第31話 KR-04
メモには、質問が七つまで増えていた。
1番と3番は、ずっと前に答えをもらった。2番の横には、今も「保留」が残っていた。
4番からは、この施設で過ごした半年の間に、一つずつ増えていった。4番の下には、彼女の字で「保留」と書いてある。5番にも「保留」。
6番は五歳の子どもの行方で、横には「知らない」と書いてあった。
保留と知らないは違う。保留は、知っていて言わないという意味。知らないは、本当に知らないという意味だ。彼女はその二つを書き分けていた。それがありがたかった。
7番は、昨日、俺が書いた。
7. 第三候補——国が連れて行った孤児の少年。その国が、ここなのか。
彼女は白い部屋のテーブルの角に斜めに腰かけて、そのメモを長いこと眺めていた。7番の横にボールペンを当てて、離す。「保留」と書くのかと思った。書かなかった。
「あの手記の、司祭会議の日のことですか。86枚から100枚の間です」
「はい。最高司祭会議の日。親を知らない少年がいて、心を読んで、心に文字を書くことができたと。国が連れて行って、終わりは良くなかったと。10年前」
「記憶力がいいんですね」
「会社に勤めていたとき、議事録を書いていました」
彼女はごく短く息を吐いた。笑ったのかどうかは、わからない。
* * *
そのとき、ドアが開いた。
ラーメンだった。トレイを持っていた。
トレイの上には、アルミホイルに包んだキンパが二本、紙コップが二つ、それからカップラーメンが一つ。フタを半分開けて、お湯を注いだやつだ。湯気が立っていた。
ラーメンは俺の手を見ながら入ってきて、トレイをテーブルに置く瞬間、それに気づいた。自分が運んできたカップラーメンに。
顔から血の気が引いた。
「あ」
「汁物禁止です」
面談官が言った。感情のない声だった。
「いや、これ、僕のですよ。観測室で食べようと思ってたんです。トレイに一緒に載せて持ってきちゃって……」
「対象空間内への汁物の持ち込みです」
「室長、これ、僕がそのまま持ち出せば……」
「経緯書は明日までに」
ラーメンはカップラーメンを両手で抱えて、後ずさりしながら出ていった。
ドアが閉まる直前、つぶやきが聞こえた。
「ラーメンのせいでラーメンが経緯書を……」
ドアが閉まった。
キンパが二本残った。面談官はそのうち一本を、俺のほうへ押しやった。
「召し上がってください。長くなりますので」
* * *
輸出は本文のみ。以下が第31話 第2/5部分の日本語本文です。
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彼女はキンパの銀紙を半分ほど剥がして、それきり手を付けなかった。
「あの子はKR-04です」
「四番目」
「四番目です。我々の番号では。あの団体はその子を『第三候補』と呼んでいたはずです。団体の集計と我々の集計は違います。六番目のときに申し上げました」
俺はうなずいた。
「12歳でした。我々が初めて会ったときは。両親はおらず、名前も保育園がつけたものでした。あの子は人の心のうちを聞き、心のうちに自分の言葉を書き込むことができました。口を開かずに」
「六番目と似てますね」
「似ていました。ただ、六番目は数千人に一つの文を送り、あの子は一人に数千の文を送りました。だから役に立ち方が違ったんです」
役に立つ。彼女はその言葉をひどく正確に発音した。自分の口から出た単語を、自分で罰するみたいに。
「当時、ここは管理局ではありませんでした。情報機関の下にある小さな部署でした。別の世界から来た人間を管理するのではなく、役に立つ人間を見つけて使うところでした。団体からあの子を連れてきたのもその部署です。誘拐ではありませんでした。書類はすべて揃っていました」
「書類はいつも揃ってる」
「いつも揃っています」
* * *
俺はキンパを一つ食べた。たくあんが歯の間で折れた。ラーメンが上の階で噛んでいた、あの音。
彼女が話している間、俺はあっちの王宮を思い出していた。勇者を見つけたのは神殿ではなく、王宮の諜報庁だった。最初の1年、俺は勇者ではなく『資産』と呼ばれていた。書類はすべて揃っていた。俺の手形が押してあった。俺はあっちの文字を読めなかったときに押した。
* * *
「担当は私でした」
彼女が言った。
「24歳でした。私も新人で。あの子を連れてきて、寝かせて、ごはんを食べさせて、毎朝、作戦ブリーフィングをしました。あの子は、私がブリーフィングをするより先に、私の頭の中からブリーフィングを読み取っていきました。だから私は、あの子の前で嘘をつけませんでした」
「どんな子でしたか」
「あんパンが好きでした。作戦が終わると、コンビニであんパンを一つ買ってくれと言いました。いつも一つだけ。二つ買ってやると、一つは私のポケットに入れました。私に食べろと。私があんこが嫌いだと知っていて。頭の中を読んでるんですから、分かっていたはずなのに。それでも、入れました」
彼女はキンパのアルミ箔に目を落とした。
「私はそのパンを一度も食べませんでした。あの子はそれも、分かっていたでしょう」
「あの子は何をしたんですか」
