第9話:受け継いだ古剣と、初めての単独討伐
「うう……まだ少し目がチカチカするわ……」
翌朝。魔法使いのエイミーが目を擦りながらテントから出てきた。
リーダーのガイルたちも、どことなく眩しそうに目を細めている。
「昨晩は本当にすみませんでした……」
俺が平謝りしながら朝食のスープを差し出すと、ガイルは苦笑いしながらそれを受け取った。
「気にするな。おかげで目がバッチリ覚めたし、お前があの『閃光』を使いこなせりゃ、いざって時の強力な切り札になる。……にしても、お前たちのコンビは本当に規格外だな」
『ふふっ。お褒めにあずかり光栄です』
俺の肩の上で、原因を作った張本人であるリコが、全く悪びれる様子もなく胸を張った。
朝食を終えて野営地を片付けると、俺たちは再び街道を歩き始めた。
順調に進めば、今日の昼過ぎには目的の街へ到着する予定だ。
「よし、ちょうどいいのが出たな。リオン、お前一人でやってみろ」
しばらく進んだ先で、ガイルが顎で前方をしゃくった。
街道のど真ん中に、丸々と太った巨大なウサギのような魔物――『ホーンラビット』が一匹、こちらを威嚇している。額には鋭い一本角が生えていた。
「俺一人で……っ」
「安心しろ。危なくなったら俺たちがすぐにフォローに入る。お前がこの数日でどれだけ成長したか、見せてみろ!」
ガイル、ドン、エイミー、ミランダの4人が、少し下がって俺を見守る。
俺は小さく深呼吸をすると、腰から譲り受けた古い剣を抜き放った。
「キシャァァァッ!!」
俺を敵と認識したホーンラビットが、強靭な後ろ脚で地面を蹴り、弾丸のようなスピードで突進してくる。
狙いは俺の腹部。まともに食らえば、あの鋭い角で風穴が開く。
(速い……! でも……!)
『リオン。敵の初速から到達時間を演算。……来ます』
脳内に響くリコの声と同時に、視界にうっすらと『光のガイドライン』が浮かび上がった。
「ふっ……!」
俺はドンに教わった『怪我をしない受け身と回避』のステップを思い出し、ギリギリまで引きつけてから、半歩だけ右へスッと身をかわした。
鋭い角が、俺の脇腹を数ミリの差で通り抜けていく。
「いける……!」
敵の突進の勢いが止まらないうちに、俺はガイルに叩き込まれた『重心を落とした剣の軌道』で、すかさず古剣を振り下ろした。
リコの演算サポートが、俺の素人くさい筋肉の動かし方を一瞬で最適化する。
ズバァァンッ!!
鈍い手応えと共に、振り下ろした剣がホーンラビットの急所を的確に捉えた。
魔物は悲鳴を上げる間もなく、地面を数回バウンドして動かなくなった。
「……やった」
俺は荒い息を吐きながら、剣を下ろした。
魔法や閃光を使ったわけじゃない。ただ、教えてもらった基礎を忠実に再現しただけだ。
「おおおおおっ!! マジかよ!!」
後ろで見ていたガイルが、両手を上げて歓声を上げた。
他の3人も駆け寄ってきて、次々と俺の背中や肩をバンバンと叩く。
「すげえぞリオン! あの引きつけからのステップ、ドン顔負けじゃないか!」
「剣の振りも迷いがなくて完璧だったわ! とても数日前まで剣を握ったこともなかった素人とは思えない!」
プロの冒険者たちから口々に褒められ、俺は少し照れくさくなって頭を掻いた。
「ありがとうございます。皆さんが丁寧に教えてくれたおかげです」
「いやいや、お前の飲み込みの早さが異常なんだよ。……これなら、街のギルドでも堂々と冒険者登録できるな!」
ガイルが嬉しそうに笑い、俺の背中を強く押した。
自分の身を守るための、最低限の戦う力。それを身につけられたことが、素直に嬉しかった。
◆ ◆ ◆
それから数時間後。
森の木々が途切れ、視界が開けた先。
「見えたぞ。あれが『城塞都市リバニア』だ」
ガイルが指差す先には、巨大な石造りの城壁に囲まれた、とてつもなく大きな街がそびえ立っていた。
城壁の門には長蛇の列ができ、馬車や商人、そして様々な種族の人々が行き交っている。
「すげえ……! 本当に、ファンタジーの街だ……」
人間だけでなく、尖った耳を持つエルフや、小柄で筋肉質なドワーフ。そして獣の耳や尻尾を持つ獣人たち。
俺は、初めて見る『異世界そのもの』の光景に、胸の高鳴りを抑えきれなかった。
「さあ、着いたぞ。まずはギルドに向かおうぜ!」
未知の食材、未知の料理、そして未知の出会い。
期待に胸を膨らませながら、俺は冒険者たちと共に、活気あふれる街の門をくぐった。




