第五話 考え事で大変だった
友達百人~、出来そうもないな。
ジオだ。俺がエルトリン魔法学院に入学してから早一ヶ月。
いろんなことが分かって来た。基本、嫌な事ばっかり。
まず、なぜ学生寮が三階建てと平屋の二種類存在するのか。
理由は簡単で、三階建てのほうが平民用、俺の住んでる平屋建てのほうが貴族の子弟用ってことだ。
まぁ、身分差別的な発想で住む場所を区切るのは、社会的に未成熟なこの世界では無駄なトラブルを避けるために必要だと思えたので、そのこと自体は俺はなんとも思っていない。
問題は俺も貴族なら、クリス嬢や、そしてあの豚も貴族だって事だ。
さすがに毎日自分の部屋に帰ろうとするたびに、奴のあのかん高いむかつく声や、豚そのもののような姿を視界の隅に入れるのはうっとおしかった為、父上経由で学院長に頼んでもらい、平民用の寮に替えてもらった。
あの広くていい部屋は惜しかったが、精神安定のほうが優先だ。
そのうち殺ってしまいそうで怖かったしな。
ただ、貴族と平民を相部屋にはできないと判断したのか、二人部屋を一人で使う事になったが。
別にかまわんのだけど、俺は一緒で。
あぁ、俺が引越ししてしばらくしてからだが、クリス嬢も俺と同じように平民用の女性寮に引っ越してきたらしい。
なんでだろ?豚と一つ屋根の下ならわからんではないけれど。
ちなみに今学院に在籍している貴族の子供は、ヘルガー少年を含めた俺たち4人だけらしい。
まぁ父上に聞いたところによると、普通貴族の子弟が魔法を習う場合、エルトリン城に勤めている宮廷魔術師から直接習うのが普通だそうだ。
基本エルトリン魔法学院は、冒険者になろうとする人間を育成する学校であり、貴族が冒険者になろうとするのは、普通に考えればおかしい。
そうなると、しきたりって理由があるヘルガー少年はともかく、クリス嬢と豚の理由が分からんな。
あとメイドさんのあの反応の理由。
全員が全員そうではないそうなのだが、学院に入学する貴族の中にあの豚のような人間が少なからずおり、学院の使用人である彼女達を、まるで自分の奴隷のように扱う輩が少なからずいるのだそうだ。
なるほどな。俺も一応貴族だから、なにかやっちゃったら酷い事されると思ったわけか。
心外ですヨ!非常に心外です!
そんな事できる度胸があるなら、とっくにマリエルの胸の谷間に顔うずめてるわぁああああああ!!
そして同じ理由で、一般の生徒たちも俺になかなか近づいてはこない。
みんなチラチラ見ては来るけどな。
ちょっとさびしい。
まぁどれもどうでもいいといえばいいことなので、これでも俺はそれなりに学園生活を満喫している。
《New World》がゲームだった頃には、こんなとことか見て回れなかったし。
という事で今日も俺は授業をさぼって、学院の図書館にいる。
さすがに魔法職育成の最前線、いい本がそろってる。
アリアとエリアに魔法教えなきゃならんから、覚えたい事は山ほどあるし。
あぁ、ちなみにこの前あった試験でも、筆記と実技、両方俺は手を抜いといたよ?
だって父上に「くれぐれも「手を抜く」ように!」って言われたし。
親の言いつけをキチンと守る、俺っていい子だろ?
まぁ真面目にやれば学年トップとか確実だけど、そこはヘルガー君に譲っておく事にした。
あと試験の結果が張り出されたあとの、例の二人の反応はこんな感じ。
「やっぱり『おちこぼれ』なのですね!あなたは!」とクリス嬢。何故か涙目だった。
「は!所詮成り上がりの息子だな!まったく見かけ倒しにも程がある!無様な!」と豚。
学年次席のクリス嬢はともかく、わざと最低限の点しか取らなかった俺以下の成績(赤点)だったあの豚に言われるのは納得がいかんが、まぁ擬態を続けられるうちは続けたほうがいいしスルーしといた。
自分が強いアピールなんてものは、百害あって一利なしだからな。
まぁ抑止力といえるまでに力があればいいんだろうけどね。
俺の好みは、油断させて後ろから、ズドン、だぜ。
まぁある意味平穏で暇な今の間に考えておかなきゃならない事は山ほどある。
まず、何に転職するか。
魔法系職については、アルケミストになることが決定しているから何の悩みもないんだけど、問題なのは戦士系職。
選択肢は3つ。
防御力特化、パーティの盾への道であるナイト職。
バーサーカー、ソードファイター、そして花形攻撃職であるサムライに通じる、ウォーリア職。
イナ先生と同じ、スピードとトリッキーさで勝負の、レンジャー職。
この三種類の道が俺にはあるわけだ。
まず大前提として、ナイトは除外。
前線で敵の攻撃を受け止めながら、魔法使うとか無理だから。
となると残るのは、ウォーリアかレンジャー。
いや、この言い方じゃ俺が何を悩んでいるのかわかんないよな。ごめん。
まず、ウォーリア経由で考えている職業が、ソードファイターだ。
片手剣の二刀流が可能な近接攻撃職の一角で、攻守のバランスが取れた人気職の一つだ。
中でも対人戦闘、PvP(プレイヤーvsプレイヤー プレイヤー同士が、大規模戦闘などの特殊な場面において、合法的に戦う事をPvPという。)においては無類の強さを発揮する戦場の鬼。
一番の特徴は、近接職の癖に遠距離攻撃が得意な事。
通称、《カマイタチ》もしくは《クロスカマイタチ》と呼ばれる斬撃を、MPを消費して『飛ばす』ことができるのだ。
(《カマイタチ》、《クロスカマイタチ》は通称。正式名称はそれぞれ《オーラブレイク》、《クロスオーラブレイク》である。)
さらに各種近接攻撃スキルも充実しており、まさに近接戦闘のスペシャリストである。
そして地味ではあるが、それら以上に魅力的なのが、スキル《アイオブソード》である。
このスキルは、遠近問わず武器による物理攻撃に対して、回避ボーナスが付くもので、その効果は極めた状態になると30%にも及ぶ、まさに物理アタッカー殺しのスキルである。
あとは重装備適正が存在する為に、かなり物理防御が硬いのも見逃せない。
勿論逆に弱点も多く存在する。
まず、魔法攻撃に弱い。
分かりやすい比較例として、ウォーリアの派生先3職を同じレベルで比較すると、大体このくらい違う。
バーサーカー 7 ソードファイター 4 サムライ 10
さらに移動速度が遅く、急な戦況の変化に付いていけない所、範囲攻撃を持たないため乱戦に弱いところなどあるが、ソードファイター最大の弱点は、燃費が悪いところである。
正確な言葉に直すと、『MPがかなり少ないので、スキルの連続使用可能時間が短い為、最大火力を維持できる時間が、他の近接アタッカー職に比べてかなり短い』だ。
まぁこれがソードファイターの特性である。
さて、俺のメイン職であるアルケミストとの相性を考えるとどうなのか?
