第69話 偽物を見抜くやり方(2)――当て布の月
管理番号KR-07 矯正相談記録
課題16 — その次
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課題15は、手袋をはめた手で終わりました。
先生は今回の課題の題を「その次」と書いてくださいました。司祭の手首をつかんだあとに何があったのかを書け、という意味でした。
私は、その次を知りません。
私が覚えているあの日の朝は、司祭の手が額に近づいてきたところで終わります。その次は白い部屋です。管理局の白い部屋で目を覚ましました。そのあいだはありません。
車の中の出来事と同じです。車のドアが閉まる音と拘置所の天井のあいだに一日が抜けているように、司祭の手と白い部屋のあいだにも、何かが抜けています。
私はこれまで、その二つを別の出来事だと思っていました。一つはあっちからこっちへ戻ってくることで、一つは人を殺したことでした。
今回の課題を受けて、初めてその二つを並べてみました。どちらも、あいだが空いていました。
それで、今回の課題には書くことがないと先生に申し上げました。先生は、書くことがないなら、書くことがないと書きなさいとおっしゃいました。
それで、そう書いて寝ました。ノートの前のほうに、一行。
その次は覚えていません。
朝、起きてみると、その一行の下が埋まっていました。
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光の門は、庭の真ん中にある石の上に開いた。
司祭が手を掲げると、石の上の騎士の周りに光が立った。柱のようでもあり、扉の枠のようでもあった。その内側は白かった。
白いものの向こうから、何かが騎士を呼ぶ声がした。名であった。あっちの言葉でできた名であった。騎士はその声を聞かなかった。司祭の顔だけを見ていた。
俺は神殿の扉の陰に立っていた。一晩中、そこにいた。
司祭は昨夜、庭で俺を受け入れた。俺は最後の告解をしたいと言った。司祭は告解を聞いてくれた。そして、額に手を置いた。
その手は温かかった。その温もりが、俺をさらに長く留まらせた。
門が開くあいだ、他の門も開いた。山の向こうで、川の向こうで、この地のいたるところで、同じ光が立った。
帰っていく者たちの行列であった。用済みの者たちが、来た場所へと列をなして帰っていた。
俺にはその行列が感じられた。行列は長く、その端に空席は一つもなかった。大法則は空席を残さない。
司祭が手を騎士の額へ持っていった。指一本分が残ったとき、俺は陰から出た。三歩であった。
俺は司祭の手首を掴んだ。手袋をはめた手で。
司祭が俺を見た。右の眉が上がったまま、止まった。
司祭は俺を覚えていた。昨夜、告解を聞いた者だということを。そして、その告解が何であったかを。
司祭の口が開いた。
その手首は細かった。温かかった。その熱は手袋を通り、俺の手のひらに染みた。俺は手を離さなかった。
司祭が悲鳴を上げた。
俺は、あのような音を初めて聞いた。戦場で数千の悲鳴を聞いたが、あのような音はなかった。
体が出す音ではなかった。体の中の何かが体の外へ引き出されながら出す音であった。
その音は庭に留まらず、光の門の中へ吸い込まれていった。門の中の白が揺らめいた。行列のすべてが一度、揺れた。
騎士が石の上から司祭を呼んだ。
「司祭様」
騎士はまだ俺を見ていなかった。騎士の目には司祭しかいなかった。
俺は門の中へ歩み入ったのであった。俺の前に、あの騎士がいた。
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このくだりは、彼が眠ったあとに書かれた。同じ房の収容者が、午前3時に彼が座って書いているのを見た。縦ではなく横に、ノートの前のほうに、彼の字で。
古古風な語り口だ。これまで他の筆体が書いたものの中で、一番長い。
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朝、私はそのくだりの最初の二行を読みました。
読めました。ノートの後ろの縦書きのように、滑ることはありませんでした。私の字でしたから。
横書きで、罫線に合わせて、丸が右へ回った字。
光の門は、庭の真ん中の石の上で開いたのであった。
その行を読んだとき、私の足の裏はその石のくぼみを覚えていました。
司祭が手を上げると、石の上の騎士の周りに光が立ったのであった。
その行を読んだとき、私は石の上の騎士が誰なのか分かりました。
三行目は読みませんでした。目を閉じました。
毎晩、子供たちに目を閉じて寝なさいと言っていた人が、朝、ノートの前で目を閉じました。そのままノートを閉じました。
閉じたノートを枕の下に入れました。
同室のご老人が、洗面台の前で私を見ました。
ご老人は、明け方に全部見ていたと言いました。
今回は徹夜祈祷ではなく、コーヒーミックス30袋計画の予行演習をしていたところだったそうです。
次の再審査の前日に向けた練習でした。
ご老人は、午前3時に私が起き上がって座ると、今度はノートを裏返さず、前から書いていたと言いました。
つかえることもなく、1時間以上。
書き終えてからペンを置き、また横になった、と。
横になりながら、何か言った、と。
何を言ったのかと伺いました。
ご老人は答えませんでした。
代わりに、コーヒーを一口飲んで言いました。
「それは読むな」
* * *
相談室に、ノートを持って行きました。
先生にお渡しするためです。
読まずに渡してしまえば、私も読まずに済みますから。
先生はノートを受け取り、その箇所を読まれました。
最後まで。
鉢植えのほうは見ず、ノートだけを見ておられました。
読み終えられてから、しばらく何もおっしゃいませんでした。
それから、ノートを私のほうへ返されました。
「一度、声に出して読んでみますか」
「読みたくなければ、読まなくてもいいですよ」
私はノートを手に取りました。
最初の一行を、もう一度見ました。
「光の門は、庭の真ん中の石の上で開かれたのであった」
そのページを破きました。
ノートから、破り取りました。
次のページも破り取りました。
そのくだりがまたがっている三ページを、全部破り取りました。
破り取ったページを半分に破き、また半分に破きました。
字の多い切れ端は、もう一度破きました。
