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神獣テイマーの異世界放浪記 〜未知なる食を求めて〜  作者: 葉山ローリエ
第二章:交易都市グランツ編 ~新たなる幻獣との出会いと、街を脅かす巨獣の影~
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第65話:剣聖の模倣と、闇に堕ちた獣

深夜。

王都の高級宿屋の一室で、賢者セリアは目を丸くしていた。


「ザック……その腕、どうしたの!?」


彼女の部屋を訪ねてきた同じS級クランのアサシン・ザックは、信じられないことに自身の右腕を切り落とされ、しかもそれが『氷漬け』にされた状態で抱えていたのだ。


「……早く、治してくれ」


ザックは青ざめた顔で、ガタガタと震えながら氷漬けの腕を差し出した。


「わ、分かったわ。――【大いなる光よ、欠損を癒す奇跡となれ(ハイ・ヒール)】」


セリアが高度な回復魔法を詠唱すると、光が氷を溶かし、切断面の細胞を急速に繋ぎ合わせていく。S級の賢者である彼女の魔法により、なんとか右腕は元通りに繋がった。


「一体、誰にやられたの? 大会に参加している誰か……?」


セリアが深刻な顔で尋ねるが、ザックは何も答えることができなかった。


(言えるはずがない……。セリアと親しくしているあのテイマーを、暗殺しようとしたなどと)


クランの仲間に軽蔑されるだけでなく、同業の冒険者を殺害しようとする行為は、ギルドの絶対的な掟に反する重罪だ。

それに――思い出すだけで、ザックの全身から冷や汗が噴き出す。

あの絶対的な『死』のプレッシャーを放っていた、美しくも恐ろしい白虎。

そして、あんな規格外の化け物を平然と従え、無防備に眠っていたあのテイマーは、底が知れない。絶対に関わってはいけない危険な存在だと、ザックのアサシンとしての本能が警鐘を鳴らし続けていた。


「……悪いが、俺は明日の試合を棄権する」


「えっ? ベスト16まで残っているのに!?」


「もう……ごめんだ」


うわ言のようにそう呟くと、完全に心を折られたアサシンは、逃げるように部屋を去っていった。

 ◇ ◇ ◇

大会二日目。

闘技場は昨日以上の熱気に包まれていた。今日を勝ち抜けば、ベスト4が出揃うことになる。


「えっと……ザック選手が棄権したため、俺の不戦勝?」


闘技場の控え室で、俺は運営の騎士から知らされた事実に首を傾げていた。


「はい。理由は不明ですが、今朝ギルドを通じて正式に棄権の申し出がありました。ですので、リオン選手はそのまま『準々決勝』への進出となります」


(なんだかよく分からないけど、ラッキーだな)


「……ふふっ。本当に、運が良い主ですこと」


俺の肩の上で、リコが何かを知っているように小さく笑った。

時間が空いた俺たちは、観客席から別のブロックで行われているジークさんの試合を観戦することにした。

対戦相手は、剣術において【剣聖】の次に位置する高位スキル、【剣王】を持つ凄腕の剣士だった。


「行くぞ剣聖! 【飛燕連刃ひえんれんじん】!!」


剣王の男が踏み込みと同時に、無数の斬撃を嵐のように放つ。

しかし、ジークさんは涼しい顔で『魔導聖剣エクセリオ』を軽々と振るい、その猛攻をいとも容易く受け流していく。


「いい太刀筋だ。だが、少し直線的すぎるね。――【流剣・水月】」


「なっ……!?」


ジークさんの流れるような剣さばきが、剣王の連撃を完全に無力化する。


「ならば、これでどうだ! 剣王奥義【覇斬・裂空】!!」


「素晴らしい威力だ。それに応えよう。――【絶刀・一閃】」


キィィィンッ!!!