基本的にアルケミストが火力に困る事はないので、基本は《アイオブソード》狙いで選ぶという方向になるだろう。
防御が硬く、天敵である物理攻撃に対して、スキルで優位に立てるのは、アルケミストにとってはかなり助かる。
あと燃費不足の問題であるが、これは弱点でなくなるはずと、俺は読んでいる。
魔法系職であるアルケミストのMP量は、戦士系職の平均の軽く三倍以上。
つまり《カマイタチ》打ち放題。
ソードファイター使いが一度は夢見る《カマイタチ》無双が出来るはずなのだ!
ただ、移動速度の低さはいただけない。
ソードファイターはこんなところ。
そしてもう一方の候補が、ローグ。
レンジャーから派生する職業で、短剣と弓を得意とするレンジャーの、短剣使いとしての能力を選択した先にある職業である。
最大の特徴は、そのスピードと回避力。
そして凶悪極まりない各種短剣系攻撃スキルの数々である。
ローグに限らず、短剣職の代名詞ともいわれるのが、スキル《バックスタッブ》。
ただでさえ高い攻撃力を誇るこのスキルだが、敵の背後に回った状態で繰り出すと、ダメージに補正がかかり、さらに最高25%の確率で《インスタントキル》、つまり即死が発動する。
これがやばい。
さらに短剣職には基本、相手の背後に回るスキルや、一時的に透明になるスキルなどが多数存在する為、どの職業であっても《インスタントキル》を持つ短剣職は怖い。
特に物理防御力に乏しい魔法系職にとっては、まさに天敵中の天敵。
戦争中に後ろから、ズドンとか普通だからな。
他にも一撃一撃の威力が高いスキルが多いのが攻撃面の特徴である。
さらに高い回避率と移動力。
小細工ともいえるような多種多様なスキルなどがローグの長所である。
逆に弱点だが、まず近接攻撃職の中でも、軽装備適正しかないので装備が限定され、物理防御力が低い。
さらに重装備適正のある物理近接職に比べて、HPも低いことと相まって、パーティ内で相手の攻撃をひきつけながら戦うという役割(これをタンク、もしくはタンカーという。)を果たす事が出来ないのだ。
つまり一瞬の攻撃力においては最強だが、足を止めての戦いには基本的に向いていないリスキーな近接アタッカー職、それがローグである。
さて、これとアルケミストとの相性はというと、意外というか、かなりいい。
基本後衛で戦うアルケミストに、重装備の防御力が必要かと聞かれれば微妙だし、軽装備といえどもローブよりはかなり防御力も高い。
瞬間的な回避スキルも存在する為、案外しぶといし。
さらに魔法系職のジレンマである移動速度の遅さをカバーできる事も大きい。
魔法系職だと思って不用意に近づいてくる奴相手を、短剣でお出迎えっていうのは凶悪の一言だし。
あと短剣職には、同じ短剣職が隠れて接近してきた場合に、それを察知するスキルがあるからそれもでかいな。
だって刃物でズドンとか俺のトラウマど真ん中だからさ~。
まぁそれはおいといて、もしローグを選んだ場合には、操作性、今は自分の体でやるわけだが、それがさらにピーキーにはなるだろうが、ある意味いまさらだし、使いこなせば最強の万能戦士の出来上がり、かもしれないし。
普通に考えればこっちなんだろうが………。
なかなか決められない。
だってまず二刀流ってかっこいいじゃん?
そして何より俺には《カマイタチ》無双の夢が捨てきれない………。
あれは、まさに、男の、夢。
そんなこんなで俺の戦士系職の転職先決定は、既にかれこれ10年以上先延ばしにされているのだ。
いい加減に決めないとな~。
あ、授業終了のベルが鳴ったな。
さて飯に食いに行くか。
授業はさぼるが、飯の時間はさぼらんのだよ!フハハハハ!
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