第78話:生存者と、千の斬撃
【飛行魔法】で空を飛び、俺たちは透き通るような美しい海を見下ろす場所へとやってきた。
「海の中にいるやつは、どうやって倒す?」
「そうですわね……。索敵もしたいですし、あそこに降りてください」
リコの指示に従い、俺は海を一望できる切り立った崖の上へと着地した。
「ルー。広範囲の索敵をお願いしますわ」
「きゅいっ! 任せて!」
俺の頭に乗ったルーが、額のルビーを輝かせる。
ルーが索敵した位置情報をリコがマッピングし、俺の脳内に直接映像として流し込んできた。
「おお! すげーなこれ! ゲームしてるみたいに敵の位置がわかるぞ!」
水面下に潜む海竜や魔獣の反応が赤い光点となって表示される。
だが、その数は多く、広い海域にだいぶ散らばっていた。
「でも、だいぶ散らばってるな……。何かいい方法ある?」
「リオンが泳いで集めるのは……」
「却下!!」
「ふふっ、食い気味に断りましたわね、笑。冗談ですよ。ハクのスキルをコピーしてますから、分身体を作りなさいな」
「なるほど、分身か。……分身は初めてだからサポートしてくれよ! ……よっと! こんな感じでいいのかな?」
俺は魔力を練り上げ、海の魔獣に有効な『雷属性』だけで自身の分身体を作り出した。
パチパチと紫電を纏う俺のコピーが、崖の縁に立つ。
「その分身体に泳がせて、魔獣をおびき寄せます」
「分身とは言え、自分が餌になるのは嫌な気分だな……」
俺がぼやいた、その時だった。
「きゅいっ! 誰か来るよ!」
「誰か? って、ここ未開のダンジョンだぞ……」
ルーの警告に振り返ると。
そこには、弓を構えた一人の女性が立っていた。金髪のロングヘアーで、スタイル抜群の美しい大人のエルフだった。
「あなた、一体どこから……? もしかして、ダンジョンが開いたの!?」
エルフの女性が、信じられないものを見るような目で俺に問いかけてくる。
「エルフ……? ええと、開いたというか、俺が開けましたけど……。あなたは?」
「私はアリシア・グランツ。『世界樹の守り人』の副団長よ。あなたは?」
「俺はB級冒険者のリオンです。テイマーなので、この二匹は俺の従魔です」
アリシアは俺の言葉に、ますます混乱したような顔になった。
「どこのギルドに所属しているの? 他のメンバーも見当たらないけど」
「いや……とくにどこにも所属していません。一人で来ましたよ」
「あなた、何を言ってるの? 攻略部隊を再編成して来たんでしょ?」
「おれは三十年未踏のダンジョンを調査しに来ただけで……」
「三十年? 状況がよくわからないわ……」
困惑するアリシアの前に、俺の肩からリコが飛び降りた。
「私が説明致しますわ」
リコは冷静な声で、アリシアがダンジョンに潜ってから百年近くが経っていることを話した。
討伐軍が中と外から封印を掛けたこと。七十年後に封印が解けてダンジョンが再び出現し、そこからさらに三十年が経ったこと。
「そんな……。ここで十年ほどしか経っていないはずなのに。私のギルドは? 『世界樹の守り人』はどうなったの?」
ダンジョンの空間と外の世界とで、時間の流れに強烈なズレ(ウラシマ効果)が生じていたらしい。
アリシアは絶望的な表情で、弓を下ろした。
「非常に言いにくいのですが……当時の五大ギルドは壊滅したと聞いております」
「壊滅……。そんな気はしてたわ。あの状況なら仕方ない……初めて地獄を見たもの」
アリシアは悔しそうに唇を噛み締め、整理のつかない事実に呆然としながらも、ハッと顔を上げた。
「教えてくれてありがとう。あなたたちが来た入り口が閉じる前に、今すぐ脱出するわよ!」
「え? 攻略しないんですか?」
「何バカなこと言ってるの! さっきの話聞いてたでしょ? 五大ギルドが壊滅するほどここの魔獣は強力なの。特に四頭の魔竜……。あいつらにすべてやられたわ。見つかる前に逃げるわよ」
アリシアが緊迫した声で告げた、その時。
『――こっちは終わったぞ』
念話を通じて、ハクの声が届いた。
「えっと……うちの従魔が、一頭倒したそうです……」
「は? そんなこと、あるわけ……。うそ……魔力反応が一つ消えてる。これは閃迅竜の……まさか本当に? そんな強い魔獣を従えるなんて、あなたいったい……」
「早く終わらしてご飯作らないといけないので、こっちもそろそろ始めますね!」
「ご、ご飯?」
ポカンとするアリシアをよそに、俺は崖に立たせていた分身体を海へと飛び込ませた。
雷属性の分身体が海中を縦横無尽に泳ぎ回ると、周囲から魔獣や海竜たちが一斉に群がってくる。
脳内のマップで敵が十分に引き付けられたのを確認し、俺は手をかざした。
「そろそろいいかな? 『大いなる凶嵐』!!」
俺が風魔法を発動すると、海面に巨大な大竜巻が発生し、分身体もろとも魔獣や海竜たちをまとめて上空へと巻き上げた。
そして、激しく渦巻く大竜巻の中心で、俺は雷属性の分身体の魔力を一気に解放する。
バリバリバリバリッ!!!
海水を大量に巻き上げた大竜巻の内部に、凄まじい稲妻が次々と走り抜ける。逃げ場のない大嵐の中で、巻き込まれた魔獣たちは一網打尽にされた。
俺は絶命して落下してきた魔獣たちを陸に上げ、イザナミに魔核を吸収させる。
そして、料理や素材となる部位はすべて、余さずマジックバッグへと収納した。
「すごい……。でも、この近くにいる魔竜……『剛嶽竜』には、いかなる攻撃も通じないわ……」
「剛嶽竜? ああ、あの一際デカくて黒いゴツゴツしたやつか。あっちの白いのも強そうだな」
海上の離れた場所に、圧倒的な存在感を放つ二頭の魔竜が見えた。
「あれは……『聖竜』です。回復や支援魔法を使う、厄介な竜よ」
「なるほど……。じゃあまずは、聖竜からいきます!」
俺は【隠密】と【神速】のスキルを発動し、気配を完全に絶ったまま、聖竜の背後へと一瞬で回り込んだ。
そして、イザナミに魔力を込めた瞬間――その強烈な『魔力』に気づき、聖竜がこちらを鋭く振り向こうとした。
「遅い……! 『千曳の呪い』!!」
ズババババババババババババババッ!!!!!
イザナミから放たれた千の斬撃が、聖竜の巨体を一瞬にして切り刻む。
聖竜は何もできぬまま絶命し、地面に崩れ落ちた。
「おお……すげぇ……。サンドワームの時は強さを実感しにくかったけど、これすごいスキルだな……」
俺が刀の威力に感心していると、崖の上から見ていたアリシアが呆然と呟いた。
「うそ……私たちが必死になっても勝てなかった魔竜を、一瞬で……」
イザナミが黒い靄を伸ばし、聖竜の巨大な魔核を吸収する。
『これは中々の大物じゃな』
「よし。次は……あの剛嶽竜だな!」
俺は、いかなる攻撃も通じないという黒い要塞のような魔竜を見据え、イザナミを構え直した。