闘技場を揺るがすほどの金属音と、魔力の衝突による爆風が巻き起こる。

次の瞬間、剣王の男は大剣を弾き飛ばされ、場外の壁まで勢いよく吹き飛ばされていた。


『しょ、勝者! 剣聖ジーーーク!!』


大歓声が巻き起こる。

やはり、あの人は別格だ。魔法も使わず、純粋な剣術の技量だけであの強さ。


「リコ、今の動き……」


「ええ。昨日のデータと合わせ、様々な剣術の応酬からジークの【剣聖】スキルの解析とコピー、完全に終了しましたわ」


「よし。……ちょうどいい実験相手がいるしな」


俺は立ち上がり、自分の試合の出番を待つため通路へと向かった。

 ◇ ◇ ◇


『さぁ、準々決勝の第2試合だぁぁッ! A級冒険者ゴルド vs 謎のテイマー、リオン!!』


実況の声と共に、俺とゴルドが闘技場の中央で対峙する。


「……まさか、テメェがここまで上がってくるとはな」


大剣を肩に担いだゴルドが、憎悪に満ちたドス黒い瞳で俺を睨みつけている。


「あの森での屈辱……ここで、テメェの身体をミンチにして晴らしてやるよォォッ!!」


ゴルドが咆哮を上げ、凄まじい踏み込みで突進してくる。

昨日までの俺なら、この膂力とスピードに少しは警戒したかもしれない。しかし――。


(今の俺には、これがある)


「リンクしてくれ、リコ」


俺は木刀を構え、深く息を吸い込んだ。


「死ねェェェッ!!」


ゴルドが上段から渾身の力で大剣を振り下ろす。

俺は一歩も引かず、木刀を軽く下から跳ね上げた。

――カァァァンッ!!


「なっ……!?」


ゴルドの巨体が、一瞬宙に浮いた。

俺は【剣聖】のスキルがもたらす完璧な身体制御と太刀筋に従い、木刀で大剣の腹を的確に弾き、彼の手首に鋭い痺れを与えたのだ。


「なんだ、今の動きは……ッ! もう一発だァァッ!!」


怒り狂うゴルドが、横薙ぎ、突き、袈裟斬りと怒涛の連撃を繰り出す。

だが、俺はその全てを最小限の動きで躱し、流し、弾き返した。


「……力は強いけど、大振りすぎる。もっと重心を安定させないと」


「テメェ……ッ! 余裕ぶってんじゃねェェッ!!」


ゴルドは気付いていなかった。

観客席でこの試合を見ている者たちは、すでに異変に気付き始めていた。


「おい、あいつの剣の構えと動き……」


「誰かに似てないか? あの流れるような受け流し方……」


「……ジークだ。剣聖ジークの剣技に、そっくりだぞ……!」


俺はゴルドの攻撃を弾いた反動を利用し、木刀の柄で彼のみぞおちをトンッ、と軽く突いた。

それだけで、ゴルドは息を詰まらせて大きく後ずさる。


「ガハッ……! くそっ、なんだ……何なんだお前は……ッ!!」


手も足も出ない。

自慢の剛腕も、鍛え上げた剣技も、目の前のテイマーには一切通用しない。

ゴルドは、まるで自分が『超えられない壁』であるジークを相手にしているかのような、圧倒的な実力差と絶望感に包まれていた。


「俺は、ただのテイマーですよ」


俺が冷たく見下ろすと、ゴルドのプライドは音を立てて粉々に砕け散った。


「ふざけるな……ふざけるなァァッ!! 俺が、こんなクソガキに負けるはずがねェェッ!!」


誰もが、俺の圧倒的な勝利を確信した。

実況も、審判も、俺がトドメを刺すのを待っている状態だった。

だが――その時。

「……殺してやる。殺してやる殺してやる殺してやる……ッ!!」

ゴルドは懐から、禍々しいオーラを放つ『真っ黒な魔石』を取り出した。


「ゴルド選手!? 試合中のアイテム使用は――」


審判が制止しようとするが、遅かった。

ゴルドは狂気に満ちた笑みを浮かべ、その黒い魔石をボリボリと噛み砕き、飲み込んだのだ。


「ゴ、ァァァァァ…………ッ!!」


直後、ゴルドの体が異常に膨張し始めた。

筋肉が服を破り捨てて隆起し、皮膚からは漆黒の硬い体毛がビッシリと生え出す。骨格が歪み、顔は狼のように前へと突き出し、鋭い牙と爪が伸びていく。


「な、なんだあれは……!?」


「ひぃぃっ! ゴルドが……魔獣になったぞ!?」


観客席から悲鳴が上がる。


「グォォォォォォォォォォォォッ!!!」


闘技場の中心に立っていたのは、人間の面影を完全に失った、体長三メートルを超える『漆黒の人狼ワーウルフ』だった。

その異形の魔獣が放つ魔力は、Aランクだったゴルドの数倍――S級魔獣にも匹敵する、おぞましいプレッシャーを放っていた。


「……冗談だろ。完全にバケモノじゃないか」


俺は木刀を強く握り直し、紅く目を光らせる漆黒の人狼と対峙した。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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