして、「冒険者になりたいものに奨学金を与える」と。
それで審査を経て、その中でもそれなりの魔力を認められた私が、この学院に入学する事ができたのです!
学院には私だけなのですが、他にも数人が『戦神の鍛錬場』で鍛錬に励んでいるはずでございます。
それで私がみんなを代表して若様に御礼申し上げようと………」
なるほど、そういうことね。
それで初日に俺をガン見してたわけね。
そして逆に今までそれができなかったのは、ろくに俺が授業に出てなかったから。
正直、ゴメン。
それはそれで置いといて、ていうか俺にお礼言われてもな。
そういうのは、本人に直接いったほうがいいよね。そうだよね。そうに違いない。
「アニー、そういうのは俺に言うんじゃなくて本人に言おうか。」
そういっていぶかしげに眉間にしわを寄せて俺を見つめるアニーをよそに、俺は懐から念話石を取り出すと、父上に呼びかけた。
―――――父上、聞こえますか? ジオです。今よろしいですか?
―――――おお!どうした!息子よ!何か問題でもあったのか?
―――――いえいえ、特に何もありません。今週末も帰りますので、よろしくお願いします。あとですね、父上とお話をしたいという者がおりまして。今からその者と代わりますので、よろしく。
―――――ん? 良く分からんが分かった。
そうして一度念話を切り上げると、
「アニー、ここにおいで」
そういって隣の椅子引いて、彼女を無理やり座らせる。
ずっと最初から言ってたんだけど、固辞されてたんだよ。
「若様のお隣に座らせていただくなど、滅相もございません!」とか。
「俺の手を握って、これ命令ね。そう、繋がったら渡すから。」
こうでも言わんとこの子はやらんからさ。
念話石に意識を集中して、父上をイメージする。
空中を漂う見えない線が繋がったような感覚がして、意思の交換が可能になる。
―――――父上、聞こえますか?
―――――うむ。
―――――では渡します。
そこまでやった俺は、アニーに念話石を渡した。
目を閉じている振りをしながら、薄目を開けて隣の少女を見てみる。
アニーの顔に、困惑と驚き。
そしてアニーはやがて涙を流し始めた。
という事で今回はここまで。
え? この後の話? そういうことを聞くのは野暮ってもんだぜ?
は? エロいことなんてするわけないだろ!
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