第70話:祝勝の宴と、魔剣
闘技場での激闘から少し経ち、会場は落ち着きを取り戻しつつあった。
だが、王都の空気はピリついている。
決勝戦で現れたザイドが、大昔に姿を消したはずの『魔族』だったからだ。
大会の優勝者には直ちに魔剣が授与される予定だったが、王都に魔族が侵入していたという異常事態を受け、国は厳戒態勢を敷くことになった。
「王都の安全が完全に確認できるまで、魔剣の授与式は延期とする」
と、兵士から正式な知らせがあった。
俺はリコとの【完全融合】を解き、大きく息を吐き出した。
「ふぅ……。みんな、本当に助かった。お前らのお陰で優勝できたよ! ありがとう」
俺は、闘技場に駆けつけてくれた仲間たちを振り返る。
「それにしても、その姿……タンクは想像通りのイカついおっさんだな(笑)」
「ガハハハ! 窮屈だが、悪くねぇ体だろ?」
筋骨隆々で、豪快に笑うタンク。
そして、その隣に立つハクを見て、俺は少しだけ眉をひそめた。
「……ハクは、俺の想像を超えるほどの超絶イケメンで、なんか少しムカつく」
「……そうか?」
クールな白髪のイケメンが、不思議そうに首を傾げる。
くそっ、無自覚なイケメンほど腹の立つものはない。
「ルーも、観客のみんなを守ってくれてありがとうな!」
「きゅいっ!」
ルーが嬉しそうに俺の足元にすり寄ってくる。
「みんな、人間になってすごいね! かっこいい!」
ルーが目を輝かせていると、俺の肩からポンッと飛び降りたリコも光に包まれた。
そして、気品あふれる美しい銀髪の女性へと姿を変える。
「お疲れ様でした、リオン。少し無理をしましたね」
人化したリコが、俺の傷ついた左腕にそっと手を当て、優しい光魔法で回復を行ってくれる。
やっぱり、仲間が一緒にいてくれるって最高だな。
仲間たちとワイワイ雑談していると、セリアさんとジークさんがこちらへ歩いてきた。
「リオンくん、優勝おめでとう! 本当にすごい戦いだったね!」
「ありがとうございます。必死すぎて、最後の方はあんまり覚えてないんですけどね(笑)」
セリアさんは完全に回復したようで、いつもの元気な笑顔を見せてくれた。
だが、その隣にいるジークさんは――どこか顔を強張らせ、冷や汗を流していた。
(……なんだ、このプレッシャーは)
ジークは、内心で信じられないものを見るように俺たちを見ていた。
自分と戦った時とは、別人のように強くなっていたリオン。
この短期間でここまで成長するなど、常識ではあり得ない。
それに……リオンの周りにいる、この『人』たちは一体何者だ?
ジークのS級としての本能が警鐘を鳴らしている。
あの豪快な男も、白髪の青年も、銀髪の女性も……全員が、リオンよりもさらに強大な力を持っている。
もし、彼らがその気になれば、この国など一日で落とすことができるだろう。
これほどの力を持つ彼らが、もし世界を脅かす存在だとしたら――。
「……リオンくん。優勝、おめでとう。また強くなったね」
ジークさんは努めて平静を装いながら、俺の目を見た。
「ところで……君たちの『旅の目的』を、教えてくれるかい?」
ジークさんの声には、微かな緊張が混じっていた。
俺がこの強大な力を何に使うつもりなのか、確認しておきたかったのだろう。
「目的、ですか?」
俺は少し考えてから、正直に答えた。
「そうですね……。今は、世界中を気ままに旅して、見たこともない色んな料理を食べたり、綺麗な景色を見たりしたいですね」
俺の答えを聞いて、ジークさんは拍子抜けしたように目を見開いた。
「そ、それだけかい……?」
「あ、いや……えっと!」
やばい。「こいつ、いい歳して働かずに遊ぶことしか考えてないのか」と呆れられたかもしれない。
「もちろん、生活費を稼ぐために仕事も何かしらしますよ! 依頼とか……いつかは!」
「…………」
ジークさんは数秒間ぽかんとした後、ふっ、と肩の力を抜いて優しく笑った。
「よかった。……いらぬ心配だったよ。引き止めて悪かったね。それじゃあ、また」
「はい! また後で!」
去っていく二人を見送りながら、俺は大きく伸びをした。
「さてと。それじゃあ俺たちも、宿屋に戻りますか!」
◆ ◆ ◆
闘技場の外へ出た瞬間。
「うおおおおぉぉぉぉッ!! 英雄リオォォン!!」
「待ってたぞーッ!!」
「今日は国を挙げての宴だーッ!!」
王都の人々が、信じられないほどの大歓声で俺たちを迎えてくれた。
街中はすでにお祭り騒ぎになっており、至る所に屋台やテーブルが並べられている。
「英雄リオン! なんでも好きなもん食ってくれ!」
「肉はあんまり用意できなくて悪いが、酒なら死ぬほどあるぞ!」
……ん? 肉があんまりない?
