第59話:S級クランの危機と、規格外の加勢
雷鳴が響いた方角へ上空から近づくと、森の開けた場所で激しい戦闘が行われていた。
「あれは……」
木々の隙間から見下ろすと、そこには見覚えのある男女の姿があった。
S級クランに所属する賢者のセリアと、A級の剛剣士ゴルドだ。どうやら、リーダーのジークたちとは別行動で予選に参加しているらしい。
彼らを取り囲むように、巨大な狼『フォレストウルフ』の背に跨り、粗末な武器を振り回すゴブリンの群れが襲いかかっていた。
「リコ、あれは?」
「『ゴブリンライダー』ですわ。個々の力はBランク程度ですが、数が多く、連携してくるのが厄介な敵です。……まぁ、あの二人なら問題はないでしょう」
リコの言う通りだった。
「オラァッ! こっちだ雑魚ども!!」
ゴルドが【挑発】のスキルを使って敵を引きつけると、集まってきたゴブリンライダーたちを、身の丈ほどもある大剣で一網打尽に斬り払っていく。
「すげー……。あんな重たそうな剣を、どうやったらあんなに速く振れるんだろう」
俺が感心して見ていると、ゴルドの攻撃から漏れた個体を、後方からセリアが正確な魔法で次々と撃ち抜いていった。
前衛と後衛の完璧な役割分担だ。
「チッ……雑魚しかいねーな。Aランク以上の魔石じゃなきゃ意味ねーのによ」
ゴブリンたちを粗方片付けたゴルドが、大剣を肩に担いで舌打ちをした。
「そうですね。もう少し奥に行ってみましょうか? ジーク達よりも早く終わらせたいですし」
セリアが冷静に周囲を警戒しながら提案する。
「リオン、どうしますか?」
「せっかくだし、もう少しあの二人の戦いを見てみたい。こっそり付いて行こう」
「わかりました。ただ……」
リコが、小さな鼻をヒクつかせて森の奥を睨んだ。
「……何か、違和感を感じますわ。気のせいだといいのですが」
「違和感? なにか変なのか?」
「いえ……なんでもありません。行きましょう」
俺は【隠密】のスキルを維持したまま、森の奥へと進む二人を上空から尾行した。
◇ ◇ ◇
森のさらに奥深く。
薄暗い木立を抜けた先で、二人の前に巨大な影が立ちはだかった。
「シャァァァァァァッ!!」
体長が10メートルはあろうかという、岩のようなウロコを持った巨大な蛇だった。
「やっと出たぜ! Aランク魔獣『グランド・コブラ』だ!」
「ゴルド、油断しないで!」
ゴルドが歓喜の声を上げて真っ直ぐに斬りかかる。
しかし、グランド・コブラはその巨体に似合わぬ素早さで首を後ろに反らして大剣の軌道をかわすと、鞭のようにしなる強靭な尻尾でゴルドを弾き飛ばした。
「ぐはっ!」
「シャァッ!!」
吹き飛んだゴルドに対し、グランド・コブラは口から無数の岩の弾丸『ストーンバレット』を吐き出して追撃する。
「リオン、あれ魔法か!?」
「ええ。Aランク以上の魔獣は、魔法を使えても不思議ではありませんわ」
岩の弾丸がゴルドを貫く直前、セリアが展開した光の【結界】が間一髪でそれを防いだ。
「大丈夫!?」
「チッ……問題ねぇ!」
体勢を立て直したゴルドを庇うように、セリアが詠唱を終えた雷魔法【紫電の落雷】を放つ。
凄まじい紫電がグランド・コブラを直撃し、魔獣は雷のダメージと麻痺によって動きを止めた。
「そこだァァッ!!」
その隙を逃さず、ゴルドが渾身の一撃を叩き込み、巨大な蛇の首を宙に跳ね飛ばした。
ズシンッ……と、Aランク魔獣が事切れる。
「ふぅ……」
セリアが安堵の息を吐き、ゴルドに近づいて【ヒール】をかけた。
「す、すまねぇ……」と、ゴルドが少し頬を赤くして礼を言う。
S級のセリアとA級のゴルドのコンビなら、Aランク魔獣も安定して狩れるようだ。
俺が感心して見ていると、森の暗がりから新たに二体の魔物が姿を現した。
一体は、人間用の立派な剣と、異様な光沢を放つ装飾的な盾を構えた屈強な『ホブゴブリン』。
もう一体は、ボロボロのローブを羽織り、宙にフワフワと浮遊する幽霊のような魔物『レイス』だった。
「リオン、あの盾は……」
肩の上のリコが、ホブゴブリンの持つ盾を見てスッと目を細めた。
「あの盾がどうした? 確かに派手な感じはするけど」
