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第68話 偽物を見抜くやり方(1)――当て布の月

管理番号KR-07 矯正相談記録

課題15 — あの朝。


* * *


課題8を、最後まで書かなくてはなりません。


神殿で過ごした、最後の夜。その課題は、文の途中で終わっています。


「馬から降りた人が司祭様に」——そこで、ペンを置きました。


先生は、あのとき13分を計っていたとおっしゃっていました。


それから2年近く、私はその文の続きを書いていません。


書けなかったのではなく、書かなかったのだと思っていました。


今回の課題を受け取って、わかりました。


書けなかったのです。


* * *


先生は、今回あの夜を飛ばして、翌朝から書きなさい、とおっしゃいました。


詰まったところからやり直すのではなく、詰まったところの次から始めなさい、と。


川の水は岩に阻まれると、岩を穿つのではなく、回り道をするのだ、とも。


相談員という人たちは、そういう言葉を習うらしいです。


同室のご老人は、その言葉を伝え聞いて、自分も説教で使ったことがあると言いました。


献金が滞ったら他の信徒のところへ回れ——そういう意味で使ったのだそうです。


* * *


課題8の途切れた一文は飛ばし、翌朝から書かせることにした。


彼は今回も、相談室で書くと言った。相談室使用申請書をまた出した。


使用目的欄の「前回と同じ」は、教務課で差し戻された。書き直して、また出した。


* * *


朝、目を覚ますと、司祭様はもう庭にいた。


長椅子で寝たせいで、首が凝っていた。蝋の匂いがする毛布を畳み、椅子の端に置いた。


神殿の扉を開けて外へ出ると、庭の丸い石の上に、朝日がちょうど差し始めていた。中央の擦り減った石は、露に濡れていた。


司祭様はその石のそばに立ち、蝋燭に火を灯していた。俺が作った歪んだ蝋燭だった。


司祭様はそれを小さな石の燭台に差し込んだ。蝋燭が曲がっていて、炎が斜めに立った。


司祭様はその炎を見て、笑った。右の眉だけが上がった。


庭の端に、茶色の馬が一頭つながれていた。ラバの姿はなかった。馬の背には鞍だけが載っていた。


俺はその馬に見覚えがあった。巡回騎士様の馬だった。五年目の春から、ラバを引いて孤児院へ来ていたあの馬だ。


巡回騎士様が俺を見送りに来てくれたのだと思った。嬉しかった。


孤児院では誰にも別れを告げられなかった。だが、巡回騎士様には告げられる。そう思った。


ところが、巡回騎士様の姿は見えなかった。神殿の中にも庭にもいない。馬だけがつながれていた。


司祭様に尋ねようとして、やめた。司祭様は蝋燭を見つめたまま、何かをつぶやいていた。祈りの言葉だろう。


俺に聞き取れる向こう側の言葉ではなかった。井戸のそばで司祭様と巡回騎士様が交わしていた、あの難しい言葉に似ていた。


低く平らな声が、蝋燭の炎の周りを巡った。俺は祈りを邪魔しなかった。


馬が首を上げ、鼻息を一度吐いた。司祭様はその音に一瞬だけ馬の方を見て、すぐまた蝋燭へ目を戻した。


そのとき司祭様の顔に何がよぎったのか、俺には見えなかった。俺は馬を見ていた。


その馬は、主人の帰りを待つように神殿の扉の方を見ていた。


* * *


あの茶色の馬は、課題6の巡回騎士の馬だった。


騎士の姿は、どこにもなかった。


* * *


司祭様が俺を呼んだ。


中央の石の上に立て、と言った。


俺はその石に上がった。裸足だった。靴を脱げと言われたからだ。


石は露に濡れて冷たかった。真ん中がくぼんでいて、足の裏がその形どおりに収まった。


多くの人が、この石の上に立ったのだろう。


その人たちの足が、石をここまですり減らしたのだろう。


俺は、その人たちがどこへ行ったのかを考えた。


みんな、来た場所へ帰ったのだろう。俺のように。


司祭様が俺の前に立った。


曲がった蝋燭が、司祭様の横で斜めに燃えていた。


「何もしなくていい。立っているだけでいい。昨夜のように」


「目を閉じなさい」


俺は目を閉じなかった。


最後に、司祭様の顔を見ておきたかった。


司祭様は、俺が目を閉じないのを見ても、それ以上は何も言わなかった。


代わりに笑った。右の眉が上がった。


司祭様が手を上げた。


俺の額へ。


叙任式のときのように。季節ごとの告解が終わるたびに、そうしてくれたときのように。


その手が額に触れれば、温かいものが額から首へ、肩へ、指の先へと下りていくはずだった。


俺はその温度を待った。


6年のあいだ、その温度を待つことだけは、一度も裏切られたことがなかった。


* * *


ここからは相談室で書きました。先生は前にいらっしゃいました。先生は鉢植えをご覧になっていて、私はノートを見ていました。


司祭様の手が、私の額に触れる直前でした。手のひらと額のあいだに、指一本分ほどの距離が残っていたとき。


その手を掴みました。


私が掴んだのです。司祭様の手首を。右手で。手首は思ったより細いものでした。季節ごとに山を越えて歩いてこられる方なのに、手首は細いのでした。私の指は司祭様の手首をひと回りして、なお余りました。司祭様の手は温かかった。その温かい手が、私の手の内で止まりました。額に触れぬまま。


