第7話:護衛の冒険者と、受け継いだ古剣
村を出発する日の朝。
広場に行くと、村長さんが見知らぬ4人組の男女と立ち話をしていた。
全員が、使い込まれた革鎧やローブを身に纏っている。
腰には剣、背中には杖や大盾。一目で「プロの戦闘職」だとわかる出で立ちだ。
「おお、リオン殿! ちょうど良かった。彼らは隣街から来た冒険者パーティーなんじゃよ」
村長さんの紹介によると、彼らはCランクの冒険者パーティー『暁の盾』。
リーダーで大剣を背負ったガイル、魔法使いのエイミー、ヒーラーのミランダ、そして大盾を持つ寡黙なタンクのドン。全員が人間の、バランスの取れたパーティーだ。
「この村の『魔物除けの染料』を買い付けに来ておってな。街へ向かうなら、彼らと同行させてもらうと安心じゃろうと思って声をかけておいたんじゃ」
「本当ですか? それは心強いです。初めまして、リオンと言います。こっちは相棒のリコです」
俺が頭を下げると、肩の上のリコも『チュウ』と可愛らしく(あくまで外面良く)鳴いてみせた。
リーダーのガイルが、豪快に笑いながら俺の肩をバンバンと叩く。
「村長から話は聞いてるぜ! なんだか美味い果物の作り方を教えたんだってな。俺たちも帰り道に話し相手がいるのは大歓迎だ。よろしく頼むぜ、リオン!」
こうして俺は、プロの冒険者たちと共に、初めての街を目指して街道を歩き始めた。
◆ ◆ ◆
「へえ、未知の食材を探して旅を? そりゃあまた、変わった目的だな!」
街道を歩きながら俺の夢を話すと、ガイルは目を丸くして笑った。
「ええ。色んな街や地方のローカルフードを食べ歩きたいんです。俺、料理を作るのが好きでして」
「ハハハ! いいじゃねえか。冒険者の中には、美味い酒と飯のために命張ってるような奴も多いからな。だが……」
ガイルはふと真剣な目つきになり、俺の腰元を見た。
「美味い食材がある場所ってのは、大抵、凶暴な魔物の生息域と被ってるもんだ。お前さん、武器の類は何も持ってないのか?」
「はい。実は、戦い方はまったくの素人で……」
「なるほどな。いくらテイマーでも、自分の身を守る最低限の術は必要だぞ」
ガイルはそう言うと、自身の背中の荷袋をごそごそと漁り、一本の剣を取り出した。
「ほれ、受け取れ」
ポンッと投げ渡されたそれを、俺は慌てて受け取る。
ずっしりとした重み。刃にはいくつか小さな刃こぼれがある、使い込まれた古い剣だ。
「俺が昔使ってた予備の剣だ。もう使わねえから、お前にやるよ。素振りくらいは教えてやるから、ちょっと振ってみな」
「い、いいんですか? ありがとうございます!」
俺は鞘から剣を抜き、両手で構えてみた。
料理の包丁なら毎日何百回と振るってきたが、剣なんて握るのは当然初めてだ。
「ふっ!」
見よう見まねで、真っ直ぐに振り下ろしてみる。
だが、剣の重さに体が持っていかれ、足元がふらついてしまった。
「あちゃー……こりゃあ、完全な素人だな」
魔法使いのエイミーが苦笑いし、ガイルも腕組みをして頷く。
「まあ、最初はそんなもんだ。いいか、腕の力だけで振ろうとするな。足腰の重心を落として、体全体で剣の重さをコントロールするんだ。もう一回やってみろ」
「はい……っ!」
俺が再び剣を構え直した、その時。
『――リオン。私のサポートを入れます。筋肉の動かし方と重心移動の最適解を、あなたの脳波に直接同期させます』
頭の中に、リコの凛とした声が響いた。
次の瞬間。
【能力共有が発動――『森羅の叡智(演算)』により姿勢制御を最適化します】
「……え?」
視界に、うっすらと『光のガイドライン』のようなものが見えた。
自分が足を置くべき位置、腰を落とす角度、剣を振り下ろす軌道。それが、直感的な感覚として全身に行き渡っていく。
「ふぅ……」
俺は自然と息を吐き出し、光のガイドラインに従って、スッと重心を落とした。
その瞬間、先ほどまでの素人の構えとは全く違う、研ぎ澄まされた静寂が俺の体を包んだ。
「おっ……?」
ガイルの表情が、ハッと変わる。
「――シッ!!」
鋭い呼気と共に、剣を振り下ろす。
ブォンッ!!
空気を切り裂く重く鋭い風切り音が、街道に響き渡った。
剣先はブレることなく、ピタリと俺の膝の高さで止まっている。
剣の重さに振り回されることなく、完璧にコントロールしきった一撃。
「……なっ!?」
ガイルだけでなく、後ろで見ていたエイミーやミランダたちも息を呑んで固まっていた。
「おいおい……嘘だろ? たった一回のアドバイスで、あんな完璧な素振りができる奴がいるか……!?」
ガイルが信じられないという顔で、俺と剣を交互に見つめる。
俺自身も驚いていた。
リコの演算サポートによる『能力共有』。
それは、プロの技術を見ただけで、頭と体の動きを瞬時に最適化してしまうという、とんでもないチート能力だったのだ。
「ふふっ……やるじゃねえか、リオン!」
ガイルが嬉しそうにニッと笑う。
「こりゃあ、教え甲斐がありそうだ。街に着くまでに、俺たちの戦い方や基礎をたっぷり叩き込んでやるよ!」
『ふふっ。どんな技術でも、私の演算にかかれば一瞬でマスターさせてみせますよ。……もちろん、今日の夕食は期待していますからね?』
(ああ、任せとけ。絶対美味いもの作ってやるよ)
頼もしい冒険者たちと、肩の上の相棒。
新しい出会いと共に、俺の異世界での『修行』が始まった。




