初めての音合わせ
放課後。
軽音楽部の部室には、いつものように賑やかな声が響いていた。
神威「先生! 今日こそボンゴソロやりましょう!」
萌野先生「最初からソロはない。」
神威「えぇー!」
部室に笑いが広がる。
その中で、辰哉は借りたベースを手にしていた。
まだ少し緊張している。
奈美「辰哉、大丈夫?」
辰哉「うん……でも、みんなについていけるかな。」
名寄「最初から完璧な人なんていないよ。」
藍「ゆっくり合わせよう。」
狛似「俺たちも一年生の頃はボロボロだった。」
萌野先生が手を叩く。
萌野先生「よし、今日は演奏の練習じゃない。」
全員が先生を見る。
萌野先生「まずは"音を合わせる"練習だ。」
神威「音を合わせる?」
萌野先生「バンドは一人が上手くてもダメ。六人で一つの音を作るんだ。」
先生はメトロノームのスイッチを入れた。
カッ、カッ、カッ、カッ……
一定のリズムが部室に響く。
萌野先生「このリズムに合わせて、一人ずつ音を出してみよう。」
最初は狛似のドラム。
次に藍のキーボード。
名寄のギター。
神威のボンゴ。
奈美はリズムに合わせて軽くハミングする。
最後に、辰哉の番が来た。
萌野先生「辰哉。」
辰哉「……はい。」
ゆっくりと弦を弾く。
「ボン」
低いベースの音が部室に重なった。
萌野先生「いいぞ。そのまま。」
もう一度。
そして、もう一度。
六人の音が少しずつ重なっていく。
まだ演奏とは呼べない。
それでも、不思議と心地よかった。
音が止む。
奈美「できた!」
神威「なんかバンドっぽい!」
名寄「『っぽい』じゃなくて、もうバンドだよ。」
辰哉はベースを見つめ、小さく笑った。
辰哉「……楽しい。」
その一言に、部室が静かになる。
奈美はにっこり笑った。
奈美「やっと言った。」
藍「その言葉、待ってた。」
狛似「これからもっと楽しくなるぞ。」
萌野先生は腕を組みながらうなずく。
萌野先生「じゃあ次の目標を決めよう。」
神威「全国大会!」
萌野先生「軽音楽部に全国大会はない。」
神威「じゃあ世界!」
萌野先生「まずは文化祭。」
全員が吹き出した。
奈美「よーし!」
奈美「文化祭で最高のライブをしよう!」
全員「おー!」
六人の声が部室に響く。
辰哉はみんなと一緒に拳を上げた。
父の活動休止、姉・彩の失踪で止まっていた時間が、少しずつ動き始めていた。
そして、この文化祭が六人にとって忘れられない最初のステージになることを、まだ誰も知らなかった。