司祭様が私をご覧になりました。笑みが顔から抜け落ちました。右の眉が上がったまま、止まりました。司祭様の口が開きました。何かおっしゃろうとされました。


私は司祭様の手首を、さらに強く握りました。手袋をはめた手で。


* * *


司祭の手首を掴むくだりは、相談室で彼が私の目の前で書いた。ペンは止まらなかった。前回のように13分を計ることはなかった。むしろ速かった。


最後の一文でペンが止まった。手袋をはめた手で。


* * *


そこまで書いて、私はペンを置きました。最後の一文をもう一度読みました。手袋をはめた手で。


あの日、私は手袋をしていませんでした。鎧は孤児院の食堂の椅子に置いてきました。手袋も鎧と一緒に置いてきました。神殿まで峠を越えるあいだ、私の手は素手でした。蜜蝋の包みを素手で背負いました。神殿で蝋燭を作ったときも素手でした。歪んだ蝋燭は、私の素手が作りました。あの朝、真ん中の石の上に立った私は、靴も脱いだ裸足で、手も素手でした。


それなのに、司祭様の手首を掴んだ手は、手袋をはめていました。


ペンを置いてから、私の右手は開きませんでした。指が内側に巻いていました。何か細いものを握っている形でした。手首ひとつ分の太さでした。私は手を開こうとしました。指には力が入っていました。私が与えた力ではありませんでした。


先生が立ち上がって、机を回ってこられました。そして、私の手を取られました。


相談室で先生が私の体に触れられたのは、そのときが初めてでした。


先生は私の指を一本ずつ伸ばしてくださいました。親指から。


一本を伸ばすと、別の指がまた内側に丸まろうとするので、先生は伸ばした指を手のひらで押さえたまま、次の指を伸ばされました。


五本の指が全部伸びるまで、しばらくかかりました。


私はそのあいだ、井戸のことを考えていました。石の隙間に挟まった子どもの指を、私はそうやって伸ばしました。親指から、一本ずつ。


あのときは、私が伸ばす側でした。


手が全部伸びると、先生は席へ戻られました。そして、何事もなかったかのように、ノートを求められました。


私は先生にノートをお見せしました。先生はその一文を読まれました。そして、課題6を取り出されました。一緒に働いた人たち。


先生は巡回騎士の段落を指されました。この段落だけ字が違う、と先生が書き留めておられた段落です。


手袋は外しませんでした。食事のときも、井戸の水を飲むときも、はめたままでした。


私はその一文を読んで、鉢植えを見ました。半分こルールのためではありませんでした。ノートを見ていられませんでした。


* * *


同室のご老人は、その日の夕方に二度目の再審査の結果を受け取りました。


不許可でした。


理由は前回と同じでした。本人陳述の真偽判断困難。


ご老人は、今回の審査でも同じことを言ったと話しました。


「俺は偽物の牧師だった。それは本当だ」


同じことを二度言えば本当に聞こえると思っていたのに、審査委員たちは二度目のほうをいっそう疑ったのだそうです。


練習した言葉に聞こえたのだ、と。


ご老人は、自分が一年以上前に言った言葉を、そのまま返されたのでした。


偽物は口が滑らかだ、と。


ご老人は通知書を聖書の見返しに挟みながら、次の審査ではどもってみせると言いました。どもる練習をすると言いました。


私は申し上げました。


「どもる練習をしたら、それは滑らかにどもるだけです」


ご老人はしばらく考えてから、それなら審査の前の晩に徹夜をすると言いました。眠れなければ、誰でも自然にどもるようになるからです。


ご老人はその計画に、コーヒーミックス三十袋という予算を組みました。


その夜、私はご老人に手袋の話をしました。


ご老人は最後まで聞いてから、手袋をはめた手は指紋が残らない、と言いました。自分が献金箱の鍵を複製したときに覚えたことだ、と。


手袋をはめれば、手がしたことは手に残らない。手はやったのに、手がやっていないことになる。ご老人はそう言いました。


そう言ってから、ご老人は自分の手に目を落としました。


その日のご老人の手は、素手でした。


ご老人は言いました。自分はあのとき手袋をはめていなかったから引っかかった。だからお前は、手袋のおかげでまだ引っかかっていないのだ、と。


何が引っかかっていないのかは、ご老人も私も口にしませんでした。


私はその夜、右手を布団の外に出して、伸ばしたまま寝ました。


眠っているあいだに手が丸まったら、目が覚めるように。


* * *


同じ房の収容者の二度目の再審査も、不許可。理由は同じ。


同じ房の収容者の次の計画。審査前日の徹夜。コーヒーミックス三十袋。


* * *


先生、私はこの課題を、こう整理しようと思っていました。


手が疲れていたので課題6の文を持ってきた、というふうに。課題10でそう整理したときのように。


ところが、今度はその整理がつきません。


課題6の巡回騎士の段落は私の字ではない、と先生はメモに記していました。


私はその段落を書いた記憶があります。書いたときは、私の字でした。


それなのに、先生の目には、その段落だけ字が違って見えました。


そして今日、司祭の手首を掴んだ手は、その段落の中の手袋をはめていました。


あの日の朝、庭にはその人の馬がつながれていて、その人は見えませんでした。


馬はいるのに、人はいませんでした。


人のいない場所から、手袋をはめた手が出てきました。その手が、司祭の手首を掴みました。


そしてその手を、私は自分の手だと書きました。私が掴みました。


私はその文を消しませんでした。


消せば、私が掴んでいないことになる気がしました。けれど消さなければ、私が手袋をはめていたことになります。


どちらも選べなかったので、そのままにしました。


* * *


「司祭を掴んだのは、誰ですか」


* * *


彼は、その日の朝、真ん中の石の上に裸足で立った、と書いた。足の裏が、石の窪みに合った、と。


司祭の手首を掴んだ手がどこに立っていたのかは、書かなかった。


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