第79話:最高硬度への挑戦と、三位一体の極技
「よし、次はあの剛嶽竜だな!」
俺は、まるで動く黒い要塞のような巨体を誇る剛嶽竜を見据え、柄を力強く握り直した。
そして、一気に距離を詰め、渾身の力で妖刀を振り下ろす。
「いけっ! 『千曳の呪い』!!」
ガァァァァァァァァァンッ!!!!!
凄まじい金属音が周囲の海域に響き渡った。
イザナミから放たれた不可視の斬撃は、剛嶽竜の黒く分厚い鱗に弾かれ、火花を散らして霧散してしまった。
「いやー……流石に無理だよなー。見るからに硬そうだし」
俺が苦笑いした直後、剛嶽竜の黒い鱗が内側からマグマのように赤く光り出した。
その光は全身から頭部へと集まっていき、開かれた巨大な口から、強力な『熱の光線』が放たれた。
ズドォォォォォォォォンッ!!
「うおっ!?」
俺は間一髪で【神速】を発動し、空中を蹴って回避した。
振り返ると、さっきまで俺がいた崖が跡形もなく消し飛び、巨大な穴が空いている。
「……今のはやばそうだったな。リコ先生、どうしたらいいですか?」
「真面目にやりなさいな。ですが……あの異常な硬さ、修行にはもってこいの相手ですね!」
「なるほど! こいつを斬ることができれば、あのバハムートの鱗にも通用するってことだな!」
「その通りです! リンクしますわよ、リオン!」
「おう!」
リコとの【能力共有】を限界まで深め、『完全融合』を果たす。
リコの姿が光となって俺の体内へと溶け込み、俺の髪が美しい銀色へと染まった。膨大な知識と魔力が全身を駆け巡る。
『リオンが直接、剣聖や剣術のスキルを使って斬り込みなさい。私は内側での魔力操作に専念し、斬撃のインパクトの瞬間だけに最大魔力を叩き込みますわ!』
俺の脳内に、リコの頼もしい声が響く。
「タイミング勝負ってことだな! 行くぞ!」
俺は再び神速で剛嶽竜へと接近し、連続で斬撃を放つ。
だが、剣を振り下ろす俺の速度と、リコが魔力を爆発させるタイミングがコンマ数秒ズレてしまう。
ガキンッ! カキィィィンッ!!
何度も弾かれ、その度に剛嶽竜の鱗に俺たちの攻撃エネルギーが蓄積されていく。
そして再び、剛嶽竜の全身が危険な赤色に染まった。
(またあの熱線が来る……っ! 口から放たれるなら、胴体の死角に潜り込めば!)
俺はブレスを回避するため、剛嶽竜の懐へと一気に飛び込んだ。
だが、脳内でリコが悲痛な声を上げた。
『いけません、リオン! これはブレスでは……!』
その瞬間。
剛嶽竜の甲殻の隙間という隙間から、蓄積されたエネルギーが『全方位への熱波』となってドーム状に放たれた。
「――っ!!」
逃げ場のない至近距離での大爆発。
凄まじい熱線が俺の身体を包み込み、全身の皮膚が焼け焦げるような激痛が走った。
「がぁぁっ……!」
海面へと吹き飛ばされ、全身に大火傷を負って動けなくなる。
体内のリコが必死にヒールをかけてくれるが、ダメージが深すぎて回復が全く追いつかない。
意識が遠のきかけた、その時だった。
『やれやれ。まったく、世話の焼ける主じゃな』
俺の手に握られたイザナミが、呆れたような声を出した。
直後、イザナミの刀身から黒い靄が溢れ出し、なんと先ほど倒して魔核を吸収したばかりの『聖竜』の姿を形作ったのだ。
『キシャァァァァ……!』
幻影のような聖竜が、かつての己の力である極大の回復魔法を俺へと降り注ぐ。
温かい光に包まれ、全身の酷い火傷が一瞬にして完治した。
「ふぅ……助かった。ありがとうイザナミ、それに聖竜。次は絶対に油断しない!」
俺が立ち上がると、遠くの崖から見ていたアリシアが震える声で叫んできた。
「さっきの聖竜を召喚した!? 嘘でしょ……それに、王都レガリアの国宝『イザナミ』をどうしてあなたが持っているの!?」
「あとで説明します! まずはあいつを倒しますから!」
俺が再びイザナミを構えると、彼女は妖しく刀身を光らせた。
『リオンよ。妾に魔力をよこすのじゃ。魔力を込めた分だけ、この刀の切れ味を底上げしてやろう』
「わかった! リコと合わせる分は残したいから、半分持っていけ!」
ズワァァァァッ! と、俺の体内からごっそりと半分の魔力が奪い取られる。
魔力を吸われた疲労感は残るが、イザナミの刃はこれまでにないほど鋭く研ぎ澄まされていた。
『リコよ。妾も、お主がやろうとしていることに協力してやろう』
『ええ、助かりますわ! 行きますよ、リオン!』
俺は気力を振り絞り、剛嶽竜の甲殻に向けて渾身の一撃を放った。
剣が鱗に触れる、その超極小のインパクトの瞬間――!
