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神獣テイマーの異世界放浪記 〜未知なる食を求めて〜  作者: 葉山ローリエ
第二章:交易都市グランツ編 ~新たなる幻獣との出会いと、街を脅かす巨獣の影~
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60/80

第60話:謎の気配と、優しきテイマー

リコが放った聖なる光が森の暗闇を払い、あたりに静寂が戻った。


「リオンくん……」


へたり込んでいたセリアが、ふらつく足取りで立ち上がり、俺の元へと歩み寄ってくる。


「助けてくれてありがとう。リオンくん、前に会った時より強くなってない? たった一ヶ月ぐらいで、こんなに逞しくなるなんて……」


「いや、俺の力じゃなくて、仲間の力のおかげですよ」


俺が照れ隠しに笑うと、命を助けられたセリアは、潤んだ瞳で俺を見つめながらさらに距離を詰めてきた。

彼女から、フローラルな良い香りが漂ってくる。


「セ、セリアさん? ちょっと近いですって……」


ドギマギして後ずさろうとした俺だが、ふと、彼女の華奢な肩が小刻みに震えていることに気がついた。

無理もない。S級の賢者とはいえ、俺が助けに入らなければ確実に命を落としていた絶望的な状況だったのだ。死の恐怖が、今になって押し寄せてきているのだろう。

俺は少し背伸びをして、震えるセリアの頭をポンポンと優しく撫でた。


「もう大丈夫ですよ。俺たちがいますから」


「あ……」


その言葉を聞いた瞬間、張り詰めていた糸が切れたように、セリアが俺の胸にギュッと抱きついてきた。


「セ、セリアさん!?」


「ごめん……少しだけ、このままでいさせて……。私より年下なのに、なんだかすごく、安心するの……」


(実は俺の方が年上なんだよなぁ。※中身33歳)


顔を埋めて震える彼女の背中を、俺は内心でそんなツッコミを入れながら、苦笑して優しく叩き続けた。

 ◇ ◇ ◇

一方その頃。

大剣を杖代わりにして立ち上がったゴルドは、激しい苛立ちに顔を歪めていた。

セリアに良いところが見せられなかったばかりか、前衛として完全に足を引っ張ってしまったこと。

そして何より、自分より格下のはずのB級(実際はそれ以下だと思っている)テイマーに命を救われた事実が、彼の高いプライドをズタズタに引き裂いていた。

挙げ句の果てに、憧れのセリアがそのテイマーに縋り付いて抱きしめられている。


「……チッ。気に入らねぇ……」


ゴルドがボソリと悪態をついたその時。

空気を読まない(あえて読まない)白いネズミが、俺の肩から冷ややかな声をかけた。


「リオン、いつまでそうしているおつもりですか? 非常に気になることがあるので、状況を整理したいのですが」


「おっと、ごめん。……セリアさん、落ち着きましたか?」


「えっ、あ、うん……! ごめんなさい、私ったらはしたない真似を……っ」


顔を真っ赤にして離れるセリア。

俺はコホンと咳払いをし、リコに向き直った。


「気になることって?」


「先ほどの魔物たちですわ。まず、ホブゴブリンが『魔鏡の盾』という強力なマジックアイテムを装備していたこと。さらに、知能のないレイスと高度な連携を組んでいたこと。通常、ゴブリン種とアンデッド系が徒党を組むなどあり得ません」


リコの理路整然とした言葉に、セリアも真剣な表情になる。


「おそらく、最初に現れたゴブリンライダーの群れでセリア様たちの強さと戦法を見極め、その後にこの二体を『対策』として送り込んだと思われます」


「ちょっと待って。それじゃあ……これは誰かが仕組んだってこと?」


「はい。単なる偶然ではありません。背後で彼らを統率している『何者か』が確実にいますわ」


リコは小さなヒゲを揺らし、断言した。


「ホブゴブリンとレイス個体のランクはCかB程度。そこに魔鏡の盾を持たせてセリア様の魔法を無効化し、さらに、ホブゴブリンにはゴルド様の【挑発】を無効化する付与魔法エンチャントが掛けられていました。明らかに、お二人の弱点を突くように対応した魔獣を意図的に送り出してきたと考えられます」


ゾッとするような考察だった。

知能の高い何者かが、大会の裏で魔獣を操って冒険者たちを狩っている……?


「リオンが乱入したことで戦況が変わりましたが、このまま敵が撤退するか、追撃してくるかは分かりません。周囲の警戒が必要ですわ」


「警戒って言っても、今はルーがいないからなー。索敵、どうすんだよ?」


「何を言っていますの? リオンもできますわよ」


「へ? 初耳なんですけど」


俺が呆気にとられていると、リコがため息をついた。


「この前、ルーが『僕のことも解析してー!』と騒いでいたでしょう? その時にルーの【索敵】をコピーしてあります。すでにリオンともリンクしているので、スキルとして使えますわ」


