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神獣テイマーの異世界放浪記 〜未知なる食を求めて〜  作者: 葉山ローリエ
第二章:交易都市グランツ編 ~新たなる幻獣との出会いと、街を脅かす巨獣の影~
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第80話:時短鍋のシチューと、予期せぬ軍勢

「よし、それじゃあ早速飯にするか!」


呆然とするアリシアをよそに、俺はマジックバッグから大量の調理器具と食材を取り出した。

今回メインで使うのは、王都レガリアの市場で買い込んでおいた魔道具『時短鍋』だ。

蓋を密閉して魔力を込めると内部に高圧がかかり、硬い肉やスジでもあっという間にホロホロに煮込める、いわば異世界の「圧力鍋」である。


「今回は色んな部位の竜肉を使って、極上の『ビーフシチュー』を作るぞ!」


俺が肉を切り分けていると、ちょこんとお座りをしたルーが、自慢げに二種類のニンジンを差し出してきた。


「きゅいっ! リオン、新しいの作ったよ!」


「おお、ルーの特製ニンジンか。……ん? いつもの赤い『魔力人参』だけじゃなくて、黄色いのもあるな?」


「ふふっ、解説しますわ」


リコがヒゲを揺らしながら説明してくれる。


「ルーが品種改良を重ねた結果、赤の魔力人参は、魔力とスタミナの回復量が以前よりさらに跳ね上がりました。そしてその新作の『黄ニンジン』は、なんと治癒効果を持っていて、食べるだけで傷が癒える優れものですわ!」


「すげぇ! 農業チートまで極め始めてるな。よし、これも全部シチューに入れよう!」


時短鍋に表面を焼き付けた竜肉、ルーの特製ニンジン、玉ねぎやじゃがいもをたっぷりと入れ、赤ワインと特製デミグラスソースを注ぎ込む。

魔力を流し込んで圧力をかけ、煮込んでいる間に、付け合わせの新鮮なサラダと、軽く炙ったバゲットを準備する。

シューーーッ……。

数十分後、時短鍋の圧力を抜いてから蓋を開けた。

フワァァァァァァッ……!