相談室の床に、紙切れが落ちました。
私の手がやりました。
今度は、確かに私の手がやりました。
手袋を嵌めていない手でした。
私はその手で紙切れを全部破いてから、鉢植えを見ました。
半分こルールではなく、ほかに見る場所がなかったのです。
先生は、私を止めませんでした。
私が全部破き終えるまで、待っていてくださいました。
全部破き終えてから私が謝ると、先生は首を横に振られました。
「課題は収容者の持ち物ですから。破くかどうかは、収容者の心に任せます」
「ただ、相談室の床は相談室のものですから。掃除はこちらでします」
* * *
その日の午後、部屋に戻ってノートを開きました。
三枚が引きちぎられた跡には、紙の根元が鋸の歯のように残っていました。
私はその鋸の歯を指で撫でてみました。
ざらついていました。
前のページには、私が書いた一行がそのまま残っていました。
その先は、覚えていません。
あの一行の次が、鋸の歯でした。
今ではこのノートで、あの一行が正しい言葉になっていました。
火曜日の書芸班では、筆を握った手が震えました。
初めてでした。
「永」の字の最初の点が、画仙紙の上で滲みました。
おじいちゃん先生が、初めて私の席へ来てくださいました。
私の手の甲にご自分の手を重ねて、筆を一緒に握ってくださいました。
今日は直してやるところがある、とおっしゃいました。
そのお言葉が、妙に嬉しかったです。
震えている手は、私の手でした。
直してやるところがある手が、私の手でした。
* * *
彼が三枚を破いた。十六の断片。
彼が去ったあと、床から断片を拾った。全部、あった。
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同室のご老人の三度目の再審査は、その週の金曜日でした。
真偽の判断が困難という理由には補充陳述の機会がついてくるので、二度目と三度目の間は、ほんの数週間しか空きませんでした。
ご老人は木曜日の夜、コーヒーミックス三十袋のうち二十二袋を飲みました。
一晩を眠らずに明かしました。
金曜日の朝、襟を米粒で立てる手が震えていました。
ご老人はその手を見て、いい、と言いました。
震える手は本物に見える、と。
審査場で、ご老人は計画どおりにどもりました。
「私は、偽物、牧師、でした。それは、本、本物、です」と。
審査員の一人が、なぜそんなにどもるのかと尋ねたそうです。
ご老人は、夜を明かしたからだと、事実のままに答えたそうです。
審査員は、なぜ夜を明かしたのかと重ねて尋ね、ご老人は、どもるためだと答えたそうです。
その答えだけは、どもらなかったそうです。
一週間後、結果が来ました。不許可でした。
理由は今度は違っていました。陳述内容不明確。
ご老人はその通知書をしばらく眺めてから、滑らかなら偽物、どもれば不明確だ、と言いました。
この国の審査には、本物が入る枠がない、と言いました。
ご老人は通知書を聖書の見返しに挟みました。
領収書は三枚になりました。
残ったコーヒーミックス八袋は、私にくれました。
あんたもいつか、夜を明かす日が来るだろう、と言いました。
その夜、ご老人は、あの夜明けに私が横になりながら言った言葉を教えてくれました。
それは、ご老人が一週間、口にしなかったことでした。それを話したのは、領収書が三枚になった日の夜です。
ご老人の話では、私はペンを置いて横になりながら、天井に向かってこう言ったのだそうです。
「約束した日が過ぎた」
ご老人は、その言葉のあとで、それが何の約束なのかと私に尋ねませんでした。
私も答えられませんでした。
私は誰とも日付を約束したことがありません。ここの中でも、あっちでも。
子どもたちに、みんな大きくなったら家に帰ると言ったのが、約束と言えば約束ですが、それは日付のない約束でした。
日付のある約束なら、一つだけ思い当たりました。1年。
管理局で最初に聞いた言葉でした。
おおよそ1年が過ぎれば、人々は息を止めない、という話でした。
その日は過ぎていました。六十八個の金の、翌朝に。
私は、あの一言はその日のことを言ったのだ、と思おうとしました。
ところが、それは古風な言い回しで口にするような言葉ではありませんでした。
その日が過ぎたとき、私は一日中泣きました。
あの夜明けの声は、泣きませんでした。
ご老人の話では、その声は、何かを確かめる声だったそうです。
帳簿を閉じる人のように。
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同じ部屋の収容者の、三度目の再審査も不許可。理由は、陳述内容不明確。
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先生、その次を書けとおっしゃったので、その次を書きました。正確には、私が書いたのではなく、その次が書かれました。そして私は、それを破りました。
破った理由は、一つです。三行目から読むと、その箇所の中の私が誰なのか、分かってしまいそうだったからです。
神殿の門の陰に立っていた者。
手袋をはめた者。
司祭に最後の告解をした者。
その者が、石の上の騎士を前にして、光の門へ歩いて入っていきました。
石の上の騎士が私なら、その者は私ではありません。
ところがその箇所は、私の筆跡で、私の手で、私という言葉で書かれていました。
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白い部屋を出た夜、私は扉の向こうの人に頼みました。
「次に来る奴には、言わないで」
知ってしまえば、そうなってしまうから。
私は、その言葉を他人にだけ言ったつもりでした。今度は、私に言いました。知ればそうなってしまう気がして、破りました。
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破った。
貼っておく。
読む人がいるだろう。
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相談員は、十六の断片を透明テープで貼り合わせた。
断片と断片のあいだに、テープの跡が縦に残った。ノートの後ろの文字のように。
貼り合わせた三枚は、相談記録のいちばん後ろ、鉛筆で写し取った机の線の横に挟まれた。