「人を救いました」
彼女はそう言って、少し黙った。
「数百人です。文書に残せない言葉を伝えました。人質犯の頭の中に、『銃を下ろせば誰も傷つかない』と書きました。国境の向こうに閉じ込められた人の頭の中に、『三日だけ耐えろ、行くから』と書きました。あの子のおかげで生きて帰れた人が数百人います。その人たちは、あの子のことを知りません。そんな言葉が頭に浮かんだ、とだけ覚えています。自分の勇気だったと思っています」
「それなら、いいことじゃないですか」
「あの子は、一日も休みませんでした」
彼女はキンパのアルミ箔を指で折っては伸ばした。
「使うほど、大きくなりました。最初は一部屋にいる人にしか効かなかったのが、次は建物一つ、その次は都市一つ。大きくなるほど、もっと多くの仕事が入ってきました。もっと多くの仕事をするから、もっと大きくなって。私はそれがいいことだと思っていました。成長だと、報告書に書きました。成長曲線のグラフも描きました。決裁を受けました」
「そして」
「20歳の誕生日の翌日、作戦中に倒れました。二度と起きませんでした。死因は過労として処理されました。書類は全部あります」
* * *
20歳の誕生日の翌日。
彼女はその日付を正確に記憶していた。誕生日の翌日、と彼女は言った。誕生日ではなく。
あの子は誕生日までは耐えた。あるいは、誕生日の一日だけは休ませてやった。どちらにしても、彼女がその日を覚えている仕方は同じだった。
俺は彼女のポケットを見た。薬入れ。弟。そしてKR-04。
彼女は薬入れひとつに、二人を入れて持ち歩いていた。
成長曲線のグラフ。彼女はあの子の数値を毎月グラフに描いていた。
今、俺の測定表も毎週彼女のクリップボードに渡っている。俺はそのクリップボードの裏にグラフがあるかどうか、見たことがない。見せてくれと頼んだこともない。
彼女は今度はグラフを描かないのだろうか。それとも、描いてはいるが、決裁に上げていないのだろうか。
* * *
「そのあと、部署が変わりました」
彼女が言った。
「あの子が死んだあと、内部監査が入りました。役に立つ人間を探す部署から、管理する部署へ変わりました。名前も変わり、所属も変わりました。もう、越えてきた人間を使いません。管理します。1年間保護して、能力が減っていくのを見て、普通になったら返す。それが今の私たちの仕事です」
「半径10キロを空けて、配膳口から飯を入れて、汁物を禁止」
「はい。あの子が原因でできた規定が半分です」
「残りの半分は」
「七番目のせいです」
俺はキンパを置いた。彼女は最初からキンパを食べていなかった。
「なぜ今、あの子のことを話してくれたんですか。七番目は昨日書いたのに」
「保留にする理由がなくなったからです」
彼女は俺の目を見た。斜めに座ったまま、首だけを回して。
「この部署が管理する人間の数値は、減っていかなければなりません。それが私たちの存在する理由です。1年間で減っていくのを確認して、返す。なのに、あなたの数値は増えています。毎月」
「分かってます。0.95」
「今月はまだ測っていません」
彼女はキンパのアルミ箔を完全に折りたたんで、小さな四角形にした。そしてそれをポケットに入れた。薬入れの入ったポケットに。
「あの子のことです。KR-04」
彼女は立ち上がりながら言った。
「あの子も、数値が減りませんでした」
* * *
その日の夕方、配膳口が開いた。食器トレーの代わりに、A4の紙が一枚入ってきた。
鉛筆で書かれた経緯書の下書きだった。一番上に付箋が貼ってあった。
「おじさん、これ、どう書くんですか。経緯書、お上手じゃないですか。 — ラーメン」
配膳口の向こうに、スニーカーが一足見えた。一人だった。
2人1組の違反だった。そこまで経緯書に書くべきか、俺は少し迷った。
下書きの経緯欄には、こう書いてあった。
「トレーにカップ麺を載せておいたのを忘れて、トレーを持って行った」
再発防止策の欄は空欄だった。
俺はボールペンで一行書き、配膳口へ送り返した。
「再発防止策:今後、観測室ではキンパのみ食べること」
スニーカーはしばらく立っていた。それから、小さな声で言った。
「それって、本当に守らなきゃいけないんですか?」
「経緯書に書いたことは、全部守ってもらいます」
「……はい」
スニーカーは遠ざかった。
その夜、俺は彼女が言わなかった言葉のことを考えた。
あの子にあんパンを買ってやっていた新人職員が、今では汁物禁止の規定を作る室長になった。
その間の歳月を書類にしたら、何枚になるだろう。
ベッドの枕元の壁時計が、チクタクと音を立てていた。俺はその音を聞きながら、彼女が部屋を出る前に言った最後の言葉をもう一度思い出した。
「あの子も、数値が減りませんでした」
あの子は、20歳の誕生日の翌日に倒れた。
俺は38だ。自分の誕生日までは、あと4か月ある。
* * *
我々は、12歳のあの子を開いたまま置いたことがある。
20歳の誕生日の翌日まで。
その章と章のあいだで、あの子が最も多く聞いた声は、一人の人間のものだった。
毎朝ブリーフィングをしていた、嘘をつくことのできない声。




