表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/13

1話:誕生

最初に感じたのは、息苦しさだった。

肺の中に空気が入らない。

身体が重い。

寒い。

怖い。

何も見えない暗闇の中で、私は必死にもがいていた。

そして次の瞬間、世界が光に包まれる。


「セレーネ様!お生まれになりました!」


誰かの声が響いた。

強い腕に抱き上げられ、肺いっぱいに空気を吸い込む。

苦しくて、痛くて、怖くて。

私は思い切り泣き声を上げた。


けれど、私はすぐに別の腕へと渡された。


誰かが私を優しく抱きしめた。

温かくて、柔らかくて、どこか安心する匂い。


「エレオノーラ……私の可愛い子」


か細く、今にも消えてしまいそうな美しい声が聞こえた。


……お母さん?


そう呼ぼうと思った、その瞬間。

私はその温もりから引き離された。

再び泣き声を上げる私の意識は、ゆっくりと闇の中へ沈んでいった。


◇ ◇ ◇


次に目を覚ました時、私は小さなベビーベッドの上に寝かされていた。


その周りでは三人の人物が、じっと私の顔を覗き込んでいる。

一人は黒髪に赤い瞳、頭には立派な角を持つ大柄な男性。

その隣には、同じ黒髪と赤い瞳をした少年が二人並んでいた。

一人は短く切り揃えた髪。

もう一人は肩まで伸びた長い髪。

顔立ちは驚くほどよく似ている。


「……赤ちゃんって思ったより小さいな。」

「この子が俺たちの妹なんだね。」

「ああ。お前たちの妹だ。」

どうやら私は、この人たちの家族として新しく生を受けたらしい。


改めて三人の姿を見つめる。

全員、頭には立派な角が生えている。

人間とはかけ離れた容姿。

西洋人を思わせる、彫りの深い顔立ち。

豪華な調度品が並ぶ見慣れない部屋。


……なるほど。

どう考えても、ここは私が知っている世界じゃない。

どうやら私は、異世界に転生したらしい。


異世界転生。

生前、漫画や小説で何度も読んだジャンルだ。


もしかして、私もどこかの物語の世界に転生したのだろうか。

記憶を辿ってみる。


有名作品からマイナー作品まで、それなりに読んできたはずだけれど……。

駄目だ。

今のところ、思い当たる作品は一つもない。


「知っている物語に転生できたら少しは楽できたのになぁ」


なんて一瞬思ったものの、よく考えれば主人公たちは主人公たちで大変そうだった。

未来を知っているがゆえに苦しみ、運命を変えようともがいていた作品も多い。

そう考えると、案外知らない方が気楽に生きられるのかもしれない。


それから数日。少しずつ、この世界のことが見えてきた。


まず、この大柄な男性は私の父親らしい。

名前はオズヴァルト・ノクスレイン。

そして、周囲から魔王と呼ばれる存在であるらしい。

つまり私は、魔王の娘に転生したということになる。


ベビーベッドを覗き込んでいた二人の少年は双子の兄。

短髪の兄がシリウス。

長髪の兄がレグルス。


二人とも、寝返りもできない私を飽きもせず毎日見に来てくれる。

大人から言われているのか、私を驚かさないようにひそひそと、

「可愛いな」

「早く大きくならないかな」

と話している。


そして、もう一つ分かったことがある。

私を抱きしめてくれたあの人。

セレーネという人は私のお母さんで、私を産んですぐ亡くなったらしい。

あのぬくもりから、すぐに引き離されたのはそういう理由だったんだ。

顔も知らない。

名前しか知らない。

だから、母がいないことに寂しさは感じない。

でも、毎日のように私のもとを訪れる父や兄たちは、きっと違う。


それから、お世話をしてくれるメイドさんたち。

みんな、とにかく無表情。

怒っているのかと思えば普通にミルクを飲ませてくれるし、笑っているようには見えないのに優しく頭を撫でてくれる。

……怖い。いや、怖くはないんだけど、怖い。

でも、不思議と嫌な感じはしない。


どうやら魔族は、人間ほど表情が豊かではないらしい。

父や兄たちも、メイドさんほどではないけれど、表情の変化が少ない。

文化の違いなのか、世界の違いなのか……。


とにもかくにも、

父も、兄たちも、私のことを大切にしてくれるらしい。

前世では、家族に愛された記憶なんてほとんどない。

だったら今回は、存分に家族の愛情を享受しちゃお!


……まあ、それ以前に。

赤ん坊の身体というのは、想像以上に不便だった。

首は動かない。

歩けない。

喋れない。

眠くなったら勝手に寝るし、お腹が空けば泣くしかない。

早く大きくなりたーい!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