「……あれは『魔鏡の盾』。受けた魔法をそのまま反射させる効果を持つ厄介な代物です。リオン、戦闘の準備をしておきなさい」
「えっ? そんなに強いのか?」
「あの二人とは、相性が最悪ですわ。それに……」
リコが言葉を言い切る前に、眼下で戦闘が再開された。
「連続で来やがったか! こっちだ化け物!!」
ゴルドが再び【挑発】のスキルを使い、ホブゴブリンの注意を引こうとする。
しかし――ホブゴブリンはニヤリと不気味に笑うと、ゴルドを完全に無視し、後衛のセリアに向けて一直線に突進したのだ。
「なっ!? まちやがれ!」
【挑発】が効かない!? 慌ててセリアを守るためにホブゴブリンの前に立ち塞がるゴルド。
ゴルドがホブゴブリンの剣をガキィッ!と受け止めた、まさにその隙を突いて。
背後のレイスが、無防備なゴルドの背中へ向けて氷魔法【氷槍】を放った。
「ゴルド!!」
セリアはその場から素早く飛び退き、レイスに向かって火魔法【紅蓮の火球】を放つ。
だが、驚くべきことに、ホブゴブリンがゴルドを放置してレイスの前に立ち塞がり、構えていた『魔鏡の盾』でセリアの火魔法を受け止めたのだ。
「ウソ……!」
セリアが驚愕に見開いた目の前で、盾の表面が妖しく光り、受け止めたはずの火球がそのままの威力で跳ね返された。
弾かれた魔法は、氷槍を防ごうとしていたゴルドの背中に直撃する。
「ぐああああぁぁっ!?」
「ゴルド!!」
レイスは倒れ伏したゴルドに追撃を仕掛ける。ゴルドも痛みを堪えて大剣を振るうが、実体を持たない霊体には物理攻撃がすり抜けてしまい、全くダメージを与えられない。
完全に前衛が崩壊した。
そして、孤立したセリアの目の前に、魔鏡の盾を構えたホブゴブリンが迫る。
「くっ……これならどう!!」
セリアは残りの魔力を振り絞り、彼女の最大魔法である【極大魔力砲】を放った。
しかし、ホブゴブリンの持つ異質な盾は、その奔流すらも鏡のようにあっさりと跳ね返してしまった。
ホブゴブリンが、無慈悲に剣を振り上げる。
「ウソ……このままじゃ……!」
セリアが絶望して目を閉じた、その瞬間。
――ドグゥゥゥゥンッ!!!!
重々しい衝撃音が森に響いた。
「えっ……?」
セリアが恐る恐る目を開けると、そこには、ホブゴブリンの凶刃を『木刀』一本でガッチリと受け止めている俺の背中があった。
凄まじい衝撃に、俺の足元の地面がひび割れている。
「大丈夫ですか? ……ここは俺がやります!」
「リオン……!?」
突然上空から現れた俺に警戒し、ホブゴブリンがバッと距離を取る。
すかさず、後方のレイスが俺に向けて【氷槍】を乱れ撃ってきた。
「ふんっ。小賢しいですわね」
しかし、俺の肩から飛び降りたリコが、小さな前足を一振りするだけで、無数の氷の槍はすべて見えない壁に阻まれて粉々に砕け散った。
「ホブゴブリンは任せましたわよ、リオン」
「ああ、助かる!」
初めて戦う、剣と盾を持った人型の敵。
いつもの四足歩行の魔獣と違って、少しやりにくいなとは感じる。
だが、今の俺の力と、リコが解析してくれたスキルがあれば、なんてことはない。
俺は【神速】で一気に間合いを詰め、木刀を振り下ろした。
ホブゴブリンが慌てて剣を構えて防ごうとするが――。
「――対人戦も、少し勉強しなきゃな」
膨大な魔力を一点に込めた木刀の一撃が、ホブゴブリンの剣ごと、その胴体を真っ二つに粉砕した。
ズサァッ……と、両断された巨体が地面へ崩れ落ちる。
一方、レイスと対峙したリコは、いつもの小さなネズミの姿のまま、神々しいまでの光をその身に纏っていた。封印が少し解け、力を取り戻しつつある彼女の真骨頂だ。
「消えなさい。――【ホーリーレイ】」
リコが前足を突き出すと、極太の『聖なる光のレーザー』が森を貫き、レイスの霊体を一瞬にして塵一つ残さず浄化し尽くした。
「ふぅ……」
俺は木刀を肩に担ぎ、圧倒的な力で二体の魔物を屠ったリコと顔を見合わせて、小さくハイタッチを交わした。
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