「「「おおぉぉ……っ!」」」


濃厚なデミグラスソースの香りと、竜肉から溶け出した圧倒的な旨味の匂いが、湯気と共に周囲一帯へ爆発的に広がった。


「完成だ! たくさん作ったから、おかわりしてくれよ!」


深皿にたっぷりとシチューをよそい、みんなに配る。


「がはは! 今回のは初めて見る料理だな! 肉が口の中で溶けるように柔らかくて、最高に美味ぇぜ!」


「うむ。このサクサクのパンと一緒に食うと、肉の旨味が染み込んで絶品だな。気に入ったぞ」


「濃厚な味の後に、このサラダが口の中をさっぱりさせてくれて、無限に食べられますわ!」


「きゅいーっ! おいしいー!」


タンク、ハク、リコ、ルーが、それぞれ夢中でシチューを頬張っている。


「ど、どうですか、アリシアさん?」


俺が恐る恐る尋ねると、アリシアは大粒の涙をポロポロとこぼしながら、スプーンを口に運んでいた。


「……美味しい。こんな美味しい料理、ダンジョンの外でも食べたことないわ……。美味しすぎて、感動する……っ」


さらに、アリシアの身体を淡い光が包み込んだ。


「それに……これ、どうなってるの? 身体の奥から凄い勢いで魔力が湧いてくるし……昔、竜につけられた腕の古傷まで綺麗に治ってるわ……!」


「ルーが育てたニンジンのおかげですよ」


美味い飯と仲間のチート野菜。その組み合わせに、アリシアはただただ信じられないといった様子でシチューを完食した。

食後の紅茶を飲みながら、俺たちはようやく落ち着いて情報整理に入った。


「そう言えば、王都レガリアの国宝をどうしてあなたが持っているの?」


「ああ、イザナミですね。これは闘技大会の優勝賞品として、エドワード国王からもらったんです」


「闘技大会の賞品で国宝を!? ……っていうかエドワード? 王都を治めているのは、レオポルド国王じゃないの?」


アリシアの疑問に、リコが答える。


「レオポルド国王は先代ですわ。アリシアたちがダンジョンに入ってから、外の世界ではすでに百年近くの歳月が流れていますからね」


「そう……。ダンジョンの時の流れは、外よりも『十倍遅い』ようね。だから私たちは、ここで十年間必死に生き延びていたつもりでも、外では百年も経っていた……」


アリシアが悔しそうに俯く。だが、すぐにハッと顔を上げてリコを見た。


「待って。だとしても、なんで国宝を大会の賞品になんか出したのよ?」


「それは、あの最強の竜『バハムート』の目覚めが近づいているからですわ。対抗策として、実力のある優勝者に国宝を託すことになったのです」


「バハムートが目覚めるですって!? そんなことが……!」


アリシアは頭を抱え、そしてキリッとした表情で立ち上がった。


「……色んな情報が多すぎて頭がおかしくなりそうだけど、とりあえずこのダンジョンの攻略を急がないとまずいわね!」


「そうだな。……リコ、残りの竜や魔獣はどれくらいいるんだ?」


「このダンジョン全体で、残りの雑魚魔獣はおよそ千体ほどですね。あとは、島の中心にかなり強大な個体が一体、陣取っています」


「大ボスがいるって感じか。千体を狩るだけなら手分けした方が早いが、未知の大ボスがいる状況で戦力を分散させるのは危険だな。かと言って、全員で固まって千体を倒して回るのも時間がかかるし……」


俺が顎に手を当てて悩んでいると、腰に差したイザナミから声が響いた。


『愚か者。わざわざ自分たちで狩りに出る必要がどこにある? わらわの【黄泉軍召喚】を使えば良いじゃろ』

「おお! 確かに! ここで倒して手持ちの駒が増えたから、かなりの戦力になるな!」


俺は立ち上がり、イザナミを引き抜いて魔力を流し込んだ。


「出てこい! 【黄泉軍召喚】!!」


ズズズズズズズッ……!!

地面に真っ黒な魔法陣が広がり、そこから崖や草原で俺たちが倒したばかりの約二千体の魔獣や飛竜たちが、黒い靄を纏った『不死の軍団』として立ち上がった。

そして、その不死の軍団の最前列に立つ四頭の巨大な魔竜が、俺に向かって深々と頭を下げた。


『我が主よ。何なりとご命令を』


「うお! 喋った! 他の魔獣たちとは少し違うな」

『我らは四魔竜。主の強き魔力により、自我を保ったまま顕現いたしました』


「そっか。残りの魔獣たちを狩ってきて欲しいんだけど、頼めるか? あ、できれば狩った魔獣の素材は持ち帰ってきて欲しい」


『仰せのままに』


「うーん、できれば部隊を分断して、お前たち四頭で指揮をとって欲しいんだけど……名前があった方が呼びやすいな」


俺は四頭の魔竜を見渡し、パッと思いついた名前を口にした。


「よし! 空を飛んでた閃迅竜は『ジン』! 異常に硬かった剛嶽竜は『ウォッカ』! 透明になってた魔導竜は『テキーラ』! 回復を使ってた聖竜は『ラム』だ!」


「四大スピリッツ(蒸留酒)とか、相変わらず安易なネーミングですね……」


リコがジト目でツッコミを入れてくる。


「いいだろ、笑。一度にたくさんの名前を考えるのは大変だし、覚えやすい方がいいだろ」


『ラム』と名付けられた聖竜が、丁寧にお辞儀をした。


「私たちに名前をつけていただき、ありがとうございます」


すると、閃迅竜の『ジン』が空へと舞い上がり、凶悪な笑い声を上げた。


「ギャーハッハッハ! 不死の身体、最高だぜ! 前より力が強くなってやがる! 主の望み通りに、残りの奴らをぶっ殺してきてやるよ! 行くぞ野郎ども!」


ジンは自分の部下にあたる飛竜たちを引き連れ、颯爽と空へ飛んでいった。


「ほほほ。せっかちな奴じゃ。主よ、これからよろしく頼みますぞ。それでは我らも行くとするかのう」


魔導竜の『テキーラ』も、老獪な笑みを浮かべて魔法部隊を率いて移動を開始する。

しかし、剛嶽竜の『ウォッカ』だけが、ドスンドスンとのっそり歩いていた。


「僕は歩くのが遅いから、あまり期待しないでね……」


「ウォッカ。それではお役に立てませんよ。――『神速の加護』!」


ラムがウォッカに向けて、極大のスピードアップのバフ魔法をかけた。

その瞬間。


「うおおおおおぉぉぉっ!! やる気出てきたぁぁぁーーッ!! 俺が一番狩ってやるぜぇぇぇッ!!」


ウォッカの目が血走り、のっそりした巨体が猛烈なスピードで大地を削りながら突撃していった。


「なんか……ウォッカのキャラまで変わってるような……」


「それでは、私も行って参ります」


ラムも優雅に一礼し、残りの部隊を率いて戦場へと向かっていった。


「……何よ、これ」


二千の軍勢が統率の取れた動きでダンジョンを制圧していく様を見て、アリシアは完全に引きつった顔になっていた。


「これじゃ……まるで魔王軍だわ……」


俺たち一行は、アリシアの的確すぎるツッコミを聞き流しながら、食後のまったりとしたティータイムを大満喫するのだった。


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