朝の会
夏休み明けから二週間。
久しぶりに登校した翌朝。
木谷辰哉は、昨日より少しだけ落ち着いた表情で教室へ向かった。
辰哉(心の声)
「……今日も来られた。」
教室のドアを開ける。
奈美「おっ、おはよう!」
辰哉「おはよう。」
神威「今日も逃げなかったな。」
辰哉「失礼だな。」
神威の一言に、教室が少し笑いに包まれる。
辰哉も思わず口元を緩めた。
ガラッ。
教室の前のドアが開く。
萌野先生「おはよう。」
生徒一同「おはようございます!」
萌野先生は出席簿を開き、出席を取り始めた。
萌野先生「青木。」
青木「はい!」
萌野先生「伊豆井。」
神威「はい!」
萌野先生「太牙羅。」
奈美「はい!」
萌野先生「木谷。」
一瞬だけ教室が静かになる。
辰哉「……はい。」
萌野先生は優しくうなずいた。
萌野先生「よし。」
それだけだった。
余計なことは何も聞かない。
その気遣いが、辰哉には少しだけありがたかった。
出席確認が終わると、萌野先生は黒板に大きく「文化祭」と書いた。
萌野先生「来月は文化祭だ。」
教室がざわつく。
男子生徒「今年は何やる?」
女子生徒「模擬店かな?」
萌野先生「まだ決まってない。今日のホームルームで話し合う。」
すると突然、教室のドアが勢いよく開いた。
晶哉「失礼しまーす!」
生徒会長・島津晶哉だった。
萌野先生「島津、どうした?」
晶哉「文化祭実行委員の募集に来ました!」
萌野先生「朝から元気だな。」
晶哉「元気だけが取り柄なんで!」
教室から笑いが起こる。
晶哉「楽しい文化祭にしたい人ー!」
教室のあちこちで手が挙がる。
晶哉「ありがとう!じゃあ、立候補待ってます!」
そう言うと、晶哉は元気よく教室を飛び出していった。
萌野先生「……相変わらず騒がしいな。」
また教室が笑いに包まれる。
辰哉はその様子を眺めていた。
少し前まで、自分には関係のない世界だと思っていた。
でも今は違う。
少しだけ、この教室にいてもいいのかもしれない。
チャイムが鳴る。
朝の会が終わり、一時間目が始まった。
そして放課後。
奈美「木谷。」
辰哉「ん?」
奈美「今日、軽音楽部に来てみない?」
突然の誘いに、辰哉は戸惑う。
音楽。
今、一番向き合いたくないものだった。
辰哉「……俺には無理だよ。」
奈美「見学だけでもいいから。」
奈美は笑顔でそう言った。
その一言が、辰哉の人生を大きく変える第一歩になるとは、まだ誰も知らなかった。




