第67話:剣聖 vs 剣聖、そして魔剣の覚醒
騒然とした空気に包まれていた闘技場も、結界が張り直され、ようやく落ち着きを取り戻しつつあった。
ゴルドの魔獣化と消失という異常事態。 そのすぐ後の準決勝第1試合。 俺は闘技場の中心で、S級冒険者パーティ『星天の導き』のリーダー・ジークと対峙していた。
「……リオンくん。ゴルドの件は本当にすまなかった。まさか彼が、あんな禁忌に手を出していたなんて」
いつも爽やかなジークの顔に、深い苦悩の色が浮かんでいる。
「上に立つ者として、責任を感じているよ」
「俺は大丈夫です。気にしないでください。それより……」
俺は木刀を構え、ニヤリと笑った。
「今は目の前の試合に集中しましょう」
「……ありがとう。それはそうと、君……また強くなっているね?」
ジークの瞳に、剣士としての鋭い光が戻る。
「今の君なら、久しぶりに全力が出せそうだ」 「負けませんよ!」
『準決勝第1試合……はじめェッ!!』
審判の合図が鳴り響いた、次の瞬間。
――ガキィィィィンッ!!!
闘技場の中心で、凄まじい衝撃波が弾けた。 一瞬で間合いを詰めた俺とジークの木刀が激突し、火花のような魔力の残滓が散る。
目にも止まらぬ速さで繰り出される連撃。 右、左、上段、下段。
剣聖のスキルをコピーしている俺と、本物の剣聖であるジーク。 放たれる剣閃は完全に互角。 闘技場には、ただ激しい打撃音と突風だけが吹き荒れる。
『お、おおおぉぉ!? な、何が起きているんでしょうか!? 速すぎて実況の目では追いきれませんッ!』
観客席からは、水を打ったような静寂のあと、どよめきが起こった。
「おい、嘘だろ……あのテイマー、ジーク様と互角に打ち合ってやがる……ッ!」
「あいつ、ただ魔物を後ろで操ってるだけじゃないのかよ!?」
「やばい、俺たち予選であいつに思いっきり野次飛ばしちまったぞ……」
俺をテイマーだとバカにしていた観客たちは、完全に唖然としている。
「やるね、リオンくん」
鍔迫り合いの中、ジークが余裕の笑みを浮かべる。
「まさか僕の『剣聖』のスキルを、あそこまで完璧にコピーしてくるとは。……なら、もう少しギアを上げていくよ!」
ドンッ! とジークの足元の石板が砕けた。 瞬時に敏捷性と攻撃力が跳ね上がり、ジークの剣の軌道がさらに鋭く、重くなる。
「くっ……!」
重い。 俺の【縮地】では、この速さと重さに対応しきれず、じわじわと後退させられる。
「仕方ない。……リコ、ハクの力を借りるぞ!」
「ええ。『神速』、解禁しますわ!」
肩の上のリコとリンクを強める。 【白虎】であるハクの持つ、規格外のスピード。 ――神速。
「……消えっ!?」
俺の姿がブレた直後。 ジークの死角から放った一撃が、彼の木刀を強烈に弾き飛ばした。 ジークが数メートル後方へと滑るように後退する。
「驚いた……ここまで強いとはね。それじゃあ、僕も出し惜しみはなしだ」
ジークは、腰に差していたもう一本の剣――美しく装飾された長剣の柄に手をかけた。
「力を貸してくれるかい? エクセリオ」
『――ふんっ。なんだジーク、珍しく手こずってるじゃねーか。魔力をよこしな。蹴散らしてやるよ』
……は? 剣が、喋った?
「リコ、あれって……」
「『魔導聖剣エクセリオ』。高度な意志を持つアーティファクトですわね。ここからは、実質2対2の勝負になりますわ」
「なるほどな。頼むぜ、リコ!」
ジークとエクセリオが強大な魔力を放ち始める。 俺もリコと【魔力共有】のリンクを最大限に深めた。
ここからの戦いは、まさに壮絶の一言だった。
『燃え尽きろ!【爆炎】!』
エクセリオの刀身から、極大の火の玉が放たれる。
「させませんわ。【水龍波】!」
リコが間髪入れずに水魔法を展開し、空中で炎を相殺して大量の水蒸気を発生させる。
その視界の悪い水蒸気の中を、俺とジークがノーモーションで魔法を撃ち合いながら、剣を打ち合わせる。 純粋な攻撃力とステータスでは、S級冒険者であるジークの方が上回っている。 だが、俺にはこの大会でコピーした【魔導格闘術(極)】と、オーラを纏う【魔装闘気】がある。
手数と変幻自在な動きで、ジークの猛攻をギリギリのところで捌き切る。
『おいジーク! なんだよこいつは!? テイマーじゃねぇのかよ!』
「僕も驚いているよ。それに……」
ジークが、信じられないものを見るような目で俺を見据えた。
「彼、どんどん強くなっている。戦いの最中に、レベルそのものが上がっているような……」
……実は、俺自身も違和感を感じていた。 戦いながら、体の底からどんどん力が湧き上がってくるのだ。
(なぁリコ、これお前がバフ掛けてくれてるのか?)