『今じゃ!!』
「いっけええええええええっ!!」
俺の剣撃の速度に合わせ、体内のリコとイザナミが寸分違わぬタイミングで『最大魔力』を爆発させた。
三位一体の極技。
ズバァァァァァァァァンッ!!!!!
これまで何度も弾かれていた最高硬度の甲殻が、まるで豆腐のように綺麗に両断された。
「まだだッ!!」
そこからは俺の独壇場だった。
神速の連撃。そのすべてに、ドンピシャのタイミングで魔力が放出される。
数十、数百の斬撃の嵐が、動く要塞と化していた剛嶽竜を完全にバラバラに切り刻んだ。
ドズゴゴゴゴゴォォォォンッ……!!
巨大な竜が崩壊し、海へ沈んでいく。
「はぁ、はぁ……。やった! リコ、ついに俺たちのオリジナル技が完成したな! ありがとうな、イザナミ!」
『ふん! 妾を誰だと思っておる! いいから、早くその剛嶽竜の魔核を差し出すのじゃ!』
少し照れたようにツンケンするイザナミ。
彼女が『黄泉の穢れ』のスキルで剛嶽竜の生命力と魔力を吸い上げ、それを俺へと還元してくれる。
半分減っていた俺の魔力は、瞬く間に全快してピンピンの状態に戻った。
「ふぅ、生き返ったぜ!」
目の前で起きた攻防と、あっさり魔力が回復している俺を見て、アリシアは完全に言葉を失い、へたり込んでいた。
『――兄ちゃん! こっちは終わったぜ!』
その時、脳内にタンクからの念話が届いた。
『お疲れさん! こっちも今終わったから、少し待ってて!』
『了解! 腹減ったから美味いもん頼むぜ!』
俺は完全融合を解き、元の姿に戻ってアリシアへと向き直った。
「アリシアさん、お待たせしました!」
「あなた……一体何者なの? その異常な強さに、国宝のイザナミまで……」
「何者って言われても……ただの料理好きなテイマーですよ。もう一体の仲間も終わったそうなので、とりあえず全員集合してから話をしましょう!」
「わ、わかったわ……」
俺たちはまず、ハクの制圧エリアへと向かった。
そこには、山積みにされた魔獣の死体の前で、のんびりと毛繕いをしている美しい白虎の姿があった。
「早かったな。……エルフの娘が、なぜここにいる?」
「色々あってな。みんな集まってから話すところだ」
剛嶽竜の時と同じようにイザナミに魔核を吸収させ、綺麗に残された素材をマジックバッグへと収納する。
続いてタンクの制圧エリアへ向かうと、彼はすでに何体かの魔獣を器用に解体して血抜きを終えていた。
「がはは! すぐに飯ができるように解体しといたぜ! 腹ペコだから大量に作ってくれよな!」
合流した相棒たちを見て、アリシアはフラフラと目眩を起こしたように頭を押さえた。
「白虎に、ベヒーモス……もしかしてそのネズミは、森羅の霊鼠? 嘘でしょ……伝説の神獣が、三匹も……」
常識外れの光景に、アリシアのキャパシティは完全に限界を迎えているようだ。
「なんか、外の世界ではそう言われてるみたいですね。……とりあえず、詳しい話は後にして、先にご飯を作りますね!」
「ご、ご飯……?」
呆然とするアリシアをよそに、俺は極上の竜肉を前に、どんな料理を作ろうかとワクワクしながら腕まくりをした。