「……もっと早く言えよな」


俺は目を閉じ、意識を集中させた。


「んじゃ、やってみるか。――【索敵】」


ふわりと、頭の中にレーダーのような広域の立体マップが展開される。

初めての感覚に戸惑いながらも、リコのサポートを受けながら探っていく。半径1キロ以内に、いくつかの魔力反応を感じ取った。


「すげぇ……。リコ、怪しいやつはいるか?」


「今感じている魔力の中には、特に怪しいものは見当たりませんわね」


「よし。とりあえず、警戒しつつ魔石を集めて予選突破を目指そう」


俺は二人に視線を向ける。

セリアは魔力が底を尽きており、回復にはしばらく時間がかかりそうだ。ゴルドはダメージを受けているが、動けないほどではない。


「今のまま放っておくと、次の襲撃に対応できないかもしれません。俺たちと一緒に、行動しませんか?」


俺が同行を提案すると、セリアはパァッと表情を明るくした。


「本当!? ありがとうリオンくん、すごく心強いわ!」


「フンッ、俺はお前の助けなんかいらねぇよ!」


ゴルドが吐き捨てるように断ったが、セリアが冷たい目で彼を睨みつけた。


「ゴルド。これはクラン副リーダーとしての命令よ。従いなさい」


「……チッ。分かりましたよ」


S級のセリアの方が立場が上のため、ゴルドは渋々といった様子で剣を鞘に収めた。

 ◇ ◇ ◇

索敵を続けながら、三人で森の中を進んでいく。

しばらくすると、ひらけた獣道の中央に、一匹の巨大な魔獣がとぐろを巻いているのを発見した。

雪のように真っ白で美しい鱗を持つ、Aランク魔獣『スノー・スネイク』だ。


「出たな、Aランク魔獣! こいつの魔石を頂いて、さっさと予選通過だ!」


ゴルドが獲物を見つけたとばかりに大剣を抜き、殺気を放って斬りかかろうとする。


「待ってください!」


俺は咄嗟にゴルドの前に立ち塞がり、その大剣の柄を掴んで止めた。


「何だテメェ……! 邪魔するなら斬るぞ!」


「この蛇からは、敵意を感じません。お願いします、ここは引いてくれませんか?」


「はぁ!? 敵意のない魔獣がどこに居んだよ! そんなこと言って、俺の予選を落とそうと考えてるんだろ! 誰がそんな話聞くか!」


ゴルドが無理やり大剣を振りかぶろうとする。

俺はため息をつき、アイテムボックスから先ほど予選の乱戦で手に入れた『アーマー・ブルの魔石(Aランク)』を取り出した。


「これを受け取ってください。その代わり、こいつは見逃してやってほしいんです」


「……チッ。いいだろう、分かったよ」


俺が差し出したAランク魔石を、ゴルドがひったくるように受け取った。

――その瞬間。


「なーんてなっ!!」


ゴルドがニヤリと下劣な笑みを浮かべ、そのまま大剣を翻してスノー・スネイクの首元へ全力で斬りかかった。


「ゴルド、やめなさい!!」


セリアの悲鳴が響く。

だが、俺は彼が素直に聞くとは最初から思っていなかった。


(やれやれ……力で分からせるしかないか)


「――【重力領域グラビティ・フィールド】」

俺が、タンクとの能力共有スキルシェアで得た重力魔法を静かに発動させた瞬間。


「……あ、ぐッ!?」


ドズゥゥゥゥンッ!!

ゴルドの体に数十倍の重力がのしかかり、彼は大剣を振り下ろす間もなく、カエルのように地面に這いつくばった。


「な、なんだこれ……! 動けねぇ……ッ!」


「この剣は、預からせてもらいますね」


俺は身動きが取れないゴルドの手から大剣を奪い取り、そのままアイテムボックスへと収納した。


「てめぇ、何しやがる! 返せ!」


「必要な時には返しますよ。あと……次、あいつに手を出したら容赦しません」


俺が冷たい声で見下ろすと、ゴルドは恐怖に顔を引き攣らせて黙り込んだ。

俺は重力魔法を解除し、身を縮めている美しい白い大蛇――スノー・スネイクにゆっくりと近づいた。


「驚かせてごめんな。もう大丈夫だから」


『……ありがとう、優しき者よ。おかげで、この子たちは助かりました』


俺の脳内に、スノー・スネイクの安堵した声が響く。

彼女の真っ白な長い胴体の内側には、ソフトボールほどの大きさの卵がいくつか大切に抱えられていた。彼女は卵を守るために、ここから動けなかったのだ。


「無事に産まれるといいな」


俺が微笑みながら彼女の冷たい鱗の頭を撫でると、大蛇は気持ちよさそうに目を細めた。


「あ、あなた……魔獣と、話せるの……!?」


その光景を後ろで見ていたセリアが、信じられないものを見るような目で呟いた。


「それにさっきのは重力魔法? そんな高位な魔法を、テイマーのあなたがどこで……」


無理もない。テイムした自分の従魔ならともかく、出会ったばかりの野生の魔獣と会話する人間など、この世界には存在しない。しかも、規格外の魔法まで使って見せたのだから。


「俺、一応テイマーですからね! 話せますよ」


俺は笑いながら誤魔化した。


「俺も普段は魔獣と戦って肉を美味しくいただきますが、敵意のない魔獣や、こうして子供を守ろうとしている母親とは戦いたくありません」


俺の言葉に、セリアはハッとして、それから深く、優しく微笑んだ。


「わがまま言って申し訳ないです。お二人は、その魔石を持って帰って予選通過してください。……俺は、もう少し奥へ行ってみます」


あの異質な魔物たちを操っていた黒幕。

そいつの正体を突き止めるため、俺は二人を森の出口まで送りゴルドに剣を返した後、リコと共にさらに森の深くへと足を踏み入れていった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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