(いいえ。私自身の力も底上げされています。これはおそらく……)
リコが念話で、少し呆れたようにため息をついた。
(タンクとハクが、どこかの森で強い魔獣を狩りまくっているのでしょう。彼らが倒した経験値が、リンクを通じてリアルタイムで私たちに流れ込んでいるのですわ)
(……なるほどね。笑)
俺は思わず吹き出しそうになった。 神聖な御前試合の最中だというのに、裏で仲間が狩りをして俺をレベルアップさせているなんて。 なんか不正ツールでも使っているみたいで申し訳ないが、こればっかりはリンクの仕様上、仕方ない。
(あのバカ食いコンビのことだ。きっと大会が終わったあとの宴会用に、肉を山ほど調達してるんだろうな)
(ええ。絶対に負けられませんわね、リオン)
(ああ!)
「相手も、リオンの変化に気づいています。……おそらく次で、全力を以て仕留めに来るでしょう。気を引き締めてください」
「わかってる!」
先に動いたのはジークだった。 全身から、黄金のオーラが立ち昇る。
「【リミットブレイク】!」
短時間だが、ステータスを数倍に跳ね上げる捨て身のバフスキル。 さらに、エクセリオが不気味な光を放ち、詠唱に入った。
「あの詠唱は……超水圧の魔法が来ますわ!」
「くらったらやばそうだな……。そっちは任せていいか、リコ?」
「もちろん! 派手に行きますわよ! ふふっ」
限界突破したジークが、地面を抉りながら超音速で迫ってくる。 縮地では絶対に追いつけない。 こっちも、短期決戦に切り替えるしかない。
「神速ッ!!」
ドンッ!!! 闘技場の中心で、見えない二つの影が激突する。 もはや観客には姿すら見えず、激しい剣のぶつかる音だけが鳴り響き、その余波だけで闘技場の防壁にヒビが入っていく。
「これ……本当にS級同士の戦いか!?」
「いや、それ以上の化物じみた領域だろ……ッ!」
観客席のボルテージは、すでに最高潮に達していた。
そして、一瞬の交錯のあと、ジークが大きく距離を取った。
『消し飛べェッ! 【水龍激破】!!』
エクセリオから、闘技場を丸ごと飲み込むほどの、龍の形をした超高水圧の激流が放たれた。 触れれば人体など容易く真っ二つになる、必殺の魔法。
だが。
「魔剣如きが、調子に乗らないで頂きたいですわね」
リコの黄金の瞳が、冷たく光る。 ハクの【氷魔法】を、リコの【森羅の叡智】で限界まで高めた究極の冷気。
「――【絶対零度】」
パキィィィィィィンッ!!!!
俺に直撃する寸前で、巨大な水龍が完全に凍りつき、美しい氷の彫刻へと変わった。 さらにその冷気は地面を伝い、ジークの足元をガッチリと凍てつかせた。
「なっ……! 足が……!?」
ジークの動きが、ほんの一瞬、完全に止まる。
「もらったァッ!!」
【神速】+【隠密】。 俺は音も気配もなくジークの背後へと回り込み――その首元に、ピタリと木刀を添えた。
「…………」
闘技場が、静まり返る。 ジークは動けない足のまま、首元の木刀を見て、ふっと憑き物が落ちたように笑った。
「……降参だ。君の勝ちだよ、リオンくん」
『しょ、勝者ァァァァッ!! リオン選手ゥゥゥゥッ!!!』
実況の絶叫と共に、闘技場が割れんばかりの大歓声に包まれた。
『誰がこの結果を予想できたでしょうか!! あのS級クラン『星天の導き』のリーダー、今大会優勝候補のジークが敗れました!!』
「うおぉぉぉぉぉっ!! リオーン!!」
「最高だ! すげぇ試合だったぞ!!」
俺は木刀を下ろし、深く息を吐き出した。 そして、肩の上でドヤ顔をしている小さな白ネズミに向かって、手を差し出す。
「サンキューな、リコ!」
「ふふっ。言ったでしょう? 魔剣如き、私の敵ではありませんわ。……あなたも強くなりましたね、リオン」
俺たちは、観客の大歓声の中、小さな前足と指先でパチンとハイタッチをして、笑い合った。 さぁ、早くハクたちが狩った「極上の肉」を食いに帰ろうぜ。
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