俺が気になって理由を聞いてみると、どうやら大会に合わせて王都周辺に強力な魔獣が寄り付いており、安全確保のために流通が滞っているらしい。
「なるほど……ちょっと待っててください!」
俺は【神速】を発動し、一瞬で姿を消した。
そして数分後。
裏でハクとタンクが狩りまくり、解体屋に預けてあった大量の肉をマジックバッグに詰め込んで戻ってきた。
ドンッ!!
広場の中央に、最高級の高ランク魔獣の肉の山が出現する。
「こ、これは!?」
「俺が狩った魔獣です。これを好きに使ってください!」
驚く街の人たちに向かって、俺は笑顔で宣言した。
「最高の宴を、みんなで楽しみましょう!!」
「マジかよ! こんないい肉を好きに使っていいなんて……お前、本当に何者だよ!(笑)」
「よし野郎ども! 手分けして調理するぞ!!」
街の料理人たちが、腕まくりをして一斉に集まってくる。
「俺も料理します!」
俺はコックコートを羽織り、自前の包丁を取り出した。
街中は軽快な音楽が鳴り響き、暴力的なまでに食欲をそそる匂いに包まれていく。
俺が腕を振るったのは、異世界と現代の知識の融合だ。
まずは、巨大な『タイラントボアの豪快スペアリブ』。
特製のハチミツと醤油、スパイスをブレンドした甘辛いタレを何度も塗りながら、炭火でじっくりと焼き上げる。肉を噛みちぎるたびに、濃厚な肉汁と脂の甘みが口いっぱいに弾ける。
次は『コカトリスの香草ロースト』。
ローズマリーやタイムなどの香草と一緒に、柔らかいもも肉をオーブンで焼き上げた。パリッとした皮と、ふっくらジューシーな肉の食感がたまらない。
さらに、『ロックカウの極上厚切りステーキ』。
王道中の王道。赤身の旨味が強い肉をレアで焼き上げ、煮詰めた赤ワインとバターの特製ソースをたっぷりとかける。一口食べれば、肉の柔らかさとソースのコクに誰もが悶絶した。
「すげぇ! なんだこのソースの味は!」
「焼き加減が完璧だ! 英雄は料理の腕もバケモノかよ!」
俺は王都の料理人たちと、「このスパイスはどうやって使うんだ?」「肉の筋切りはこうするといいですよ」と、互いの技術や知識を交換しながら、最高に楽しい時間を過ごした。
その後は、人化したリコ、タンク、ハク、そしてルーと一緒に大きなテーブルを囲み、腹がはち切れるほど肉を食い、酒を飲んで笑い合った。
これこそが、俺の求めていた『未知なる食』と『最高の旅』だ。
◆ ◆ ◆
その頃、王城の最深部。
厳重な結界が張られた地下宝物庫で、国王は一人、台座に安置された『一本の剣』を見つめていた。
「……まさか、王都に魔族が現れるとはな」
国王の脳裏には、あの凶悪な魔族を粉砕した、銀髪の青年の姿が焼き付いていた。
「あの強さ……あの青年は、一体何者なのだ」
今回、闘技大会を開き、優勝者に国宝である『魔剣』を授与すると発表したのには、深い理由があった。
空の最強生物と謳われる『バハムート』。
近年、そのバハムートの活動が活発化しており、国に甚大な被害をもたらす可能性があったのだ。
「バハムート討伐を条件に、強者にこの剣を渡すと言ったが……本当に良いのだろうか」
国王は、台座の剣に手を伸ばしかけ、止めた。
「……考えても仕方ないか。どのみち、真の強者でなければ、この剣に命を吸い取られるだけだろう」
国王の目の前には、鞘に収まっている状態でありながら、禍々しく恐ろしい黒い魔力を放ち続ける一振りの刀があった。
その名は――【魔剣イザナミ】。
まだ見ぬ空の最強生物と、呪われた魔剣。
英雄となった青年の次なる旅は、すでに波乱の影を帯びていた。
すいません…
昨日間違えて71話を先に載せてしまいました。
以後気をつけます…




